PS-8 定傾斜した漁船の有効波傾斜係数に関する模型実験

PS-8
定傾斜した漁船の有効波傾斜係数に関する模型実験
流体性能評価系
*田口
晴邦、沢田
博史、原口
富博、黒田
貴子
発 状 態 の 横 揺 固 有 周 期 は 模 型 ス ケ ー ル で 1.48 秒 と
1.はじめに
船舶復原性規則で用いられている有効波傾斜係数
なっている。
は 、左 右 揺 を 考 慮 し た 1 自 由 度 横 揺 運 動 方 程 式 の 強
ま た 、定 傾 斜 角( φ s)の 設 定 は 、+20 度( 波 下 側
制力項に対応するものであり、これまで直立状態に
傾 斜 )か ら - 20 度( 波 上 側 傾 斜 )ま で 5 度 刻 み と し 、
ついて理論的、実験的に検討が行われてきた
1)。 し
比較のため直立状態でも計測を行った。
かしながら、荷崩れ等で定常横傾斜(以下、「定傾
斜」と言う。)した状態では、水面下の船体形状が
3.実験結果
左右非対称となることから、波浪強制力が変化する
実験結果は、通常の横波中試験と同様に波長船幅
とともに、縦運動と横運動が連成するため、横揺応
比( λ /B)を ベ ー ス に 波 浪 強 制 力 等 の 振 幅 、位 相 遅
答が直立時とは異なることが指摘されている
2), 3)。
定傾斜状態の波浪強制力に関しては公表された調
れ を ま と め る と と も に 、有 効 波 傾 斜 係 数 に 換 算 し た 。
3.1
波浪強制力
4)が 少 な く 、 定 傾 斜 が 波 浪 強 制 力 に 及 ぼ す
図-1に今回の実験で波下側に定傾斜させた状態
影響や理論計算法の妥当性等について十分明確にな
で 計 測 さ れ た 横 揺 方 向 の モ ー メ ン ト ( Mxm) 等 か ら
っていないのが現状である。
換 算 し た O 点( 船 体 重 心 位 置 で 船 体 中 心 線 と 静 水 面
査研究例
そこで、定傾斜が波浪強制力、特に有効波傾斜係
と の 交 点 ) 周 り の 横 揺 強 制 モ ー メ ン ト ( M x _o ) を 、
数に及ぼす影響を把握するとともに、定傾斜状態の
図 - 2 に 左 右 揺 方 向 の 力 の 計 測 結 果( F m )に 船 体 の
波浪中船体運動計算法の検証データ取得を目的に、
慣 性 力 を 考 慮 し て 換 算 し た 左 右 揺 強 制 力 ( Fy) を そ
漁船模型を用いた水槽実験を行った。
れ ぞ れ 最 大 波 傾 斜( kh)、排 水 量( W)、喫 水( dm)
を用いて無次元した値を示す。
2.実験概要
定傾斜した船体に作用する波浪強制力の内、左右
実験は、当所動揺水槽において、規則波中でガイ
揺等の強制力には定傾斜の影響は小さいが、横揺強
ド装置(上下揺、左右揺:自由、横揺等:固定)に
制モーメントに対する定傾斜の影響は顕著であると
検力計を介して取り付けた模型船を横波状態となる
の報告
ように設置して行った。
れていることが分かる。
2.1
供試模型
4)と 同 様 の 傾 向 が 、 今 回 の 実 験 結 果 で も 示 さ
なお、横揺強制モーメントに定傾斜の影響が顕著
使 用 し た 模 型 船 は 、 95GT 型 沖 合 底 び き 網 漁 船 の
に現れる原因の一つは、水面下の船体形状が左右非
1/19.53 縮 尺 模 型 で あ る 。 表 - 1 に 供 試 船 の 主 要 目
対称となったことに伴い、横揺強制モーメントの主
を示す。計測状態は、漁場発状態とした。
要 部 を 上 下 揺 方 向 の Froude-Krylov 力 に 起 因 す る 成
分が占める
表-1
Loa (m)
Lpp (m)
B (m)
D (m)
dm (m)
2.2
主要目
実船
37.80
29.30
6.25
2.60
2.21
模型船
1.935
1.500
0.320
0.133
0.113
4)た め で あ る と 推 測 さ れ る が 、 詳 細 は 理
論計算を行って確認する予定である。
3.2
有効波傾斜係数
有 効 波 傾 斜 係 数 γ は 、計 測 さ れ た 横 揺 方 向 の モ ー
メントを計測した波周期に横揺固有周期が一致する
重 心 位 置 周 り の 横 揺 強 制 モ ー メ ン ト に 変 換 し た M xG
を 用 い て 、 (1)式 に よ り 算 定 し た 。
(1)
計測項目
計測項目は、上下揺、左右揺、左右揺加速度、横
揺方向のモーメント、左右揺及び上下揺方向の力、
並びに入射波高である。
2.3 計測条件
今 回 の 実 験 で は 、入 射 波 の 波 岨 度 ( H/λ )を 一 定
( 1/50 ) と し て 波 周 期 ( Tw ) を 変 化 さ せ て ( 0.93
~ 2.19s)計 測 を 行 っ た 。復 原 性 資 料 で 示 さ れ た 漁 場
図-3に今回の実験で波下側に定傾斜させた状態
で 計 測 さ れ た 横 揺 方 向 の モ ー メ ン ト か ら (1) 式 に よ
り算定した有効波傾斜係数を示す。図中には比較の
ため船舶復原性規則で規定されている算式による有
効波傾斜係数の値を実線で示す。
図 - 3 か ら 、① 定 傾 斜 角 φ s が 大 き く な る に 伴 い 、
(1) 式 に よ り 算 定 し た 有 効 波 傾 斜 係 数 γ は 大 き く な
ること、②重心が高くなり横揺固有周期が長くなる
Wave exciting roll moment around O
1.4
波傾斜係数に及ぼす影響も大きくなることが分か
1.2
る 。ま た 、③ 直 立 状 態( φ s=0deg.)の 場 合( □ 印 )、
計測データから求めた有効波傾斜係数は規則算式に
よる値(実線)に近い値となっている。
図-4に定傾斜角を 5 度として波下側に傾斜させ
Mx_o/(khWdm/2)
ほど(同調する波長が長くなるほど)定傾斜が有効
1.0
0.8
φs=0deg.
=+5deg.
=+10deg.
=+15deg.
=+20deg.
0.6
0.4
た 状 態 ( φ s=+5deg.: ×印 ) と 波 上 側 に 傾 斜 さ せ た
0.2
状 態( φ s=- 5deg.:□ 印 )で 計 測 さ れ た 横 揺 方 向 の
0.0
0
モーメントから算定した有効波傾斜係数を示す。
計測したほぼすべての波長で傾斜方向によって有
図-1
5
10
λ/B
15
20
25
横揺強制モーメント(波下側定傾斜)
効波傾斜係数に有意な差異がみられる。これは、上
下揺と横揺の連成影響により、定傾斜した側から波
Wave exciting sway force
が入射する場合と反対側から入射する場合では動揺
1.2
2)と 対 応 し て い る と 考
1.0
振幅に差異が生じるとの報告
なお、図-3、図-4に示された定傾斜が有効波
傾斜係数に及ぼす影響については、水面下の船体形
状が左右非対称となったことや上下揺と横揺の連成
Fy/(khW)
えられる。
影響に関連すると推測され、今後理論計算を行って
0.8
φs=0deg.
=+5deg.
=+10deg.
=+15deg.
=+20deg.
0.6
0.4
0.2
確認する予定である。
0.0
0
4.おわりに
定傾斜を付けた漁船模型を用い横波状態で波浪強
5
図-2
10
λ/B
15
20
25
左右揺強制力(波下側定傾斜)
制力等を計測し、定傾斜角の増大に伴い換算した有
効波傾斜係数も大きくなることなどを確認した。
Effective wave slope coefficient
2.5
φs=0deg.
今後、別途開発している定傾斜した船体の流体力
=+5deg.
2.0
特性を縦運動と横運動の連成成分も含めて特異点分
布法により推定するサブルーチンを組み込んだ
γ=0.73+0.6OG/dm
1.0
を用いて波浪強制力や有効波傾斜係数を推定し、今
回の実験における計測値と比較することで、同プロ
0.5
グラムの妥当性を検証することとしている。
0.0
本 実 験 の 一 部 は 、科 研 費( 課 題 番 号 26289341)に
より実施しました。関係各位に謝意を表します。
=+20deg.
1.5
γ
Strip 法 ( STF 法 ) に よ る 船 体 運 動 計 算 プ ロ グ ラ ム
=+10deg.
=+15deg.
0
図-3
5
10
λ/B
15
20
25
有効波傾斜係数(波下側定傾斜)
参考文献
1) 水 野 俊 明:船 体 の 横 揺 れ 運 動 に お け る 有 効 波 傾 斜
Effective wave slope coefficient:φs=±5deg.
1.6
係 数 に つ い て , 日 本 造 船 学 会 論 文 集 , 第 134 号 ,
1.4
昭 和 48 年 .
1.2
2) 小 林 正 典 : 船 体 傾 斜 時 の 波 浪 中 の 運 動 に つ い て
3) 慎 燦 益:傾 斜 し た 二 次 元 柱 状 体 甲 板 上 へ の 海 水 打
1.0
γ
( 第 1 報 ), 西 部 造 船 会 会 報 第 51 号 , 昭 和 51 年 .
0.8
0.6
φs=+5deg.(heel to lee side)
ち 込 み 限 界 波 高 に つ い て , 西 部 造 船 会 会 報 第 60
0.4
φs=-5deg.(heel to weather side)
号 , 昭 和 55 年 .
0.2
4) 藤 野 正 隆 ,桜 井 和 之:ス ト リ ッ プ 法 に よ る 横 揺 れ
0.0
0
波浪強制力の推定について, 日本造船学会論文
集 , 第 152 号 , 昭 和 57 年 .
図-4
5
10
λ/B
15
20
25
有効波傾斜係数(定傾斜方向の影響)