京都府立医科大学および附属病院の安全 ならびに健康管理の現状と課題

京府医大誌
124
(8),541~548,20
京都府立医科大学の安全ならびに健康管理
15.
<特集「職場における保健管理の現状~本学保健管理センター開設に向けて~」
>
京都府立医科大学および附属病院の安全
ならびに健康管理の現状と課題
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京都府立医科大学産業医
京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学
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抄
録
京都府立医科大学および附属病院の安全ならびに健康管理の現状と課題を検証する.これまで,健康
審査委員会と職員安全衛生委員会が,産業医とともに,職場の安全管理,職員の健康管理を行ってきた.
作業環境管理については,有害物質は作業環境測定機関に委託し,職場環境は職場巡視で問題点を指
摘,改善に努めてきた.一方,健康管理については,健康診断あるいは人間ドックの受診率(平成 26
年度:98.
3%)がいまだに 100%に到達していないことと,健康診断後の二次受診が徹底されていない
こと,職員の長時間労働件数が増加し,産業医の面談や指導後も著明に改善していないことなどが問題
点として挙げられる.さらに,妊娠・分娩および産褥による休務に次いで,精神・行動の障害による休
務が多く,カウンセリングの充実や各職員がストレスチェックを有効に利用することが望まれる.この
度,京都府立医科大学保健管理センターが設置され,今後,積極的な健康管理を期待したい.しかし,
それ以上に,各々の職員が医学教育ならびに医療機関に勤務していることを自覚し,個々の健康管理と
保持に努めることが,より重要と考えられる.
キーワード:京都府立医科大学,安全管理,健康管理.
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平成27年 6月25日受付
*連絡先 小西英幸 〒6
02
‐8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465番地
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京都府立医科大学および附属病院ならびに北
部医療センターは,総職員数 2,
797名の医学教
育・医療機関であるが,労働安全衛生の点から
は一事業所である.本学は,平成 20年 4月に法
人化され,学校保健法に加えて労働安全衛生法
に基づく安全衛生管理のあり方が求められるよ
うになった.労働安全衛生法では,労働基準法
と相まって,各事業所における職員の安全と健
康を確保し,快適な職場環境を形成するために
講ずべき措置や対策を定めている1).本学および
附属病院でも,この労働安全衛生法にのっとっ
て,管理職と部長で構成される健康審査会と,産
業医ならびに職員で構成される職員安全衛生委
員会を中心に,作業環境管理と健康管理を行っ
てきた.さらに,平成 27年 4月には,本学に保
健管理センターが設置された.本稿では,この
保健管理センター設立を機会に,平成 22年 4月
より平成 27年 3月まで 5年間の職員安全衛生委
員会と産業医の活動状況から,本学および附属
病院の安全ならびに健康管理の現状と課題を検
討する.
作業環境管理
作業環境管理は,種々の有害要因を取り除い
て良好な作業環境を確保するもので,職場にお
ける職員の健康障害を防止するための根本的な
対策の一つである.しかし,作業環境測定は,
測定が目的ではなく,その結果の評価に基づい
て必要な措置が講じられ,良好な作業環境の実
現と維持につながるものでなければならない.
本学および附属病院では,キシレンやホルム
アルデヒドなどの有害物質については,作業環
境測定機関に委託,それ以外の職場については,
職員安全衛生委員会等が巡視をして作業環境測
定を行い,それぞれの職場の問題点を指摘し,
改善に努めている.これまで作業環境測定で
は,ホルムアルデヒドにおいて,第 2管理区分
(なお改善の余地)や第 3管理区分(適切でない)
の報告を受けた職場があったが,いずれも空調
の追加設置や業務の見直しを行い,第 1管理区
分(適切)に改善ないしは第 2管理区分でも改
善傾向を認めている.一方,その他の職場環境
については,明らかに不適切な環境の部署は認
めないものの,施設の老朽化などから,ハード
面で改善困難な点が残されているのが現状であ
る.
健
康
管
理
1.定期健康診断の充実
労働安全衛生法では,すべての職員に対する
定期健康診断の受診を求めている1).しかし,
本学および附属病院における定期健康診断なら
びに人間ドックの受診率は,残念ながら,これ
まで 100%に達していなかった(図 1
)
.そこで,
この受診率を向上させるために,特定業務従事
者健診に併せて,通常の健康診断の受診機会を
年 2回にする他,職員への再三の呼びかけ,昼
食時間帯などへの健診時間の延長,未受診者に
は所属長への連絡などの対策を行ってきた.こ
れらの対策により,平成 22年度は 95.
8%(医
師:90.
3%,看 護 師:99.
7%,事 務・技 術 職:
96.
2%)であった受診率が,同 26年度には,98.
3%
(医師:96.
7%,看護師:100%,事務・技術職:
97.
6%)まで向上しているが,いまだ医師と事
京都府立医科大学の安全ならびに健康管理
543
図 1 定期健康診断受診率の推移
平成 22年度は 95.
8%であった定期健康診断の全体の受診率は,同 26年度
には 98.
3%まで向上したが,いまだ医師と事務・技術職の受診率は 100%に
達していない.
務・技術職の受診率は 100%に満たず,追加の対
応策が必要である.また,今後は,すべての臨
時・非常勤職員や任期付職員の健康診断につい
ても整備してゆかなければならない.
定期健康診断において,さらに重要なこと
は,健康診断実施後の措置である.全国的に,
定期健康診断の有所見率は 53.
0%に達し,労働
者の約半数が有所見者とされている2).労働安
全衛生法では,一次健康診断の結果に基づい
て,二次健康診断の受診を推奨することを義務
づけている1).本学および附属病院では,重点
精密検査対象者と脳・心臓疾患検診対象者を中
心に,産業医の面接保健指導を行っているが,
この面接保健指導は自主的であるため,その受
診率は決して高くない.今後は,すべての職員
が,医療機関の一員であるとの自覚を持って,
進んで健康診断を受診し,自己管理に努めるこ
とを希望する.
2.長時間労働者に対する対応
平成 18年 4月に労働安全衛生法が改正され,
一定の長時間労働者(時間外勤務が月 100時間
を超える職員等)には,産業医による面接指導
が義務づけられた1).本学および附属病院でも,
産業医が面接指導の必要な職員に対して,定期
健康診断結果と自覚症状のアンケートに基づい
て体調管理を行うとともに,面談者の所属長に
対して,職員の配置や労働環境改善に対する助
言を行ってきた.しかし,要指導件数は年々漸
増傾向を示し(平成 22年度:7件,同 23年度:
40件,同 24年 度:66件,同 25年 度:53件,
同 26年度:72件)
,内約 1/
3が同一職場や同一
職員が繰り返し面談を受けており
(平成 22年度
要指導のべ人数:3人,同 23年度:21人,同
24年度:22人,同 25年度:18人,同 26年度:
27人)
,面談後も,長時間労働が減少傾向を示
していないのが現状である(図 2
)
.また,大半
の面談が事務職であることも特徴として挙げら
れ(平成 22年度:7/
7件,同 23年度:21/
40件,
図 2 超過勤務者数の推移
超過勤務者は,要報告職員も要指導職員も,これ
まで増加してきたが,平成 26年度に要報告職員数
は漸く減少に転じた.
544
小
西
同 24年度:55/
66件,同 25年度:53/
53件,同
26年度:63/
72件)
,その原因としては,これら
の職種が,職員の増員や休務者の補充等の対応
が難しいことを反映していると推測される.そ
こで,平成 23年 10月からは,国の定める基準
を拡大した「要指導職員」
(時間外勤務が月 100
時間を超える職員,月 100時間を超える月を除
き,過去連続した 2
~6箇月間のいずれかの月
平均が 80時間を超える職員,あるいは月 45時
間を超える職員で,所属長が健康への配慮が必
要と認める者)に加えて,月 45時間超の職員も
「要報告職員」として,産業医との面談ができる
機会を増やして,職員の健康不安に対処すると
ともに,疾病の予防または早期発見に努めてい
る.ここ 5年間の要指導職員と要報告職員数の
推移をみると,平成 26年度には漸く要報告職員
数の減少傾向がみられ,面接指導の効果が現れ
てきたものと期待される(図 2
)
.
近年,労働者に業務による明らかな過重負荷
が加わることによって,脳血管疾患や虚血性心
疾患等を発症したとして労務災害と認定される
件数が増加している2).今後,本学および附属
病院でも,業務による脳・心臓疾患の発症を防
止するためには,疲労を回復する十分な睡眠時
間または休息時間が確保できないような長時間
にわたる過重労働を排除するとともに,疲労が
蓄積するおそれのある場合の健康管理対策を強
化することが必要である.
3.休務者の動向とメンタルヘルスケア
本学および附属病院における休務者の推移
(平成 22年度:68件,同 23年度:54件,同 24
年 度:67件,同 25年 度:67件,同 26年 度:
63件)では,この 5年間,ほぼ横ばいを示して
いる(図 3
)
.休務にいたった疾病分類は,平成
26年度では,妊娠・分娩および産褥(20%)
,
精神・行動の障害(18%)
,筋骨格系・結合組織
の疾患(15%)
,内科疾患(15%)
,損傷・中毒・
その他外因の影響(12%)
,新生物(6%)
,その
他の疾患(14%)となっており,ここ数年間ほ
ぼ同様の傾向を示している.特に,これら疾病
の中で,妊娠・分娩および産褥と精神・行動の
障害が絶えず上位を占め,なかでも精神・行動
英
幸
の障害は,その休務期間が長期になっているこ
とが問題と考えられる.
国は,すべての労働者の約 6割が職業生活等
に関して強い不安やストレスを感じ,さらに,
業務による心理的負荷を原因として精神障害を
発症,あるいは当該精神障害により自殺にいた
る事例が増加していることを受けて,平成 18年
3月に,労働安全衛生法に基づいて「労働者の心
の健康の保持増進のための指針」を示した2).こ
の指針では,メンタルヘルスケアを積極的に推
進するために,衛生委員会等において「心の健
康づくり計画」を策定するとともに,関係者に
対する教育研修を行い,
「4つのケア」
(セルフケ
ア,ラインによるケア,事業場内産業保健ス
タッフ等によるケア,事業場外資源によるケ
ア)を効果的に推進し,職場環境等の改善,メ
ンタルヘルスケア不調への対応,職場復帰のた
図 3 休務者数の推移
休務にいたった疾病分類は,平成 26年度では,妊
娠・分娩および産褥と精神・行動の障害,筋骨格
系・結合組織の疾患,内科疾患で約 2/
3占め,ここ
数年間ほぼ同様の傾向を示している.
京都府立医科大学の安全ならびに健康管理
めの支援が円滑に行われる必要があるとしてい
る2).
本学および附属病院では,平成 20年 4月に
「教職員の心の健康問題に係る対応と職場復帰
3)
支援の手引き」
を作成し,職員が職場における
心の健康づくりの推進,職場不適応状態の早期
発見・早期対応および職場復帰支援と再発防止
に取り組む際の指標を示している.特に,職場
復帰支援と再発防止については,各段階におい
て関係者が果たすべき役割や,対応に当たって
の留意点をまとめるとともに,円滑な職場復帰
を支援するための取組みとして,職場復帰前の
産業医による面接の導入や,
「ならし勤務」
の手続
を明確化した(図 4
)
.現在,このフローチャー
トに基づいて,各職員に適した復帰プログラム
を構築するとともに,その過程を評価し,さら
に,これまでできなかった職場復帰後のフォ
545
ローアップを充実することで,再発防止に努め
ている.
4.ストレスチェック
平成 26年 6月の労働安全衛生法の改正では,
各事業所は労働者に対し,医師,保健師等によ
る心理的な負担の程度を把握するための検査
(ストレスチェック)を行わなければならなく
なった1).この制度により,労働者のストレス
マネジメントの向上を促し(セルフケア)
,職場
環境の改善につなげ,メンタルヘルスケア不調
の未然防止のための取り組み(一次予防)を強
化することとしている2).
本学および附属病院でも,平成 25年度より,
有期雇用職員を除くすべての職員に対してスト
レスチェックを導入し,その検査の結果で,一
定の要件に該当する職員には,本人からの申し
出の下,心理カウンセラーとの面接指導を勧め
図 4 職場復帰支援の 5段階(
「教職員の心の健康問題に係る対応と職場復
3)
帰支援の手引き」
より引用)
「教職員の心の健康問題に係る対応と職場復帰支援の手引き」では,
職場復帰支援と再発防止のために,各段階において関係者が果たすべ
き役割や対応に当たっての留意点がまとめられている.
546
小
西
てきた.しかし,実際に面接指導を受ける職員
は半数以下で,その原因として,個人情報の点
から自主的なカウンセリングであること,外部
のカウンセリングを受けなければならなかった
ことなどが挙げられる.今後,保健管理センター
が設置され,本学専門医等によるカウンセリン
グが受けやすくなることが期待される.
5.公務災害
本学および附属病院における公務災害件数の
推移を示す(図 5
)
.平成 26年度に総発生件数は
減少に転じたものの(平成 22年度:34件,同
23年度:36件,同 24年度:42件,同 25年度:
43件,同 26年度:29件)
,ひき続き安全対策を
講じてゆく必要があると思われる.その内訳で
は,注射針による刺傷などの血液汚染事故が 7
割以上を占めている.附属病院では,これま
で,注射針による刺傷防止に対するさまざまな
方策が講じられてきたが,引き続き事故防止の
英
幸
ため一層の注意が望まれる.
6.健康保持増進
近年の医学の進歩に伴い,心疾患,高血圧,
糖尿病などの生活習慣病およびメタボリックシ
ンドロームについては,若年期から継続して適
切な運動を行い,健全な食生活を維持し,スト
レスをコントロールしうることにより,予防で
きることが明らかにされてきた2).また,健康
管理やメンタルヘルスケア等心身両面にわたる
健康指導技術の開発も進み,多くの労働者を対
象とした健康の保持増進活動が行えるようになっ
てきている.労働者の健康の保持増進の具体的
措置としては,健康測定とその結果に基づく運
動指導,メンタルヘルスケア,栄養指導,保健
指導等がある.今後,本学でも,保健管理セン
ターを中心に,これらの健康保持増進対策が進
められることが望まれる.
保健管理センター
本学では,平成 27年 4月に,学生および教職
員の身体および精神に係る保健管理を一元的に
行い,もって学生および教職員の健康の保持増
進を図ることを目的に,京都府立医科大学保健
管理センター(福居顯二センター長)が設置
された.本センターには,保健管理部門,学生
部門,教職員部門の 3部門が置かれ,それぞれ
の業務が定められている(図 6
)
.保健管理セン
ターでは,早速,学生や教職員を対象として,
専門医ならびにカウンセラーの健康相談が始め
られている.今後,本センターの設置により,
メンタルヘルスケアや感染症の専門医による健
康管理ができるだけでなく,職員の健康保持増
進に対する積極的な対策が講じられることを期
待したい.
お
図 5 公務災害件数の推移
公務災害は,平成 26年度に総発生件数が減少に
転じたものの,注射針による刺傷などの血液汚染事
故が 7割以上を占めている.
わ
り
に
元来,医学教育および医療機関には,生命の
危機に関わる病原体との接触,長時間労働,交
替勤務,重量物扱い,ストレスなどのいろいろ
な労働衛生上の問題が潜在している.さらに,
職員も医師,看護師,技師,薬剤師,事務職以
外に,さまざまな職種の人々が働き,その雇用
京都府立医科大学の安全ならびに健康管理
547
図 6 京都府立医科大学保健管理センター組織図
保健管理センターには,保健管理部門,学生部門,教職員部門の 3部門が置かれている.
形態も,常勤,非常勤,派遣労働者,委託業者
などと多様である.このような施設の労働安全
と健康管理を考える時,産業医および職員安全
衛生委員会の果たす役割は,他の業種にもまし
て重要であるにも関わらず,その取り組みはむ
しろ遅れていると言わざるを得ない.本学およ
び附属病院でも,これまで,兼務の産業医と職
員が職員安全衛生委員会を組織し,職員の安全
と健康の管理を行ってきた.そんな中で,今春,
文
1)改正労働安全衛生法(平成 26年 6月 25日施行)
2)労働衛生のしおり 平成 26年度 中央労働災害防
止協会;東京,2014年.
本学にも漸く京都府立医科大学保健管理センター
が設置され,これからは,より積極的な健康管
理ができるようになることが期待される.しか
し,それ以上に,各々の職員が医学教育ならび
に医療機関に勤務していることを自覚し,個々
の健康管理と保持に努めることを改めて希望す
る.
開示すべき潜在的利益相反状態はない.
献
3)職場復帰支援プログラム ―職員の心の健康問題
に係る対応と職場復帰支援の手引き― 京都府公立
大学法人事務局総務課福利厚生担当 2012年.
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著者プロフィール
小西 英幸 Hi
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所属・職:京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学・講師
略
歴:1987年 3月 福井医科大学医学部 卒業
1987年 5月 京都府立医科大学第 3内科
1994年 3月 京都府立医科大学大学院医学研究科 修了
1994年 6月~ 1997年 3月 M.
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1997年 4月~ 2002年 3月 京都府立与謝の海病院消化器科
2002年 4月~ 2003年 3月 京都府保健福祉部地域福祉援護課
2003年 4月 京都府立医科大学消化器病態制御学
2011年 4月~現職
専門分野:消化器病学,消化器内視鏡学
主な業績: 1.Ko
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