塗装表面の物体指紋を用いた 工業製品や産業機械の個品認証 石山 塁 NEC情報・メディアプロセッシング研究所 物体の表面に自然発生する紋様を、人の指紋のように個体識別や真贋判定が可能な画像として とらえ、画像認識によって個体認証を行う「物体指紋」認証技術を研究している。本稿では、機 械製品等で広く用いられている、表面に凹凸紋様を与える塗装(ハンマーネット塗装)の表面の 凹凸を「物体指紋」として利用する技術を紹介する。塗装面には、個体毎に固有な特徴があり、 複製が困難である。このことを利用し、特殊な識別タグや認証用の加工を用いず、スマートフォン のカメラと市販のLEDライトで撮影した画像によって、機器や部品の個体を識別・認証する技術を 提案する。実際の工業製品に対し、製造現場での実験を行い、誤りなく個体識別・認証を行うこ とができた。 1 はじめに 約によって、取り付けることや加工そのものが困 難で、コストもかかるという課題もある。さらに、 そのようなコストをかけて真贋判定タグを取り付 近年、生産・流通のグローバル化により、トレー けても、世界中に広がる流通網やエンドユーザが サビリティの確保が難しくなり、模倣品の問題も それを確認できる手段をもたなければ、不正品の 深刻化している 1 、2)。模倣品は、正規品メーカの 抑止にはつながらないという課題があった。 売り上げを毀損するだけでなく、粗悪あるいは規 本研究では、識別タグを用いず、製品・部品自 格外の製品・部品がそれとわからずに用いられる 体が元々もっている外観特徴を、一般的に普及し ことにより、正規メーカの信用・ブランドを損な ているカメラ・機材を用い、高精度な認証が可能な うばかりか、製造物責任や訴訟リスクにもなりか 「物体指紋」画像としてとらえる技術を紹介する。 ねない。また、乗り物、インフラや生産設備など 本技術により、これまでタグや特殊加工を施せな に不正な機器や部品が紛れ込めば、それを利用す かった物品の識別・管理や、低コストで誰もが確 る人々や、社会全体へのリスクともなる。 認容易な個体認証システムを実現できる(図1)。 こうした状況を踏まえ、自社の正規品を確認で きるように、ホログラムや RFID チップなど、偽 装や複製対策を施したタグをつけるなどの対策が、 2 塗装の微細凹凸の「指紋」画像化 金券やブランド品に限らず、工業製品メーカにも 広がりつつある。しかし、複製防止技術をもつタ 本研究では、機械製品や部品の塗装として広く グはそれゆえに高価であり、大量生産される製品 用いられている、ハンマーネット(ハンマートン) すべてに取り付けるのには、膨大なコストがかか 塗装の表面微細凹凸に着目した。ハンマーネット る。また、部品・製品の素材や物理的サイズの制 塗装は、塗料に粘度の異なる素材を混ぜて吹き付 74 ︱March 2015 eizojoho industrial
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