液晶ディスプレイをつくってみよう

液晶ディスプレイをつくってみよう
~液晶セルの作製と光透過性の電界制御~
高分子創発機能科学研究室(担当:浅川直紀)
液晶テレビや携帯電話など、液晶ディスプレイは私たちの生活の様々なシーンで利用さ
れています。この一日化学体験教室では、液晶ディスプレイに使われる「液晶分子」の分
子構造や性質を学び、実際に液晶セルを作製します。作製した液晶セルに電界を印加して、
光の透過性を調べることにより、液晶ディスプレイの動作原理について理解します。電界
に応答する魅力的な分子の不思議な挙動を観察してみましょう。また、液晶セルの作製に
用いる、透明な金属電極や偏向フィルム、さらには、高分子配向膜といった個性豊かな脇
役にも注目してみます。ワクワクする物質科学の不思議な雰囲気が伝わるような体験教室
にできればと思います。
液晶分子とは?
物質の三態という言葉を聞いたことがありますか?高校の化学の教科書にも載っている
ので知っている人も多いかもしれません。固体•液体•気体の三つの状態のことですね。水
分子であれば、氷•水•水蒸気の三つの異なる状態の総称ですね。このように、多くの物質
では、温度や圧力を変えることによって、この三つの状態に変化させることができます。
それでは、液晶分子はこの三態のうちのどの状態のことなのでしょうか?
——————————難しい問題ですね。。。
「液晶」という言葉は何とも不思議な言葉ですね。なぜなら、
「液」というのは液体を連
想しますね。一方、「晶」は結晶とか固体を連想しますね。したがって、「液晶」という言
葉からは、
「液体であり、かつ、固体である」という相反する物質の概念が同居した不思議
な状態を連想されますね。
——————————ここで、
「固体」状態と「液体」状態とは何が異なるのかを考えてみましょう。
科学の世界の用語は、その用語を使う人によって意味が変わってきてしまっては困るの
で、ほとんどの用語の意味はしっかりと定義されています。
「固体」は固くてほとんど変形
できないのに対して、
「液体」は容易に形を変えることができますね。しかし、それだけで
は固体と液体の違いを正確に言い当てることにはなりません。たとえば、蜂蜜が入ったお
皿を想像してみてください。蜂蜜は直感的には液体のようなものに見えますが、瞬間的に
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そのお皿を反転させてまた元に戻せば、蜂蜜は下へ垂れることなくお皿に乗ったままです
ね。このとき、蜂蜜は液体らしくは振る舞っていませんね。このように、
「固い」とか「柔
らかい」とか「流れる」といった目でみてわかる性質だけでは、
「固体」と「液体」の性質
の違いを明確に示すことは難しいのです。
「固体」と「液体」の違いを知りたい人はこの一
日体験教室を選択してくださいね。ヒントは、分子の向き(配向)と重心(位置)です。
「配向」と「位置」がきっちりと整列しているかどうかが重要になります。
——————————その違いは体験教室当日に理解することになります。
液晶セルのしくみ
この体験教室で作製する「液晶セル」について述べます。その模式図を図1に示しまし
た。図1からわかるように、液晶セルは、透明電極の薄い膜が付いたガラス基板二枚をス
ペーサを介して、透明電極面が内側になるように張り合わせた構造をもっています(スペ
ーサは図示されていません)。透明電極の表面には、高分子配向膜が形成します。この高分
子配向膜は、液晶分子が整列(分子の向きを揃える)するのを手助けします。基板を配向
光
偏光板
透明電極ガラ ス基板
高分子配向膜
液晶分子
高分子配向膜
切
入
透明電極ガラ ス基板
偏光板
図 1: 液晶セルの模式図
方向が垂直になるように重ね合わせてあるので、その空隙に存在している細長い形状の液
晶分子は、下部の高分子配向膜の配向方向にほぼ並行横たわっています。膜面に垂直方向
に積まれた液晶分子は少しずつその配向を変えながら、すなわち「ねじれ」ながら横たわ
っていて、上部の高分子配向膜の配向と並行な方向を向きます(図1左)。この構造をねじ
れネマチック液晶と呼ばれています。この場合、液晶セルに垂直な方向から光が入射する
と、液晶分子のねじれ構造によって光の電界面が回転し、液晶セルの下部の偏光板から光
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が透過できるになります。つまり、この状態では、液晶セルは透明に見えます。
——————————次に、二つの透明電極間に電界を印加すると、どうなるでしょうか?
液晶分子は電界に応答して電界方向に配向を変えます(図1右)。図1右は模式図であり、
分子はとても小さいので、実際に肉眼でこのような状態を見ることは残念ながらできませ
ん。この状態では、入射した光は、液晶分子による電界面を回転を受けずにそのまま液晶
セル下部の偏向板へ到達します。しかし、この光は、上部の偏向板を通過してきているた
め、液晶セル下部の偏光板の偏向方向とはほぼ垂直の電界面をもつ光なので、ほとんど透
過できません。つまり、電界を印加することによって、光の透過性を変えることができる
ことになります。これが液晶ディスプレイの動作原理です。電界を切ると図1左のねじれ
構造に戻ります。理解できましたでしょうか?
この体験教室で作製する「液晶セル」を作ってみましょう。以下に作製方法を述べます。
1. 透明電極ガラス基板上への高分子配向膜の作製
まず、透明電極ガラス基板の表面には高分子薄膜を設置します。これは、高分子溶液を
スピンコート法によって液晶分子が整列(分子の向きを揃える)するのを手助けします。
高分子薄膜を設置した透明電極ガラス基板を、ナイロン布などを用いて一方向に数回擦り
ます。この操作により、高分子配向膜が形成されます。この高分子配向膜は、液晶分子が
整列(分子の向きを揃える)するのを手助けします。上部と下部の二枚の高分子配向膜付
き透明電極ガラス基板を作製します。
2. 液晶セルの作製
二つの基板を配向方向が垂直になるように(この配置はねじれネマチック(TN)液晶と呼
ばれます)、スペーサを介して重ね合わせ、接着剤で固定します(このとき、基板を少しず
らして重ねます)。接着剤が固まった後、液晶分子を電極間の空隙に流し込みます。この際
に、電極間隔は小さいので液晶分子を入れるのが難しそうですが、心配しないで下さい。
液晶分子の温度を室温よりも十分に高い温度にしておけば、液晶分子はさらさらな液状物
質になります。この液状分子を毛細管現象によりセルの空隙へ入れます。セルの二つの最
外面に偏向板(フィルム状)を一枚ずつ設置します。以上で、液晶セルの完成です。
なお、偏向フィルムを液晶セルに取り付ける前に、二枚の偏向フィルムを重ねてみて下
さい。二枚の偏向フィルムのうち、一枚を膜面内で回転させてみてください。回転に伴っ
て、光の透過性が変化するのがわかると思います。
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3.電界印加による液晶セルの観察
液晶セルの二つの電極に電界を印加してみましょう。肉眼や光学顕微鏡を使って観察し
てみましょう。二枚の偏向板の偏向方向を変え、垂直と並行の場合の二通りを試してみま
しょう。
MEMO
実験の分類:液晶科学、高分子科学、デバイス工学
実験の種類:高分子薄膜、デバイス作製、光透過性の電界制御
募集人員:9 人程度
所要時間:約 4 時間
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