Bestopia

ト
ピ
ア
Bestopia
< 2016 年 3 月 >
古賀 順子
花は咲く
今年も 3 月 11 日を迎え、パリにもようやく早春の
暖かい太陽が射すようになりました。
2011 年東日本大震災から 5 年の月日が流れ、
未だ仮
設住宅で避難生活を送っていらっしゃる被災者の方々
の存在も、知らず知らず日常生活から遠くなりつつあ
ります。大地震や津波、時として大きな被害をもたら
す自然と人間がどのように共存していくか、真摯に考
えなければならない問題です。時間が経つにつれて震
災への意識も消えつつある中、機会ある毎に「花は咲
く」を歌っているパリの合唱団があります。日仏アマ
チュア合唱団「アブリコ」です。
ソプラノ歌手としてパリで活動を続ける押田杏里さ
んが立ち上げた合唱団、名前の一文字「杏」に因んで
「アブリコ合唱団」と命名。団員 20 名の小さなコー
ラス・グループですが、日本の唱歌、童謡、アニメ・
ソングなど、フランス人団員含め、日本語で歌ってい
ます。春の陽射しが眩い 12 日(土) 、パリ郊外ヴィト
リー・シュール・セーヌにある「ガール・オー・テア
ートル」劇場で、アブリコ合唱団のコンサートが行わ
れ、アンコールが「花は咲く」でした。
東日本大震災の被災者を、物心両面から支援するチ
ャリティー・ソングとして制作されたのが「花は咲く」
で、NHK の支援プロジェクトのテーマソングになっ
ています。作詞(岩井俊二)・作曲(菅野よう子) は、共
に東北出身で、作詞家・作曲家への印税が、NHK を
通して義援金として活用されています。
「花は咲く」を
歌うことで被災者への支援を続ける
「アブリコ合唱団」
。
規模は小さくても、自分の活動分野で、心のこもった
応援を続けることは大きな意義があります。来年は、
パリの合唱団として、日本で「花は咲く」を歌いたい、
と押田杏里さんとアブリコ合唱団員の夢が広がります。
自然災害の怖さを見せつけた東日本大震災は、もう一
つの不幸「福島第一原発事故」によって、原子力発電
「 パリ通信 51号 」
http://jkoga.com/
平成二十八年三月
ス
第五十一号
ベ
の恐ろしさと直面する結果になりました。福島以前と
以後、原発の在り方は逆転しました。フランスも例外
ではありません。フランスは、19 ケ所の発電所に合計
58 基の原子炉を有しています。その内、3 ヶ所の発電
所(13 基) が停止、解体が進行中です。原子炉の数で
は、アメリカに次いで 2 位ですが、国内の消費電力の
70%以上を原発で賄う点では、世界 1 の原発国です。
1896 年フランス人アンリ・ベクレル (1852-1908)
が放射線を発見し、マリー・キュリー(1867-1934) ピ
エール・キュリー(1859-1906) 夫妻と 3 人で、1903
年ノーベル物理学賞を受賞します。フランスは核物理
学の国で、基礎研究から応用開発まで世界をリードし
てきました。そうした歴史的土壌を背景に、1973 年の
オイルショックで、フランスの原発に大きな拍車がか
かり、電力輸出国の今日に至っています。原発は、続
行にも停止にも大きな費用を要します。段階を経てし
か再生エネルギーへの移行は出来ませんが、
福島以後、
フランス国内でも原発反対の動きが強くなっています。
そして今、ドイツ国境に近いフェッセンハイム原子力
発電所の廃炉をめぐって、フランス国内で大きな議論
が続いています。
2012 年の大統領選で、フランソワ・オランドは、任
期中 2016 年までにフェッセンハイムを停止すると公
約していましたが、現エネルギー省大臣セゴレンヌ・
ロワイヤルは、2018 年まで稼働を続行する方針です。
ドイツの強い抗議にもかかわらず、減価償却し、利益
を生んでいるフェッセンハイムを簡単に廃炉にしない、
古くなっても安全性が確保されるならば続行したい意
向です。
フランスも日本も、原発は利権絡みです。いざ事故
が起こったとき、直接の被害を受けるのは住民です。
たった半世紀の間に、原発は莫大な負の遺産を残し、
解決策もないまま、今後も計り知れない時間が過ぎて
いくことになります。
春が来て、花は咲く。花は咲いても、そこに人は住
めない。そんな悲劇が起こらないよう、人が大地から
受けている恵みを大切にして、原発の在り方を考え直
して欲しいと思います。
―― 平成 28 年 3 月 パリ通信 51 号 ――