平成 26 年度 岸本国際交流奨学金による海外活動 実施報告書 Taipei

平成 26 年度
岸本国際交流奨学金による海外活動
実施報告書
Taipei Medical University(台北医科大学)
医学部医学科5年次 K.R(Male)
<目的>
クリニカルクラークシップが始まり、日常の文献検索の中で、海外の論文を目にする機
会が多くなるように感じ、その裏に日本とは異なる医療体制や文化などの社会的背景があ
るのではないかと感じていた。今回、このような機会を得ることができ、以下のような自
己目標を立てた。
「台湾でクリニカルクラークシップを受けることで、日本と類似した、あるいは異なる台
湾の医学的な特徴や医療制度を学ぶ。それにより、日本の医療を客観的に捉え、より広
い視野を持つ医師像を考える」
具体的には、医学的な特徴について、
・日本と同じアジアにありながら、食生活、交通事情など社会的な要因が異なると、疾患
の分布も変わってくるのか否かを確かめる
医療制度については、
・台湾は日本と同様、全国民に保険制度が存在するが、それがどのように利用されている
のかを学ぶ。また、全民健康保険カードの IC 化が進んでおり、その中に記載された医療
情報がどういった形で医療に活かされているのかを考える
というものである。
<実習概要>
1月5日
台北医科大学国際交流室においてオリエンテーション
1 月 5 日~1 月 16 日
台北市立萬芳病院にて、胸腔外科、神経外科
手術を中心に外来、回診、クルズスなどで、多くの観点からご教授を得た。
新光病院や国立台湾大学附属病院にも案内していただいた。
1 月 19 日~1 月 23 日
台北医科大学附属病院にて、放射線腫瘍科
放射線治療のプランニング、線量管理などを学び、論文の抄読会で発表する機会を得た。
1 月 26 日~1 月 30 日
台北医科大学附属病院にて、救急科
日常の診療から、医学教育としてのディスカッションまで幅広く参加させていただいた。
1 月 30 日
Certificate 交付
<台北市立萬芳病院 胸腔外科・神経外科 1 月 5 日~1 月 16 日>
胸腔外科では林先生にお世話になり、インターンの方と同時にラウンドさせていただい
た。講義では、胸腔外科の基本的な概念、気胸、胸腔ドレーンの仕組み、胸部外傷など幅
広い知識をご教授いただいた。また、手術室では肺の手術中の換気法について図解で丁寧
に教えていただいた。その内容の多くは耳にしたことがなかったが、説明が論理明快であ
ったため、容易に理解できた。
また、いくつかの胸部手術を見学し、肺癌の典型的な症例を経験し、手術の手順を学ん
だ。肺葉切除術の手技は日本のものに似ていると感じた。外来での実習では、親切にも患
者のプロブレムを説明していただいた。
さらに、台北で最大規模の国立台湾大学附属病院や、新光病院という大病院にも訪問さ
せていただき、台湾の病院の充実した診療体制に驚かされた。また、萬芳病院内の放射線
腫瘍科の吳先生にも案内していただき、多くの機器の効果的な適用を説明していただいだ。
2 週目は林先生の紹介で、神経外科の葵先生にお世話になった。脊髄の手術が多かったも
のの、脳の手術では、開頭血腫除去術に助手として参加させていただき、この上ない貴重
な経験を得た。また、偶然にも葵先生は日本の出身で、海外にいながら日本語で実習を受
けるという珍しい体験であった。
留学に来て、緊張は強かったものの、多くの先生方に丁寧に指導いただき、日本と同じ
ように実習を行うことができた。どの科においても、幅広い症例の知識と高度な技術を学
ぶことができ、忘れることのできない記憶となった。
<台北医科大学附属病院 放射線腫瘍科 1 月 19 日~1 月 23 日>
放射線腫瘍科では、黄先生を中心に実習を企画していただき、医師だけでなく医学物理
士の方にもお世話になった。まず、
「放射線治療の入門」の講義では、放射線治療の基本的
な考え方とその判断がガイドラインに基づくことを学んだ。また、いくつもの腫瘍カンフ
ァレンスにも参加し、幅広い分野の腫瘍の症例を垣間見ることができた。そこでは、医療
記録が英語で記載されており、それ読めば論点が何であるかが理解できた。
外来での実習では、患者の病歴を丁寧に教えて下さり、日常の診療における日本との相
違点も解説していただいた。最も驚いたのは、患者の医療記録の情報が書き込まれた ID カ
ードで、この仕組みによって医療従事者が患者背景を一目に知ることができ、診療を非常
に円滑にしていた。
さらに、実習の中で、放射線治療の流れを順に見学させていただいた。画像検査で解剖
学的な情報を取得し、コンピューター上でプランニング、そして実際の照射に至る過程が
あり、プランニングでは、実際にコンピューターでシュミレーションさせていただいた。
一部では、自費診療による最新の機器での治療が行われていたことも記憶に残っている。
また、一番記憶に残っているのは、論文の抄読会でプレゼンテーションをさせていただ
いたことである。肺癌の放射線化学療法についての論文で、日本発の論文であった。黄先
生をはじめ、先生方に多大なる手助けをいただき、論文の重要性を示すことができた。
総じて、計画的なカリキュラムを企画していただいたおかげで、1 週間ではあったものの、
放射線治療の全体像をつかむことができたように思う。マンツーマンで医師や医学物理士
の方々に直接教えていただけたことは非常に貴重であった。
<台北医科大学附属病院 救急科 1 月 26 日~1 月 30 日>
救急科では、主に張先生にお世話になり、診療を間近に体験することができた。まず驚
いたのはトリアージの仕組みで、患者は来院次第、患者基本情報やバイタルサインなどか
ら、重症度が 5 段階に分類されていた。これがコンピューターで自動化されていたのであ
る。また、台湾では日本の認定看護師にあたるナースプラクティショナーがおり、医師に
代わって動脈血ガスの採取のため動脈注射を行っていた。
先生方には、診療の合間に骨折などの講義や FAST などの手技の見本を見せていただい
た。また、救急科は現地の学生と同じラウンドで、彼らに色々と教えてもらいながらの実
習であった。印象に残っているのは、お互いにエコーをやり合ったり、心電図を一緒に取
りに行ったりできたことである
さらに、ある日は学生やインターンの方々と医学教育棟に移動し、救急の重要なガイド
ラインである ACLS の手順に関して、講義・議論し合った。その後救急の看護師の方々の
蘇生シミュレーションを見学した。同日、中国からの医学講師が来台し、頻脈の対応につ
いてインターンの方が実践、その対応について討論会が行われた。議論はほぼ英語で行わ
れ、何度か発言できたものの、台湾の高度な医学教育に驚愕した一日であった。
最後の1週間は多くの先生方や生徒に囲まれ、充実した実習となった。同学年の存在は
留学を実感させてくれ、安心して実習に取り組むことができた。それと同時に、彼らの熱
心な姿勢が今後の勉強の励みになった。
<成果と今後の抱負>
台湾は食生活が欧米に近いとも言われ、悪性腫瘍などの疾患分布も日本と比較して欧米
に類似したものであった。交通量の多い地区では、骨折などの外傷も頻繁に経験した。医
療保険制度やその利用のされ方については、基本的には日本にかなり類似している印象を
受けたが、自費診療による高度な医療技術も盛んに行われていた。また、保険カードに記
載された情報は外来診療などで患者背景の理解を助け、診療を円滑にしていた。
今回台湾に留学させていただき、医学的な観点だけでなく、医療人としても視野が広が
ったように思う。予想外な相違点を発見することが多かったと同時に、日本との共通点の
多さに驚かされた。どちらの医療が進歩しているかという単純な視点ではなく、お互いの
長所を取り合うような工夫をしていかなければならないと感じた。
<最後に>
今回の留学に際して、岸本先生をはじめとする岸本国際交流奨学基金関係者の方々、学
生受け入れを許可してくださった台北医科大学、および指導を担当して下さった台北市立
萬芳病院 林先生、葵先生、台北医科大学附属病院 黄先生、張先生、また、大阪大学 医学
科教育センター 和佐先生、医学科国際交流センター 馬場先生をはじめ、多くの方々にご
協力いただき、この場で感謝いたします。