原発ゼロが終わった日、どうして嘘がまかり通るのか

2015年8月18日
古賀茂明「改革はするが戦争はしない」フォーラム 4
■原発ゼロが終わった日
Vol.012 から
どうして嘘がまかり通るのか
東日本大震災月命日の 8 月 11 日、ついに日本の「原発ゼロ」が終わった。九州電力川
内原発一号機が再稼動し、14 日には送電を始める予定だ。
それにしても、どうしてこれほどまでにあっけなく再稼動してしまうのだろうか。
まず、国会で原発推進の自民党が多数を占めていることが一番大きい。しかし、公明党
も民主党も維新の党も、実は原発推進派ないし容認派がほとんどだ。本気で電力会社や
連合や経団連と戦うつもりの議員はほとんどいない。もちろん、多くの野党議員は、口
では原発反対などと言っているが、本気ではないのだ。
だから、国会での質問にも力が入らない。
次に大きいのが、マスコミの姿勢。特にテレビだ。はっきり原発反対の声を上げている
のは TBS だけだ。その TBS でさえ、原発に関する理解はあまり深くない。
例えば、原発が安いというのは全くの嘘だが、そこを突っ込む局はない。せいぜい、
「事
故処理や核のゴミの処理費用も入れると本当に安いのか」とか「今後も安いと言い切れ
るのか疑問」などという程度だ。
その手の「原発の嘘」を挙げてみよう。
1.事故が起きた時は電力会社が責任を負うし、政府も事故処理に責任を持って対応す
る
2.日本の規制基準は世界で最も厳しい
3.原発がないと電力需給が逼迫する
4.自然エネルギーはまだ開発途上で当てにならないし高い
5.原発は安い
6.核のゴミは政府が前面に出て必ず解決する
7.避難計画は一応できている
8.火山噴火対策は予知された時点で早めに原発を止めるから安全だ
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これらは全てこのメルマガで再三取り上げて来たテーマだから、一々詳述しないが、特
に重要だと思うのは、「原発は安い」という点だ。何故なら、原発再稼動を容認する人
の多くは、世界最高の規制基準じゃなくても、すぐに事故が起きるわけじゃないからい
いんじゃない?とか、ゴミの問題は解決できないかもしれないけど、今すぐ大変なこと
になるわけじゃないし、とか、避難計画は確かに不十分だけどすぐに事故が起きるとは
思わないから、というような理由で、原発のデメリットを認めたうえでも再稼動を容認
する人たちが多い。つまり、嘘をわかった上で原発を容認しているのだ。では、彼らが、
嘘を承知で、それでも動かしたほうが良いと思うのは、どうしてか。
その理由が、「原発は安い」から、電力料金が下がって生活が楽になるし、企業も助か
って景気にもプラスだからというものだ。このメリットのところだけでも、嘘を見破れ
ない場合に原発容認となってしまう。
逆に言えば、安全とかゴミの問題を指摘してもなかなか再稼動反対とはならないが、原
発は高いということを理解してもらえば、だったら再稼動なんかする必要はないじゃな
いかということになるはずだ。
今後は、その点を攻めていくことが重要だと思う。
■原発は、やっぱり高い
原発のコストについては、国際的に他の電源より高くなってきているという統計データ
がある。特に、自然エネルギーの風力などは、原発など既存のエネルギーをはるかに下
回るコストになっている。しかし、残念ながら、日本の自然エネルギー関連メーカーは
完全に世界に立ち遅れてしまったため、日本ではまだそこまでコストが下がっていない。
一方で原発のコストについては、事故のコストや核のゴミのコストなどを上乗せすると、
他の電源よりも高くなるという試算もあるが、どうしても事故が起きなければ安いじゃ
ないかとか、事故のコストの予測幅が大きくてなかなかコンセンサスを取りにくいとい
う難点がある。
しかし、間接的に原発の方が高いということをはっきり証明できる方法が二つある。第
一の方法は、原発に対する政府の支援を完全に止めると宣言することだ。電源立地交付
金を廃止、電力会社に認めている一般担保付社債制度(社債保有者が他の債権者に優先
して弁済を受けられる仕組み。事故が起きて多額の賠償責任を負っても、社債権者は被
害者よりも優先して弁済が受けられるので、原発を運営している会社でも容易に社債発
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行できる)の廃止、事故が起きた場合の処理を、全て原発を運営する電力会社の責任で
あることを明示し、今後も賠償責任に上限を設けることはしない、核のゴミの処理を自
社の責任で行う計画を提出しなければ運転させない、廃炉に関する研究開発などにも国
は一切資金を出さない、廃炉が決まったら直ちに特損処理を義務付ける、廃炉の資金を
全額引き当てさせる、などなど、今あらゆる面で国が予算や税制などで支援しているも
の、また、今後の支援を検討しているもの全てを直ちにやめるという宣言をするのだ。
原子力ムラによれば、原発は安いという。であれば国の支援などなくても、十分に競争
できるはずだ。これに不満を述べるのであれば、それは、原発は高いということを認め
ることになる。
しかし、実際には、電力会社のトップは、口を揃えて、「電力の自由化が進むとゴミの
処理や廃炉などのコストがかかる原発は維持できない」と叫んで、国に支援を求めてい
る。国のエネルギー基本計画で原発維持が決まったから安心して、そんな理不尽なこと
を恥ずかしげもなく言えるのだ。このことは、何を意味するかというと、「原発は、実
は高い」ということである。
原発が高いことを示す第二の方法は、原発の事故の際の損害賠償責任について青天井の
民間の保険をかけることを義務付けることだ。安全で安い原発なら、保険をかけても十
分に採算が取れるはずだ。これは法律で義務付ければすぐに実施できる。
実際には、ドイツなどで行われている試算では、保険料は、1kW あたり数百円以上とな
ることが予想され、これが義務化されれば、おそらく原発は即時停止ということになる
だろう。
ぜひとも野党は、このような法案を共同で提出して欲しいものだが、おそらく原子力ム
ラに支配されている民主、維新は、この案には乗れないのではないか。
■川内原発も嘘に嘘を重ねての再稼動
一般論として原発再稼動の嘘について書いたが、川内原発の再稼動にも全て当てはまる。
さらに、川内原発の個別事例については、嘘というだけではすまない、より深刻な問題
がある。
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1.避難計画があまりにも杜撰
避難計画を作るべき 30 キロ圏内のうち、10 キロ圏までしか病院や高齢者施設の避難先
が決まっていない。10 キロから 30 キロ圏内の施設については、事故が起きた後の放射
線量をモニタリングして毎時 20 マイクロシーベルトを超えた場合にその時点で避難先
を決めるという場当たり的な計画のまま再稼動されてしまった。
しかし、そんないい加減なことで、避難できるはずがない。いざという時に迎えに行く
という契約になっているバスの運転手も被爆が怖ければ運転を拒否できる。
つまり、この地域の病人や高齢者は見捨てるという前提の避難計画なのだ。
2.規制基準で求められている設備などが整っていない
「世界一厳しい」と安倍総理が繰り返す規制基準だが、例えば、コアキャッチャーの設
置義務付けがないなどその触れ込み自体に嘘がある。しかも、規制基準が求めているい
くつもの必要な設備の設置が済んでいないのに猶予期間を与えて、再稼動させている。
福島第一の事故の際、これがなかったら東京まで壊滅しただろうと言われる「免震重要
棟」もない。フィルター付ベントの施設もない。航空機テロなどの対策施設もない。あ
れだけ、北朝鮮や中国、さらにはテロの脅威を声高に叫んで安保法制を無理矢理成立さ
せようとしているのに、こちらは、猶予期間の 2018 年まではテロは起きないと想定し
ているわけだ。
3.基準地震動の設定方法が違法である
電力会社は想定しうる最大の地震規模を決めて、その揺れ(基準地震動)に対して安全
対策をとることが義務付けられているが、そもそも、その基準地震動の設定方法が、新
規制のガイドラインに定められたやり方を無視したものになっている。本来は、「内陸
地殻内地震」
「プレート間地震」
「海洋プレート内地震」の 3 つの種類から複数の地震に
ついて検討し「基準地震動」を科学的に設定しなければならないはずなのだが、九電は
内陸地殻内地震しか検討しなかった。プレート間地震と海洋プレート内地震については、
根拠が不明確なまま、大した揺れにならないから無視するとしている。しかし、プレー
ト間地震の代表である南海トラフの巨大地震については、内閣府の中央防災会議が川内
原発近くの最大震度は震度 5 弱と予測している。同じ政府の予測を全く無視しているの
は驚きだ。それ以外にも地震想定は極めて甘いという指摘は多くの学者からなされてい
る。
(岩波書店の月刊科学 2014 年 9 月号 0942 ページの石橋克彦神戸大名誉教授論文
など)
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ちなみに、九電は、これまでの基準地震動 540 ガルから 620 ガルに引き上げたとし、
東日本大震災の際の福島第一 2 号機で観測された 550 ガルを上回っていると胸を張っ
た。日経新聞なども「厳しい数値」などとしているが、2007 年の中越沖地震の際、柏
崎刈羽原発では、基準地震動 450 ガルに対して、1 号機で 1699 ガルと 3 倍以上の揺れ
を観測していることから見ても、とても「厳しい」とは言えない。
この審査は明らかに違法だと考えられるが、規制委はまともにその疑問に答えていない。
4.そもそも立地が認められない地域に立地している(違法)
規制委員会が定めた「原子力発電所の火山影響評価ガイド」では、カルデラの巨大噴火
のように設計対応不可能な火山爆発の影響の可能性が「十分小さいと評価されない場
合」は、原発の立地そのものが認められないことになっている。川内原発は、国内でも
最も火山の巨大噴火の影響が心配される原発であることは地震学者の間で意見が一致
していて、本来は立地不適で廃炉とすべきであった。
しかし、規制委は、確たる根拠もないまま、その影響が十分小さいという九電の評価を
そのまま鵜呑みにして、ガイドラインで求める「火山活動のモニタリング」と「火山活
動の兆候把握時の対応(使用済み核燃料の搬出等)」についての計画を出せば良いとい
うことにしてしまった。しかし、現実には、そもそも、「火山活動の兆候把握」の前提
となる、判断基準が存在しない。当初、規制委の島崎委員(昨年退任)は、専門家会合
を開いて、兆候把握とモニタリングの基準等を検討すると表明したが、後に規制委はこ
れを無視し、モニタリングさえすれば良いということにしてしまった。
さらに、兆候把握についても、火山学会は、現在の科学的知見では不可能という立場だ
が、何故か規制委は火山噴火予知ができるという前提に立っている。
このような審査は明らかに違法と言える。
5.老朽化審査が完全に終わらないまま再稼動を認めた(違法?)
川内原発 1 号機は運転開始から 31 年経過しているため、原子炉等規制法により、老朽
化原発の評価と保守管理方針について、規制委による特別の認可を受ける必要がある。
実は、九電は、2013 年 12 月にその審査を申請したが、前述のとおり、後に基準地震
動が大幅に切り上げられたため、2015 年 7 月 3 日になって、大幅な修正をして再申請
していた。もちろん、普通ならこれの審査にはかなりの時間がかかるはずだが、何と、
規制委はわずか 1 ヶ月で認可してしまった。しかも、地震動の引き上げに伴い、本当
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その揺れに各機器が対応できるのかについての評価がまだ終わっていない機器がある
ので、それは、今後九電が 1 年間かけて評価するという。つまり、1 年間は大きな地震
が来ないことを規制委が宣言しているようなものだ。完全な「安全神話」復活である。
どこまででたらめが許されるのか。
■「日本中枢の崩壊」から 4 年
原発をなくすということがどんなに難しいことなのか、改めて思い知らされた気がする。
川内原発再稼動不可避となった 7 月、焦燥感が募る中、携帯に留守電が入っているのに
気付いた。それを再生して驚いたのだが、何と、4 年前に出版した『日本中枢の崩壊』
(講談社
http://www.amazon.co.jp/dp/4062170744)が増刷されるというの
だ。
4 年前の 2011 年 3 月の福島第一原発の事故当時、私は『日本中枢の崩壊』の執筆をほ
ぼ終えたところだった。自民党政権の失政に落胆した国民が大きな期待をかけて誕生さ
せた民主党政権が、自民党と同じような利権政党に堕し、このままでは日本が終わると
いう危機感の中で、その最終稿を書き上げたと思ったところで、あの震災が起きたのだ。
私は、震災と原発事故の二重の苦しみの中、国民が一つになって困難に立ち向かってい
る時に、政治批判の本を出して良いのかということについて迷った。たまたま、東北の
製紙工場がいくつも被害にあって、出版用の紙が不足するという事態になり、出版を少
し遅らせるという話になった。
3 月下旬になると、東電に対して 3 メガバンクが 2 兆円の無担保融資をするという話が
聞こえてきた。破綻寸前の会社に、だ。
官僚としての私にはひらめきがあった。確実に大きな利権が動いている。生きるのに精
一杯の国民を全く無視するように、今、確実に、経産省、電力会社、銀行、そして自民
党・民主党を巻き込んだ、大利権闘争が始まった。そういう確信があった。こんな理不
尽なことが許されて良いのかという強い憤りが湧いてきた。そこで、私は、原発事故の
裏で動く原子力ムラの利権、電力システム改革の提案などを書き加えて、この本を出版
しようと考えた。一月で原案を大きく書き変えて、急いで出版したのがこの本だ。その
間、4 月初めには、日本初の東電の破綻処理案と電力システム改革の提言を経産省や国
家戦略局などに提出し、本にはその原文も添付した。
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あの時は、確実に、原子力ムラも弱っていたし、これと闘う勢力も急速に力をつけてい
た。
『日本中枢の崩壊』は大きな反響を呼び、増刷に増刷に重ね 38 万部という、この
手の本では驚異的な数に達した。それだけ、反原発と原発利権への批判勢力が大きな力
を得ていたということだ。
あれから 4 年。川内原発再稼動で元の木阿弥となるのか。それとも、反原発がここから
反転攻勢に出るきっかけになるのか。
『日本中枢の崩壊』の増刷数は、わずか 1000 部。しかし、4 年経って増刷されるとい
うことは、何か特別な意味があるように感じられる。主観的な話で申し訳ないが、これ
から新しい戦いが始まるという、一つのサインだと受け止めようと思う。
以上
本当に時は早く過ぎる、しかしここで紹介するように古賀茂明氏がお一人で孤
軍奮闘して税に群がる利権構造を暴こうとしている。
今、安倍政権が国の安全保障政策を変え戦争のできる国にしようと目論んでい
るが、これに国民が国会周辺に参集し、あるいは地方で其々に反対運動を展開し
続けている。古賀氏がいつも言うように私たちは有権者として僅か一票を持つだ
けだが、多数が意思を一つにすれば政権を変えられる。
洗濯の会は大阪市政を監視する活動を継続しているが、地方も国も構造は一緒
だ。真に有権者の為の政治を望むのであれば、私たちは政治への関心を持ち続け
なければいけない。
黒田
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