シンポジウム1 Stem固定の理論と成績 座長:高木理彰(山形大

2015年1月16日-17日
2015 ICJR
2015年1月16日、良く晴れた寒い金曜日に大阪駅前にあるグランフロント大阪で開催された、
2015 ICJRへ出かけて参りました。 ICJRとはInternational Congress for Joint Reconstructionの
略で、この会への参加は初めてでした。この機関はglobal、personal、portableをキーワードに設
立され、国際的な人工関節教育機関を狙っているようです。Mark Sacaris氏によると、現在はまだ
ほとんどが北米の会員で、アジア人はわずかとのこと。日本では福岡でのTKAに続き2度目の開催
で、まだまだ全体で整合性のとれた教育機関というにはほど遠い印象ではありましたが、一つのフ
ロアで一日半、THAの諸問題に絞って勉強できたという点では非常に有意義でした。
シンポジウム1 Stem固定の理論と成績
座長:高木理彰(山形大)
アナトミカルステム(金沢医大・兼氏歩):頚体角160 以下・前捻角50 以下・骨質の良いものに
限ってアナトミカルステムを使用すれば、18年生存率は100%。ステムサイズが大きいほど近位の
stress shieldingが多かった。Dorr type Cに適応できるかは不明。ウエッジタイプに比べて頸部骨
切り部からのwearの進入が少ない?
Tapered-wedge stem(東京医科歯科大・神野哲也):シェアは拡大中
で、現在の主流か。
モデュラーステム(旭川医大・伊藤浩):ステム先端だけチップをつけ
たOmniflexでしばしば広範なosteolysisを来した経験から、もともとは
再置換用として開発されたS-ROMを使用中。たしかに転子下骨切り術後
のTHAなどにはほぼ唯一の選択肢だが。
セメントステム(Wrightington病院・ Peter R. Kay):チャンレーはC
ステムとなって更に成績が改善、セメントの加圧が重要と考えており、
マントルの厚さにはあまりこだわらない様子。ステム先端を挿入したボ
ーンブロックに当てるため、ステム遠位にもセメントは圧入されず。高度
DDH症例も見事に原臼設置していた。
シンポジウム2 摺動面の選択
座長:中島康晴(九州大)
HXLPE (highly crosslinked polyethylene)(京都大・後藤公志):1999年より空気中でのγ線照
射をなくしたクロスリンクポリの使用を開始、各種クロスリンク間での優劣はまだ不明。従来型ポ
リでは小骨頭+厚めのポリが摩耗に有利だったが、クロスリンクでも基本的には同じで、薄いと破
損リスクが高まる。最近は第2世代クロスリンクである「Aquala」を使い始めた。
PMPC処理HXLPE(東大・茂呂徹):京セラと共同で第2世代クロスリンクポリ; poly(2methacryloxylocyethyl phosphorylcholine) : PMPCを人工股関節摺動面にグラフトする技術を開
発し、「Aquala」として2011年から販売を開始した。5年成績は今のところ良好。PMPCは生体細
胞膜類似構造を有するため生体内で異物として認識されにくく、すでにステントやカテーテル用ガ
イドワイヤーでの使用実績あり。摺動面にナノレベルの膜を形成して親水
性とすることで流体潤滑が発生し、摩擦が80ー90%減少する。デモンス
トレーションのおもちゃは驚異の回転維持だった!
Ceramic-on-ceramic(大阪大・西井孝):1990年代中頃より第3世代セ
ラミックに改良、ライナーの厚みがいるため、大径骨頭は使えず。カップ
にradiolucent line が多かった印象あり。カップが緩んで動くとセラミッ
クライナーが破損していく。
Metal-on-metal(Good Samaritan病院・Long WTL):今でも運動の要
求レベルが高い若年者や、高度肥満例には大径骨頭のmetal-on-metal が
明らかに良いと。
学会報告 ー2015 ICJRー
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2015年1月16日-17日
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イブニングレクチャー Cutting edge technology in THA
座長:須藤啓広(三重大)
Good Samartian病院・Long WTL:CAS:computer assisted surgery でカップの前方開角や脚長などをmm単位で修正できるので、脚
長補正や脱臼予防に有用。
大阪大・菅野伸彦:コンピューターを用いた極めて詳細な動作解析か
ら、THAの可動域は屈曲120 、伸展40 、外旋40 、内旋40 の範囲で
impingeしなければ大丈夫だろうと。カップの外転角41 中心、カッ
プの前捻角17 中心あたりをめざすとsafetyか。カップのCE角は5 あ
れば十分。手術台で後傾気味の骨盤は立位でもあまり変わらないの
で、前方開角を減らしたりせず、普通にカップを入れた方が良い。
私の質問:前捻30 以上にステムが入ってしまった場合、カップの前
方開角を10 ほどに減らすという考えはどう思いますか?→後方脱臼の危険性があるのでお勧めで
きませんと。
モーニングレクチャー Hip Resurfacing: Still a viable option? Derek
McMinn (The McMinn Centre, Birmingham. UK) 座長:菅野伸彦(大阪大)
途中から参加。現在はセメントTHAではなく、セメントレスのhip resurfacing を行っている。
シンポジウム3 ARMD : Adverse reactions to metal debris
座長:大園健二(関西労災病院)
札幌医大・名越智:文献のreview。2010年頃にpseudo tumor
(ARMD, ALVALなどとも)に対する注意喚起とリコールあり。ARMDの発生率はhip resurfaceの1.8%に比べ、stemmed THA(普通のステ
ムを入れるタイプのTHA)では7.8%と4倍多かった!
金沢医大・加畑多文:metal-on-metal THAの41%で何らかのMRI所
見があるが、Anderson分類・Hart分類共に病的か否かの判断が難し
く改善が必要と。
The McMinn Centre・Derek McMinn:Smith & nephewのステムと
カップを使ったものでARMDが多く、10年でrevisionに至ったケース
が多かった。これを解析したところ、head-neck taper部のridgeや
grooveで損傷・摩耗し金属粉を発生していた。head-neck taper 部は
ポリッシュされていなければならない。摺動面以外からもmetalosisiが起こってARMDを来すの
だ!
How to mess up a Hip Resurfacing : Wrong Implant, wrong patient, wrong
surgery...
Derek McMinn The McMinn Centre, Birmingham. UK
英国股関節学会の重鎮達がこぞって開発に加わったDePuyのASRが大失敗に終わったのは、イン
プラントデザインに問題があったことに加え、誤った手技で行われたことによる。また大臣に行っ
て失敗したのはいかにもまずかった(笑)。Hip resurfacingでカップ設置角を誤ると、edge
wearを生じてARMDを来す。同じhip resurfaceでもBirmingham Hip Resurfacing: BHRはきわめ
て成績良好である。
学会報告 ー2015 ICJRー
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2015年1月16日-17日
2015 ICJR
シンポジウム4 カップ設置と固定
座長: 伊藤浩(旭川医大)
平川和男・湘南鎌倉人工関節センター:高位設置許容派。同じデブリ
スでもセラミックやチタンに比べ、コバルトクロムやポリエチレンの
ものがより重篤な軟部組織反応を来す。
中島康晴・九州大:高度の過前捻に対応するには、①S-ROM、②モデ
ュラー型、③セメントステムの3つの選択肢しかなく、モノブロックの
ステムで行くとすれば、combined anteversion technique とせざるを得ない。 カップを先に設置
するとステムを先に設置するより5.8倍術後脱臼したため、stem firstを推奨。大腿骨は近位から遠
位に行くに従って前捻が強まるため、長いセメントレスステムほど減捻しにくい。
高木理彰・山形大:ランドマークと形態について。
秋山治彦・岐阜大:ケルブールプレートに自家骨移植を併用して原臼設置、王道。
シンポジウム5 術後care
座長:岩城啓好(中之島いわき病院)
石井政次・済生会山形:有症状のVTEは死亡率3割だが、なにをやってもVTEはなくならなかっ
た。今後は退院後より長期間の投薬が求められてくるかも知れない。現在ガイドライン改定中。
大橋弘嗣・済生会中津:THAのtrue blood lossは1500とも2300とも言われている。トラネキサム
酸の股関節投与は静脈内投与と同等の輸血回避率で、VTEも増加させず。会場では6割程度の施設
で使用中とのこと。また半数の施設で貯血をしなくなっていると!
平川和男・湘南鎌倉人工関節センター:患者自身だけでなく、家族・ナース・事務員・PT・医療
コーディネーターも巻き込んで患者教育を行わないと早期退院は出来ない。術後3日で退院のパス
は、70歳以下・片側・家族のサポート・術前教育で理解しているケースのみ。術後疼痛対策として
は、アナペイン150mg+生食で100mlとし前後関節包や皮下注射と、アセトアミノフェン1000mg
iv.を6時間毎に行っている。
神野哲也・東京医科歯科大:動作解析の結果からも、術後の動作制限は不要ではと。
ランチョンレクチャー Total hip arthroplasty in UK. What s going on and future perspective
Peter R. Kay
座長: 久保俊一(京都府立医大)
最近10年で骨頭径が大径化し、22mmや26mmの骨頭は姿を消しつつある。現在はメタル-on-ポ
リのセメントレスTHAが主流。Registration systemによって各外科医の使用機種・症例数・再置
換率が送付されてくるようになり、将来的にはこれが公表されるかも知れない。ASRの失敗を早期
から予見できなかった反省をしている。患者から見たアウトカムが低いと、政府から医療機関への
支払い率が下がるシステムとなるらしい。
Cotroversies and Hot Topic in THA: USA
William J. Maloney Stanford大
2012年の調査では60%がmetal-on-XLPEで、35%がセラミック-on-XLPE、metal-on-metalは
1%と、米国からmetal-on-metalはほぼ消えた。どうしても使用する場合は特別なICを要する由。
インナーヘッド径は2001年では75%が32mm以下だったが、2012年には耐脱臼性の点から36mm
が主流となっている。Metal-on-metalではpseudo tumor (ARMD)によって転子部の骨壊死や骨折
を来しうることが報告されているが、ネックのtaper部での腐食(mecanically assisted neck corrosion)も起こることが判ってきた。Large head metal-on-metal THAだけでなく、モデュラーネ
ックシステムもこの問題を潜在的に内包している可能性があり、この事を反映して両者は米国で消
えつつある。またセラミックでもコバルトクロムほどではないがneck corrosionを来す。
学会報告 ー2015 ICJRー
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2015年1月16日-17日
ビデオセッション
2015 ICJR
座長:神野哲也(東京医科歯科大)
伊藤浩・旭川医大:径60mm以上(平均64mm)のジャンボカップを使っ
た臼蓋再置換。前方を犠牲にしても後壁を出来るだけ残し、臼蓋上方の荷
重部母床骨とカップ間に間隙を作らないサイズを選択して4-5本のスクリュ
ーで固定する。同種骨が使えない環境では一つの選択肢か。
飯田寛和・関西医大:Kerboull-Tanaka プレートを用いた原臼位での臼蓋再置換、フックが前方
だとスクリュー固定でフックが外れるため、フックを後ろに当てるのがコツ。潤沢な同種骨使用が
可能な環境であれば、やはりこれが臼蓋再置換の王道。
中島康晴・九州大:Trabecular Metal augment という多孔質金属ブロックで骨欠損を補填する再
置換。先にTM augmentをhost-boneにスクリュー固定し、TMカップとの間隙にはセメントを充
填、最後にTMカップをスクリュー固定する。金属間のセメントに剪断力がかからないか気にはな
るが、ジャンボカップを美しいと思えない私のような人間にとっては一つの選択肢。
ディベートセッション
座長: 中島康晴(九州大)
後方進入(大谷卓也・慈恵医大)vs 前側方進入(松原正明・日産厚生会玉川病院股関節センタ
ー):後方進入でも股関節屈曲位で内旋を制動できるよう、外閉鎖筋の修復を行うことで脱臼率に
遜色なしと。前外側進入は中殿筋を切離せずに前方から入り、前方関節包のみ切除、Stem firstで
手術している。術後禁止肢位が無いことが有利。会場のジャッジはほぼ五分五分で、後方も健闘。
若年者へのXLPE(William J. Maloney・Stanford大)vs Hip resurfacing (Derek McMinn・The
McMinn Centre):骨頭径36mmのセラミックヘッド+XLPEで若年者に対応するという意見と、
Birmingham Hip Resurfacing は活動性の高い若年者でも良好な成績とする意見。会場のジャッジ
は7対3でXLPE有利だったが、これはhip resurfacingに馴染みのない日本の土地柄とも言える。
モデュラーネック(平川和男・湘南鎌倉)vs モノブロックステム:5000例のTHA初回手術のうち
85%がDDHで平均前捻角は37 であり、日本の症例にはモデュラーネックが絶対有利。脚長とオフ
セットを別々に補正出来る点も良い。一方ではモデュラーネックの接合部自体がmetal debris の原
因となり得ることは否定できない。会場のジャッジは6対4でモノブロックステム有利だったが、
2000例以上の症例数を誇る平川先生の意見が無視できないのも事実。
シンポジウム6 インプラント感染
座長:高木理彰(山形大)
稲葉裕・横浜市大:術前評価のFluoride-PETで広範集積例、術中関節液のReal-time PCRが感染診
断に有効。
佐々木幹・山形大:日本では「PROSTALAC」のような人工関節型スペーサーが使えないため、市
販のモールドにK-wireの芯を入れて補強した抗生剤含有セメントを用いてスペーサーを自作してい
る。セメント2袋にパニマイシン1g+バンコマイシン2.5gを入れ、6-8週待機の上revisionする。
おおえ賢一・関西医大:独自のスコアリングシステムを用いて、再置換を一期的にするか二期的に
するか決めている。
加畑多文・金沢医大:ヨード担持表面処理をハーフピンやプレート・髄内釘・脊椎インストゥルメ
ンテーションに用いており、これを感染例のTHAインプラントにも行ったら感染が沈静化した。
レクチャー 座長:松田秀一(京都大)
最後に会長の関西医大・飯田寛和先生がTHAの未来について講演。ハイテクは摺動面開発など
よりも、術後動作解析などに活かされていくのではないか。昨今のトレンドである大径骨頭+薄い
ライナーは、摩擦トルク増大によるtrunniosis増大につながらないか? とりたてて欠点のないセ
メントTHAがすたれていく事に危惧を感じる。今学会最高のプレゼンテーション、感動しました。
学会報告 ー2015 ICJRー
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