飲料自販機ビジネスの課題調査と解決システム

飲料自販機ビジネスの課題調査と解決システム
Survey of Vending Machine Business, and Proposals of Information System
情報メディア学講座 0312011120 野村甫人
指導教員 : 佐藤究 小笠原直人 布川博士
1. 概要
清涼飲料水の自動販売機ビジネスは様々な課題を抱
えている.本研究室では,飲料自販機オペレータと関
連が深い情報系企業と飲料自販機ビジネスに関する
様々な共同研究開発を行っている.本稿では,その過
程で明確となった課題とその関連調査,および情報シ
ステムによるそれらの解決手法の提案について述べる.
2. 飲料自販機ビジネスにおける課題
2.1 飲料自販機ビジネスの課題
業界の抱える問題をインターネット検索や日本自
動販売機工業会の公開しているデータ[1][2]から調査
を行った.
調査の結果,以下のことが分かった.飲料自販機の
台数の増加,売上の減少,つまり個々の売上が落ちて
いること.これは業界全体では対した変化ではないが,
個人設置の自販機には大きな影響を与えていると考え
られる.
また,商品搬送を行う従事者の雇用・教育コストが
大きいことや,一日中稼動している自動販売機は消費
電力が大きいこと,宣伝のための意匠が景観を損なう
こと,私有地からはみ出して設置され通行の邪魔にな
ること,周囲に空き缶が散乱することなどがあげられ
た.
2.2 売り手の調査
売り手の業績向上の取り組みの調査を行い,様々な
インセンティブを与えるプロモーション[3]について
調査した.
自販機の周りに人を集める仕組みや,ブランドを印
象付けるためのプロモーション,設置箇所にあわせた
プロモーションなど購買動機に働きかけるプロモーシ
ョンが挙げられた.
また,自販機ビジネスは台数の増加などにより飽和
状態にあることも分かった.
2.3 買い手の調査
飲料自販機で商品を買う消費者の購買行動とその
動きを調査した[4].
結果,飲料自販機による消費行動は非店舗及び,低
関与下の購買行動であるという特徴があることが分か
った.
関与は商品に対して個人が感じる関心度や重要度を
表した概念で購買意思決定に大きく影響する.関与は
購入頻度が低い商品(家や車)の場合は関与が高く,購
入頻度が高い商品(スナック菓子や缶ジュース)は低く
なる傾向にあるので,飲料自販機の場合は低関与下で
の購買行動と考えられる.
低関与下では短期間に繰り返す宣伝や伝えるメッセ
ージを限定した宣伝,製品ではなく外からの情報での
差別化などが有効であるといえる.外からの情報は商
品のパッケージや宣伝の方法,口コミによる評価など
が挙げられる.
3. 非熟練ルートマンのための作業情報提示シ
ステム
飲料自販機オペレータにおいては,自販機の商品の
補充や売上の回収が大きな業務であり,この業務にお
ける人件費や教育コスト等の圧縮が大きな課題である.
この業務の従事者(以下,ルートマン)には,スキル
と経験が必要でありバイトやパートといった非熟練者
を雇用して作業にあたらせることが現状では困難であ
る.そのため非熟練ルートマンに対して作業を指示,
支援するためのシステムが必要とされていることが分
かった.
3.1 要求機能
ルートマンのスキルや経験を分析するために,同行
調査を行い,その結果作業時間内に作業を終えるため
に作業時間や移動時間から逆算し,動的にルート取り
を行うスキルや自販機ごとの駐車位置,作業内容の違
いなど細かな部分まで,必要なスキルを分析した.
そこで初心者ルートマンでも動的に変化するルート
選択や状況に応じて変化する作業手順の中で正確に作
業を行うための作業支援システムが必要であることが
分かった.
3.2 実装
非熟練ルートマンのために,ユーザが製品の利用を
通じて享受する経験・体験である,ユーザエクスペリ
エンスを重視した初心者にも直感的で扱いやすいデザ
インをコンセプトとした.
そのため,3.1 で明確した作業内容から,ペルソナ
と構造化シナリオ[5][6]を作成することにより,想定ユ
ーザの明確化や支援システムに必要な機能,注意する
点などを洗い出した.
また,GUI デザインでは,初心者向けの画面遷移,
直感的で分かりやすい操作方法,ヒューマンエラーへ
の対策,タブレット端末向けの注意点の考慮など様々
な点に留意した.
以上の点を考慮して作成したシステムデザインのプ
ロトタイプを HTML5,javascript と Android 風フレ
ームワークを用いて作成した.(図1)
なお,熟練ルートマンでは,作業ルートを自己の経
験に基づく判断で行えるが,非熟練ルートマンにおい
ては困難なため.サーバ側に作業の進行状況を送りリ
ルート情報を取得しルートマンに変更を提示すること
で実現している.
図1:作業情報提示システム
4. 飲料自販機の陳列商品情報収集システム
5.2 提案システム
自販機ビジネスは飽和状態にあり,同じ場所に複数
のオペレータの自販機が設置されることは珍しくない.
このような状況において,他オペレータの自販機と差
別化をはかり売上を伸ばすためには,他オペレータの
自販機の品揃えや値段を分析し自社の商品戦略を打ち
出すことが必要である.
そのために他オペレータの自販機の品揃えや値段と
いったデータを安価で容易に収集し分析するためのシ
ステムが求められていることが分かった.
飲料自販機の横に設置されている空き缶の回収ボッ
クスで「おいしかった」
「まずかった」など2択の評価
を行わせる.回収ボックスに入れられた購入商品の判
別は缶に印刷されたバーコードにより行う.(図3)
これによりオペレータは非店舗である自販機では得
ることが難しかった,購入商品とその評価といった消
費者からのフィードバックが得ることができ,今後の
商品戦略に役立てることが出来る.
また,得られたデータを用いて集計結果を電子掲示
板などで表示することで飲んで捨てるだけという自販
機がそもそも持っている手軽さを損なわないまま,口
コミによる自己表現や「おしゃべり」としての楽しさ
を付与でき,商品以外での差別化を図ることが出来る
と考えられる.
4.1 要求機能
ルートマンが作業中に自販機のディスプレイの写真
を撮影することで,その画像データを解析し画像に写
っている商品の種類と値段が自動的にデータベースに
登録されるというシステムを提案した.
これにより,競合他社の自動販売機の写真を撮影す
るだけで容易にデータを集めることが可能になると考
えられる.
4.2 実装
自販機のディスプレイ画像から解析したい商品の写
っている範囲をマウスドラッグで指定し,指定範囲の
商品数を入力することにより自動的に指定範囲の商品
解析を行い,結果を表示するアプリケーションを Java
及び,OpenCV を用いて作成した.(図2)
自動認識が失敗した時のために,表示されている結
果はマウスクリックすることで認識結果の上位第 3 位
まで切り替えることができる.
図3:回収ボックス
6. まとめ
飲料自販機ビジネスの抱える課題を調査し,様々な
課題を明確にした.また今回はそのうちの3点に着目
し解決案を提案した.
初心者ルートマンのための作業情報提示システムの
デザインのプロトタイプに基づき実システムの開発や
評価を共同研究として進めている.
販売商品情報の収集システムは,今後商品の値段ま
で取得することが重要な課題であるため,機能の追加
を行っていく予定である.
自動販売機プロモーションシステムは提案のみであ
るため,今後は開発と評価を行っていく予定である.
図2:陳列商品情報収集システム
7. 参考文献
4.3 実験・評価
[1]
実際に設置されている自動販売機のディスプレイを
複数撮影.データベースに数枚の学習画像を用意しそ
れを用いて撮影画像の解析実験を行った.
撮影画像中の商品数 30 に対しデータベースの学習
画像 50 枚で実験したところ,認識結果第 1 位のみで 7
割程度.認識結果の上位第 3 位までで 8 割程度の認識
率を得られた.
[2]
5. 購買後の買い手の行動に着目した自動販売
機プロモーションシステム
5.1 背景
2.2,2.3 の結果,消費者の販売動機に働きかけるも
のが殆どで,商品を販売した後の行動に着目したもの
が無かった.一般商品販売では商品を売った後に顧客
満足度やフィードバックを得ることで今後の販売戦略
を立て売上を伸ばしていくが非店舗の自販機ではこれ
が困難である.
また,2.3 で低関与下における有効な広告戦略にお
いて,購買者は出来るだけ考える労力を抑えようとし,
文字による情報より数字による情報のほうが処理時の
負荷が低いと言われている.
以上に基づき,購買後の行動に着目したプロモーシ
ョンシステムの提案を行った.
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
[8]
[9]
日本自動販売機工業会,“自動販売機普及台数および年
間自販台数”,
http://www.jvma.or.jp/information/fukyu2013.pdf,201
4-05-06(最終アクセス 2014 年 5 月 7 日)
“一般社団法人 日本自動販売機工業会 清涼飲料自販
機に関する意義と利用実態調査結果”,
http://www.jvma.or.jp/information/4_001.html(最終ア
クセス 2014/06/12)
“世界のわくわくするプロモーション自販機 10 選”,
http://adgang.jp/2013/04/26582.html(最終アクセス
2014 年 5 月 7 日)
杉本徹雄,“新・消費者理解のための心理学”,福村出
版,2012.
山崎和彦,上田義弘,郷健太郎,高橋克実,早川誠二,柳田宏
治,”エクスペリエンス・ビジョン”,丸善出版,2013.
山岡俊樹,”UX・画面インタフェースデザイン入門”,日刊
工業新聞社,2013.
中部大学 山下隆義,中部大学 藤吉弘亘, “特定物体認
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MVE マルチメディア・仮想環境基礎 108(328),
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内山祐介,酒澤茂之, “大規模特定物体認識の最新動向”,
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