大塚 晃弘

広葉樹12種における葉内の通水抵抗の分布と光応答
Interspecific variation in hydraulic architecture and light response of leaves among 12 broad-­‐‑leaved trees
*大塚晃弘、野口航、種子田春彦(東大・院・理)
Q1
Q2
Q3
Q4
・植物体内を流れる水は、流路となる組織において通水抵抗を受ける。葉は、植物体全体の約25%を
占める大きな通水抵抗を持つ(Sack et al. 2003)。 ・葉の通水抵抗が光に応答して減少することが数種で報告されている(Voicu et al. 2008等)。 ・しかし、光への応答性を持つ種に共通する形態的特徴や生活型との関係は明らかになっていない。
(特に常緑樹を含めた温帯域での測定例の報告はあまりない)
光応答性は種間で違いがあるのだろうか? 葉の流路のうち、どの経路が光に応答するのか? 葉脈外部の通水抵抗の種間差を説明する形態的な特徴はなにか? どのような樹種の葉で、葉脈外部の通水抵抗や光応答性が大きくなるのか?
維管束鞘でのリグニンの沈着 AQPsの活性化
葉内では、水は葉柄から葉脈、柔組織を通
り気孔周辺の細胞に至って、蒸発する。葉
脈を出た水は維管束鞘を通った後、表皮
や葉肉組織を通り、葉の表面まで達する。
ここではそれらの経路をまとめて葉脈外部
と呼ぶ。液体として葉脈外部を流れる水の
流路は、大きくシンプラスト経路とアポプラ
スト経路に分けられる。その葉脈外部の経
路においてどちらの経路が大きく貢献して
いるかは未解決の問題となっている。 A112種中8種が光応答を示した。 A2葉脈外部の経路の抵抗が、葉内の流路のうち 維管束鞘細胞
最も大きな抵抗になっており、光への応答性も 担っていた。 A3葉脈外部の経路の抵抗には、葉内での葉脈専 有面積と維管束鞘におけるリグニンの沈着、 光で活性化されるアクアポリンに左右される 可能性が示唆された。 A4通水抵抗の大きさと光応答性は、生活型や蒸散 速度と関連がないことが示された。
木部導管
葉肉細胞
アポプラスト経路
シンプラスト経路
表皮細胞
シンプラスト経路の 寄与が大きくなる
光応答は種間で違いがあるのか?
測定には、東京大学本郷キャンパス構内(年 ●3時間以上の光処理の有無によって通水抵 抗の光応答性を確認した(Voicu et al.2008)
平均気温15.4℃、年降水量1529mm)に生育
する落葉広葉樹7種、常緑広葉樹5種の成
前日の日没時 熟した陽葉を用いた。
Magnolia kobus
二つに分ける
ウリハダカエデ Acer rufinerve
コナラ
Quercus serrata
ミズキ
Swida controversa
アカガシ
Quercus acuta
シラカシ Quercus myrsinifolia
クスノキ
Cinnamomum camphora
サンゴジュ
Viburnum awabuki
トウネズミモチ
Ligustrum lucidum
暗処理 Ambient light < 3μmolm-­‐2s-­‐1 圧力計2
Intact
圧力計1
P2
R2
R1
R2=(P2/P1-­‐P2)R1Kleaf=(P1-­‐P2/P2)Ktube 細脈切断 3次脈切断2次脈切断 主脈切断
脈外の抵抗
葉身全体 の抵抗
細脈の抵抗
細脈〜 主脈の抵抗
2次脈の抵抗
2次脈と 主脈の抵抗
主脈の抵抗
葉柄の抵抗
→維管束鞘細胞の二次壁に含まれるリグ
ニンの量が葉脈外部の通水抵抗を大きく
する要因の一つである。 0.1 0.05 沈着無
0 沈着有
コブシ
7%
14%
沈着無
0.5 クスノキ
0.45 0.4 0.35 コブシ
0.3 ウリハダ
0.25 0.2 ミズキ ムクノキ アカガシ クスノキサンゴジュシラカシ トウネズミ
モチ
34%
-­‐12%
オオシマザクラ
コナラ
リグニン
無
リグニン
有
トウネ
オオシマ ムクノキ
アカメガシワ
サンゴジュ
0.1 0.05 0 10 0.01 0.05 0 0 1%
53%
3%
21%
コブシ
20 30 40 葉脈占有面積(%)
50 クスノキの葉脈 (サフラニン染色) オオシマ ザクラ
0.08 0.06 0.02 葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
外部
全体
0 0.12 0.2 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0.4 0.1 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0.04 葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
外部
全体
0.5 0.12 ウリハダ カエデ
0.2 0.1 0 22%
ミズキ
*
0.15 葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
外部
全体
ムクノキ
0.1 0.08 0.1 0.06 0.05 0.04 葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
外部
全体
0.2 アカガシ
0.15 0.1 0.05 0.02 0 コナラ
0 0 葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
葉脈外部
細脈 2次脈 主脈
葉脈全体
外部
全体
外部
全体
0.02 0.16 0.14 *
*
0.015 0.12 0.1 0.01 0.08 0.06 0.005 0.04 0.02 0 0 葉脈 細脈2次脈 主脈 葉脈
葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
葉脈 細脈 2次脈 主脈 葉脈
外部
全体
外部
全体
外部
全体
葉脈 細脈2次脈主脈 葉脈
外
全体
0.16 *
0.14 0.12 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0 葉脈 細脈 2次脈 主脈 葉脈
外部
全体
クスノキ
シラカシ
サンゴジュ
トウネズミモチ
この結果は、葉脈外部の通水経路のうち、細胞膜を介した経路における通水抵抗が変化している可能性を示唆する結果
である。応答の有無や程度には、膜を介した経路におけるAQPsの活性、アポプラスト/シンプラスト経路の寄与の二つに依存
する。今回光に応答した8種は、光によってAQPsが活性に差が出たことと、葉脈外部の経路に対してある程度以上のシンプ
ラスト経路の寄与の両方が関係していると予想される。 0.3 シラカシ
アカガシ
ミズキ
0.15 アカメガシワ
0.25 どのような樹種の葉で、葉脈外部の 通水抵抗や光応答性が大きくなるのか?
(m2 s MPa mmol-1)
ミズキの葉脈 (サフラニン染色) 蛍光顕微鏡で観察
コナラ
(m2 s MPa mmol-1)
0 コブシ
61%
0.02 0.1 葉脈外部+細脈の抵抗(明処理)
0.15 沈着有
45%
0.15 0.2 →葉脈密度が小さい、または葉脈が
細いことは葉脈外部の通水抵抗を高
くする要因の一つである。 葉脈外部+細脈の抵抗(暗処理)
コブシ
0.25 クスノキ
コナラ
アカガシ
0.2 0.15 ●生活型の指標であるSLA ●蒸散量の指標であるSPI では説明できない でも説明できない ウリハダ
ムクノキ
0.1 ミズキ
0.05 トウネ
オオシマ
0 0 10 明処理の葉の抵抗 暗処理の葉の抵抗
シラカシ
アカメガシワ
サンゴジュ
20 30 40 葉脈占有面積(%)
50 暗処理ではリグニンの有無で大きく
分かれるが、明処理ではその境が
曖昧になる。 →通水抵抗は暗所では形態に
よる影響を受け、明所ではそ
れに加えてAQPsによる影響も
受けるのかもしれない。 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 1.5 vs SPI
落葉樹
常緑樹
0.5 0 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 明処理の葉の抵抗 暗処理の葉の抵抗
vs SLA
1 50 100 150 200 250 暗処理の葉の抵抗 vs SLA
0 10 葉脈専有面積=葉脈密度×葉脈幅
リグニンが沈着した部分を検出できる(ベルベリン染色)
ミズキの葉脈は細く、クスノキの葉脈は太いため、
葉脈占有面積に大きな差が出る。
((気孔の幅)2×気孔密度) (単位乾重量あたりの葉面積) 相対値
(m2 s MPa mmol-1)
リグニン沈着が確認された6種と確認されなかった6種の 葉脈外部の通水抵抗 暗処理
明処理 0.35 0.5 0.3 0.4 0.25 0.3 0.2 0 *
0.03 0.3 リグニンを含む種、含まない種ともに葉脈占
有面積と葉脈外部の抵抗には負の相関が
見られる。 維管束鞘にリグニンを含む種は、暗所における
葉脈外部の抵抗が有意に高くなる。 0.1 *
光に応答した8樹種は、全て葉脈外部の抵抗が大きく減少していた。
0.04 葉脈外部の通水抵抗の種間差を 説明する形態的特徴はなにか?
0.2 *
***
*
0.1 0.05 時間
0.2 減少率 24% P1 0.25MPa
P1
圧力
P2
*
0.3 アカメガシ ウリハダカ オオシマ
ワ
エデ
ザクラ
●葉脈切除処理によって葉内の通水抵抗 の分布を測定した(Sack et al. 2004) Pump
H2O
25℃±1℃
0.4 どの経路が光に応答するのか?
●通水抵抗は、高圧流量計法 (High Pressure flow meter method) で測定した(Tyree et al.1993) 20mM KCl
Ambient light 0 明処理 High irradiance > 300μmolm-­‐2s-­‐1 葉の通水抵抗と内訳の測定
PEEK Tube
***
High irradiance 相対値
コブシ
**
(m2 s MPa mmol-1)
常
緑
樹
オオシマザクラ Cerasus speciosa
通水抵抗 (m2 s MPa mmol-1)
落
葉
樹
通水抵抗
(m2 s MPa mmol-1)
暗所で一晩放置
葉の通水抵抗
*
Aphananthe aspera
枝ごと数本を採取
0.5 *
ムクノキ
0.6 *
Mallotus japonicus
12種中8種で、光処理に応答して通水抵抗が有意に減少した。 12樹種の通水抵抗は0.46〜0.02(m2 s MPa mmol-­‐1)と大きくばらついた。 *
アカメガシワ t-­‐test * P<0.05 ** P<0.01 *** P<0.001
50 100 150 200 葉脈外部の抵抗 vs SLA
葉脈の抵抗
250 0 0 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 10 8 6 6 4 4 2 2 0 0 0 50 100 150 200 SLA (cm2/g(DW))
250 10 15 暗処理の葉の抵抗 vs SPI
0 8 5 0 5 葉脈外部の抵抗 葉脈の抵抗
5 10 15 10 15 vs SPI
SPI (µm2 個 /mm2/10000)