ユーザーレポート「京都大学iCeMS」 『多孔性配位高分子(PCP)の合成に、 マイクロウェーブ合成装置Initiator+ Sixtyを活用』 京都大学の物質 - 細胞統合システム拠点(iCeMS)北川進グループは、ナノサイズの空間をもつ多孔性 材料を開発し、その空間内に取り込まれた分子やイオンが主役となって引き起こすサイエンスを研究して います。その PCP 合成の際にInitiator+ Sixty、Isolera、V-10と様々なバイオタージ製品をご使 用いただいています。今回は、樋口雅一特定助教と研究員の梶原隆史さんにお話をうかがいました。 ― まず、先生のご研究について教えてください。 樋口先生:私たちは北川進教授のもと、最も小さい空間のサイエンスとテ クノロジーの研究を行っています。私たちが研究をするうえで大切にしている 言葉に『無用之用』と言うものがあります。荘子の言葉で、一見無用とさ れているものが実はとても大切な役割を担っているというものです。 ここで、 『無』を『空間』と読みかえると、何でもない立方体も、その枠内は 何もない空隙ではなく、機能の宝庫であると考えられます。人に置き換える と、一見無用と思われる人物であっても、いつか何かの役に立つのではな いかと考えることもできます。私もこの言葉に何度も励まされましたよ。 パルテノン神殿のような柱と屋根だけの建物に、私たちの作成している物質 は非常によく似ています。神殿を10億分の1の、ナノメートルサイズにしたも のが多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer : PCP)と呼んで いるものだと思ってください。神殿の中にあった空間がこのナノサイズの世界 では空気中のガス分子、芳香剤の分子といったものと近いサイズになります。 この空間のサイズや、空間を構成する骨組みの性質をコントロールすること により、この空間へ大量のガスを取り込んだり、特定のガスのみを取り込む、といったことが可能になるのです。例えばトイレに置 くと、臭いの分子だけを取り込むということが出来、身の回りに非常に役に立つ材料になっていくわけです。 おもちゃの棒状や球状のマグネットを組み合わせてジャングルジムのようなもの作った経験はありませんか? そのおもちゃのマグネット をイメージしてみてください。おもちゃで言う球状や棒状になるようなものを、溶液の中に混ぜると、たちどころに規則的で均一なジ ャングルジムのような物質ができあがっていくのです。これが私たちの研究している物質の合成方法です。こういった方法をボトム アップ法といいます。 こうしてできた物質は、熱力学的にも安定で室温でも壊れませんし、原理的には100%の収率で得られます。さらに室温から200℃ 程度で合成できる、つまり低エネルギー合成が可能だという点も大事な特徴のひとつです。こうしてできた物質は多孔性配位高分子 (PCP)や金属 - 有機骨格体(MOF)と呼ばれ、実際には金属イオンと有機分子の配位結合でできた金属錯体がつらなってできて います。さまざまな金属イオンや配位子組合わせることによって、私たちはさらにその空間を機能化させることができます。 PCPの特徴は、まずデザインできるということが言えますね。これまでも多 孔性材料としてゼオライト、活性炭が活用されていましたが、1gあたりの 表面積を比較すると、ゼオライトは500㎡、活性炭は2500㎡。しかし 私たちのPCPはデザイン性を生かして7000㎡にも及ぶものがあります。 これはサッカー競技場の2倍弱程度の面積で、とてつもない内部表面積 が存在することを意味します。 このことを利用すると、常温環境下で、空気から窒素や二酸化炭素、 酸素を効率的に分離し、貯蔵、変換まで行うことが出来、さらに世界に 平等に存在する空気を資源とする技術、大量に存在するメタンを用いる サイエンスは石油に代わる革命的な技術になり得ます。そうした研究も今 後の研究の大きな流れの一つですね。 京都大学 物質 - 細胞統合システム拠点(iCeMS) 特定助教 樋口雅一先生 ユーザーレポート「京都大学iCeMS」 新規材料を探索するなら、マイクロウェーブは必須! ― 実用化につながる素晴らしい研究ですね。そうした中、なぜマイクロウェーブ 合成装置を導入されたのでしょうか? 樋口先生:当時、ちょうどマイクロウェーブを利用したPCPの合成が報告されは じめていました。我々のグループでも新規材料の合成手法の一つとして、導入す ることにしました。 ― 導入される際、他社製品は検討されましたか? 樋口先生:もちろん色々な装置を見ましたが、バイオタージのものが使い勝手が よかったですね。ユーザーインターフェイスがしっかりしていました。 オートサンプラーで朝には合成が完了 Initiator+ Sixty ― Initiator+ Sixtyを使っていただいて、具体的にどのような部分に良さを実感されていま すか? 樋口先生:とにかく熱の伝わり方が全く違いますね。瞬間合成に近いです。通常のオイル バスだと2、3日かかるところを5分で合成できたりもします。 梶原さん:そして非常に使いやすいですね。たとえば金属イオンに有機分子を配位させると き、横に配位する物と縦に配位する物とで2種類の有機配位子を使うのですが、横に配位 する物と縦に配位する物とで、配位の速度が違ってきます。そのため反応温度や、溶媒の 種類によってできるものが変わってきます。この温度でしかできない、この濃度でしか出来な い物があるのです。 マイクロウェーブ合成装置 Initiator+ Sixty そのため、色々な条件でたくさんのサンプルを反応させ、それぞれどういった機能があるかを みつけていかなければいけません。私たちのInitiator+にはオートサンプラーがついています から、そういった多検体を1 本ずつ、少しずつ温度条件を変えて反応させることが出来ます。 ― オートサンプラーならではの利点ですね。 梶原さん:そうですね。さらにオートサンプラーがあれば、バイアルを並べておいて夜にセットして帰宅できます。朝、来てみたら合 成がすべて終わっています。1から60まですべて設定を変えることができますから、様々な化合物が実験室にいない間に合成出 来ているのはとても助かります。朝から物質の評価が始められますからね。 また、このPCP を大量に合成したい、という場合にもオートサンプラーは便利です。同じ条件で何本も設定しておけばよいので。 量にも種類にも対応できる点がいいですね。 ― 熱をかけずにPCPつくることもあるのでしょうか? 梶原さん:物にもよりますが、室温で金属と有機配位子を混ぜるだけで勝手に出 来てしまうような物質もあります。 ― 熱が必要な化合物と必要ではない化合物とは割合はどのくらいなのでしょうか? 梶原さん:はっきりとはいい切れませんが、全体として熱をかける方が多いと思い ます。その証拠にInitiator+ Sixtyの稼働率は高いですからね。 京都大学 物質 - 細胞統合システム拠点(iCeMS) 研究員 梶原隆史さん ユーザーレポート「京都大学iCeMS」 スピーディーに新しいモノづくりを! ― フラッシュ自動精製装置 Isoleraもご使用いただいていますが、研究のどの 部分で活用されているのでしょうか? PCP 合成自体は収率が原理的に100% と、精製の出番はなさそうですが…… 樋口先生:PCPをつくる際、先ほど説明したように金属イオンと有機分子を混 ぜて合成します。この有機分子の部分が非常に重要なのです。新しい物質、 新しい機能をもった物質を合成していく上では、市販品の有機分子だけを使っ ていては、開発に限界があります。金属イオンとデザインした有機合成分子を 組み合わせれば、無限の物質展開が可能ですからね。そこで有機分子の合成を行なう必要がでてくるわけです。 ― 有機分子の合成後の精製にIsoleraが活躍するのですね。 樋口先生:そうです。使い始めたきっかけは研究の競争の激化です。いろいろな物質が開発されている中、私たちもより多くの新しい 物質を開発したい、そのためには精製をスピーディーに確実に行いたい。そうした環境で、Isoleraは非常にパワフルに活躍しています。 ブルーの明るい色のデザインが魅力、私も明るくありたい 樋口先生:そして使い勝手がいいのはもちろんですが、デザインも非常に大切なんです。 もちろん充分な機能が備わった上での話ですが、同じ機能をもっていたとするならデザイン の良い方を選びたいと思っていますね。バイオタージ製品はいいですね。フォルムが洗練さ れています。 ― サイエンス、テクノロジーで革新的なご研究をされているからこその視点ですね。 樋口先生:デザインに着目することは大事ですよ。美しいデザインに美しい機能が備わ るのです。私たちの研究も同じではないでしょうか。ただ、美しくないデザインにも美し い機能が備っている場合があり、この点は要注意ですね。 また色やその環境で、インスピレーションが沸きますし、クリエイティビティーが上がりま すから、デザインは非常に重要です。あの色は研究室を明るくもしますね。私自身も美 しく明るくありたいと思い、メガネ、ジャケット、ストラップなどを青色にして参りました。 ハハハ、ハハハ、とりあえず明るく笑っておきますね。 ― インタビュー続けさせていただきますね。だからここの建物も研究室もとてもキレイな創りなんですね。弊社もデザインにこだわっ ていて良かったです。超高速フラッシュ自動精製ソフトウェアへのアップグレードはされていますでしょうか? 梶原さん:最近ソフトをアップグレードしてもらいました。早くなったという実感がありますね。 ― フラッシュカートリッジもお役に立てていますか? 梶原さん:SNAP Ultraを使っていますが、こちらも効率は良いですね。1 回でたくさんの量が精 製できる点が良いです。 高沸点溶媒を濃縮する時、V-10はパワフル ― V-10はどのような時にお使いいただいてますか? 梶原さん:PCP 合成には溶媒に水やDMFを使うことが多いので、その濃縮にV-10を使用してい ます。V-10は非常にパワフルですね。普通のロータリーエバポレーターではかなり濃縮が大変です。 だいぶ温度をかけないといけません。V-10だとせいぜい40℃くらい、時間も短時間で済みます。 高速濃縮装置 V-10 ユーザーレポート「京都大学iCeMS」 バイアルサイズを増やせば便利 ― 様々な装置がご研究のお役にたてて光栄です。何かご要望はございますか? 梶原さん:Initiator+ Sixtyの反応容器は4種類ありますが、5mLから10mLの間が 抜けていることですね。5か10のどちらかに合わせて実験しますが、その間もあればな おいいですね。また20mL 以上のバイアルもあるといいですね。20のものを複数並 べてオートで次々実験できるのでそれほど困らないのですが、あればいいと思います。 V-10の場合もバイアルの種類がもう何種類かあったらいいなと思います。 Isoleraでは、溶媒の残量をセンサーで見れるといいですね。今は満タンにしたら、そ こからの計算で残量がわかりますが、センサーのようなもので実際の量を感知してくれ るといいですね。 ― 貴重なご意見ありがとうございます。弊社のサポートはきちんと出来ていますか? 梶原さん:問題ありません。 V-10でエラーが出た時は、大阪からすぐに来てくださっ て、すごく助かりました。 ― 今後のご予定をお聞かせください。 樋口先生:PCPの研究では世界的に実用化に向けた研究も活発になってきています。我々の生活環境でも使える物質、つまり 水に触れても安定な物質です。最近、水を弾く機能のある超撥水性 PCPを開発し発表させて頂きましたが、予想以上の反響で、 多くの問合せを頂きました。今後はさらに過酷な環境でも安定なPCPが開発されていくのではないかと思います。 科学の歴史でいうと活性炭は今、3600歳くらいになるそうです。ゼオライトは260歳くらい。PCPはまだ18 歳。大長老と中堅と 若造です。PCPはまだまだ発展の余地のある分野なのです。20 歳の成人になる頃には、皆さんの身の周りのどこかで、お役に 立っている立派な材料になってくれることを願っています。 ― 本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。 導入製品 マイクロウェーブ合成装置 Initiator+ Sixty http://www.biotage.co.jp/initiator60_top 自動搬送ロボットが搭載されたマイクロウェーブ合成装 置です。400W のシングルモード照射で、パワフル かつ精密に温度を制御します。ロボットにより最大 60 本のサンプルを連続で反応させることができます。 導入機関データ 京都大学 物質―細胞統合システム拠点(iCeMS) http://www.icems.kyoto-u.ac.jp/j/ 京都大学は1861(文久元)年の長崎養成所、1869(明治2)年の舎密局を 発 祥とし、1889(明 治 22)年、第 三 高 等 中 学 校が 大 阪から京 都に移 転。 1897(明治 30)年、京都帝国大学が創設されました。現在は10 学部、18 研 究科が置かれ、教職員数 5400 人、学部生 13000 人、大学院生 9300 人を 抱えます。物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)では細胞の化学原理を理解 し、細胞機能に触発された機能材料(Cell-Inspired Materials)や幹細胞をは じめとする細胞の機能を操作する化学物質(Materials for Cell Control)を創 製することを目的に研究を行なっています。中でも北川進グループでは錯体化学、 生物無機化学、多孔性材料、バイオマテリアルを中心に研究をおこなっており、 地球環境、エネルギー、生命に とっ て 重 要 なH2 、O2 、CH4 、 CO2 、NO 等を自在に貯蔵、分 離、変 換、輸 送 等 の 機 能を持 つ材料 PCP 研究を行い世界的 に注目されています。
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