まちづくり活動の展開による地域の活性化に関する研究 ―京都市旧伏見

まちづくり活動の展開による地域の活性化に関する研究
―京都市旧伏見市地区を事例として―
05M057 杉本 和也
1.序論
1-3 研究方法
1-1 研究の背景と目的
京都府京都土木事務所にて河川事業計画書、京都
近年、中心市街地の活力低下が大きく懸念されて
府立総合資料館及び京都市伏見中央図書館にて、酒造
いる。そこで国は、1998 年に中心市街地活性化に関
会社社史や酒造組合史、商店街記念誌や伏見の地域資
する法律(中心市街地活性化法、以下中活法)を制定
料等21冊の文献を収集するとともに、インターネット
し、中心市街地活性化に国を挙げて取り組む姿勢を
のサーチエンジンにより組織名や活動名によるキーワ
見せている。京都市伏見(旧伏見市地区)は、以前か
ード検索を行い、まちづくり活動の内容・活動組織・
ら魅力的なまちづくり活動が継続的に行われ、中活
フィールドなどの情報収集を行った。このデータを詳
法の適用により、まちづくり活動がさらに充実し、
しく分析することにより、まちづくりの系譜・変遷を
伏見を訪れる観光客の増加や「遊歩百選」の賞に選
把握する。また、現地調査にて観光関連パンフレット
ばれるなどの成果を挙げた。2006 年に中活法が改正
等広報資料と景観写真を収集し、伏見観光協会や京都
されたことにより、現在伏見は、今後 10 年を見据え
市役所商業振興課、京都府京都土木事務所にて不足情
てのまちづくりの岐路に直面している。本研究では、
報のヒアリング調査を実施した。
京都市伏見のまちづくり活動全般を捉えることによ
2.伏見の都市形成
り、まちづくり活動におけるまちの空間や建物の使
伏見は、1594年に豊臣秀吉による築城と城下町建設
われ方、活動と活動組織との関係性、また活動組織
(政治都市)として出発し、江戸時代には交通拠点と
間の繋がりを把握し、まちづくり活動による景観形
しての宿場町、物流ターミナル拠点として内陸港湾
成のプロセスを明らかにすることを目的とする。
(中継)都市として発展した。明治後期から昭和初期
1-2 対象地域
にかけては、酒造業を中心とした産業都市として栄え
本研究は、中活法の適用地域である伏見桃山・中
てきたといえる。現在は、歴史文化的資源に惹きつけ
書島地域といわれる下板橋通、国道24号、宇治川、東
られた訪問者が行き交う観光都市であるとともに、伝
高瀬川に囲まれた京都市旧伏見市地区を対象とする。
統的な暮らしと新しい住まいが混在する都市居住地と
して、様々な顔を持つ個性豊かな交流型都市として形
図-1 まちづくり系譜図
成された都市である。
3.まちづくり活動のフィールドと空間整備の系譜
まちづくり活動のフィールドは、河川空間・酒造空間・
5.まちづくり活動を担う組織の相互関係
伏見地域では、1980年代後半から酒造会社や伏見観光協
商店街の主に3つに分けることができ、歴史文化的資源を有
会、地域諸団体、地域住民が連携し、まちづくり活動を活
効活用した整備が行われてきた。河川空間では、1980年代
発に行ってきた。TMO設立の2002年以後、河川空間は地域小
後半、舟運が途絶え荒廃した河川空間で行政による整備が
学生によるまちづくり活動の参加に加え、地域内外に関わ
開始された。この整備は、1994年に開催された伏見開港400
らず幅広い組織や団体との連携が新しいイベント開催に繋
年祭のために行われた整備であるが、このイベントの影響
がった。酒造空間も地域住民との関係をさらに深いものに
で河川清掃等の市民参加型まちづくり活動のフィールドが
した。商店街に関しては地域団体や他の地域との連携の向
整った。酒造空間の形成は江戸時代に遡る。舟運による運
上に加え、大学との関係を持つまでに至る。TMOの存在によ
搬の利点を考え、酒蔵は濠川運河沿いなどに形成されて現
り、地域のネットワークが充実したことがまちづくりの可
在に至る。1950年以降の酒造技術の変革と1970年代の酒造
能性を広げていった。その陰には、伏見という土地に愛着
業の衰退により生じた余剰空間を、レストラン等の飲食店
と誇りを持ち、戦略的な地域経営ビジョンを持った人々の
に転用や、観光案内処やイベント空間として活用するなど
存在が起因しているといえよう(図-2参照)。
酒蔵のコンバーションが進んでいるほか、マンションや駐
6.まとめ
車場などへの利用変化も起きている。商店街の形成は、196
伏見は歴史文化的資源が豊富な土地であり、その資源を
2年に商店街振興組合法の制定により、共同して整備改善に
大事に考える行政・企業・市民・地域諸団体・大学など
取り組んできた。アーケード、カラー舗装、駐車場と段階
様々な立場の人々により空間整備が行われ、地域の歴史
を踏みながら整備を進め、商店街としての空間形成を進め
性・文化性と結びつけたまちづくり活動が展開されてきた。
てきた。特に近年に至っては町おこしとしての景観整備が、
2002年にTMOが設立されてからは、地域のネットワークの充
竜馬通り商店街において展開されており、統一看板や石畳
実を図り、商業の振興と地域(景観)づくりを同時に行うこ
舗装、ファサード改修に加え、空き店舗を利用したふるさ
とで地域の活性化を目標にしたまちづくり活動が続いてき
とショップの設置を行っている(図-1参照)。
た。まちの活性化という共通した目標のために河川空間、
4.まちづくり活動の変遷
酒造空間、商店街での多様化された活動が現在の伏見の景
河川空間では、伏見観光協会によって舟運を彷彿とさせ
観を形成したといえよう。
る十石舟の観光船運航が1994年に初めて実施される。2002
【謝辞】 この研究を進めるにあたり、伏見観光協会専務理事・T
年に舟運の運営はTMO(中活法により設立されたまちづくり
MO(株)伏見夢工房観光担当部長である永山惠一郎氏からヒアリング
会社)に委ねられ、春から初冬にかけ定期運航される。2003
及び資料提供を頂きました。ここに感謝の意を表します。
年以降は、三十石船の運航も始められ、河川ライトアップ
運航や鵜飼観覧などのイベントを実施。これらは、酒造会
社が河川内に不法投棄されたゴミを清掃したことに始まり、
市民が加わることで活動の広がりを生み、舟運復活に繋が
ったといえよう。その後、地域小学生が参加する伏見ジュ
ニア河川レンジャー活動へと繋がり、先祖の供養と家内安
全を願う伏見万灯流しといった歴史的イベントが開催され
るようになった。酒造空間では、酒蔵を活用した酒蔵コン
サートや酒蔵寄席を開催。また酒蔵通りライトアップの景
観演出や日本酒祭りなどのイベントにも協力している。商
店街では、コンピューターの導入や竜馬祭を行い、地域の7
商店街合同で夏の夜市を開催している。地域に埋もれてい
る歴史や文化などの地域資源に光を当て、地域住民の郷土
愛高揚と地域の歴史文化を後世に伝えている。
図-2 まちづくり関係図