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OS8-Sat-PM1-6
第 14 回日本地震工学シンポジウム(2014)
耐震対策が施された鋼製下地在来天井の振動実験とシミュレーション
呂志倫1)、永野康行2)、辻岡静雄3) 、北村幸則4)
1) 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科、修士課程学生
e-mail : [email protected]
2) 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科、教授 博士(工学)
e-mail : [email protected]
3) 福井工業大学建築生活環境学科、教授 工博
e-mail : [email protected]
4) 関包スチール株式会社、執行役員
e-mail : [email protected]
要 約
本論文では、耐震対策が施された鋼製下地在来天井についての一連の振動実験を実施した
結果と、振動シミュレーションの概要を報告して、その振動特性、耐震補強を施した天井
の地震時の安全性を検証し、天井の耐震設計の基礎資料を得ることを目的としている。
キーワード: 吊り天井、在来天井、振動実験、シミュレーション
1.はじめに
従来の吊り天井では、地震時に上下・水平変形が生じ、そのため次々と落下する現象が注目されだし
たのは、特に2001年の芸予地震以降である。それを防ぐために天井の耐震対策としては、現在までのと
ころ大きく二つの形態が採用されている。一つは天井面と壁などの周辺との間に隙間を設けた上で、天
井面の揺れを抑制するためにブレースを設置する形態である。もう一つは、天井面を周辺に接するよう
に設置することで天井面の揺れを抑制しようとするものである。本論文での耐震対策とは前者を指す。
平成23年の東北地方太平洋沖地震では首都圏を含む極めて広い地域において吊り天井落下の被害が顕
著であった。この甚大な被害を受けて、建築物の天井脱落対策を規定するために建築基準法施行令が改
正され、それに基づき関連告示1)が公布され、日本建築学会では天井等の被構造材の落下事故防止ガイ
ドライン2)が策定された。それに伴い総合建設業各社は天井脱落被害に関する実験的研究を開始し出し
ている例えば3)~5)。それまでにも、建材業者等や筆者(第2、第3著者)等により鋼製天井下地を用いた吊り
天井の耐震性に関する研究は数多くなされている例えば6)、7)。
近年では稲井ら8)により大規模空間として体育館を想定した実験とそのシミュレーション解析も実施
され出しているもののこれらの研究の歴史はまだ浅い。
2013年1月にはE-ディフェンスにおいて実大規
模の、大規模空間に設置された吊り天井の脱落被害再現実験が実施され、構造体と非構造部材の応答特
性と天井の脱落被害メカニズムの解明に取り組まれている。これを受けて山本ら9)は体育館天井の落下
解析について報告しているがまだまだシミュレーションにおける課題は多い。
本論文では、耐震対策が施された鋼製下地在来天井についての振動実験を実施した結果と、振動シミ
ュレーションの概要を報告して、その振動特性、耐震補強を施した天井の地震時の安全性を検証し、天
井の耐震設計の基礎資料を得ることを目的としている。
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2.振動実験
2.1 試験装置及び試験架台
天井の耐震性能を確認するための試験装置として大型三次元振動台(日本国土開発株式会社技術セン
ター、所在地は神奈川県愛甲郡愛川町中津4036-1)を使用した。
2.2 天井試験体
在来天井は耐震仕様で、天井ふところ1.5m、天井の大きさは4.25mx3.6m、総面積15.3㎡である。写真1、
図1に試験体概要を示す。
鋼製下地については、各方向とも吊りボルトを900ピッチとして、 V字型の二対のブレースを配置し
た。野縁方向(X方向)のブレースは野縁受けを繋ぐ補強チャンネルにビス留めとした。また、ブレー
ス周辺の吊りボルトにはビス付ハンガーとした。ブレースの上部はブレース金具を、野縁と野縁受けの
結合には耐震クリップを用いた。下地材の野縁に石膏ボード(厚み12.5㎜)とロックウール不燃吸音天
井板マイトン(厚み12㎜)を貼った。また、照明機器相当する追加重量(3.1kg/㎡)を含めて天井の単
位重量を20kg/㎡程度に設定するため、 112枚の鋼板(大きさ250x275x0.8)を分散配置した。ちなみに、
総重量315kg(20.3kg/㎡に相当)となった。
写真 1 在来天井試験体
図 1 在来天井試験体
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2.3 加振波
加振波としてはホワイトノイズのランダム波形、1995年兵庫県南部地震(JMA神戸)と2011年東北地
方太平洋沖地震の各地震波形および正弦波形を用いた。入力地震動に対して、X方向はEW方向、Y方向
はNS方向に対応する。本論文では図2に示すJMA神戸波の40%入力及びその後の90%入力に対する結果を
示す。
図 2 入力地震動波形(出展:気象庁HP)
図 2 入力地震動波形(出展:気象庁HP)
試験体毎の試験順序を表1に示す。各天井についてランダム波を振動台に入力することで、架台、天井
の各方向の卓越振動数を評価した後、各地震波を入力した。その後、再びランダム波を各方向に入力し、
損傷による影響を検証した。本論文では、No.3及びNo.4の結果について記す。
表 1 試験一覧
2.4 計測方法
時刻歴データは、それぞれ振動台、架台および天井面の加速度、架台と天井面の相対変位、ブレース
の軸歪を測定した。本論文では、天井面の加速度を示す。
2.5 実験結果
実験結果を以下に記す。表2に固有振動数を示す。図3、図4にそれぞれ加速度応答・フーリエ振幅スペ
クトルをJMA神戸波の40%、90%入力に対する結果として示す。
表 2 固有振動数
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(cm/s2)
(s)
(Hz)
(cm/s2)
(s)
(Hz)
(cm/s2)
(s)
(Hz)
図 3 加速度応答・フーリエ振幅スペクトル(No.3 JMA 神戸 40%)
(cm/s2)
(s)
(Hz)
(cm/s2)
(s)
(Hz)
(cm/s2)
(s)
(Hz)
図 4 加速度応答・フーリエ振幅スペクトル(No.4 JMA 神戸 90%)
-2595-
3.振動シミュレーション
3.1 モデル化
本振動シミュレーションにおいて、吊りボルト、ブレース、ハンガー、野縁、野縁受け、クリップ等
の部材を縮約し簡易モデルを作成する。
モデル図を図 5 に示す。
作成された一質点系弾性モデルを用い、
鋼製下地在来天井の性能を解析する。
図 5 モデル図
3.2 解析諸元
一質点系弾性モデルに対して時刻歴応答解析を実施した。時刻歴応答解析は DynamicPRO(ユニオン
システム株式会社)を使用し、地震応答解析を実行した。解析に用いた入力地震波は、JMA 神戸波の
40%及び同 90%である。解析条件を表 3 に示す。
表 3 解析条件
重量
固有振動数
弾性係数
3.09kN
10.5Hz
13.71kN/cm
重量が総質量の 315kg を用い換算し、高さが試験体の仕様に従って設定した。固有振動数は、振動台
実験時測定の 10.5Hz を用いた(表 2 参照)
。また、固有周期(T)と弾性係数(k)・固有振動数(f)の関係式
(1)
(2)
により次式が得られる。
(3)
総質量と固有振動数を(3)式に代入し、弾性係数は 13.71kN/cm とした。
3.3 シミュレーション結果
減衰定数をパラメータとし、3.2 節に示した解析条件を用い、振動シミュレーションを行った結果を図
6 に示す。図 6 は、減衰定数をパラメトリックに変化させ、X 方向の最大加速度をプロットし、実験値
となる減衰定数を求めた図である。この図が示すように、JMA 神戸波が 40%の場合、減衰定数が 0.0039
で、JMA 神戸波 90%の場合、減衰定数が 0.015 のとき、解析における最大加速度が実験値とほぼ一致す
る。図 7 と図 8 は、減衰定数としてそれぞれ 0.0039、0.015 を採用したときの解析結果と実験結果との比
較図である。
-2596-
397
785
0.0039
図 6 減衰定数-最大加速度関係図(X 方向)
4.実験結果とシミュレーション結果の比較
加速度の実験結果と解析結果を、図 7 に JMA 神戸波 40%に対する場合を、図 8 に JMA 神戸波 90%に
対する場合をそれぞれ示す。X 方向については最大値があうように減衰定数を決定しているので当然よ
くあっているが、Y 方向について最大値はやや異なる値となっている。
図 7 加速度応答(JMA 神戸波 40%)
図 8 加速度応答(JMA 神戸波 90%)
図9に加速度と相対変位の関係を実験結果と解析仮定との比較として示す。入力レベルが40%の場合は
比較的良くあっているのに対して、90%では解析は弾性を仮定しているので比較的堅めの評価をしてい
ることが分かる。
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(cm/s2)
(cm/s2)
解析仮定
解析仮定
実験結果
実験結果
(cm)
(cm)
(cm/s2)
(cm/s2)
解析仮定
解析仮定
実験結果
実験結果
(cm)
(cm)
(a)No.3 JMA 神戸 40%
(b)No.4 JMA 神戸 90%
図 9 加速度と相対変位の関係(実験結果と解析仮定との比較)
5.おわりに
本論文では、耐震対策が施された鋼製下地在来天井についての振動実験を実施した結果と、振動シミ
ュレーションの概要を報告して、その振動特性、耐震補強を施した天井の地震時の安全性を検証し、天
井の耐震設計の基礎資料を得た。1質点系弾性モデルを採用した地震応答解析では、JMA神戸波40%レベ
ルでは精度良くシミュレーション出来ていたが、同90%レベルではやや精度が悪い。今後の課題として、
より詳細なモデルを導入することにより、地震動のレベルが大きくなった場合にも精度良く予測出来る
シミュレーションを実施することが挙げられる。さらに天井が落下する巨大レベルの地震動に対して、
耐震対策が施された在来天井の挙動シミュレーションについても今後の課題と言える。
謝 辞
本実験に際して、
和翔商事株式会社営業統括部 箭内賢二氏に協力いただいた。
ここに記し謝意を表す。
参考文献
1) 特定天井及び特定天井の構造耐力上安全な構造方法を定める件(平成25年国土交通省告示第771号)、
2013年
2) 日本建築学会:天井等の被構造材の落下事故防止ガイドライン、2012年
3) 奥田浩文、時野谷浩良:防振ゴムを用いた在来工法天井の水平方向動特性、大林組技術研究所報
No.76、2012年、pp.1-6
4) 鈴木健司、金子美香、半澤徹也、神原浩、櫻庭記彦:鋼製下地在来工法天井の耐震性能に関する実験
的研究、清水建設研究報告 第89号、2012年、pp.23-28
5) 佐藤良介、川崎健二郎、中本康、古川雄太、小澤潤治:耐震補強された鋼製下地在来工法天井におけ
る吊りボルトの耐震性、東急建設技術研究所報No.38、2012年度、pp.27-30
6) 小林俊夫、由利隆行、荒井智一:鋼製天井下地を用いた吊り天井の耐震性に関する研究、日本建築学
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会構造系論文集 第73巻630号、2008年、pp.1295-1302
7) 寺本翔史、永野康行、辻岡静雄:耐震設計された天井の水平加力実験、日本建築学会大会学術講演梗
概集(北陸)、2010年、pp.859-860
8) 稲井慎介、藤堂正喜、渡壁守正、石岡拓、桑泰彦:大規模空間を有する建築物の天井脱落被害に関す
る研究、戸田建設 技術研究報告 第36号、2010年、pp.7~7-8
9) 山本卓也、田川浩之、山下拓三、磯部大吾郎:ASI-Gauss法を用いた体育館天井の落下解析、計算工
学講演会論文集 Vol.19、2014年、4頁
Shake Table Test and Simulation of
Aseismic Steel-Furring Conventional Suspended Ceilings
LYU Zhilun 1), NAGANO Yasuyuki 2), TSUJIOKA Shizuo 3) and KITAMURA Yukinori 4)
1) Graduate student, Graduate School of Simulation Studies, University of Hyogo
2) Professor, Graduate School of Simulation Studies, University of Hyogo, Dr. Eng.
3) Professor, Department of Architecture and Environmental Engineering, Fukui Univ. of Technology, Dr. Eng.
4) KANPOH STEEL Co. Ltd., Corporate officer
ABSTRACT
To form the basis of the seismic design of the suspended ceilings, this paper compared the performance of the
aseismic steel-furring conventional suspended ceiling in the simulation with its performance in the shake table test
conducted in 2012. In the shake table test, the specimen was loaded with the seismic waves of Kobe (JMA, 1995)
and the sine waves in sequence. The dynamic characteristics of the ceiling have been verified by the test. In order
to provide a new approach to the seismic evaluation for aseismic ceilings, the mass-spring model was used to
inspect the seismic performance of the specimen as the basic study.
Keywords: Suspended ceilings, Conventional ceilings, Shake table test, Simulation
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