ベネズエラの石油産業動向 - 石油エネルギー技術センター

JPEC レポート
平成 27 年 12 月 1 日
JJP
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レポ
ポー
ートト
第
第 2222 回
回
222000111555年
年
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年度
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ベネズエラの石油産業動向
ベネズエラにおいて長期独裁政権(1999~2013年)
を築いたチャベス元大統領が死去して 2年強が経過し
ている。本レポートでは、米国エネルギー省のエネル
ギー情報局(Energy Information Administration、
EIA)のレポートを主なベースとし、同政権時代から
現在のポスト・チャベス期におけるベネズエラの石油
産業動向について紹介する。
1 はじめに
ベネズエラは、世界最大の石油埋蔵量を保有してい
るにもかかわらず、同国経済は破綻状態にある。経済
評論家によると、同国の物価急騰、品不足、縮小経済
は社会主義的経済モデルの失敗の結果だとしている。
1
はじめに
2 ベネズエラの石油産業
2-1 概要
2-2 石油関連の歴史
3 石油探査と生産
3-1 概要
3-2 オリノコ重質油地帯
3-3 ベネズエラ産原油の性状
3-4 石油精製
3-5 石油交易
4 関連情報
4-1 中国の石油政策
4-2 パナマ運河の拡張工事
5 まとめ
ベネズエラ中央銀行に近い筋によれば、2015 年 9
月同国の月間インフレ率は、四半世紀最大の 16.9%
を記録し、年間では 180%に達するだろうと予測されている。高インフレと品不足が市民
生活に深刻な打撃を与えている。
また、ベネズエラは、石油収入に大きく依存した国家である。米国 CIA の The World
Factbook によると、2014 年 同国は輸出収入の約 96%、政府歳入の約 40%および GDP
の約 11%を石油に依存しており、2014 年 6 月からの石油価格の急落が同国経済をさらに
悪化させている。
チャベス元大統領の社会主義的経済政策の遺産が高インフレに繋がり、かつ市民生活と
経済的自由を大幅に妨げている。チャベス路線を継承している現マドゥロ政権が、ベネズ
エラ経済を立て直せるか否かは不透明である。
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2 ベネズエラの石油産業
2-1 概要
Oil & Gas Journal によれば、2014 年末時点でベネズエラの石油確認埋蔵量は 2,983 億
bbl で世界第 1 位である(図 1 参照)。また、同国は、世界第 11 位の原油生産国(272 万
BPD、2014 年)であり、かつ OPEC の創立メンバー国として、世界の石油市場で重要な役
割を演じてきている。
(単位:10 億 bbl)
図 1 世界の石油埋蔵量 TOP5 国 (2014 年)
(出所:EIA)
ベネズエラの石油埋蔵量は、2008 年から急激に増加している。これは、同国での新規油
田が発見されたのではなく、従来 確認埋蔵量に含めていなかった、オリノコ川北岸流域で
大量に産出するオリノコタール(超重質原油)を統計に加算する方式に切り替えたための
変動である(図 2 参照)
。
(単位:10 億 bbl)
(単位:10 億 bbl)
図 2 ベネズエラの石油埋蔵量推移
(出所:BP 統計)
2
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2-2 石油関連の歴史
1976 年 ベネズエラは石油産業を国有化し、ベネズエラ国営石油公社(Petroleos de
Venezuela S.A. 以下 PDVSA と記す)を創立した。PDVSA は、ベネズエラ最大の企業で
あると同時に、前述したように、その収益は同国の国内総生産(GDP)と政府歳入および
輸出収入の大きなシェアを占めている。以下に同国の石油関連の歴史を紹介する。
1999 年 チャベス大統領(当時)が就任後、新規や既存のプロジェクトに対する税金と
ロイヤリティ料率を引上げ、かつ全石油プロジェクトに関し PDVSA が過半数の権益を保
持することを義務付けた。
2002 年 PDVSA の従業員の約半数が、チャベス大統領(当時)の規制に抗議して業務
を放棄、会社機能がほぼ停止した。このストライキをきっかけに、同社は約 18,000 人の
労働者を解雇し、かつ政府統制を固めるため内部組織を全面的に見直した。その結果、解
雇による人材喪失は完全に回復することがなく、それに起因する技術力低下がいまだに現
在の生産レベルに悪影響を及ぼしている。
2005 年 チャベス大統領(当時)は、石
油を外交手段として利用し、中南米でベネ
ズエラの影響力を強めるために、カリブ海
周辺諸国を優遇条件で石油を供給するエネ
ルギー協定 「PetroCaribe Energy
Initiative、以降 PetroCaribe と記す」を提
唱し、18 ヶ国が加盟した(図 3 参照)
。
PetroCaribe は、有利な資金調達と長期
の返済条件を加盟国に与えている。その内
ベネズエラ
容は、ベネズエラ産石油の購入時に代金の
60%を支払い、残り 40%を開発プロジェク
図 3 PetroCaribe 加盟国
ト資金として繰り延べることができる。ま
た、返済期間は 25 年(利息:1%)となっ
ている。2005 年 ベネズエラは、キューバ
と個別の石油供給協定も結んでいる。これらの優先供給協定は、同国産石油輸出量の 40
万 BPD 超を占めると報道されている。
2006 年 チャベス大統領(当時)は、ベネズエラにおける石油の生産と探査の国有化を
実行に移し、石油プロジェクトにおける PDVSA の権益シェアを 60%以上とする再交渉を
義務付けた。その結果、Total と Eni は強制的に買収されたが、Chevron、ExxonMobil、
Shell を含む 16 社は新しい協定に応じた。さらに 2009 年には、石油関連事業の接収を可
能にする法律の制定を発表した。
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2013 年 チャベス大統領の死去後、同政策を引き継いだマドゥロ新大統領は、最近の産
油量の減少を相殺するため、ベネズエラに残って操業している外国企業に投資を増やすよ
う圧力を強めている。
3 石油探査と生産
3-1 概要
BP 統計によれば、2014 年のベネズエラの石油(含む:他液体燃料)生産量は 272 万
BPD で、南北アメリカ大陸では米国、カナダ、メキシコに次いで第 4 位となっている。
ベネズエラで最も生産量の多い油田地帯は、
Maracaibo 盆地である(図 4 参照)。同盆地は、
ベネズエラの石油生産量の半分弱を生産している。
同国産原油は、国際基準より重質かつ硫黄分が多
くなっている。その結果、同国産原油の大半は、
国内および海外の特定製油所へ出荷され、処理さ
れている(図 5 参照)。
なお、ベネズエラ産原油の推定生産量は、情報
源により異なる。加えて、一部は測定方法によっ
ても異なっている。EIA では、超重質油の体積が
約 10%減となるアップグレードされた合成原油
(SCO、Synthetic Crude Oil)としてカウントさ
れている。
オリノコ川
図4
Maracaibo 盆地の位置
(出所:Wikipedia)
(単位:千 BPD)
export
年
図 5 ベネズエラの石油生産と消費量
4
(出所:EIA)
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3-2 オリノコ重質油地帯
ベネズエラは、世界最大の超重質原油(Extra Heavy Crude Oil)および Bitumen を埋
蔵しており、その多くは同国中央部のオリノコベルト地帯に位置している。米国地質調査
所によれば、同地帯の可採原油埋蔵量は 5,130 億 bbl で、その多くは超重質原油であり、
市場に出すには前処理するための追加資金が必要となる。
2005 年 PDVSA は、オリノコベルト
地帯(約 8,500km2、広島県の面積相当)
を 4 区分(Boyaca、Junin、Ayacucho
および Carobobo)に分け、さらにそれ
を 36 の鉱区に分割し、現地において各
鉱区の埋蔵量を定量化する「Magna
Reserve Project」を開始した。前述した
ように同プロジェクトにより、ベネズエ
ラの確認埋蔵量を 2005 年比 約 2,000 億
bbl(BP 統計)高める効果をもたらした
(図 6 参照)。
図 6 オリノコベルト地帯と 4 地区
(出所:EIA)
また、同プロジェクトは、埋蔵量の定量化だけでなく、超重質原油および Bitumen を
アップグレーダーに通して軽質で硫黄分の少ない、いわゆる合成原油に変換することも含
んでいる。ベネズエラに設置されているアップグレーダーは、4 基あり合成原油製造能力
合計は 63 万 BPD である。しかしながら、業界では、設備の維持補修および安全上の問題
から、実製造能力は 50 万 BPD 未満であると見ている。
ベネズエラは、
今後何年間にもわたりオリノコベルト地帯の資源を開発する計画である。
2009 年 同国は、Junin 地区内の主な 4 つの鉱区を開発する 2 国間協定(対 中国、ロシ
ア、イタリア、ベトナム)に署名した。2011 年 同国は、Carabobo 地区においてさらに 2
件の大規模開発ライセンスを授与した。同国は、10 年後までにこれらのプロジェクトによ
り重質油の生産能力を 200 万 BPD 超追加することを期待している。しかし、最近の金融
規制や資金運用問題を考慮すると、オリノコベルト地帯の生産能力拡大の程度は不確実で
あると言わざるを得ない。
3-3 ベネズエラ産原油の性状
「Crude Oil Specifications」のデータによれば、現在ベネズエラで生産されている原油
は、18 油種である。Maracaibo 盆地で産する在来型原油は、国際標準に照らしてより重
質で硫黄分が多い。一方、オリノコベルト地帯で産する非在来型原油も重質または超重質
で、在来型原油より芳香族炭化水素・ナフテン・アスファルト分・樹脂分が多く、かつ窒
素・硫黄・重金属含有量も多く粘性も高くなっている(図 7、表 1 参照)
。
5
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ベネズエラを代表する原油として、
BCF-17 原油およびMerey 原油が挙げられ
る。両油種とも世界の主要原油に比べ、重
質油でかつ高硫黄分原油となっている。な
お、
Merey 原油は、
2009年1月からBCF-17
原油に替り、OPEC バスケット価格の構成
12 原油の 1 つとして採用されている。
なお原油は、API 度(API 比重)26 未満
を超重質油、26 以上~29 未満を重質油、
29 以上~34 未満を中質油、34 以上~39
未満を軽質油、39 以上を超軽質油と呼ばれ
ている。なお、API とは、アメリカ石油協
会(American Petroleum Institute)のこ
とである。
Merey
BCF-17
図 7 世界の主要原油の API 度と
硫黄分の相関図
表 1 ベネズエラ産原油の性状
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
Anaco Wax
Mesa
Mesa 28
Leona
Merey
Tia Juana Light
Furrial
BCF-24
BCF-17
Pilon
Morichal
Lagomedio
Lagotreco
Menemota
Bachaquero-13
Tia Juana Heavy
Laguna
Boscan
API
度
S分
wt%
43.3
30.5
28.0
25.3
16.0
31.9
28.5
23.7
13.5
16.2
12.2
31.6
30.4
20.7
12.2
12.3
10.9
10.1
0.15
0.85
1.18
1.52
2.45
1.18
1.10
1.88
2.30
2.47
2.78
1.26
1.28
2.07
2.80
2.82
2.66
5.40
動粘度
バナジウム
全酸価
(100°F)
含有量
mgKOH/g
2
mm /sec
ppm
0.11
1.98
1
0.03
7.29
38
0.01
13.3
69
0.10
22.2
132
0.69
513
262
0.22
8.80
96
0.10
11.9
68
0.77
47.5
225
2.63
1,709
352
1.60
509
184
2.83
145
274
0.07
13.4
119
0.33
10.7
129
0.69
69.1
381
3.13
48.6
442
3.90
88.6
386
2.82
6,908
395
0.91
11,233
11,222
6
流動点
℃
70
-46
-29
-35
-20
-29
-32
-32
-18
0
45
-24
-26
-30
-18
-16
6
7
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3-4 石油精製
3-4-1 重質油のアップグレーダー
アップグレーダー(Upgrader、改質プラント)とは、オリノコベルト地帯の油田から産
出したタール状の超重質原油の粘度と硫黄分を低減するとともに重金属分を除去し、製油
所で処理可能な合成原油(API 15 以上)に変換する装置である。ベネズエラには 4 基の
アップグレーダーがあり、合成原油の生産能力合計は 63 万 BPD である(表 2 参照)
。
なお、オリノコ超重質原油とカナダのオイルサンドは、非在来型原油の代表格の油種で
あり、API 度、粘度、イオウ分に若干の差はあるが基本的には同じ特徴を持っている。
表 2 ベネズエラのアップグレーダー
アップグレーダー
1 Ameriven Syncrude
2 Petrozuata
Operadora Cerro Negro
3
Heavy Oil
4 Sincor Heavy Crude
合成原油
生産能力
操業会社
(万 BPD)
ConocoPhillips、Chevron Texaco、PDVSA
19
ConocoPhillips、PDVSA
12
12
ExxonMobil、Veba Oel、PDVSA
20
Total、Statoil、PDVSA
3-4-2 ベネズエラが保有する国内外石油精製資産
ベネズエラは、国内、米国、カリブ海諸国および欧州における石油精製資産の合計とし
て 280 万 BPD 保有している。PDVSA が操業している地域別の原油精製能力比率は、国
内 46%、米国 34%、カリブ海諸国 17%、欧州 3%となっている。
3-4-3 国内の製油所
Oil & Gas Journal によれば、ベネズエラは、国内に 5 製油所(石油精製センターを含
む)を保有し、その原油精製能力合計は 129.7 万 BPD で、全て PDVSA が操業している
(表 3 参照)。なお、Paraguana 石油精製センターは、Jamnagar石油精製コンビナート
(インド、124 万 BPD)に次ぐ、世界第 2 位規模の石油精製コンビナートである。
現在 ベネズエラ国内の製油所は、既存設備の維持に対する投資不足に耐えている。この
資金不足による設備保全の不備から、2012 年 8 月 Amuay 製油所の火災により死者 40 名
以上を出し、Paraguana 石油精製センターの原油精製能力に大きなダメージを与えたこと
も影響している。
また、El Palito 製油所と Puerto de la Cruz 製油所で、超重質原油を処理するためのア
ップグレーディング工事が進捗中である。さらに、2020 年までに国内で新しく 40 万 BPD
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超の原油精製能力を追加する計画がある。
表 3 ベネズエラの国内製油所一覧
製油所名
原油
精製能力
(万 BPD)
1
Paraguana
石油精製センター
(3 製油所から形成)
95.5
2
3
4
Puerto de la Cruz
El Palito
Maracaibo
19.5
12.7
1.5
5
San Roque
0.5
合計
特記事項
・Amuay 製油所(63.5 万 BPD)
・Cardon 製油所(31.0 万 BPD):Dekayed Coker を
備え、超重質・高硫黄原油を処理可能
・Bajo Grande 製油所(1.0 万 BPD)
28 万 BPD まで拡張プロジェクトが進行中
上記と同じ
*****
パラフィン基原油の処理に特化している製油所で、
2008 年から食品グレードのパラフィンワックスを
製造している
129.7
3-4-4 国外の製油所
PDVSA は、その子会社 CITGO Petroleum を通して国外でも製油所を運営している。
下記に米国と中国の動向を紹介する。
【米国】
・CITGO は、3 つの製油所(Lake Charles 製油所、Corpus Christi 製油所、Lemont
製油所)を操業し、その原油精製能力合計は 75.5 万 BPD である。
・PDVSA は、Chalmette 製油所(18.9 万 BPD)の株式の 50%を保有している。
・ConocoPhillips は、2009 年に Sweeny 製油所(24.7 万 BPD)の PDVSA 所有
株式を購入する権利を行使した。この動きは、ベネズエラが保有する世界の原油
精製能力の縮小をもたらした。
【南米】エクアドルに Petroecuador と共同で 30 万 BPD の製油所、
ブラジルに Petrobras
と共同で 23 万 BPD の製油所を建設するプロジェクトが発表されたが、計画の遅
延や凍結が伝えられている。
【中国】2009 年 PDVSA は、広東省に中国石油天然ガス有限公司(PetroChina)と合弁
で新製油所(40 万 BPD)を建設することに合意した。なお、この計画は、2019
年稼動に延期されたと発表されている。
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3-5 石油の交易
ベネズエラは、米国に原油と石油製品を輸出している。2014 年 カナダ、サウジアラビ
ア、メキシコに次いで第 4 位にランクされている。米国のメキシコ湾岸の特定製油所は、
ベネズエラ産重質原油を処理できるように設計されているため、同国は米国への石油輸出
の大きなシェアを維持してきた。しかしながら、近年の米国内でのシェールオイル増産の
影響を受け、2014 年の米国の同国産原油と石油製品の輸入量は約 80 万 BPD と 2004 年
(約 190 万 BPD)の約 42%にまで落ち込んでいる(図 8 参照)。
(単位:千 BPD)
年
図 8 米国のベネズエラとヴァージン諸島からの石油輸入
(出所:EIA)
なお、従来は、米国領 Virgin 諸島から米国に
輸入された石油製品はベネズエラから輸入した
量として計算されていた。なぜなら、当該諸島
の石油製品のほとんど全てがベネズエラ産原油
から精製されていたためである。しかし、2012
年 Hovensa 社(PDVSA と米国 Hess 社の合弁)
図 9 Virgin 諸島の位置
により操業していた St.Croix 製油所(50 万 BPD)
が閉鎖されて以降、当該諸島から石油製品輸出は停止されている(図 9 参照)
。
米国のベネズエラからの原油輸入量が減少する反面、米国から同国への石油製品輸出量
は大幅に増えている。なぜなら同国は、前述した厳しい財政事情により国内の製油所を維
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持補修する十分な投資ができず、製油所の実稼動率低下により石油製品生産量が落ち込ん
でいるためである。
米国は、10 年前にベネズエラへ石油製品を 1.4 万 BPD 輸出していたが、2014 年には
7.6 万BPD に増えている。
特徴としては、
同国の重質原油を希釈する半製品の輸入である。
同半製品は、2013 年から輸入開始し、2014 年は石油製品輸入量の 40%以上に急増してい
る。また、ガソリンに混合する MTBE(Methyl Tertiary Butyl Ether)、自動車ガソリ
ンおよび留出燃料油であった(図 10 参照)。
(単位:千 BPD)
年
図 10 米国のベネズエラ向け石油製品の輸出推移
(出所:EIA)
米国以外のベネズエラ産石油の主な輸出先は、
カリブ海諸国、
アジアおよび欧州である。
同国産原油の輸出先として最も急成長している市場は中国およびインドである。EIA は、
2014 年の中国向けのベネズエラ産原油の輸出量は 21.8 万 BPD、インド向けは 30 万 BPD
以上であったと推定している。なお、ベネズエラでは、産油国別の正確な輸出 Data を公
表していないため、EIA レポートにもグラフは掲載されていない。
また、前述したように、ベネズエラは「PetroCaribe」協定に基づき、大量に原油と石
油製品をカリブ海諸国と中米諸国に提供している。同国は、経済危機の中「PetroCaribe」
を継続しているが、多くのアナリストたちは PDVSA の財政事情、外貨準備の縮小、他国
への輸出保証を考えると、「PetroCaribe」協定の優遇条件を見直さなければならない時
期に来ているとしている。
4 関連情報
4-1 中国の石油政策
「中南米地域における反米同盟の盟主」と言われたチャベス大統領(当時)は、中国との友
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好関係を深めようと動いていた。ベネズエラは、中国と長期の石油供給・精製協定を結び、
世界第 2 位の石油輸入国である中国のエネルギー市場への足掛かりを得ようとした。2009
年 チャベス大統領(当時)は、「今後 200 年にわたって中国が必要とする石油を供給す
る」と約束した。また、中国は、ベネズエラからの原油調達を目的とした共同基金を 40
億米ドル積み増して 160 億米ドルに拡大するという政策を実施した。
4-2 パナマ運河の拡張工事
パナマ運河拡張工事は、過去延期されたが 2016 年 4
月完成の見込みである(図 11 参照)
。同運河を通航でき
る船舶のサイズ制限は、幅 32m×全長 294m であるが、
完成後は、幅 49m×全長 366m に拡張される。これは、
2015 年 8 月のスエズ運河拡張工事完成に次ぐもので、
海上チョークポイントの改善になる。
また、同運河の拡張工事完成により、大型船(注)の通
航が可能になり、カリブ海〜太平洋間の載貨単位量当た
りの運賃が低減することが期待される。日本などアジア
地域国にとっては、ベネズエラ、メキシコ、ブラジルお
よび米国などの大西洋側に油田または石油輸出基地を有
する国々との石油交易にとってコスト削減になることが
予測される。
図 11 パナマ運河の位置
(注意)現在 Panamax 級タンカー(6〜8 万 DWT)が限度だが、4 月からは Aframax 級タンカー(8〜12
万 DWT)はもちろん Suezmax 級タンカー(16 万 DWT 程度)まで通航可能となる。
5 まとめ
ベネズエラは、石油価格急落と経済政策の失策りにより、同国経済は急激なインフレに
あり破綻状態になっている。強烈なカリスマ性があったチャベス元大統領の死後、現マド
ゥロ政権が同国経済を立て直せるか否かは不透明な状態にある。
ベネズエラは、世界最大の石油埋蔵量を有している石油大国である。しかしながら、同
国の主要原油は、オリノコタールといわれる超重質油である。その原油から合成原油を製
造する前処理には手間とコストがかかること、また資金および人材不足により製油所のメ
ンテナンスなどに支障が出ており、石油生産の課題になっている。
日本としては、長年の課題であるエネルギー安全保障上 中東依存度を下げるため、ベネ
ズエラの豊富な原油(在来型原油、在来型原油)を経済的および技術的に輸入できるかの
検討が必要である。
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≪出典および参考資料≫
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http://www.reuters.com/article/2015/10/21/venezuela-economy-idUSL1N12K1RY20151021#TDCiFPKIoi2VCGrK.97
(17)Wikipedia 、Nicolas Maduro 、
https://en.wikipedia.org/wiki/Nicol%C3%A1s_Maduro 、
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JPEC レポート
(18)Wikipedia 、Petrocaribe 、
https://en.wikipedia.org/wiki/Petrocaribe 、
(19)telesurtv.net 、
http://www.telesurtv.net/english/telesuragenda/Petrocaribe-Oil-Bloc-to-Meet-in-Venezuela-20150220-0036.html 、
(20)Crude oil specifications 、
http://www.genesisny.net/Commodity/Oil/OSpecs.html 、
(21)Wikipedia 、Paraguana Refinery Complex 、
https://en.wikipedia.org/wiki/Paraguan%C3%A1_Refinery_Complex 、
(22)equities.com 、
http://www.equities.com/editors-desk/stocks/energy/an-introduction-to-varieties-of-crude-oil 、
(23)Wikipedia 、OPEC Reference Basket 、
https://en.wikipedia.org/wiki/OPEC_Reference_Basket 、
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、
分析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは
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次回の JPEC レポート(2015 年度 第 23 回)は、
「インドネシア石油産業の動向」
を予定しています。
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