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研究室紹介 第 1 回:横浜国立大学板垣研究室
板垣研究室 D1 成田和人
M1 九十九英恵
【横浜国立大学】
横浜国立大学は、横浜市保土ヶ谷区常盤台 79-5(JR 横浜駅からバスで約 20 分)に位置します。
板垣研究室の所属
横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科 バイオ教育プログラム(バイオ EP)
横浜国立大学大学院 工学府 機能発現工学専攻 物質とエネルギーの創生工学コース
特色 化学・生命系学科は、化学 EP、化学応用 EP、バイオ EP の 3 つの EP から成っています。その中でもバイ
オ EP は、一年次から専門教育を行っており、研究室配属が三年次の 10 月からなので、卒業研究の期間
が一年半と長くなっています。また、学生定員一学年 28 名に対して教員 10 名なので、非常にきめ細かな
対応ができることが特徴として挙げられます。
【板垣研究室メンバー構成】
*板垣宏 教授
*博士課程 5 名(うち 3 名は社会人ドクター)
*修士課程 7 名(うち 1 名はベトナムからの留学生)
*学部生 3 名
吉田武美先生を囲んで
【研究テーマ】
当研究室では、主に感作性試験代替法の研究開発を行っています。特に、h-CLAT や IL-8 マーカーを用いた
試験に着目し、これら試験法の予測精度をさらに高める方法論の確立や試験適用除外となる物質の適用方法
の検討を行っています。 一例として、難水溶性物質をターゲットにした研究テーマが挙げられます。細胞を用い
る in vitro 試験では、被験物質を水溶液へ溶解する必要があります。そのため、h-CLAT を始めとした多くの in
vitro 試験において、水溶性物質の予測精度は非常に高いものの、難水溶性物質では予測精度が低下すること
が知られています。そこで、難水溶性物質の細胞暴露形態について知見を得て、それにより、これら試験法の予
測精度を低下させない新たな暴露方法の確立を目指しています。
また、社会人ドクターの方々が、惹起相を取り入れた LLNA:DA 法の研究(株式会社ダイセル 山下邦彦氏)や
光毒性試験代替法の研究(ポーラ化成工業株式会社 豊田明美氏)等を行っています。さらに、国立医薬品食
品衛生研究所や国立がん研究センターとも連携して研究を行っています。*興味のある方はぜひ今年の大会で
のポスター発表をご覧頂ければと思います
実験風景
~ 学生から板垣先生へ質問! ~
「企業と大学の違い」「研究室立ち上げでの苦労話」から「理想の学生像」まで、研究室に所属していると改めて
聞く機会のあまりない話題について、私たち成田と九十九が板垣先生へインタビュー形式で伺いました。板垣先
生のざっくばらんなトークが炸裂です。(笑)
成田
今回、研究室紹介第一回目という大変貴重な機会を頂きました。そこで、この板垣研究室を板垣先生
自らご紹介頂こうと思い、このようなインタビューを行うこととなりました。
九十九 と、自分たちで企画してみたはいいものの、インタビューなんてしたことがないので緊張しますね。
どうやって始めるのでしょうか。
成田
インタビューされた経験のある板垣先生、いつもどうされていますか。
板垣
うーん。広報の人が来て、それでは始めますっていう感じかな。
九十九 なるほど。それでは始めさせて頂きます。
板垣
そんな感じだよ。(笑)
成田
(笑)
〔大学に移ったといえども代替法研究は実践的研究〕
成田
企業での代替法研究と大学に来てからの代替法研究では具体的にどのような点が違いますか。
板垣
資生堂に勤めていた頃は、大学は基礎的なこと、企業は実践的なことを研究するというイメージを持っ
ていました。しかし大学であっても、やはり動物実験代替法の研究をする以上、基本は実践的にならざ
るを得ません。そこを踏まえて、大学の代替法研究では、どこまで基礎的に掘り下げられるかだと思っ
ています。
成田
なるほど。原則的には同じですが、大学ならではの代替法研究もあると。
九十九
他にはどうですか。
板垣
あとは…まぁ、研究室の雰囲気については、成田さんや九十九さんが後でそれぞれ自由に書いてくれ
ればいいと思いますが、私からは、私が学生室に入っていっても、私を避ける学生がいないので、その
点はとてもありがたいと思っています。(笑)
成田、九十九
いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます。(笑)
〔代替法研究よもやま話@横国大〕
成田
企業から大学にいらっしゃった先生ですが、大学に来てから苦労した点がありましたら教えてください。
板垣
まず一つは、私がイメージしていた大学とは大分違うという点です。私の頃は、大学というのは、研究
室に教授、助教授、助手がいて、学生がいました。それに比べて横浜国立大学は、講師以上の先生
が一人で学生の面倒を見て、また、研究費も一人で取ってこなければなりません。
九十九
当然講義もいくつか持たれていますしね。
板垣
講義をしながらそういう仕事も一人でこなすため、とっても大変だということが分かりました。それから、
科研費申請の際に選択する研究分野に動物実験代替法がありません。
これも大学に来てから知ったことです。そのため、代替法研究者はお金
をとるのに苦労するということがわかりました。着任してから 3 年間は、
本当に実験が出来ませんでした。
成田
そうですね。(爆笑) 立ち上げの頃は研究室と机と椅子とパソコンがあ
るだけで、そこに先生しかいませんでしたから理論系学者なのかなと。
板垣
生物系の実験は、培養から測定まで、全ての機器が一通り揃わないと実験が出来ません。機器を準
備するのに時間がかかり、学生さんにも迷惑をかけたと思います。以前勤めていた資生堂さま、そして
花王さま、ダイセルさま、ポーラさまには大変ご配慮頂きまして、やっと実験ができるようになりました。
本当にご支援ありがたいと思っております。しかし、まだまだ機械が足りませんので、代替法学会の企
業の会員の皆様においては、新しく機械を更新する際に古い機械を処分する場合には、ご連絡頂け
れば幸いです。宜しくお願い致します。
成田、九十九
冷却遠心機やリアルタイム PCR 装置、マイクロプレートリーダー、それに液クロ・ガスクロ、IR 等
があるととてもいいですね。(笑)
〔自分の意見を発言する学生に育ってほしい〕
九十九
先生は色々な講義を持たれていて、研究室以外の学生と接する機
会も多いかと思いますが、先生から見て、今の学生に足りないと感じ
ている点はありますか。
板垣
私は横浜国立大学のバイオ EP しか知りませんが、とても優秀な学生
が多いと思います。ただし、残念ながら発言をしない。今の学生特有ですが、やはり待っているという
状況が多いのかなという気がします。私の研究室では、それを変えようとしてゼミで色々な工夫をして
います。
九十九
そうですね。ゼミは毎回緊張します。(笑) でも以前より、臆せず自分の考えを人に伝えられるようにな
った気がします。 また、中高校生についてはいかがでしょうか。
板垣
私が気にしているのは中高生の理科離れが進んでいるのではないかということです。その理由には、
中学や高校で実験をする時間が無い、または、先生が実験を指導する時間が無いということが挙げら
れます。そこでバイオ EP(栗原靖之教授がリーダー)では、2011 年から 3 年間、神奈川県から支援を
受けて、高校で出来るような実験を作りました。板垣研究室はこのプログラムに全面的に協力してきま
した。また、第 27 回大会期間中も理科の楽しさを知ってもらうために、公開実験を行いました。
〔これからの学会は若い先生方の活躍に期待している〕
九十九
大会のお話が少し出たので、最後に、日本動物実験代替法学会に対する先生のお考えをお聞かせ下
さい。
板垣
お恥ずかしいですが、私は日本動物実験代替法学会が設立した 1989 年から評議員をずっと続けてい
ます。それから、2007、2008 年には学会長を務めさせて頂きました。そこで思うことは、学会が大きく変
わる時ではないかということです。そういう意味で、昨年の第 27 回大会は「過去からの脱却」というテー
マを設けました。また、動物実験代替法というキーワードを社会に認めてもらうような取り組みが必要
だと思います。これまで実施されてきたチャレンジコンテストはその一環ですが、公開実験や模擬講義
という方法もあると思います。
一方で、代替法学会も 25 周年を超えたので、世代交代が進んでいます。過去からの脱却と共に、温故
知新、過去を知った上で未来を考えていって欲しいと思います。そういう意味で、これから学会を担う
若い先生方にその辺りを期待して、私の学会に対する考えとさせて頂きます。
成田、九十九
ありがとうございました。
以上のように、当研究室は立ち上げから 4 年以上経ち学生数は増えてきましたが、まだまだ様々な点で小規
模です。しかし、だからこそ、板垣先生は意識的に(?)学生室に来られ、ご自身が大好物の甘味を御馳走してく
れたり(師曰く“エサで釣る”)、雑談をしてくれたり、学生一人一人親身になって話を聞いてくれたりします。大き
なラボではないからこそできる、ウェットな昔ながらの「師弟関係」というのが板垣研の 1 つの特徴だと思います。
このような板垣先生のお人柄、研究室の雰囲気を好んで、研究室配属を希望する学生までいます。一方で、週 1
回行われるゼミでは、学生同士非常に熱く研究結果を議論し、その議論を踏まえて板垣先生が研究方針のアド
バイスをして下さいます。しかし、全体としての雰囲気はやはりアットホームで、月に数回行われる飲み会では安
酒で親交を深めています。
今回のインタビューを通じて、板垣先生の研究室に対する深い思い、横国に対する愛情、さらには代替法学
会に対する愛着を改めて感じました。それと同時に様々な方のご支援なくしてこの板垣研究室は成り立たないと
いうことも感じました。ご支援くださっている方々への感謝の気持ちと共に、毒性学に基づいた代替法研究に特
化した研究室という希少性を誇りつつ、今後も研究生活に邁進していきたいと思います。また、少しでも代替法
研究の発展に貢献できるよう日々勉学に励み頑張りたいと思いました。
- 成田和人 -
<私から見た板垣研究室の雰囲気> 明るく、個性豊かで、温かい。「人」が大切にされている研究室。
企業ご出身の先生から学ぶことは多く、先生との雑談から日々社会勉強しています。お忙しい中でも親身に
なって学生の話を聞き、またお話をして下さる先生は本当に温かくてお優しい方だと思います。研究費が縮小さ
れ、大変なこともありますが、その中でも自分たちで悩み、話し合い、工夫する、ということが出来るのは、もしか
したら幸せなことなのかもしれないなと感じています。また、板垣先生を見ていると、人とのつながりを大切にさ
れているのがよく分かります。現在私たちが大学で研究できているのは、様々な方からのご支援のおかげだと
思っております。また、研究を進めるにあたって、板垣先生にとって毒性学の大先輩である黒岩幸雄先生や吉田
武美先生(研究室メンバーの写真右中央)をはじめ、色々な方々からアドバイスを頂けるこの環境が本当にあり
がたいです。人とのつながりを大切にし、感謝することを忘れずに、今後も色々なことに励んで参りたいと思いま
す。
- 九十九英恵 -
この様な研究室紹介を執筆するのは初めてだったため、戸惑うこともありましたが、少しでも板垣研究室につい
て知って頂き、興味を持って頂けたら幸いです。板垣研究室のホームページ(http://italab.ynu.ac.jp/)もぜひご
覧ください。最後まで読んで下さったみなさま、ありがとうございました。
モチベーションアップのために行っている研究室内表彰
YNU 石碑
校内風景
正門前