JACSNL_Vol99_201501

ニューズレター
日本カナダ学会
第99号 ・ 2015 年1月
発行人:下村雄紀 編集人:細川道久・福士 純
事務局 : 〒 658-0032 神戸市東灘区向洋町中 9-1-6 神戸国際大学経済学部 下村雄紀研究室内
TEL:080-3868-1941・FAX:03-6368-3646・http://www.jacs.jp・[email protected]
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第 39 回年次研究大会を終えて
水戸 考道
本学会の第 39 回年次研究大会は、 現会長や前会長、 役員の方々そして会員の皆々様の
並々ならぬご支援を頂き、 2014 年 10 月4日 (土) ・ 5日 (日) の週末に関西学院大学上ヶ
原キャンパスにて無事、 実施できましたことをご報告させていただくとともにご協力頂いたす
べての方々に実行委員長として心から深く感謝申し上げます。
今年の研究大会は、 5つのセッションとシンポジウムから構成されておりますが、 その内
容に関しては別途に詳しい報告がありますので、 ここでは会場を運営した立場からプログラ
ム全体に関するご報告を申し上げます。
まずは今回の年次研究大会については、 幾つかの異例があり、 会員の皆様のなかには
戸惑われたり、 不思議に思われることも多かったのではないかと案じております。 そこでこ
の報告ではそれらの背景などをお話させていただきます。
まず第1の異例は、 学会の会員による通常のご参加 ・ 報告発表に加えて今回は関西学
院大学および近隣の大学の学生および一般の方々も大勢参加させていただいたことです。
この結果、 会場では 300 名ほどの若者の参加に圧倒された会員のかたがたもいらっしゃっ
たのではなかったかと思います。
これには次のような背景があります。 会場校であった当関西学院大学では 100 年以上も前
からカナダの主要大学と交流が続いており、 実際多くのカナダ人の優れた教授陣やリーダー
に支えられながら発展してきました。 このような事情もあり、 2010 年にはトロント大学にて交
流 100 周年記念の日加交流国際シンポジウムを開催するとともに同大学に本大学カナダ ・
オーフィスを設置させて頂いた他、 カナダに関しては様々な交流事業があります。 このため
毎年 400 名以上の学生がカナダの協定校に留学をしており、 カナダは本学生に一番人気の
ある留学先です。 このため留学前にあるいは帰国後カナダについて学びたいという学生も多
( 次ページに続く )
No.99 (January 2015) // 本号の内容 : 第 39 回年次研究大会を終えて(水戸考道)
●第 39 回年次研究大会報告特集 : 各セッションのレビュー / セッションⅠ カナダの国際主義と日本、 セッショ
ンⅡ カナダと日本の交流 (水戸考道) / セッションⅢ 自由論題 I (田中俊弘) / セッションⅣ 自由論題 II (大石
太郎) / セッションⅤ グローバリゼーションの中のカナダ (中本悟) / シンポジウム 35 年を迎えた日本のカナダ研
究 (加藤普章) ● 映画 『バンクーバーの朝日』 に携わって (河原典史) ● 事務局より (『カナダ研究年報』 第
35 号の公募要項 , 第 28 回日本カナダ学会研究奨励賞論文募集 , 会費納入について (お願い) ・・・ ● 編集後記
JACS Newsletter
The Japanese Association for Canadian Studies / L’ Association japonaise d’études canadiennes
く、 私の担当するカナダ研究入門の授業も多
の頃様々なイベントが同時進行で行われ、 学
い時には 500 名近くの受講生がいることもあ
内の会場が取れなかったためです。 バスやタ
ります。 このほかカナダに関する授業は様々
クシーでの移動時、 交通の渋滞で到着が遅
な学部でオファーされておりますが、 その多
れてしまいました。 こころからお詫び申し上げ
くの学生が参加してくれる運びとなり、 本学会
ます。 が、 立派な日本庭園のある料亭にて
の参加会員の3倍以上の一般人や学生が参
迅速なサービスで歓談することができました。
加する異例な年次研究大会となったのです。
普通はゆっくりとご馳走を頂くゆとりがないが、
2つめの異例は予算的には余裕はあったの
今回は会席料理を堪能しながらゆっくりと初め
ですが、 英語のセッションでも同時通訳をつ
て懇談できましたと杉本前会長をはじめ何人
けなかったことです。 関西学院大学では、 25
かの方々がおっしゃってくださいました。 色々
年ほど前に関西におけるカナダ研究の拠点
とご迷惑をおかけ致しましたが、 皆様のご理
を設立しました。 その一環として様々なプログ
解とご支援に深く感謝申し上げます。
ラムを実施しておりますが、 そのひとつは毎
本研究大会の企画・実施については、 様々
年、 公開で実施する英語によるカナダ研究セ
な 不 安 が あ り ま し た。 こ の よ う に 長 い あ い だ
ミナーです。 その目的の一つは、 英語能力
カナダと緊密な交流のある関西学院大学に
に関係なく英語でもってカナダについて理解
は、 カナダに精通する研究者や職員が多数
を深める、 日本にいながら留学体験 ・ 異文
お り ま す。 そ の 中 で 本 大 会 運 営 に 当 た っ て
化交流体験をさせるというもので、 普通はカ
は、 社会学部所属の大岡栄美会員および、
ナダからの留学生をリーダーとして泊まり込み
国際学部の大石太郎会員に実行委員となっ
の合宿体制で行います。 今回の研究大会の
てご支援をいただきました。 大岡先生はこの
最初の2つのセッションは、 この恒例の公開
研究大会の実施の前後にご出産であるという
カナダ研究セミナーとの共同プログラムであっ
ことで (おめでとうございます!)、 結局大石
たため、 英語による発表のみとしました。
先生に全面的にお願いすることとなりました。
3つ目の異例は、 本学会の年次研究大会
大会前の会員の皆さまへのご案内、 大石ゼ
は通常9月中旬に開催されるのですが、 今回
ミの学生さんを動員しての当日の会場の運営
は 10 月初旬となったことです。 恒例のカナ
はすべてやっていただくとともに、 会計管理
ダ研究セミナーは、 毎年多くの学生や社会
も最初から最後まで快く引き受けてくださいま
人が参加できるよう実施時期は普通 11 月下
した。 実際の実行委員長として大活躍してい
旬の学期中です。 彼らへのこのイベント情報
ただきました。 誠にありがとうございました。
を周知させる必要性もあり、 どうしても学期開
最後になりますが、 本研究大会の最初に2
始後でないと実施できないということで今回は
つのセッションの開催はカナダ研究セミナーと
本学会としては変則的な 10 月初旬に開催さ
の共同プログラムであるということで、 その講師
せて頂く運びとなったわけです。学期がスター
の旅費や謝礼に関しては関西学院大学より全
トしているため、 多くの会員の方にとってご参
面的な支援をいただくと同時に、 スタッフの提
加が難しかったかと思います。 ご迷惑をおか
供も含め運営の面でも学会としては異例ともい
けしましたがご理解ありがとうございました。
える同大学の協力を得ました。 特に国際教育・
4つ目の異例は、 懇親会の会場がキャンパ
協力センターのご支援に記して感謝いたしま
ス内ではなかったことと、 さらには立食型で
す。 皆々様のご高配のお陰で、 本研究大会
はなかったことです。 本大会のある前の週末
を無事、 そして盛況に終えることができました。
が本学125周年記念日であったこともありこ
深く御礼を申し上げます。 最後に、 多くの会
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
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日本カナダ学会
員の皆様にとって楽しい、 また今後の研究を
言える冒頭の報告で、 カナダ外交は国際主義
推進する上で刺激多い有意義な大会となって
とそれに関するいわゆるミドルパワー論で代表
いればと願いながらご報告といたします。
されることが多いが、 その歴史は日本に比べる
(大会実行委員長 関西学院大学)
と非常に短いものであると報告されました。 日
* * *
本の国際主義は、 19世紀末の国際主義の概
第 39 回年次研究大会報告特集
念から発生しているが、 カナダの場合 James
◆研究大会各セッション等のレヴュー :
Eayrs 氏がいうところの低調で誠実性に欠ける
セッションⅠ 「カナダの国際主義と日本」
1930年代と、 第 2 次世界大戦期の外交に対
セッションⅡ 「カナダと日本の交流」
する反応として戦後誕生したと主張しているとこ
水戸 考道
ろが興味深いと思われます。 またカナダはミド
最初の2つのセッションは、 関西学院大学の第
ルバワーであるとはいえ、 あまりにもアメリカ合
25回カナダ研究公開セミナーとの共同プログラ
衆国よりなので本当に仲介役として機能してき
ムという形で提供されました。恒例のこのセミナー
たかあるいはできるかというと多いに疑問がある
は、 同大学がいつも招聘しているカナダ研究客
という懐疑的な見方も鋭い指摘でした。
員教授のご専門に関するテーマに基づき、 毎
と同時に、 日本の世論も日本が国際社会に貢
年1回実施してきました。 今年の秋学期の客員
献すべきことを支持しており自由主義的国際主
教授は、 国際関係 ・ カナダ外交研究で高名な
義という点で両国は一致している。 が実際問題
Don Munton 北ブリティッシュ ・ コロンビア大学初
としてどのようなことを目指しているのか、 なそう
代国際関係学教授であったため、 加藤普章理
としているのか調査するにはさらなる実証的な研
事を大会企画委員長とする企画委員会のご審
究が必要であると訴え結論としています。
議・ご承認を得て、「カナダの国際主義と日本」
Munton 先生に引き続き、 元外交官として日本の
というテーマに決定いたしました。
カナダ大使館にも勤務していた Ann Park Shannon
Munton 先生は、 ダルハウジー大学やブリ
氏 (現ビクトリア大学アジア太平洋研究所) が
ティッシュ ・ コロンビア大学でも教授をされて
講演してくださいました。 彼女は、 どのように
おりましたが、 その間トロント大学にあった旧
多くのカナダ人が日本に興味を抱き幕末以降
カナダ国際問題研究所 ( C I I A ) の研究主任と
来日し、 近代日本の発展に寄与したかという
して活躍されていた 1981 年頃からの長いお
様々な事例をまとめ、 Finding Japan: Early Cana-
つきあいがあり、 かれの研究については私自
dian Encounters with Asia を 2012 年に Heritage
身、 色々と精通しています。 カナダ外交のみ
House Publishing Co. から刊行しています。 同
ならずキューバ危機のご研究成果をオックス
書は、 ユニークなテーマでとても興味深い人物
フォード大学出版会から出版されたり幅広い
を多く紹介しており評判が高く、 最近カナダの
ご研究をされております。
総督から日本の天皇に送られたそうです。
その当時 CIIA の所長は、 ノーベル平和賞
今回のご講演は、 その著書に基づいたもので、
を受賞した Lester Pearson 首相の片腕として
近代日本で活躍した様々なカナダ人について
活躍され、 また私の恩師でもある John Holmes
お話ししてくださいました。 様々な国があるなか
先生でした。 彼は、 国際社会におけるカナダ
でとりわけカナダは日本に興味を持ち、 多くの
自身の地位をよく理解しながら平和な世界を構
ユニークな人材が来日し、 彼らが日本の近代化
築するためにミドルパワーとして活躍すべきで
に携わることになったといいます。 その最初の人
あると主張しておられました。
はハドソンベイ会社のスコットランド系商人を父と
Munton 先生は今回の学会の基調講演とも
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
し原住民を母とする Ronald MacDonald で、 彼は
3
日本カナダ学会
江戸時代の鎖国時に難破を見せかけて日本に
発展過程、 そしてそのインパクトについて講演し
入国し、 アメリカのペリーが来航した時に日本語
てくださいました。 同氏はカナダのお生まれで、
をマスターし通訳として活躍したそうです。
日本に帰省中に第2時世界大戦が勃発。 ご兄
また今年度の年次研究大会の会場校であ
弟の中には、 連合国軍のために戦った方と帝国
る関西学院大学の発展に寄与した4代目の
陸軍に徴兵された方がいるという大変な家族史
C.L.J. Bates 学院長や、 在日本カナダメソジス
を持っておられます。 また戦後反日感情の強い
ト教会の会計 ・ 書記および同学のための尽力
カナダでビジネスを展開しながら生活されたこと
した Daniel R. McKenzie 牧師などについてご講
から、 そのお話は非常に具体的でしかも身にひ
演してくださいました。 会場には両氏のひ孫にあた
しひしと伝わるものでした。特に日系カナダ人は、
るマッギル大学法科大学院の Armand de Mestral
日本へ強制送還されたといわれますが、 カナダ
教授 (今研究大会 ・ 第4セッション報告者) およ
人であった彼らにとってそれは日本への追放を
び Paul Williams トロント大学医学部教授 (第
意味したという門田氏のご講演は、 今は多文化
37回年次研究大会基調講演者) も臨席され、
主義のリーダーとなっているカナダでもかつては
お二人にとっては特に感慨深い大会となった
人種的偏見が顕在していたということを再認識さ
のではないかと思います。
せられるご報告でした。 現代カナダにおいては、
Shannon 氏は、 このような様々なカナダ人の
日系カナダ人は日本人ではなく、 その多くが他
近代日本での活躍を一貫して支えていたもの
の民族と結婚しているが、 これは国際結婚では
は意識していたかないか明確ではないのです
ありませんというようなご指摘も学生たちは非常
が、 カナダの潜在的国際主義ではなかったか
に興味深かったと報告してくれました。
という見方を提示されました。 これは講演後に
本年度は、 このようにカナダと関係の深い本
お話した時に出たのですが、 オーストラリアや
学の 125 周年であるとともにこの恒例セミナーの
ニュージーランドなどに比べるとカナダの国際
第 25 周年記念ということもあり、 本研究大会で
主義的志向が突出していたのではないでしょう
は第 35 周年記念年次研究大会と同セミナーを
かとおっしゃられていました。
融合させるという新たな試みをさせて頂きました。
第 2 セッションでは、 今までの本学会の研究
同セミナーに正式参加した学生は40名強で、 こ
大会ではあまり論じられてこなかった日本にお
の2つのセッションのあと、 その日の午後は3名
けるカナダ人個人の活躍、 そしてカナダにお
の講演者のご指導を受け、 このテーマに基づく
ける日本人の活躍をテーマとする2つの報告を
研究発表の準備を6組に分かれて進め、 翌日は
して頂きました。 まずは上記の Bates 院長の生
それぞれのグループが口頭発表を行いました。
い立ちから、 カナダでの教育、 そして来日後
全グループが懸命に研究報告を行い、 ご講演
の日本での活躍に関して関西学院大学の学史
者およびカナダ大使館からご参加してくださった
編纂室 ・ 博物館の池田裕子総合主管が発表
C.Husband 氏から貴重なご講評を頂き、 無事2
してくださいました。 これに関しては興味深い
日間のプログラムを修了しました。
スライドも沢山準備して頂いたこともあって英語
(関西学院大学)
が不得意な多くの参加学生たちもプレゼンの内
*
容が面白かったと好評でした。
セッションⅢ「自由論題I」
(第1日午後)
次に、 関西学院の OB で昨年まで長らくバン
田中 俊弘
クーバー支部長をされ、 さらには日系カナダ人
初日午後の第3セッションは、 高野麻衣子会員
協会の初代会長として日系人のリドレス運動を
(国士舘大学他) と岡田健太郎会員 (神奈川
推進したゴードン門田氏が、 この運動の起源、
県立国際言語文化アカデミア)による報告であっ
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日本カナダ学会
た。 自由論題ではあったが、 両会員とも東京大
重ねられるという点で、 西部や進歩党への配慮
学の大学院では政治学を学んだ気鋭の研究者
でもあった。 それは妥協を是とせずに党方針を
であり、 テーマ的にもセッションに一定の統一感
貫こうとして、 特別委員会設置にも反対した野
が得られたように思う。 共に関東地区 ・ 若手研
党保守党 (アーサー ・ ミーエン党首) とは大い
究会で世話人を引き受けてくれており、 すでに
に異なる姿勢であり、 高野会員は、 そのような
関連テーマでの報告を、 それぞれが地区研究
キングの妥協姿勢こそが、 今日までに至るカナ
会等で重ねている。 その意味では、 日頃参加
ダ的な利害調整の形を方向づけたと論じた。 時
してくださっている地区会員には、 おそらく馴染
代の特殊性に着目する歴史学 (政治史) と普
みのテーマだったはずである。
遍的モデルの構築を目指す政治学の間で格闘
直前セッションまでは主催校 ・ 関西学院大
しながら育んできた高野会員の手法と問題意識
学と日本カナダ学会の共催で、 ここからが通
が明確な報告であった。
常の学会セッションとなったが、 政治学に関
岡田会員の報告、「カナダにおける市民の
心を持つ学部生が、会場にそのまま多く残り、
政治参加の拡大と変容:選挙制度改革市民
その点で例年とは異なる雰囲気の中でセッ
会議を中心に」は、岡田会員がかつてバンクー
ションが進んだ。 多くの聴衆を得た楽しさの
バー領事館で専門調査員の任に就いていた頃
反面、 会員と学部生の双方を前にして専門
から取り組んできた 「討議デモクラシー」 に関
的な研究報告をするのは、 発表者2人には
する内容であった。 BC 州では、 政治家には扱
やや負担だったかもしれない。
いにくい選挙制度改革というテーマについて、
「1920 年代の地域主義とマッケンジー・
2003 年に市民議会を立ち上げ、 そこでの議論
キング自由党政権」と題した高野会員の報告
を経た提案を州民投票にかける 「実験」 を行っ
は、 昨年東京大学に提出された博士論文の一
た。 それを公約にした州自由党が、 2001 年州
部を土台としている。 カナダは、 その地域的な
選挙で圧勝 (79 議席中 77 議席) したのが、
多様性が特徴の国であり、 連邦政府は、 いつ
設置の直接的な契機となったのである。 こうして
の時代も各地域からの異なる要求の間でバラン
BC 州では、 議会 ・ 立法府による代議制デモク
スを取るのに苦慮せざるを得ない。 そのような国
ラシーを補助する形で、 市民の参加と討議に基
家で、 カリスマに欠けると言われながら長期政
づくデモクラシーを導入し、 直接民主主義的な
権を実現した W・L・M・キングの政治手腕から、
議論の場を創出したのである。
カナダにおける国家統合のモデルを見いだそう
メンバーを無作為に抽出して以降、 彼らの学
という意図が、 研究の背景にある。
習会、 公聴会、 討論という段階を経て形成され
今回の報告では、 特に西部の地域利害と密
た市民議会の提案は、 その半年後に州民投票
接に関わる鉄道輸送料金の問題について、 キ
にかけられて、結果としては否決されてしまった。
ング政権がどのように対応したかが検討の対象
その意味では成功事例とは呼び難いが、 それ
となった。 それは、 カナダ連邦史上初の少数政
でもなお、 この事例がカナダ政治の質的変化に
権として、 キングが苦しい政権運営を迫られて
つながるとするのが、 岡田会員の評価である。
いた時期の取り組みである。 キングは西部に配
討議デモクラシーは、 昨今注目されている
慮しつつ、 鉄道料金は特定地域の問題ではな
テーマの1つであり、 おそらく、 代議制デモク
くナショナルな問題だとして、 議会内の超党派
ラシーに対する諦念を背景に、 有効な補強制
議員からなる特別委員会の設置を提案した。 た
度を模索する実験が、 今後も続いていくのであ
だし、 この特別委員会は、 進歩党 (トマス ・ ク
ろう。 その意味でも、 重要な主題を扱った研究
レラー党首) が直接代表を送り、 慎重な審議を
である。 あえて門外漢の私的な感想を述べれ
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日本カナダ学会
ば、 無作為抽出されたメンバーに金と時間を
優を起用して上演された。 作中のフランス語の
かけて、 まずはしっかりと学習させるプロセスな
割合は 20%であり、 これはカナダ全土におい
ど含め、 それが果たして本当に政治改革の有
て家庭でフランス語が話される割合に相当する
効な装置となるかどうかは疑問である。 私には、
という。 そして、 この演出を通じて英語圏とフラ
(少々違うが) 裁判員制度の政治版のようにみ
ンス語圏の相互の直接的なコミュニケーションを
えるが、 それは、 たとえば日本の政治風土に
より活発にする必要性を示唆しているとした。 同
は適合するのだろうか。 この 「実験」 について、
様に、 『テンペスト』 ではケベック社会と先住民
BC 州の状況の特殊性と普遍性の両面に着目
との関係を暗に描き、 また 『ハムレット』 から着
する必要もありそうだ。
想を得たコラージュである 『エルシノア』 ではケ
セッション開始が遅れ、 しかし終了時間は伸
ベック社会の閉鎖性やカナダとの関係をめぐる
ばせない状況と判断して、 報告後の質疑を短く
ケベコワの迷いを描写していると指摘した。 本
切り上げた。 私のディスカッサントとしてのコメン
報告は、 ルパージュによるシェイクスピア作品の
トも、 列挙するだけで両会員の回答は求めず、
演出を分析することによってケベックの現状やケ
また、 フロアからの質問も時間を限らせていた
ベコワのメンタリティを浮き彫りにしようとする試み
だいた。 興味深い質問がフロアから出ていただ
であり、 たいへん興味深いものであった。 フロア
けに、 十分議論を尽くせなかった点で不完全
の関心も高く、 活発な質疑応答がみられた。 ケ
燃焼の思いが残ったかもしれず、 その点、 進
ベック (ないしフランス語) の存在はカナダをカ
行役として、 両会員やオーディエンスの会員諸
ナダたらしめている要素であり、 斬新な視点から
氏に謝罪したい。 ともあれ、 それぞれが長年の
の考察は専門分野を超えてカナダ研究に取り組
研究を土台にした地に足が着いた報告で、 充
む者に刺激を与えたであろう。
実したセッションとなった。 個人的にも大変興味
続く報告は、 鈴木崇夫会員 (名古屋外国語
を持っているテーマであり、 両会員の今後の研
大学) による「アルバータ州の公立小学校に
究に大いに注目していきたい。
おける言語的マイノリティ児童のバイリン
(麗澤大学)
*
ガル教育:二言語習得と教科学習の統合的教
セッションⅣ「自由論題Ⅱ」
(第2日午前)
育支援の考察」であり、 アルバータ州における
大石 太郎
継承語の教育を論じたものである。 継承語とは、
自由論題Ⅱでは、 文化や言語をテーマとする3
現地語 (ホスト社会の言語) を日常的に用いる
つの報告を得た。 最初の報告は、 神崎舞会員
移民の子どもたちにとって、 もはや母語とは言
(大阪芸術大学) による「ケベックの葛藤と
いがたい、 親の言語のことである。 一般に継承
調停の可能性:ロベール・ルパージュ演出
語教育は放課後や週末の課外活動として行わ
のシェイクスピア作品を中心に」であり、 ケ
れることが多いが、 本報告で研究対象となった
ベックを代表する劇作家ロベール ・ ルパージュ
のは公立学校の正課として行われている英語と
が演出した 『ロミオとジュリエット』 『テンペスト』
中国語のバイリンガル教育である。 具体的には、
『エルシノア』 を取り上げ、 そこでケベックがど
バイリンガル教育を実施する学校の校長や中国
のように表象されてきたのかを読み解こうとする
語担当教員および英語担当教員、 さらには地
ものである。 1989 年初演の 『ロミオとジュリエッ
域のエスニック ・ コミュニティなどへの聞き取り調
ト』 はゴードン ・ マッコールとの共同演出であり、
査に基づいて、 バイリンガル教育の意義、 エス
モンタギュー家側はマッコールの演出の下で英
ニック ・ コミュニティの支援、 教員と保護者のか
語圏カナダの俳優を起用し、一方のキャピュレッ
かわり、 教員が困難を感じている点などを検討
ト家側はルパージュの演出の下でケベコワの俳
し、 家庭における継承語 (中国語) 使用があ
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り、 十分なサポートもあるにもかかわらず、 継承
在はカナダが今後アジア太平洋地域との関係を
語を中心に子どもたちの言語能力が伸び悩ん
強化するうえで重要であると指摘された。 本報告
でいることを指摘した。 フロアからは、 海外滞在
はカナダ全土のデータを分析したものであり、 お
中に自らの子どもを現地校に通わせた経験をふ
もにアジア系人口を中心に、 マクロな動きを捉え
まえた質問やコメントがいくつか出され、 滞在期
たものといえよう。 欲を言えば、 地域別の分析
間の長短にかかわらず異なる言語圏で子どもが
や多言語化の負の側面に関する考察なども提示
直面する課題としても、 高い関心をひいたよう
されていれば報告により厚みが増したように思わ
に感じられた。 カナダにおける二 (多) 言語教
れるが、 一方で地味ではあっても既存のデータ
育に関する報告はオンタリオ州を事例としたもの
を丹念に分析して新たな知見を得ようとすること
が多く、 本報告で検討されたアルバータ州の事
自体は重要な作業であろう。 本報告はその重要
例と他州の状況との違いや、 同じアルバータ州
性を日本のカナダ研究に改めて示唆した。
でも移民時期の異なる集団との違いなども興味
なお、 本セッションの最中に機器に不具合
深い論点となろう。 また、 現代の移民は過去の
が生じ、 報告者をはじめ、 参加者のみなさん
移民と異なり、 通信環境の劇的な変化によって
にたいへんな迷惑をかけてしまった。 会場校の
本国とのつながりを維持しやすいなかで暮らし
担当者として、 末筆ながらこの場をお借りして
ている。 それが継承語教育に及ぼす影響はな
お詫びしたい。 (関西学院大学)
いのだろうか。 本報告のテーマも分野を超えて
*
多くの研究者から関心を寄せられるものであり、
セッションⅤ「グローバリゼーションの中の
学際学会での報告にふさわしいものであった。
カナダ」
(第2日午後)
最 後 の 報 告 は、 Albert R.Zhou 会 員
中本 悟
(Hamamatsu University) による“A look at
(1) 榎本 悟 ( 関西学院大学 )「グローバル化
の中のカナダ企業」
the current state of bilingualism /
multilingualism in Canada”であり、 おもに
現代の企業は、 国境を越えて事業活動を分散
センサスのデータに基づいてカナダにおける二
( フラグメンテーション ) するとともに、 それを統
言語ないし多言語使用の現状を検討するもので
合するグローバル統合企業となっている。 たと
ある。 本報告ではとくに、 移民による母語 (エ
えば、 日本でデザインされ、 デザインデータが
スニック言語) と公用語 (英語ないしフランス語)
ドイツで処理され、 必要な部品がタイから調達さ
の二言語 ・ 多言語使用に関心が向けられた。
れ、 中国で組み立てられ、 それがアメリカに輸
センサスのデータは年次によって調査されてい
出されるという具合である。 こうして、 中間投入
る項目が異なり、 かつ最近ではアイデンティティ
の財とサービスの調達 ・ 供給のグローバル供給
を重視する風潮から民族的出自や言語に関す
連鎖 (GSC:Global Supply Chain) を構築し、 グ
る調査項目は複数回答が認められるようになっ
ローバル商品連鎖 (Global Commodity Chain)
ているため、 時系列的な変化を検討するのは容
とその価値的側面であるグローバル価値連鎖
易ではない。 そうしたなかで、 いくつかの項目
(GVC : Global Value Chain) を実現している。
を組み合わせることによって、 英語とフランス語
このような企業の GVC を捕捉する直接的な
以外の言語が以前よりも存在感を増しているこ
データはない。 なぜならば、 個別企業の個別
と、 さらにはアジア系移民が最近大幅に増加し
商品のグローバルな分業に関する公式データは
ていることがまず確認された。 そして、 アジア系
ないからである。 しかし、 近年、 国際産業連関
移民の多くは公用語とエスニック言語の二 (多)
表の整備によって、 産業レベルで GVC を捉え
言語話者であると考えられることから、 彼らの存
ようとする研究が進んでいる。
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日本カナダ学会
榎本悟会員の報告は、 このような GVC に
しかし、 このような移民受け入れ拡大策に対して
関する基礎概念を整理したうえで、 グローバル
は、近年の移民はカナダ人よりも経済的パフォー
化のなかでのカナダ企業の地位、 カナダ企業
マンスが劣位だとして、 警鐘を鳴らす論者もい
のカナダ経済への真の貢献度を捉えようとする
る。 移民増加を賃金上昇に繋げるような方策が
ものである。 報告では、 企業の GVC のなかで
必要だとする。 日本の場合には、 留学生が卒
高付加価値を創出するセクションである企業の
業後も就職活動を行い、 高度人材として残留す
本部機能に着目して、 カナダ企業の本部につ
るような方策が必要だという。
いて調査を報告した。 その結果、 ①経済規模
(3) Armand de Mestral (Emeritus Professor of
に対して大企業が少ない、 ②製造業も少ない、
Law, McGill University)“Canadian Prov-
③ GVC をリードするようなグローバル企業が少
inces and the Negotiation of Interna-
ない、 などの特徴を明らかにした。 そのうえで、
tional Trade Agreements”
GVC の発展にカナダ企業がいかに関与するの
デ メ ス ト ラ ル 報 告 は、 カ ナ ダ の 通 商 交
か、 というのが今後の課題だとした。
渉のおける連邦政府と州との分権の発展をト
(2) 志甫 啓 (関西学院大学)「国際的な人の
レースしたものであった。 カナダ憲法によれ
移動論から見たカナダの留学生政策」
ば、 州には独立した条約交渉権限はないが、
志甫啓会員の報告は、 まず欧米における外国
条約の施行のための国内法の制定にあたっ
人留学生受入れに関する研究の多くが、 その
ては両者で権限の分割がある。 というのは、
経済効果に注目するようになった点を指摘する。
条約の内容によっては、 州の管轄権が及ぶさ
それは、 留学生政策が 「援助としての教育」 か
まざまな問題が生じるからである。ということは、
ら教育サービスの輸出を重視する 「貿易として
連邦政府は条約を締結する権限をもつが、 そ
の教育」へシフトしたことの反映である。たとえば、
の国内施行法制定においては無力になるとい
アメリカでは 2013 年の留学生は 81 万人であり、
う袋小路が生じる場合がある。
その経済効果は 31 万人の雇用を生んだ。
今日の通商交渉は、 GATT のような物品に対
これに対し日本では、 外国人留学生の受入
する関税にとどまらず、 個々の市民に影響を及
れは長く対外援助の一環と捉えてきた。 その
ぼす議題を含むようになっている。 そこで連邦
結果、 留学生受け入れの研究には、 教育サー
政府は、 1970 年代から社会問題、 社会安全、
ビスの消費者としての留学生という視点に乏し
教育といった州の管轄化にある問題について
かった。 しかし、 2008 年には 「留学生 30 万
は、 州にも交渉権を与えてきた。 州も外国との
人計画」 が提起され、 高等教育機関が戦略
交渉で利益代表としての存在を高めてきた。
的に優秀な留学生を獲得し、 これを日本経済
通商外交における連邦政府と州との分権と共
のグローバル化に繋げようとしている。
同関係は、 ここ 20 年ほどの間に強まり、 最近
カナダの長期留学生(半年以上の滞在)は、
のカナダEU包括的経済貿易協定 (CETA) に
2012 年では 26 万人、 8.6 万人の雇用を創出
おいては、 EU 側がカナダの州と直接交渉でき
した。 多くの移民を受け入れてきたカナダは、
るよう要請している、 とのことである。
1967 年にポイント制度を導入し、 移民職種に
最後に、 報告と討論について。 まず榎本報
よってポイントを変えて、 カナダ経済社会への
告は、 GVC に関する最新の研究動向を踏ま
寄与を管理してきた。 さらに 2008 年には、「カ
えた斬新なカナダ企業研究の方法を提示し
ナダ経験移民」 プログラムを導入し、 一定以
た。 次いで市浦報告は、 教育産業の経済効
上の技能と語学能力を有する移民を積極的
果およびサービス輸出の側面を高唱したもの
に受け入れている。
であり、 この視点からカナダの留学政策から
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
8
日本カナダ学会
日本が学ぶ必要を提起した。 榎本報告が言
があるが、 カナダ学会の年次大会では自分の
うように、 グローバル化時代では国内でいか
専門外の分野の研究成果を知り、 また学ぶこと
にして純付加価値を高めるかがチャレンジン
ができる学習の場でもある。 さらに学会での報
グな課題である。 この点で、 人材育成に留
告を通して、 あるいは懇親会などの場を通して、
学生や移民を組み込んだカナダの政策は日
自分にとり専門外の会員に個人的に質問し、 意
本にとっても有意である。 また、 グローバル
見交換もできるので、 重要な交流の場でもある。
化と地方分権の双方の面から国家主権の弱
しかし、 最近では関連学会が新しく組織を立
体化が進んでいるが、 それだけに地方の意
ち上げて、 独自の活動を展開されている。 これ
見を通商外交に反映させることが不可欠である。
は大いに歓迎されるべき学問の 「専門化」 であ
この点で、 カナダの通商交渉における地方分
り、 「細分化」 である。 しかし、 この傾向が進む
権は先進的であり、 地方の意見が無視される日
と、 JACS が持つ 「学際性」 が弱くなるのでは、
本の TPP 交渉の現状を見るにつけ、 カナダか
ということが正直な印象でもある。
ら学ぶことは多い。 三報告とも、 グローバル化
これまでの関連学会の動きを紹介しよう。 まず
時代の新た政策課題に対応した斬新な研究方
カナダ学会の設立から間もなく日本カナダ文学会
法を提起したものとして高く評価したいし、 プロ
が 1982 年に設立された。 ついで教育研究
グラム委員のセンスも最良である。
に関心を持つ方々がカナダ教育研究会を
(立命館大学)
1999 年に設立された。 その後、 研究会か
*
ら 「 カナダ教育学会」 へと衣替えを 2011 年に実
シンポジウム「35 年を迎えた日本のカナダ
現された。 最近ではケベック関係に関心を持た
研究」
(第2日午後)
れる方々が集まり、 ケベック学会が 2008 年
加藤 普章
に結成された。 関連学会の方々はカナダ学会
これまで私は日本における地域研究を行う
の会員であったり、 カナダ学会とはまったく無
様々な組織や学会を結びつけるヨコの連絡組
関係であったりするようである。 今後、 学際性
織 (地域研究学会連絡協議会) の役員を担
をセールス ・ ポイントとするカナダ学会の活動
当したため、 カナダ研究以外の方々とお会い
だけでは自分の学問的な意欲を満たせないと
する機会に恵まれた。 アメリカ研究であれば、
いう会員がおられれば、 別組織などが出てくる
ある程度は想像もつくが、 中東研究やインド
可能性もあると思われる。
研究など分野外の専門家とのコンタクトは刺
さてシンポジウムでは関連学会の方々にお願
激に満ちたものであった。 他方、 学会運営に
いして、 それぞれの活動実績や研究動向など
おいては、 活動資金をどのように確保し、 研
についてご報告をお願いした。 日本カナダ文学
究活動を進めるかはどの学会でも共通する悩
会については副会長である村上裕美先生 (関
みであり、 カナダ学会の今後にとり有意義な
西外国語大学短大部)、 カナダ教育学会につ
知見を得られることも度々であった。
いては小川洋先生 (JACS 会員、 聖学院大
今回、 こうしたカナダ学会以外の活動などを
学)、 日本ケベック学会については矢頭典枝先
見て、 今後のカナダ研究をどのように進めるか
生 (JACS 会員、 神田外語大学) から興味深
という問題意識からシンポジウムを組んで討論
いご報告をいただいた。 各学会の組織につい
をお願いした。 そもそも地域研究の学会の存在
ては次のようなデータがある。
価値はその学際性にあり、 われわれはカナダと
いう素材を通して、 学問ごとにどのように分析す
日本カナダ文学会 :
るかを学ぶことができる。 「耳学問」 という言葉
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
会長は佐藤アヤ子氏= JACS 会員、 会員数
9
日本カナダ学会
74 名、 『カナダ文学研究』 を年 1 回刊行
会費 7,000 円 (正会員) および 3,000 円 (学
生会員)、 年次大会の開催は 6 月
記念事業として 『ケンブリッジ版カナダ文学
案を行った。 たとえば (他の学会ではすでに
実施されているようである)、 特定のテーマを
設定し、 定期的に議論を進める分科会を設立
し、 それが年次大会においても研究報告をす
史』 を刊行予定。
ることができれば、 専門性を大いに尊重できる
学会ホームページ (www.japancanlit.wix.com)
体制ができるかと思われる。 もちろん、 カナダ
カナダ教育学会 :
研究の関連学会とも連携を強化していくことも
会長は小川洋氏= JACS 会員、 会員数 42
必要であろう。 名、 『カナダ教育研究』 を年 1 回刊行
会費 5,000 円(通常会員)および 3,000 円(学
* * *
映画 『バンクーバーの朝日』 に携わって
生会員)、 研究会を定期的に開催
学会ホームページ (www.gakkai.ac/jaces)
(大東文化大学)
河原 典史
2013 年 8 月、 カナダのバンクーバーに毎夏
日本ケベック学会 :
恒例の調査に訪れた。 調査でお世話になっ
会長は小倉和子氏 (立教大学)、 会員数は
ている方々に、 現在、 日本で原秀則 (原作 :
100 名、 『ケベック研究』 を年 1 回刊行
テッド ・ Y ・ フルモト) 『バンクーバー朝日軍』
会費 8,000 円 (正会員) および 4,000 円 (学
というコミック (漫画) が連載されていることが
生会員)、 年次大会の開催は 10 月
話題になった。 そして、 日本から映画製作に
記念事業として 『遠くて近いケベック : 日ケ
あたって取材が来ていたと知らされた。 帰国
40 年の対話とその未来』 (お茶の水書房、
すると、 偶然にも知人の研究者からカナダ日
2013 年 10 月刊行)
本人移民に関する映画への協力を求められ
学会ホームページ (www.ajeqsite.org)
た。 それは、 まさに朝日軍に関する映画化で
あり、 私は喜んでこの映画、 つまり、 『バンクー
討論者として藤田直晴会員から日本学術会
バーの朝日』 の製作への協力を快諾した。
議の動向、 またここに加盟している 「学術研
ご存知の会員も多いと思うが、 後藤紀夫
究団体」 の要件などを説明された。 加盟要件
『伝説の野球ティーム-バンクーバー朝日物
としてはそれぞれの学会なり研究団体には 100
語-』 によれば、 バンクーバー朝日軍創設
名以上の会員がいることが求められており、 研
の経緯は、 以下のとおりである。 カナダ西岸
究組織を細分化させることはエネルギーを分
のブリティッシュ ・ コロンビア州では、 20 世紀
散させてしまう可能性があることを指摘された。
初頭のバンクーバーやスティーブストンなどの
また若手研究者が大学や短大において専任と
日本人居住区には、 いくつかの野球チーム
して採用されるためには業績を多く出すことが
が生まれた。 それらは合併や吸収などによっ
求められている。 採用されるポストは毎年、 厳
て選手が移動し、 やがて 1911 年 (明治 44)
しい傾向にあり、 そうした若手研究者の育成を
年に朝日軍が創設されたのである。 新生野
進めるうえでどのようにカナダ研究を専門とす
球チームの中心人物は北川卯吉 ・ やゑ夫婦
る学会間の協力なり受け皿作りが必要ではな
の子供たちである北川 ・ ミッキー ・ 初次郎、
いか、 という意見が出された。
堀居 (旧姓北川) ・ ヨー ・ 由太郎とカナダ生
シンポジウムの司会者として、 今後はカナ
まれの北川 ・ エディー ・ 英三郎の三人兄弟、
ダ学会も学際的な研究を進めることは当然で
西崎與惣松、 そして初代監督の宮崎松二郎
あるが、 同時に会員の専門性や関心をより尊
だった。 彼らは滋賀県犬上郡南青柳村開出
重できるような工夫が望まれるのではという提
今 (現在の彦根市) の出身であった。 そし
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
10
日本カナダ学会
て山口県大島郡油田村油宇 (現在の周防
系) 移民史を説明するとともに、 劇中での配
大島町) 出身の古本彌太郎 ・ アキ夫婦の
役やエピソードとの関係についての執筆が求
子 ・ 古本忠義をエースとする、 平均年齢 20
められた。 例えば、レジーの両親(佐藤浩市・
歳程度の若いチームが生まれたのである。
石田えり) に関わる写真婚や、 ロイの白人に
映画は、 1938 (昭和 13) 年の 1 年間の
むけるまなざしの根底にある義勇兵の史実な
物語に集約されている。 具体的な私の役割
どがあげられる。 また、 笹谷トヨ子 (宮﨑あ
は、 脚本や絵コンテのチェック、 そして当時
おい) が教壇に立つ日本語学校は、 晩香坡
のセット製作に活用する資料の提供であっ
共立国民学校 (現在のバンクーバー日本語
た。 とりわけ、 二世が多く写る古写真や日本
学 校 ) が モ デ ル に な っ て い る。 こ の 設 立 に
語新聞 『大陸日報』 の提供は重宝されたよ
は、 前年における日露戦争の講和条約・ポー
うである。 例えば、 主人公のレジー笠原 (妻
ツマス会議後、 帰国の途にバンクーバーに
夫木聡) は二世なので、 チームメイトのロイ
立ち寄った小村寿太郎外務大臣による$150
永西 (亀梨和也) との会話はもう少し英語で
の寄付が基金となったことを紹介した。 舞台
の会話があったろうこと、 何よりもレジーの父・
になっ たパウエ ル 通 には、 映画 に登場 す る
清 二 ( 佐 藤 浩 市 ) は 出 身 地 の 言 葉、 つ ま
豆 腐 店 は 2 店 舗、 タ ク シ ー 業 者 は 4 店 舗、
り広島弁を話していただろうことなどを指摘し
銭湯も 2 店舗あったことも記した。
た。 また、 製材所に勤めるレジーとサケ漁に
ところで、 はじめてプロデューサーと打ち合
従事するロイとが、 野球以外でも頻繁に行動
わせをしたとき、 私は 2011 年に東京で開催さ
をともにすることにやや違和感を覚えた。 この
れた 「バンクーバー朝日を語る会」 での 1 コ
ような設定になったのは、 映画のストーリーの
マについて話しをした。 それは、 「私たちは日
関係だけではなかったようだ。 その理由は、
本のことを忘れたことがないけど、 日本のみん
バンクーバーでの事前調査の際、 パウエル
なは私たちのことを知っているの……」 という、
街に北接する海岸部が、 キャナリー (サケ缶
元選手へインタビューをした参加者から披露さ
詰工場) の連立するスティーブストンと誤認し
れたエピソードである。 当初は出演を固辞さ
たように思われる。 また、 映画は 1938 年の
れていた朝日軍の元選手・ケイ上西氏に対し、
春先を中心に描かれているため、 6 月~ 10
プロデューサーはこの件とともに交渉し、 「この
月が最盛期となるサケ缶詰業の様子が映され
映画で日本に人たちに朝日軍の活躍を紹介し
ていない。 ハワイ、 アメリカやブラジルなどで
てほしい」 と説得したというのである。 当学会
の農業移民と異なり、 漁業移民が活躍する
も協力したイベントが、 感動的なラストシーン
カナダ移民史の特徴が描かれていないのは、
を生み出したのである。
少し残念である。 とはいえ、 東京で開催され
2014 年 12 月 20 日に封切られた 『バンクー
た完成試写会では、 C G や効果音が施され
バーの朝日』 に関わっては、 映像化にあたっ
作品を鑑賞し、驚くばかりであった。 そのとき、
ての資料提供と、 いわゆる時代考証に関する
何人かの出演者を間近にみることができ、 こ
助言との 2 点において微力ながら協力できた
のときばかりは少し 「役得」 かな…と思った。 ようである。 本映画は、 単なる野球映画にとど
公開が近づくと、 宣伝の特別番組が制作
まらない。 移住を選択した一世と現地で生ま
された。 そのときのナレーションのチェックな
れた二世、 それぞれの葛藤、 そして朝日軍を
ども行った。 劇場パンフレットの解説の執筆
誇りに努力する日系コミュニティなど、 見るべ
も請け負った。 限られた日数と分量で、 一
きところは多い。 エミー笠原 (高畑充希) の
般の映画鑑賞者にわかりやすく日本人 (日
言動にみる二世のアイデンティティーのゆらぎ
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
11
日本カナダ学会
は、 観るものの心を揺さぶるであろう。 ぜひ
最優秀論文賞の受賞論文は、 未発表のもの
とも当学会員をはじめ、 カナダや移民史に興
に限り、 規定に基づいてカナダ研究年報に掲
味ある人たちにも広く観てもらいたい。 載することができる。 (8) 発表および授賞式:
(立命館大学)
* * *
(
((事務局より)))
2015 年 9 月、 立教大学における第 40 回年
次研究大会にて。 (9) 問い合わせ:電子メー
ルまたは FAX にて事務局まで。
◆第 28 回日本カナダ学会研究奨励賞論文募
◆会費納入について(お願い)
集
現在会費の納入を受け付けております。 前
日本におけるカナダ研究の促進と育成を目
年度までの会費を未納の方は、 速やかに納
的として、 優れた研究論文を募集します‥‥
入下さい。 過去 3 年分 (当該年度を含まず)
(1) 応 募 要 件 : カ ナ ダ 研 究 に 関 す る 論 文
の会費が未納の場合、 学会からの発送物停
で、 応募締切日より起算して過去一年以内
止等をもって会員資格を失うことになりますの
に発表されたか、 未発表のもの。 テーマや
でご注意下さい。 一般会員:7,000 円 ・ 学生
領域は問わない。 用語は日本語 ・ 英語 ・ 仏
会員:3,000 円 ( 学生会員は、 当該年度の
語のいずれか。 (2) 応募資格 : 日本国民又
学生証のコピーを提出のこと ) 。 郵便振替口
は日本在住者であって、 応募締切日におい
座:00150-2-151600。 加入者名 : 日本カナ
て次のいずれかに該当する者、 ( a ) 大学院に
ダ学会。 来年度以降、 自動振替に移行希望
在学している者、 ( b ) 大学院を修了又は退学
の方は事務局までご連絡ください。 必要書類
してから 5 年未満の者、 ( c ) 満 40 歳未満の
をお送りします (自動振替による口座引落は
者。
(3) 原稿枚数 : 邦文は横書きで 400
7 月です)。 ご協力願います。 なお、 4 月以
字× 80 枚相当を上限とする ( 含 ・ 図表 / 脚
降に会員区分の変更のある場合は直ちに事
注 )。 A4 判ワープロ仕上げが望ましい。 欧
務局までお知らせ下さい。
文 は 15,000 語 以 内 ( 含 ・ 図 表 / 脚 注 ) =
* * *
A4 判ダブルスペース。 いずれの場合も 1 論
★編集後記 ・ ・ ・ 今号は年次大会特集号となって
文につき、 コピー 2 部 ( 正副合計 3 部 ) を送
おります。 本年度の年次大会は、 その研究報告
付すること。 著者名、 論文名、 所属、 略歴、
がそれぞれ素晴らしかったのは言うまでもなく、 巻
連絡先 (郵便及び電子メール) をカヴァー
頭にて水戸会員も触れられていたように、 一部セッ
レターに明記すること。 また、 応募書類は返
ションに関西学院の学部生も参加していたのが非
却しない。 (4) 論文の推薦 : 応募要件に該
常に印象的でした。 無論、 授業の一環ということ
当する既発表論文について、 執筆者が応募
で参加している学生も多くはいたと思いますが、 カ
した場合のほか、 学会役員が推薦した場合、
ナダ研究に関する優れた報告を聴くことで、 カナ
これを他薦の審査対象論文として取り扱う。
ダへの関心を今まで以上に高めてくれたのであれ
(5) 締切 : 2015 年 5 月 31 日 ( 必着 )。 (6)
ば非常に嬉しく思います。 また今号は、 本来は昨
送付先 : 〒 658-0032 兵庫県神戸市東灘区
年 12 月末の刊行を予定しておりましたが、 刊行が
向洋町中 9-1-6 神戸国際大学経済学部下
大幅に遅れてしまい、 原稿を寄稿していただきま
村雄紀研究室内 日本カナダ学会事務局宛
した会員の皆様をはじめ、 多くの方にご迷惑をお
(「JACS 研究奨励賞応募論文 」 と朱筆 )。 (7)
かけしてしまいました。 この場を借りてお詫び申し
賞・賞金・特典 : 最優秀論文賞 1 名に正賞
上げます。 加えて、 次号で本 『ニューズレター』
および副賞 (5 万円)。 優秀論文賞 (佳作)
は 100 号を迎えます。 ますますの紙面充実を図っ
2 ~ 3 名に正賞および副賞 (2 万円)。 なお
ていきたいと思います。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (f)
ニューズレター第 99 号 (2015 年 1 月 )
12
日本カナダ学会