万博から東京ドーム、そして世界へ 膜構造パイオニアの

vol.
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万博から東京ドーム、そして世界へ 膜構造パイオニアの熱い思い
太陽工業株式会社 取締役兼執行役員 荒木 秀文氏
1970年、
日本初
付けを担当し、
1988年に完成した。先進感あ
の国際博覧会とし
ふれる外観と高い機能性で当時大きな話題
て大阪で開催された
となったが、
驚くことに、
屋根膜は完成時から
日本万国博覧会。
一度も張り替えることなく、
現在まで約30年
膜構造を用いた大
間当初とほぼ変わらぬ強度を保っているとい
小さまざまなパビリ
う。金属素材などに比べ、
薄く軟らかい膜のイ
聖地メディナの大型アンブレラ
(サウジアラビア)
オンの9割が、太陽
メージで恒久性を心配されることもあるという
25.5m四方の巨大アンブレラ250基が張り
工業
(本社:大阪府大阪市)
の製品であった。
が、
長期間強度を保つ耐久性は膜構造物の
巡らされ、
荘厳な巨大空間をつくりだす同社を
チューブ16本をつなぎ合わせた鞍型の
「富士
大きな強みとなっている。
「強度を出すために、
代表する実績のひとつ。細部へのこだわりや
グループ館」
や巨大空気膜構造建築を世界
ガラス繊維を練り込んだ
『四フッ化エチレン樹
一切のズレも許されないオーダーに2年半に
で初めて実現した
「アメリカ館」
など従来のテ
脂コーティング膜』
という素材を使用している。
およぶ大プロジェクトで取り組んだ。荒木取締
ントの概念を一変させるフォルムで、
膜構造建
不燃性があり汚れも付着しにくく、
ペンで突き
役は
「最大20mmの厚みを縫う専用ミシンを
築が大きな注目を集め、
同時に太陽工業が
刺しても破れないような強度がある」
と荒木取
開発し、
床を掘ってミシンを入れ、
極力素材を
飛躍する契機となった。
締役は素材の高性能を指摘する。
動かさずに縫合するなど当社の持てる技術の
同社の歴史は古く、
1922年に能村テント
さらに、
膜素材を各パーツにカッティングし、
粋を結集した」
と当時を振り返る。
イスラム教
商会として創業、
戦後事業を再建し1947年
ミクロン単位で削り特殊な溶着技術で張り
徒しか入れず現場で手直しができないため、
に現社名で設立された。小さなテントに始ま
合わせ、
膜構造物全体の形状をつくりあげる
完璧な状態での納品が求められるなど苦労も
り、
現在ではスポーツ施設や空港等、
建築や
高精度な用途技術によるところが大きいと
多かったが、
こうした多様なニーズや価値観へ
土木、
物流など幅広い分野で膜構造物や設
話す。京都の瑞穂工場は当時東京ドーム用
の対応はグローバル市場拡大への大きな前
備資材の製造販売を手がけている。膜構造
に新設され、
最新の設備を導入し製造してい
進につながった。今後は、
タイやインドネシアな
のパイオニアかつリーディングカンパニーとし
た。業界で唯一技術研究所を保有し、
太陽光
どASEAN諸国をターゲッ
トに膜構造建築物
て、
大型膜構造物製造では世界シェア7割を
と雨の力で自浄するセルフクリーニング機能
の市場開拓に取り組むとしている。
有し、
2013年度の経済産業省「グローバル
を備えたオリジナル素材「酸化チタン光触媒
また
「防災」
と
「環境」の分野にも注力す
ニッチトップ企業100選」
にも選定されている。
膜」
を開発するなど、
独自の技術開発で高付
る。防災分野では、
緊急用エアテントや除染
膜構造の持つ強度と耐久性
加価値製品を生み出している。
シャワーテントシステムなどの実績を基盤に、
膜構造物は、
自由なデザインで空間を創出
2年半におよぶ
「聖地メディナの大型アンブ
災害時に役立つ製品を自治体と協力して整
でき、
高い透光性で自然光を取り込み省エネ
レラ」
プロジェクト
備している。社会インフラとして災害時に必要
に貢献できるなど優れた特長を多数有してお
海外では米国、
中国、
シンガポール、
ドイツ、
量を供給できる体制構築を目指す。環境分野
り、
さまざまな用途で使用されている。
オーストラリア、
アラブ首長国連邦など11の
では、
現在ポリエステル製品を原子レベルに
国内初のドーム型球場
「東京ドーム」
では、
国と地域を中心に事業を展開。世界最大級
分解してリサイクルするプラントに投資し、
次
太陽工業が屋根膜の製造および現場取り
のデンバー国際空港
(米国)
やミレニアムドー
世代の素材研究に取り組んでいる。世界初
ム
(英国)
など、
時代を象徴する国家的建造
の海中膜として汚濁防止膜「シルトプロテク
物に携わってきた。中国では2002年に現地
ター」
を開発するなどいち早く環境改善に貢
法人を設立し上海工場を立ち上げ、
上海万
献する製品を創出してきたが、
将来的には汚
博会場を手がけた。
れた河川・海洋を浄化して再生できるような環
サウジアラビアにある聖地メディナの大型
境製品の開発などを視野に、
膜の持つ無限
荒木取締役
ミレニアムドーム
(英国)
アンブレラは、
純金と大理石を施した支柱に
22 mizuho global news | 2016 MAR&APR vol.84
の可能性に挑むとしている。
(取材・作成)
みずほ銀行 直投支援部 大橋 綾