わらしべマッド・サイエンティスト

○このページは片桐仁「おしえて 何故ならしりたがりだから」と「わらしべマッドサイエンティスト」を隔号で掲載します。
第75回「キノコ文明」
第65回「黄金比学」
第62回「オズの魔法使い学」
第61回「不動産芸術学」
第60回「ファッション世界構造学」
第44回「平等」
第48回「落書き革命」 第47回「真のユビキタス」 第46回「ジェスチャー」 第45回「猫のAR」
第49回「折り紙革命」
第50回「超越写真」
第52回「次世代航空技術」 第51回「IT考古学」
第53回「渋滞」
第56回「リアリティ」 第55回「共感覚女子」 第54回「共感覚者」
第41回「未来の音楽鑑賞」
第42回「超能力」
みやわき・よういち● 電気通信大学 先端領域教育研究センター 准教授。
理化学研究所脳科学総合研究センターや、NICT/ATR脳情報研究所な
どを経て、現職。本連載第29回「錯覚 歩いている人を右や左に傾けてしま
う研究」でご登場いただいた、大阪大学大学院の前田太郎教授は恩師に
当たるそうだ。
「この連載に今まで登場された人のリストを見て思ったのです
が、
とても良い人選をされてますね」
と宮脇先生。
しかも
「TV Bros.の名前は
以前から知っていたのですが、
ちゃんと読んだことはなくて、今回読ませてい
ただき、私好みの独創的な記事が多く、一気にファンになりました」
とまで言っ
ていただきました! ちなみに本文冒頭にある宮脇先生の写真で、先生が手
に持っているのは、
ご自身の脳の3DデータをMRIで取り込んで3Dプリンタで
出力したもの。脳のシワは人それぞれパターンが違うので、
これと同じものは
他に存在しない(ちなみに脳の神経細胞はこのシワの表層にしかない)
第40回「装着インタフェース」
宮脇陽一
2015/03/10 21:51
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▲風景を見ているとき。
第63回「アンチユニクロ学」
まだ携帯が普及し始めたくらい
の頃のある日、バスの中で、言葉
が使えない聾唖の人たちが、携
帯で文字を打って会話してたん
です。
それを見た恩師・前田太郎
先生が「健常者にとっての便利
は、彼らにとっても便利なんだ。
おそらく聾唖専用携帯を作って
も、彼らはきっと使ってくれないだ
ろう」
と言っていたのが印象的で
す。不足を埋める技術ではなく、
誰しもが憧れる技術こそ、結果的
に線引きを生むことなく、
いろんな
人たちの機能を拡張することに
繋がる。10年後には、
そういう技
術をたくさん世の中に提供できて
いたらなと思います。
第64回「植物音声学」
回
第66回「乳酸菌学」
第57回「文法」
第39回「貧乏ユビキタス」
▲物体を見ているとき。
第36回「ウィキペディア編集」
▲YouTube「Paralysed woman
moves robot with her mind –
by Nature Video」。
第
理系編4th
第58回「数学」
第59回「ファッション認知科学」
第38回「ウェアラブルコンピュータ」
★誰しもが憧れる
技術を!
理系編 3rd
第33回「パルテノン神殿」
第34回「イスラーム建築」
第35回「スペイン」
第37回「ウィキペディア人工知能」
ヒトの脳から直接情報を読み出す研究
第67回「感動増幅学」
「脳情報」
第68回「錯覚ダイエット学」
宮 脇 陽一 准教授
▲アメリカの女優、ハ
ル・ベリーさん。
第95回「画像処理」
はぎわら・まさひと● 私事
ですが、近々入籍いたしま
す。
てへっ、
再婚です。3月13
日の予定です。みなさんお祝
い待ってます!
第94回「オーロラ」
ハギワラ
マサヒト
第76回「レゴDNA」
電気通信大学
先端領域教育研究センター
第69回「なんでもインターフェイス学」
東京工業大学
葭 田貴 子 さんからの
推 薦コメント
第72回「ロボット義足学」
●ライター
天才とは常に狂気を孕んで
いる。変わった研究をして
いる科学者から、“自分よ
りももっと変わった研究をし
ている科学者”を紹介して
もらい、リアル・マッドサ
イエンティストを捜す旅路、
になるつもりである
97
宮 脇 さ んと は 東 京 で 博 士 研 究
員をしていた頃に、研 究 領 域が近い
人たちで 研 究 会 をしていた仲 間で
す 。その 後 お 互い転 勤 が多 く て な
かなかゆっくりお話できない時 期が
続きましたが、
いつも 遠 くから論 文
や 新 聞 報 道 等で 御 活 躍の様 子 を
拝 見 していま す 。御 本 人 の 研 究 は
まさに脳 科 学の先っぽのとんがった
もので すが、人 格 は 丸 くて 温 厚 だ
と私は思ってますよ。
第73回「ビッグデータ学」
を 他 人 と区 別している。というこ るのは、手 術が必 要 な 上に、人 間
のかもしれない。
とは、それを 判 別している脳 細 胞 で行 うのは倫 理 的にも 非 常に困
「あんなデザインが欲しいとか、
こん
があるはずだ、
というものだ。
な顔の人を探していると言っても、
難です 。これらの実 験はてんかん
「 実際に、
アメリカで非常に珍しい の治 療の一環として行われたもの
今は一旦、言葉や絵にして伝えるし
実験が行われました。被験者の脳 でした 。脳 に 直 接 電 極 を 刺 して
かありませんが、
この研究を進めて
の海 馬に針 を 刺して、
いろんな 人 自 分の意 志 通りに動かすロボット
いけばそのままイメージの伝 達が
の写 真 を 見せたときの脳 活 動 を アームなども今では実現していま
できるようになると思います 。さ
計 測したんです 。すると 、ある1 すが、あくまで医療目的です 」
らにそれは、障 害によって言 葉 な
個の神 経 細 胞は、女 優の
『ハル・ベ
どが使えなくなった人とのコミュニ
リー』を見せたときにだけ強 く 反
ケーションにも役立つでしょう」
応 することがわかりました。しか
確かに今は、言 葉や絵 など、何
も彼女のイラストや名前の文字を
かに変 換してからでないと相 手に
見せても反応することから『ハル・
「 さらに物 体を見ているときでも 、伝えられない回りくどい世の中だ。
ベリー細胞 』
と呼ばれています」
それがハサミなのか椅 子なのかで もし脳と脳をダイレクトに繋ぐこ
活発になる部分は微妙に変わって とができるようになったら、世 界
きま す 。このレベルから 先は個 人 はきっと大 き く 変わるはずだ!
差が大きく なってきますが、違 う
「 そこで私は、『fMRI』という 、 ものを 見て脳 活 動が同 じという
磁 気 を 用いて脳の活 動 を 見る方 ことはありえません」
法で研究しています。脳の電気信 そ うやってパターンのデータを
また、同 じ実 験で、女 優の「ジェ 号 を 測るのではな く 血 流 を 測る 集めていけば、その人が何 を 見た
ニファー・アニストン細 胞 」も 見つか ので 、脳 に 直 接 針 を 刺 して 脳 活 のか を 教 えて く れる 前に、わかっ
ったのだそ うだ。ということは、家 動 を 計 測 する方 法 よりも4〜6 てしまうというわけだ。
族や恋 人 、友 人など、その人 専 用 秒レスポンスが遅 れま すが 、この 「 実際に目で見たものでなくても
の細 胞 が 我々の脳にある、という 方 法なら手 術 もいらないですし、 できます 。例 えば、想 像とか夢と
ことなのか?
いろ ん な 人 から データ を 取 るこ か。頭の中で見ているものによって
「 その可 能 性はありま すね。私の ともできます 」
やはり脳活動のパターンが変わって
海 馬 の中 に 、
ハギワラ 細 胞がさっ
これで得られたデー くるので、データ収 集さえできれ
宮脇先生は、
きできたのかもしれません」
タと「 脳 情 報デコーディング」とい ば、その人が今、何を頭に思い描い
では、その1個の細 胞がなくな う 方 法を用いて、
ヒトの視覚メカニ ているのかもわかってしまいます 」
ってし ま う と、私 を 見て も「 え? ズムの研究をしているのだそうだ。 これはすごい。この技 術が発 展
誰?」になってしまうのだろうか? 「ハギワラさんが見ているものを、 していって、脳 活 動のデータから画
「まだそこまではわかっていません。 ハギワラ さ んの脳 から 読 み 出 す 像や 映 像 が 読 み 出 せるよ うにな
ひとり1個だけかもしれないし、ま 研究です
れば、
他人の想像や夢を映像作品
( 笑 )」
だ他にあるのかもしれません。ひょ
う〜ん、
なんともマッドな研究だ。 として楽 しむよう な 時 代 が 来る
っとしたら 、好 きの度 合いが高 ま 「これを 見たときには脳のこの部
ると、細 胞の数が増えるのかもし 分が活発になる、あれを見たとき
れない。例えば、
ロンドンのタクシ にはここ 、とパターンを 貯 めてお
ー運 転 手は道 をたく さん覚 え な けば、脳の活 動を見るだけでその
いといけないので、海馬が大きいと 人が 何 を 見 ているのかを 推 測 で
いう研究もあるんですよ」
きるようになるんです 」
その人のことで頭がいっぱいにな 例 えば、どんな 人でも 、物 体 を
る、
とはよく言うが、
本当に脳の中 見ているとき と、風 景 を 見ている
がその通りになっていたら面白い。 と き とでは 活 発になる 脳の部 分
「 でもひとつずつ針 を 刺して調べ が違うのだそうだ。
第70回「筋肉学」
第96回「脳科学」
今 回お会いしたのは、前 回に引
き 続 き 脳 科 学 者である電 気 通 信
大 学の宮 脇 陽一先 生だ。宮 脇 先 生
は脳の働き、
とりわけ“視覚野”が
ご専門だ。
「“ 見ているもの”
によって、脳の反
応 も 変わります 。例 えば、脳の中
には、記憶に関する神経細胞が集
まった『 海馬 』という器官があるの
ですが、そこには特 定の人 を 見た
と きにしか 反 応 し ない細 胞があ
ると言われています 」
昔から「 おばあ さん細 胞 」とい
う仮説があるのだそうだ。人はお
ばあさんを見たとき、自分の祖母
第71回「空気のメカニズム学」
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