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2015/10/5
(講演レジュメ)
「大津波からよみがえった郷土の宝
-
陸前高田市立図書館 郷土資料の修復-」
郷土資料を救出
東京都立中央図書館資料保全専門員
眞野節雄
撮影:【公社】日本図書館協会
平成23.3.11
陸前高田市立図書館
は津波により全ての資料が被災。職員
全員が犠牲者となった。
<1年後>
平成24.3 日本図書館協会、岩手県
立図書館、岩手県内大学関係者等が、
車庫跡に山積みされている被災資料の
なかから、貴重だと推定される郷土資
料約500点を発掘。
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撮影:【公社】日本図書館協会
平成24.6 救出された資料のうち
寄贈・購入など再入手が困難な資料
259点について、搬送先の岩手県立
博物館において、乾燥、汚泥除去の
ドライクリーニングとカビ防止の消毒
などの応急措置を実施。
平成24.8~ 259点の内、他の県
内図書館に所蔵のない62点につい
てデジタル撮影を実施。
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撮影:【公社】日本図書館協会
撮影:【公社】日本図書館協会
<2年半後>
平成
25.9
62点のうち、その後11点は
再入手。残り
51点について、陸前高田市
から、大変貴重な資料であり現物を後世
に伝えていきたいので本格修理をしたい
との意向が示された。本格修理を行うた
めの技術を有する機関はごく限られてお
り、依頼を受けて都立中央図書館が協力
することとなった。
<3年後>
平成
26.5
貴重書庫にあった資料113
点が関係者に救出されていたことが判明。
平成26.8 133点の資料のうち、岩手
県内図書館で所蔵されていない郷土資料
83点を第2次資料として受入。平成28年
度末までの予定で修復を行う。
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撮影:【公社】日本図書館協会
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
1 受入・確認
2 点検・仕分け
資料を破損の程度や補修の難易
度によって仕分けします。破損
の状態だけでなく、製本の種類
や紙の種類も短冊状の記録票に
記入します。
平成25年9月、岩手県から被災
資料が入ったダンボール1箱が
届きました。資料は1点ずつ封
筒に入っています。まずは、
リストと照合し、中身を確認
しました。
今回お預かりした51点は、救
出された陸前高田市の郷土資
料のうち、岩手県内の図書館
のどこにも所蔵されていない、
かつ、再入手ができなかった
資料です。
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カビの発生を防ぐため、仕分け後は一旦
資料保存専用の冷凍庫に保管します。
さまざまな破損の例
仕分けが終わりました
左から、重症16点、中程度16点、軽症19点
です
カビの影響と思われる
損傷
ページの端の欠損
紙のひどい皺とステー
プルの錆
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2015/10/5
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
3 撮影・解体
4 ドライクリーニング
各資料の最初の状況を記録するため、
写真の撮影を行います。その後、資料
を紙1枚ずつに解体します。作業によ
る粉塵・カビの飛散を防ぐため、
HEPAフィルター付の集塵機内での作
業です。
無線綴じの解体
乾燥している状態で落とせる汚れを
落とします(ドライクリーニング)。
解体すると綴じの部分などには塵埃
がたくさん。1枚ずつ刷毛やスポンジ
たわし等で紙を傷つけないよう軽く
こすり、クリーニングします。
ワイピングクロスで全体の汚れをとっています
5 消毒
錆びたステープルを除去します
紙も傷んでいるため、紙を傷つけ
ないよう厚めの添え紙をあてて慎
重に作業します
左上:スポンジたわし 右上:ワイピングクロス 下:刷毛
被災資料は海水だけでなく、汚
泥にも浸かりました。消毒用エ
タノールを全体にまんべんなく
吹き付け消毒を行います。
防塵マスクをしながらの作
業です
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修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
6 洗浄
7 乾燥・平滑化
次は水で紙を洗います。海水に浸かった紙は塩分の影響でいつまでも湿っています。
湿っているとカビが生えやすくなります。また、紙の繊維に付着した汚れもカビや悪臭
のもとです。紙は濡れると非常に破れやすいため、慎重に作業を行います。
各ページを1枚ずつ不織(ふしょく)
布(ふ)に挟みます。不織布に挟む
ことによって破損した資料も扱い
やすくなります
挟み込んだ不織布ごとカゴにい
れて3回洗浄します。1回目はぬ
るま湯に10分浸け、2回目は水に
入れ、刷毛で汚れを落とします。3
回目は水ですすぎます
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濡れた紙はそのまま乾燥させると波打ちした状態になってしまい
ます。そこで、1枚ずつ厚手の中性紙ボードに挟み、重しを載せて
乾燥させます。乾くまで3日以上、このままにしておきます。
不織布に挟んだまま吸
い取り紙で水気を取りま
す
刷毛で軽くこすって泥を落とします。
左が洗浄前の水、右が洗
浄後の水です。見た目は綺
麗でも洗浄後の水を見ると
一目瞭然。どのくらい汚れ
ているかがわかります。
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修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
補修
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ページの破れ
ページが破れている場合、楮(こうぞ)からできた薄い和紙(5~10g/㎡程度)とでんぷん糊で繕います。
破れている部分の境目に水で薄め
た糊を塗ります
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8
補修
ページの欠損
破れてはずれてしまった破片や欠けてしまった部分を補修します。
糊を塗った和紙を破れ部分に貼り、ヘラや湿っ
たタオル等でページとなじませます
左は修復前、右は修復後。 欠損部分には白い和紙を貼っています
ページの左半分がなくなっています
本紙と同じ程度の厚さの和紙で補修しました
破れ部分より少し大きくちぎった和紙の片
側に糊をまんべんなく均一に塗ります
板に挟んで重しをのせて乾かします。乾いたら
はみ出した部分を切り落とし完成です
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修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
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補修
修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
裏打ち
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脆弱なページ全体に和紙を貼り、それ以上破損しないようにします。表面に文
字がある資料は裏面から和紙を貼ります。
補修
塗工紙
職 人 技!
固着して剥がれなくなっています
不織布を敷いた上に、裏面を上に
して置き、霧吹きで水分を与えます
裏打ち紙の楮紙にでんぷん糊を塗
り、先ほど水分を与えた本紙に貼
ります
印刷効果を上げるため、紙の表面をコーティングし表
面を平滑にした紙を塗工紙といいます。塗工紙は水に
濡れて乾くと固着し、重症の場合は二度と剥がすこと
がでません。今回の資料にも塗工紙が含まれる資料が
あり、固着していました。1枚でも開くようにしたい
という思いで作業を行いました。
刷毛でよくなでつけます
中性紙ボードに挟んで板と重しを
のせ、乾かします
固着にも程度がありま
す。これは固着が強く、
もう一度水に浸けてヘラ
で慎重に剥がしました。
水に浸けすぎると紙自
体が脆弱になり破損し
てしまうことがあります。
紙の強さと固着の程度
を考えて行う、経験がも
のをいう繊細な作業で
す
触るとボロボロのページで両面に文字が
ある場合、極薄の和紙(5g/㎡以下)を貼
ります。多少、靄(もや)がかかったように
なりますが、文字が読めなくなることはあ
りません
表面が一体化した重症の固着部分
は回復できませんでしたが、かなりの
部分が見えるようになりました
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修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
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再製本
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修復の作業手順:受入・確認⇒点検・仕分け⇒撮影・解体⇒ドライクリーニング⇒消毒⇒洗浄⇒乾燥・平滑化⇒補修⇒再製本⇒完成
基本的には修復前と同じ製本方法をとりますが、今後の利用と長期保存を考え、
製本方法を変更した資料もあります。
綴じる
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再製本
見返しを貼る
平綴じ
無線綴じや針金綴じの
資料は糸で平綴じしま
す。基本は「三つ目綴
じ」(図1)です。
図1 三つ目綴じ
目打ちを使って糸を通す穴をあけます
基本的には修復前と同じ製本方法をとりますが、今後の利用と長期保存を考え、
製本方法を変更した資料もあります。
表紙を貼る 見返しが乾いたら、もとの表紙を貼ります。ここで
はソフトカバーの表紙の場合をご紹介します。
中身が一体化したら次は見返し
を貼ります。新しく貼るものは、
保存性を考慮し弱アルカリ性の
保護用紙を使いました
麻糸で綴じます
完成!
完成!
糸かがり
折丁を背の部分で綴じ
てあった資料は糸かが
りします。今回は「機
械かがり」(図2)で綴
じました。
修復前
表紙の修復
裏表紙が大きく破れています
図2 機械かがり
木綿糸と針を用意し、もとの穴を利用
して綴じます
この資料は木綿糸2本どりで綴じました。
平綴じに比べ開きがよいのが特長です
修復後
破れ部分をつなぎあわせ、欠けている
部分は和紙で繕いました
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平成27年3月震災から4年…救出された貴
重な資料の一部が再生され、やっと陸
前高田にかえりました。資料保全室で
は現在、第2次受入資料について、平成
29年3月の返還を目指し、再生に向けた
修復を行っています
なお、第1次受入資料が平成27年3月に完成し、陸前高田
市立図書館に返還されたことを記念して記録動画を製作し
ました。
「大津波からよみがえった郷土の宝―陸前
高田市立図書館郷土資料の修復」
(15分)
日本語版
。
(
)
https://www.youtube.com/watch?v=2YT0uGFYhAc
(
)
https://www.youtube.com/watch?v=q4M-N3K3IpY
英語版
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