講演要旨

2015 年 2 月 12 日
第 6 回知の市場年次大会
拠点:東京お茶の水女子大学(2014 年度)
東京・放送大学文京学習センター(2015 年度)
化学物質リスク評価(UT114)・化学物質リスク評価(演習1)(UT115a)
- 必要な情報やデータをどう入手し活用するか -
連携機関 :花井リスク研究所
花井リスク研究所
花井 荘輔
1.はじめに
日化協に出向して「化学物質のリスク評価」に接してから 20 年が経過した.
国の委託事業のシステム開発を通して多くを学んだが,その経験からいくつかの著作をまとめ,
求められれば研修会の講師等を務めてきた.
国内の関連する講演会・研修会は盛んで参加者は熱心だが,多くの活動がアリバイ作り的(例:
年1回の講演会開催)であり,座学で原理を学ぶだけでは実際的ではない.例えば,講義と教科書
で「野球」の原理を学ぶことはできても,キャッチボールはできない.まず,「ボールとバットを持とう」
という問題意識(図1)が,知の市場の考えと合致した.
まず概念の学習として,UT114 (2014 年後期)を実施し, UT115a 演習1 (2015 年前期)へ発展
させる.
2.実施
全 15 回実施した.木曜日 18 時 30 分~
於:お茶大.
狙い:できるだけ広く,(残念ながら)浅く.全体像(図2)をつかんで貰う.
参加:23 名.男性 19 名,女性 4 名.20 代~70 代,平均年齢 約 48 歳.企業人が 8 割.
実績:出席率・小レポート提出率はともに約 80%.最終レポート 17 名(74%)
Q&A は,あまり盛んではなかった.毎回,前回の小レポートをひとり/1行で要約して全体をパ
ワーポイント 1 枚にまとめたもので簡単に解説し,次の回に配布した.
評価:出席・小レポート提出とも約 8 割はまずまずであろう.
毎回のアンケートの結果(表1)では,理解度の低さ 2.9 が目立つ.シナリオ・予測・暴露・不確
実性の回が低い.他は,>3.8 だから合格点か.
反省:原理原則をあれもこれもと詰め込み過ぎたか.第 8 回の直接暴露モデル解説では,多くの
モデルを資料1枚で説明したのは不十分であった.その点を第 14 回で補足したが,具体的で
ないとイメージがつかめないという意見があった.
3.学んだこと と 反省点
当然かもしれないが,参加者の経験・問題意識に広い分布があった.
夜間 90 分という時間にしては真面目にきいてくれた.
小レポートに関し,発信欲旺盛の人がかなりいていろいろな意見をもらった.個々に対応したかっ
たが時間的に不可能であった.最終回終了後,懇親会(7 名参加)で意見交換ができたが,もっと
早く実施すればよかった.
期待した質疑応答は,当初は多かったが徐々に減少した感がある.対応の仕方が十分でなかっ
たかも知れない.
4.今後へ
当初の問題意識(リスク評価の概念は簡単だが,実際の評価はむずかしい.広く深いチャレンジ
ングな問題である)は一応伝わったと思う.
原理原則にあまりこだわらず,具体的な評価プロセスを式と数字で丁寧に追 う事例の解説が必
要だろう.それを,どの時点でどのように実施するかを考えたい.
当初の予定通り,2015 年前期に演習 1 UT115a(表2)を実施する.7モデルを取り上げ,ふたり
の専門家の支援を仰ぐ.
「リスクによる化学物質管理」を前提するとして,その概念は難しくないが,評価のプロセスは複雑
であり,実際問題では複数の専門家が議論を積み上げて判断する必要がある.この点に関し,日
本の産・官・学の現状は悲観的である.建前と本音の乖離が大きい.必要な専門家が圧倒的に少
ない.
世界の潮流に遅れないためには,どうすればよいか,等の議論を詰める必要があるが,公的な場
での建設的な議論は望み薄い.組織に頼らない個人的なつながりで共感者を増やすべく微力を尽
くしたい.
考え方
0
化学物質管理は,リスクに基づくとして,
① 簡単に正解を与える手法・システム・モデルはない
② 各種手法・ガイダンスが公開されている.国内にも,多くの知見がある.ただ,あまり知られてい
ない
③ それらを使いこなせば,かなりのことができるのではないか
④ 使いこなしには,かなりの努力と継続性が必要である
⑤ 得られた結果を知恵として蓄積し,共有したい.個人の努力には限界があるので,複数の専門
家が集う拠点(大学院・コンサルティング企業等)が必要である
どのような議論が必要か
残念ながら日本社会の特質 (権威主義・正解主義・減点主義) は上の考え方に合わない.
この体質を変える必要は?
ある
ない
→
→
変えられるか?
可能
→
どうやって?
不可能
→
どうする?
どう進んでゆくか?
私の取り組み
当面は,個人的努力で,共感者を増やしてゆく.組織にとらわれない個人のネットワークが重要
である.
演習
図1
座学による学習を超えた演習のイメージ
リスクアセスメント
の全体イメージ
問題の設定
2015/01 花井 荘輔
化学物質 物理化学性
各種条件
データ予測
リスクの
特定
暴露評価
発生量
環境フェイト
モデル
シナリオ
暴露関連
DB
環境フェイト
媒体中濃度
取込量
リスクの
判定
影響評価
無影響量
不確実性係数
生物影響データ
有害性
DB
QSAR
リードアクロス
カテゴリー
構造類似性
NN
解析
生物実験データ
分配・分解・濃縮性
環境生態
影響
クライテリア
EC50,LC50
環境生態系
気象
水文
アメダス
DB
間
接
暴
露
一般公衆
PRTR
DB
地域特異的
データ加工
水処理
生物濃縮
食物中濃度
表層水中濃度
Cwater
気象データ
廃水処理
条件s
周辺住民
環境フェイト
モデル
分散
分配
分解
経口
経皮
吸入
土壌中濃度
Csoil
N
W
X
取込
★
★
★
E
作業パターン
頻度
経皮
吸入
室内濃度
Cair
コントロール
バンディング
発生量
ヒト無影響量
TDI,RfD,ADI
Cair/
RfC
ヒト無影響
濃度 RfC
クライテリア
Cair/
TWA
etc
暴露レベル
C
条件s
C(T)
漏出量
リスク
レベル
ヒトへの
外挿
Cair/
参照濃度
頻度/確率
*
影響の大きさ
事故的
発生
事故統計
DB
統計解析
種間差
種内差
期間
信頼性
NOAEL/LOAEL
経路差
Bayes,MC,MCMC
影響分布の累積
疫学データ
GHS分類
R-phrase
クライテリア
感知
避難可能
致死
暴露量
不確実性評価
大気
室内
上水道
食品
その他
化学
エネルギー
影響
影響・被害の大きさ
発災事象
爆発
火災
漏洩
動物実験
データ
5%
基準濃度
影響濃度
AEGLs-1,2,3
PB-PK
BMD
暴露分布
FTA・ETA
起因事象
遺伝毒性の
発がん性
影響データ
LEDx
NOAEL
POD
許容濃度
TWA,産衛学会
頻度・確率
物性
各種条件
発がんスロープ
ファクターCSF
発がんユニットリスク
URair, URwater
管理手法
T
時間
距離
ヒト健康
影響
一般毒性
遺伝毒性なしの
発がん性
X
★
大気中濃度
Cair
分散モデル
生態系
データ
C
EHE/
RfD,
TDI,
VSD
発がん確率
増分
EHE*CSF
URair*Cair
URwater*Cwater
使用パターン
S
室内分散
モデル
発生量
作業者
フィジカル
リスク
影響分布データ
動物実験
in vitro
in vivo
個体群
群集
生態系
景観
AOP
体内動態
モデル
取込
事故発生
モデル
鳥類・哺乳類
影響データ
NOAEL/
EHE
生活パターン
消費者
発生源
モデル
MOS
MOE
生物実験
データ
魚類
陸生生物
影響データ
統計解析
UFs
C
条件s
野菜
穀類
肉類
乳製品
魚類
予測取込量
EHE
大気中濃度
Cair
定常的
発生
使用量
AFs
飲水中濃度
水文データ
排出量
PNEC
SSD
流量
DB
排出量推定
直
接
暴
露
PEC/
PNEC
PEC
水生生物 NOEC,LOEC
藻類
短・長期影響データ
ミジンコ
蒸気雲爆発
ジェット火災
その他
図2 化学物質リスク評価の全体図(イメージ)
リスク
マネジメント
リスク
コミュニケーション
表1
UT114
各回のアンケート結果
平均
回
テーマ
満足度 理解度 レベル
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
概論
要求されるもの
シナリオ
健康有害性
環境有害性
データ予測
暴露評価重要
直接暴露
間接暴露
判定
管理
不確実性
R/B
シミュレーション
まとめ
平均
4.1
3.7
3.7
4.0
3.7
3.6
3.7
3.4
3.6
3.7
3.9
3.5
3.6
3.6
3.8
4.1
2.9
2.9
2.6
2.8
2.9
2.6
2.7
2.5
2.5
2.9
2.8
2.6
2.8
2.7
3.1
2.9
4.0
3.5
3.4
3.6
3.5
3.4
3.4
2.8
3.1
3.4
3.4
3.1
3.3
3.3
3.8
4.0
表2
化学物質リスク評価(演習1)
科目構成
はじめに
問題の設定
有害性評価
暴露評価
№
1
2
3
4
先期講義
初級~中級
分かりや
小レポート
教材 出席/23人 出席率
提出率
すさ
提出/23人
3.8
3.8
21
0.91
20
0.87
3.5
3.5
18
0.78
20
0.87
3.4
3.4
20
0.87
19
0.83
3.7
3.7
19
0.83
18
0.78
3.7
3.7
21
0.91
22
0.96
3.4
3.4
21
0.91
19
0.83
3.4
3.4
17
0.74
20
0.87
3.3
3.3
20
0.87
19
0.83
3.1
3.1
18
0.78
16
0.70
3.4
3.4
19
0.83
20
0.87
3.6
3.6
18
0.78
18
0.78
3.4
3.4
14
0.61
13
0.57
3.4
3.4
17
0.74
19
0.83
3.3
3.3
16
0.70
16
0.70
3.8
3.8
18
0.78
17
0.74
3.8
3.8
277
0.80
276
0.80
UT115a の構想
2015 年 4 月~7 月 於:放送大学
内容・狙い
その他
内容・狙い
概論:この講義の全体像
求められるもの
シナリオのいろいろ 事例
ヒト健康影響
Ⅰ.データベース使用法 まず有害性データの入手
CHRIP,ECHA,IRIS
Ⅶ.ベンチマークドーズ
専門家が補強
NOAELに代わる実験データ解析
SMILES表記で構造入力
EPA TSCAの予測の考え
データ予測.リードアクロス等へ
展開
5
環境生態影響
Ⅱ.ECOSAR
6
データ予測
Ⅳ.構造類似性
専門家が補強
7
8
暴露評価の重要性
直接暴露:作業者暴露・消 Ⅴ.IH Mod
費者暴露
9
間接暴露:環境経由
Ⅵ.EUSES
Ⅲ.EQC Model
(Fugacity)
リスクの判定
と管理
10
11
12
リスクの判定
リスクの管理
不確実性評価
まとめ
13
14
15
リスクベネフィット解析
シミュレーションの重要性
まとめ 全体図
PB-PK
体内動態 動物→ヒト
AIST-MeRAM
環境生態 個体群評価 SSD
QSAR-Tool kit
OECD データ予測システム
米国AIHAの数理モデル NF/FFも TRA,Chesar
Stoffenmanager, ART
ConsExpo
欧州 共通リスク評価システム
METI-LIS
ADMER
Mackay 媒体間分配の感覚
REACH Tier1
REACH Higher Tier
RIVM 消費者暴露評価
周辺詳細濃度評価
広域暴露評価
コントロールバンディング とりあえずのリスク管理手法
CrystalBall(試用版)
分布データ統計解析
モンテカルロ法
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→ ←
では専門家の支援を仰ぐ
その他のモデルの例