PDF:408KB - がん情報サービス

Ⅳ.考察
緩和ケア機能
総括
多くの項目で昨年度調査と比較してがん診療拠点病院の緩和ケア機能は向上していた。しかし、向上
していた項目の多くが平成 19 年度から平成 20 年度にかけても向上していた項目であり、逆に言うと平
成 19 年度から平成 20 年度にかけて向上が見られなかった項目は平成 20 年度から平成 21 年度にもあま
り向上が見られず、項目によって各病院の取り組みが反映しやすいものと、そうでないものが分かれた
結果となった。
全体的には病院の緩和ケアに取り組む体制や、専門的な緩和ケアの提供体制で大きな向上がみられた。
緩和ケアの情報提供体制、基本的な緩和ケアの提供体制では向上がみられた項目やその程度は限られて
いたが、これらに関しては平成 20 年度調査でもある程度高い充足率が示されていたことから、平成 20
年度から平成 21 年度にかけての向上が大きくはなかったものと推察された。
全体として充足率が向上したことから、各拠点病院が昨年度に引き続き、さらにその役割を認識し、
緩和ケア機能の充足を図った結果であると考えられる。この結果により、わが国の一般病院における緩
和ケアの均てん化がより進んだと考えられ評価されうる結果である。また、昨年度、一昨年度に行った
本調査により各拠点病院の目指すものが明確になり、各拠点病院の緩和ケアチームだけでなく管理部
門・事務部門・地域連携部門も含めて、それぞれの項目を充足する方向に働いたとも考えられ、本調査
の意義は一定のものがあったと思われる。以下、昨年度との比較を中心に考察するが、昨年度調査で既
に充足していた項目に関しては、昨年から著しい上昇はみられないはずであることに注意する必要があ
る。
I. 病院の緩和ケアに取り組む体制
病院が緩和ケアを推進していくに当たっては、病院内で緩和ケアに取り組む体制を整備していくこと
が不可欠である。まず、病院長をはじめとする管理部門・事務部門が緩和ケアの重要性を理解した上で、
病院内で緩和ケアを推進していくことを明確にし、病院全体に周知する必要がある。
昨年度調査と比較して、同一の調査項目であった 11 項目のうち 8 項目で昨年より 5 ポイント以上の改
善が見られた。一昨年から昨年にかけても 8 項目で 5 ポイント以上の向上がみられたことから、順調に
緩和ケア機能の充足化が図られていることがわかる。今年度は緩和ケアチームの専従医師の増加が著し
かった。これは新たな指定要件で看護師の専従が必要要件になった影響である。
緩和ケアに関する部門及び緩和ケアチームが組織上明確にされている病院は 98%であり、ほぼ充足し
ている。また、緩和ケア研修に関する予算も 95%と大幅に向上し充足した。専従看護師も 88%とほぼ充
足しつつある。その他の項目に関しては 50%~80%の充足率が多く、いまだ改善の余地はある。専従医
師に関しては比較的小規模な病院では実現が難しいと考えられるが、病院としての理念や目標の明文化
や地域のなかでの拠点病院の役割の明確化、年次計画の作成などはいまだ課題として残っている。
II.緩和ケアに対する情報提供体制
一般市民や患者・家族に対しての緩和ケアの認知度はいまだ不十分であり、緩和ケアや麻薬の投与は
「死ぬ前に行われる医療である」などといった誤解が存在するという現状を踏まえると、一般市民や患
者・家族に対して緩和ケアの正しい知識の提供を行うとともに、病院の緩和ケアに関する活動の積極的
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な情報提供が必要である。
昨年度調査と比較して、6 項目の全てで 5 ポイント以上の改善がみられた。これらは全て平成 19 年度
から平成 20 年度にかけても向上しており、順調な情報提供体制の充実が図られていることを示している。
6 項目中 4 項目で 85%の充足率を示しており、基本的な情報提供体制はほぼ整ってきているが、
「5.患者・
家族向けの図書館があり、緩和ケアに関する書籍または、患者が自由に見られるインターネット端末を
常備してある」は 6 ポイントの改善とやや鈍化しており(昨年は 15 ポイント)、いまだ 55%であり、さ
らなる改善が必要である。また、「6.緩和ケア部門の診療実績がホームページなどで患者・家族向けに公
開されている」は 25%にとどまり、一層の努力が必要である項目と考えられる。
III. 基本的な緩和ケアの提供体制
基本的な緩和ケアを提供していく上で必要な薬剤であるオピオイド、鎮痛補助薬、オクトレオチド、非
定型抗精神病薬などは、昨年度調査においても 95%以上の高い割合で採用されており、緩和ケアのエッ
センシャルドラッグはほぼ全ての拠点病院で利用可能となっている。また麻薬施用者免許もがん診療に
携わる全ての医師が 89%以上の拠点病院で有しており、ほぼ十分であるといえる。院内における共通の
疼痛評価尺度も 90%の拠点病院が有しており、ほぼ充足している。基本的な緩和ケアの提供体制はかな
り整ってきたといえる。
昨年度調査との比較では、
「1-1.院内のがん診療に携わる医師を対象とした緩和ケア研修会を平成 21 年
度に 1 回以上開催または開催予定であり、院内の参加医師数の合計が 10 名以上ある」が 45 ポイントの
増加と著しい改善を認めた。80%近い拠点病院で院内の医師を対象とした研修が行われている。今後も
研修を継続し、がん診療に関わる全ての医師が研修を受けることが望ましい。また、研修も基礎的なも
のから段階的に発展的なものに取り組んでいく必要がある。院内におけるコミュニケーション・スキル
に関する研修は 40%と昨年に比べて 15 ポイントの向上を認めた。これは、緩和ケアチームに日本サイ
コオンコロジー学会からの推薦を受けている精神腫瘍医がいる割合が増加したことと関連があるかもし
れない。充足率が低かったのは院内のリハビリテーションに関する研修(21%)であり、昨年度からあ
まり変化が見られていないことからも、病院としても取り組む優先順位があまり高くないと思われた。
IV. 専門的な緩和ケアの提供体制
病院内において、苦痛の緩和を必要とする患者に対して、適切に緩和ケアが提供される体制を整備し
ていくためには、がん医療に携わるすべての医療従事者が基本的な緩和ケアを提供するだけではなく、
患者の状況に応じて緩和ケアに関する専門的な知識や技術を有するものが診療を行える体制を整える必
要がある。特に、拠点病院において一般病棟を含んだがん患者に対する専門的な緩和ケアの提供につい
て中心的な役割を担うべきは、緩和ケアチームである。
昨年度との比較においては、16 項目のうち 9 項目で改善がみられており、専門的な緩和ケアの提供体
制においても充足が図られつつあるといえよう。改善がみられなかった 7 項目のうち、5 項目は昨年度の
時点で 90%以上の充足率を示している項目である。緩和ケアチームの活動に関しては、活動指針や手続
きの明確化は 95%以上の回答であり、病院内の組織として定着してきたといえる。活動内容も週 1 回以
上のカンファレンスや回診による情報共有が 97%、週 1 回の直接診療や必要時に回診ができる体制が
90%で行われており、活動内容も改善している。週 3 回以上の直接診療は昨年度 63%であったが、平成
21 年度は 77%と 14 ポイント向上した。
また、麻薬の自己管理に関しては 6 ポイントの上昇がみられたが、いまだ改善が必要な項目である。
その他では、麻酔科的専門的疼痛治療や、精神症状の緩和に携わる医師の診療体制などは昨年と変化が
なく、小規模の病院での麻酔科、精神科の体制の難しさを示していると思われる。
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V. 多職種による緩和ケアの提供体制
多職種による緩和ケアの提供体制は、緩和ケアにとって大変重要である。緩和ケアは身体症状を緩和
する医師、精神症状を緩和する医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、医療心理従事者、リ
ハビリテーション部門、栄養部門などの多職種がチームを組んで実施されるときに最大の効果を発揮す
ることができる。昨年度調査との比較では、8 項目のうち 1 項目(リハビリテーション科医師または理学
療法士、作業療法士)のみしか 5 ポイント以上の改善がみられなかった。そのうち、薬剤師は 98%の病
院でチームの一員となっており、これは十分な数字である。医療ソーシャルワーカーは 79%であり、NST
などの支援は 88%である。これらに関しては充足していると考えてよいだろう。しかし、管理栄養士、
リハビリテーション専門職、医療心理職などは 50%から 60%であり、これらの職種を緩和ケアチームの
一員として明確化した、患者の多様なニーズに対応できる多職種チームの編成が今後の課題である。
VI. 緩和ケアの地域連携及び研修の実施体制
緩和ケアに関する地域連携及び研修の実施は、拠点病院の指針でも述べられているように、今後、積
極的に取り組まなくてはならない事項である。がん診療連携拠点病院は地域や都道府県における、緩和
ケアを含むがん医療の中心的役割を担うことが期待されている。
昨年度調査との比較では、11 項目のうち 6 項目で向上がみられた。特に向上の頻度が著しかったもの
は「5.地域の患者が受診できる緩和ケア外来があり、年間 10 人以上を診療している(+20 ポイント)」
である。これは外来で緩和ケアを提供する体制を整えることが指定要件に含まれるようになったことが
理由である。それでも現状では 10 名以上の診療実績がある施設は 59%にとどまっており、さらなる充
実が求められる。
また、
「6-1.地域のがん診療に携わる医師を対象とした、緩和ケア研修会を平成 21 年度に 1 回以上開催
または開催予定であり、院外の地域からの参加医師数の合計が 10 名以上である」は+31 ポイントの非
常に高い向上を認めた。Ⅲの 1-1 院内の医師向けの講習会も向上しており、院内・院外向けに厚労省の
通知に基づく講習会が広く行われるようになってきたことを示している。しかし、これも 63%という数
字であり、拠点病院の地域に対するあり方を考えると、より充足することが求められる。
全体としてはある程度の改善がみられているものの、改善の程度はあまり高くはない。80%以上の回
答が見られたのは、緩和ケアに関する相談窓口と緩和ケアに関する講師派遣のみであり、その他の項目
は更なる改善が必要である。在宅療養に関するカンファレンスの実施は診療報酬の後押しもあり若干増
加しているが、患者にとって望ましい療養場所の支援のためにはより一層の充実が必要である。地域の
看護師に対する講習会や研修に関しては医師と同様に 70%とやや充実しつつあるが、
臨床研修は医師 7%、
看護師 20%と非常に低いうえに変化していない。臨床研修は現状では難しい側面もあり、あり方を見直
すべきかもしれない。がん診療連携拠点病院から専門家が病院外の診察に出向くこと(アウトリーチ)
は 12%であり、これも変化していない。拠点病院からの出張診療は現状の人員配置を考えると困難な面
もあり、いまだ残された課題である。
相談支援機能
総括
相談支援センターの体制整備については、昨年度に比べわずかではあるが、実態を把握した項目の各々
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で改善や充実がみられ、相談支援センターの体制整備は進んでいると考えられる。今後は、さらに実施
している内容の機能の状況把握と充実とともに、相談支援センターの質の向上が求められるといえる。
平成 18 年 2 月にがん診療連携拠点病院制度の改定が行われ、相談支援センターを設置することが明記
され、これを受けて拠点病院内に相談支援センターが設置されるようになった。平成 21 年度にはじめて
調査された「相談支援センターの発展の経緯」についてみてみると、既存部門から発展して相談支援セ
ンターに移行した施設は、約 7 割という結果であった。また、相談支援機能と連携機能の業務割合で最
も多かったのは 5:5 の比率であったが、これを発展の経緯と合わせると、既存部門から発展した相談支
援センターは、新規窓口として設置されたところと比べて、相談支援機能の割合よりも連携調整機能の
割合が多い傾向がみられた。相談支援センターの実態を把握するためには、相談支援センター内で担っ
ているさまざまな業務についても理解する必要がある。今後、相談支援機能と連携調整機能の役割分担
や連携の状況についても、具体的に把握していく必要があると考えられる。
1 週間分の相談について提出された相談記入シートは、平成 21 年度は 8403 件となっており、平成 20
年度の 7797 件から、約 600 件の増加がみられた。しかし、院外、院内別にみると、院外からの相談割合
(17.8%)は、平成 20 年度と比較して増加しておらず、院内のみならず、地域のがんの相談窓口として
の役割については、伸び悩んでいる様子がうかがえる。施設ごとの 1 週間分の相談件数の分布は、数が
少ないところもあり不安定な数値であるが、一部の施設においては、院内、院外の両方、あるいは院外
からの相談件数が増加しているところもあった。地域における更なる広報活動を実施していくとともに、
こうした相談件数が増加している施設の広報活動等の活動状況についても考察した上で、利用が伸び悩
む理由についても分析していくことが必要である。
I. 相談支援センターの設備・院内体制
設備・院内体制では、相談用の部屋数、直通回線数、
「相談支援センター」への電話でのつながりやす
さ、スタッフ用 PC などの整備は、徐々にではあるが、昨年度よりもさらに改善がみられていた。またが
んに関する参考図書、冊子、病院独自の案内や冊子の配布についても昨年度と比較して改善がみられ、
利用者が相談支援センターを活用しやすい環境は徐々に整備されてきているといえる。しかし、病院受
診者が必ず立ち寄る仕組みについては、平成 20 年度 3.4%(13 施設)から平成 21 年度 6.7%(25 施設)
へ約 2 倍にはなっているものの伸び悩みがみられた。今後は、ハード面での環境のみならず、利用しや
すさや、相談支援センターの周知が進む機能面での、体制整備が必要と考えられる。
II. 相談支援センターの人員
人員は、昨年度と比較し、兼任事務スタッフを除き、全体に専従、専任スタッフが増えている様子が
うかがえた。しかし、専従、専任スタッフが 0 人のところも、減少してきているもののそれぞれ、9.1%
(34 施設)、23.0%(86 施設)と存在しており、今後の更なる体制整備が必要であると考えられる。
III. 相談支援センターの広報活動
広報は、病院内での相談を受けられる旨の表示やホームページでの案内については、昨年度と比較し
て、実施している割合が増加しているが、
自治体の広報誌や地方紙等の取材等については、それぞれ 27.8%、
32.1%とまだ十分に実施できていない状況が伺えた。一方で、がん相談に関する講演会の実施は、昨年度
と比較して 35.2→40.6%と 5 ポイント以上伸びていることもあり、今後は、こうした活動を院内だけで
なく、広く地域に周知することで、相談支援センターの広報にもつながっていくと考えられる。
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VI. 相談支援センターの対応サービス
対応サービスについて、対面・電話は 9 割以上、FAX は約 4 割、電子メールは 4 割弱の施設で対応し
ており、昨年度とほぼ同じ、横ばいの結果であった。相談の記録については、全施設で残してあるとの
結果であった。今後は記録のみならず、対応状況を相談支援センター内で活用していくためにも、まだ
十分に行われていない「よくある質問を Q&A 集としてまとめること」や「利用者からの満足度や意見等
の利用を進めること」などを充実していくことが望まれる。
V. 相談支援センターの情報収集
情報収集は、緩和ケア、セカンドオピニオンに対応する医療機関についての情報は、90%以上の施設
で提供できると回答されていた。しかし、拠点病院や拠点病院以外のがん種ごとの対応状況、中皮腫、
地域の患者会に関する情報提供については、60~70%と整備状況がまだ不十分である様子がうかがえた。
また、県内の相談支援センターとの情報の共有や都道府県の調査データの活用については、ある程度さ
れているがそれぞれ 34.5%、52.9%とまだ十分な状況ではなかった。今後、こうした県内の情報を活用、
更新していくためにも、十分な連携をもち情報収集が行われる必要があると考えられる。
VI. 相談支援センターの研修・教育
研修・教育は、相談対応についてのマニュアルのまとめや定期的な見直しは、昨年度と比べてそれぞ
れ 5 ポイント以上の増加がみられた。今後は、まだ充実していない項目として、相談事例に対する対応
内容の定期的な検討会(実施していない 29.7%)、相談事例の傾向の分析から問題の抽出(していない
42.5%)
、院内の関係部署のスタッフと定期的なカンファレンスの実施(実施していない 26.7%)などが
増え、これらの活動が充実していくことで相談支援センターの機能が充実していくと考えられる。
相談実施状況
1 週間分の相談記入シートの提出状況をみると、
1 日に 2~10 件のがんの相談対応を行っている施設は、
全体の約 5 割(53.5%)で、1 日に 2 件未満の施設が 36.9%となっていた。また 1 施設あたりの平均相談
対応件数は、平均 22.5 件(374 施設 8403 件)で、昨年度の平均 20.3 件(H20 年度:378 施設 7669 件)
とくらべ微増しているものの、ほぼ横ばいという結果であった。一方で、1 日に 20 件以上対応している
施設も 12 施設(3.2%)あり、依然として、相談支援センター間の相談対応状況の開きが大きいことが示
された。
相談記入シートの記載内容については、対応時間、対応方法、相談者のカテゴリー、受診状況、がんの状
況、相談内容、対応内容等、ほとんどの項目において、平成 20 年度と大きな相違を認めなかった。対応
方法では、面談と電話の比率が6:4、患者の受診状況では、自院と他院の比率が約8:2の状況で、自
院の相談窓口から地域の開かれた相談窓口への移行が十分に行われていないことが示された。今まで以上
に、地域に対する積極的な広報活動が必要であると考えられる。
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