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中東北アフリカ情勢
1.「アラブの春」以降の地域情勢
1 過激主義の伸張
●「国家脆弱性の弧」(イラク,シリア,レバノン,パレスチナ(ガザ),イエメン)
→その脆弱性につけ込んだISIL
●アイデンティティ・ポリティクスの発源地:イラク(スンニ派とシーア派の対立,クルド問題)
→その地域拡散を促進したテクノロジー(SNS)
2 今後の注目点
●主要勢力(特にサウジアラビアとイラン)の動向が地域安定化の鍵
→脆弱性を有する国家は,比較的体制の安定した国家によるプロキシを使った覇権争いのプレイング・
フィールド
●主要勢力が矛を収めISILに共同対処することが理想
2.その他地域の抱える課題・今後の論点
●サウジアラビア(油価の財政への影響,王族のライバル関係,地域危機の同時発生の危険)
●イラン(EU3+3との最終合意の履行)
●イエメン,シリア,リビアの政治プロセス
●中東和平プロセスの動向
1
中東の現状
 終わりの見えないシリア危機
 2つに割れたリビア
 死者22万人以上,難民400万人以上,国内避難民760万人以
上(国連による公表値) 。
 レオン国連事務総長リビア担当特使が,代表議会と制憲議会の
双方に接触し,挙国一致内閣樹立に向けた国内対話が実施さ
れている。
 一部の都市において,ISILをはじめとするイスラム過激派の勢
力伸長がみられる。
トルコ
約172万
人
シリア
国内
避難民
約760万人
レバノン
約119万
人
エジプト
約13万人
ヨルダン
約63万人
イラク
約24万
人
イラク
国内避難民
約320万人
【制憲議会(GNC)】(イスラム主義)
【代表議会(HOR)】(世俗派)
 代表議会への権限委譲を否定。
政治的正当性は低いものの,国内
ではトリポリ空港をはじめ,首都を
制圧する勢いを持つ。
 国際社会では,選挙で設置された
代表議会の正当性を認める傾向
が圧倒的に強い。国連総会にも
出席。
 2014年11月,リビア最高裁は,代
表議会の開催に対して違憲判決。
 衰えないISIL
 人道危機に瀕するイエメン
2014年6月イラク北部侵攻
2014年8月イラク北部の都市シンジャールを制圧
2014年10月アンバール県でスンニ派部族民多数を殺害
2014年8月以降拘束中の米国人,英国人等を相次いで殺害
2015年1月邦人2人及びヨルダン人パイロットを殺害
2015年5月イラク西部の都市ラマ-ディーを制圧
2014年9月 南下したホーシー派による首都サヌア制圧
2015年2月 ハーディ大統領のアデンへの移動
2015年3月 ホーシー派のアデン進出
サウジ等の軍事行動開始
2015年7月 国連が緊急度レベル3に指定
2015年8月 政府側がアデンを含む南部5県を奪還
 死者4,400人,負傷者27,000人,国内避難民約144万人
(国連による公表値)
 サウジ,エジプトによる海上封鎖及び国内紛争激化により
物資・燃料の輸入が停滞し,食料等が不足。飢饉発生の
恐れが指摘されている。
勢力拡大の要因
指導者:バグダーディ



豊富な資金力
強力な軍事力
恐怖による統治と社会サービスの提供による民
心掌握(「アメとムチ」)
2
ISILをめぐる情勢
ISIL沿革
2000年頃
「タウヒード(神の唯一性)とジハード団」
イラクでのできごと
2003年7月 統治評議会発足。
アブームスアブ・ザルカーウィ(ヨルダン人)が結成。
2004年10月
「二大河の国のアル・カーイダ聖戦機構」
ザルカーウィ,オサマ・ビン・ラーディンに忠誠を誓って
組織名を改名。
2006年6月
ザルカーウィ,米軍の攻撃で殺害。
2006年10月
「イラク・イスラム国」
2003年8月 国連イラク本部爆破。
ISILの旗
宗
派
対
*
立
2006年2月 アスカリ廟爆破テロ。
激
化
2008年3月 サドル派民兵掃討。
2006年4月 マーリキー政権発足。
ザルカーウィの流れをくむアブーオマル・バグダーディが
結成。2010年4月,同人は米軍により殺害。
2013年4月
「イラクとレバントのイスラム国」
アブーバクル・バグダーディ,シリアで反政府武装闘争
に従事していたヌスラ戦線との合併を発表。
しかし,ヌスラ戦線指導者は,この動きを即座に否定し,アル・
カーイダに対する忠誠を断言。2014年2月,ISILはアル・カーイ
ダ中枢からの命令に対する不服従を理由にアル・カーイダか
ら絶縁。ヌスラ戦線とISILは,各々独立の存在として活動。
2014年6月
「イスラム国」
アブーバクル・バグダーディ,「カリフ」に就任。
「アッラーの他に神はなく,
ムハンマドは神の預言者なり」
とアラビア語で書かれている
指導者バグダーディー
2010年11月 第二次マーリキー政権発足。
マ
ー
リ
キ
2014年9月 アバーディ政権発足。
ー
独
2015年3月~4月
裁
イラク軍がティクリートをISILから奪還。 化
2011年12月 米軍がイラクから撤退。
シリアでのできごと
2011年3月 ダラアでの反
政府デモ。
2011年半ば 全国主要都
市に反政府デモ拡大。
2015年7月
イラク軍がラマ-ディー及びファルージャの
解放作戦を開始。
2014年6月 アサド大統領
三選。
3
最近一年のシリア国内情勢の変化
○Busra
○Busra
(出典:Agathocle de Syracuse)
4
ISIL戦況地図 ー イラク
Gov & PMU
ISIS forces
Kurdish
fighters
Mosul
Erbil
ニナワ県
Ares under full
ISIS control
Kirkuk
Kurdish fighters
Beiji
Kurdish
and Shi’a
fighters
サラハッディーン県
Qaim
Tikrit
Samarra
アンバール県
Ramadi
Fallujah
Mostly
Shi’a
militias
Baghdad
5
アバーディー内閣及び国会議長策定の改革案
経緯
【背景】:一層の悪化を見せる社会サービス及び政治家・
政府高官による腐敗に対するデモが、バグダッド及びバス
ラ県等にて断続的に発生。特に今夏は50度を超える異常
気象が続く中、電力供給サービスが改善しないことへの国
民の不満が増大。
【時系列】
●7月31日:タハリール広場(バグダッド市中心部)及び各
主要都市にて数千人規模のデモが発生。
→アバーディー首相は,電力大臣等の関係閣僚を招集し
た緊急会議を開催し,関係者に至急の対応策をとるよう指
示。
●8月7日:シーア派宗教権威シスターニー師は代理人を
通じ、汚職撲滅等に向けた抜本的改革を行うようアバー
ディー政府に対し要請するファトワを発出。
→同日夜には再びタハリール広場等にて数千人規模の大
規模デモが発生。
→アバーディー首相は声明にて早急に
抜本的改革案を提示する旨表明。
●8月9日:閣僚評議会は、アバーディー
内閣が提出した諸改革案を承認。
→マーリキー元首相(現副大統領)を含む各政治勢力が、
相次いで改革支持を表明。
●8月11日:国民議会は、アバーディー内閣が提出した諸
改革案及びジュブーリー国民議会議長が提出した補足改
革案を出席議員(全体328議員の内297名が出席。反対1
名のみ)の絶対的多数により承認。
在イラク大使館
2015年8月13日現在
首相提出改革案の主要ポイント
【総論】:行政、財政、経済、サービス、汚職対策の5項目にお
ける諸改革を規定。
【ポイント】
●副大統領、副首相職の廃止。
●管理職等における政党主義・宗派主義に基づく人選の中
止。
●省庁・政府機関の統廃合を通じたスリム化。
●電力分野での問題解決に向け、(承認日8月11日から)2週
間以内に成果を上げる。
●汚職に関与する者の訴追、監査の徹底。
国会議長提出改革案の主要ポイント
【総論】:首相改革案を補足すると共に、(承認日8月11日か
ら)「30日以内」等の具体的な作業期限を設定。
【ポイント】
●各省庁等における「代行職」の廃止(30日以内)
●官公省庁数削減の第一段階として、22以下まで削減(30
日以内)
●電力大臣、水資源大臣の更迭。
●すべての政府高官の警護官数を半減(15日以内)
●高等司法評議会に対し、司法改革案の提出を要請。
●国家防衛に失敗し、テロリストの拡大を招いた責任者を訴
追。
●会期の3分の1以上を欠席した議員の更迭。
●国内避難民問題の解決策を見いだす。
6
サウジアラビア・サウード王家の主要人物
【注】
(人名)は故人。
主な人物のみ掲載。
黒地・白抜きは 歴代国王(丸数字は就任順、
下段は在任期間)。
赤枠は所謂「スデイリー・セブン」(注)とされる有力
王族。(注:名家であるスデイリー家出身の母親から生まれた同腹の7
平成27年7月
中東第二課
第二世代
第三世代
(サウード国務相
兼外政顧問(前外相))
(②サウード)
1953-1964
(③ファイサル)
1964-1975
人兄弟。)
(享年75歳)
トルキー前駐米大使
(62歳)
ムトイブ国家警備相
(62歳)
(④ハーリド)
1975-1982
(53歳)
アブドルアジーズ外務副相
サウード・アル・
カビール分家
サウード
?-1875
(⑤ファハド)
1982-2005
ミシュアル前マッカ州知事
(注:代表的な傍系)
ムハンマド
?-1894
(44歳)
トルキー前リヤド州知事
(⑥アブドッラー)
2005-2015
ハーリド元国防副相
(66歳)
(スルタン元皇太子)
(84歳)
アブドルラフマン元国防副相
アブドッラー
?-1889
(45歳)
第三次サウード王朝
タラール
トルキー
アブドルラフマーン
?-1928
(①アブドル
アジーズ)
1932-1953
アル・ワリード(実業家)
(84歳)
ファイサル石油相顧問(ガス担当)
(83歳)
ムハンマド・ビン・ナーイフ
皇太子兼内相(MbN)
(ナーイフ前皇太子)
⑦サルマン国王
バンダル前国家安全保障会議事務総長 (65歳)
兼国王顧問
(80歳)
(60歳)
(50歳)
(55歳)
スルタン遺跡観光庁長官
(59歳)
第二次サウード王朝
(注:1891年,サウジ北部を根拠
に勢力を拡大した政敵ラシード
家により滅亡。)
アフマド前内相
ムクリン前皇太子
(73歳)
アブドルアジーズ石油鉱物資源副相
(70歳)
ムハンマド・ビン・サルマン
副皇太子兼国防相(MbS)
(55歳)
(30歳) 7
集合関係で見たISILの位置づけ
ムスリム
サラフィー主義:後代の逸脱
を排しイスラーム初期の原
則・精神への回帰を目指す
サラフィー主義者
ジハード主義者
ジハード主義:信仰とウンマ
の防衛・拡大のため自己を
犠牲にして戦うことは全ムス
リムの義務とする考え方。啓
典の民は対象とならない。
タクフィール主義者
アル・カーイダ
タクフィール主義:ムスリムに
不信仰者のレッテルを貼った
あとにジハードの標的とする
考え方。
ISIL
ムスリム同胞団
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イランの核問題に関する最終合意
1.概
 要7月14日、EU3+3(英仏独米中露)とイランが、イランの核問題に関する最終合意文書としての「包括的共同
作業計画( JCPOA)」を公表。
 7月20日、国連安保理がJCPOAをエンドースする決議2231を採択。
 JCPOAは、イランの原子力活動に制約をかけつつ、それが平和的であることを確保し、また、これまでに課
された制裁を解除していく手順を詳細に明記したもの。
国際不拡散体制の強化、中東地域の安定に資するもの。着実な履行が重要。
 イスラエルなど一部はこの合意に対して批判的・慎重な態度。また共和党主導の米議会の一部も批判的。
EU3+3側の措置
イラン側の措置
制裁解除
原子力活動への制約
●濃縮ウランの貯蔵量・遠心分離機の数の削減
●安保理決議に基づく制裁解除
●兵器級プルトニウム製造の禁止
●研究開発への制約
●査察の受け入れ・透明性強化
約10年間,核兵器1つを作るのに必要な核物質を
獲得するのに要する時間を1年以上に。
●米EU等による核関連の独自制裁の適用
停止・解除
2.合意の影
響
 ローハニ政権は求心力を高め,優先事項である社会・経済政策を後押しか。
 核交渉と同時に周辺国への関与を強化するイランと地域の大国であるサウジアラビアとの
関係に注目。
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