このたび『法律学研究』第51号が刊行される運びとなった。大学院の論

i
序
このたび『法律学研究』第51号が刊行される運びとなった。大学院の論
文集は数多く存在するが、
『法律学研究』の執筆者は学部生である。慶應
義塾大学法学部法律学科では、学生生活の拠点を三田キャンパスに移す3
年生から、多くの学生が研究会(ゼミナール)に所属し、本格的な学究活
動を始める。目まぐるしく変革する社会にあっても大学が大学たる所以は
「地道な研究」にほかならないとして、学生の発案により1970年に創刊号
が世に出て以来、連綿と受け継がれてきた『法律学研究』の歴史と伝統は、
学部生の段階から高度な学究活動が実践されてきたことの証と言えよう。
本号にも、学術論文集の名に恥じない、極めて優秀な論文が集まった。
論文を書くという機会は、ほとんどの学生にとって、おそらく初めての
経験であろう。論文は、執筆者の主体性がより強く求められる。テーマを
決める。資料の在り処を調べ、先行研究を読破する。問題の所在を明らか
にし、検討の視座を一所に置く。自己の見解を表明し、他者の批判に耳を
傾けながら検証する―。ときにはこれらの過程を行き来し、試行錯誤を
繰り返しながら、与えられたものではない、自らフィールドを見つけ、広
げる努力を執筆者は実践し続けるのである。
論文は、
「文章を書く」という一面においては、読書感想文とも、レポー
トとも変わらない。しかし、
「文章を書く」ことの難しさを痛感する。公
表するともなれば、常に他者の眼を意識しなければならない。ましてや、
言葉の意味に人一倍気を遣う法律学の世界ならば、なおさらであろう。そ
れでも臆することはない。挑戦を止めない姿勢こそが、学問にとって何よ
り肝要なことではなかろうか。
執筆者諸君の挑戦には、心から称賛の言葉を贈りたい。この経験を活か
す機会は、必ず訪れよう。これからも多くの学生が、
『法律学研究』に掲
載される栄誉を目指して、互いに切磋琢磨することを期待している。
なお、『法律学研究』では、本号より投稿規程を定め、応募手続・原稿
ii
提出手続に係る様式を整えた。前例踏襲を繰り返したことによって、か
えって曖昧になってしまったルールを整理し、そのことを確認するもので
ある。編集・刊行にあたっては、法律学科学習指導や法学研究編集委員会
が後見的な立場から支援するものの、基本的には、これまでと変わらず、
法律学科ゼミナール委員会を中心とした学生たちの自主性に委ねられる。
そして、いま、投稿数が着実に増える傾向にある中で、
『法律学研究』の
将来像を見据えた改善策を継続的に検討することが求められている。一連
のルールの整備は、積み重ねてきた歴史と伝統を尊重しながら、
『法律学
研究』の学問的水準をさらに向上させ、これからも安定的に刊行を続けて
いけるようにするために必要なこととご理解いただきたい。
平成25年12月
法学部准教授・法律学科学習指導 青木 淳一
iii
目 次
序…………………………………………………………… 青 木 淳 一
i
流通市場における不実開示による発行者の民事責任
………………………………………………………… 大 島 一 輝
1
債務引受・契約上の地位の移転における当事者意思
―過払金返還債務承継訴訟を介して―
………………………………………………………… 角 銅 進
29
併存的債務引受に関する理論的考察
―他の制度への「依存」からの脱却―
………………………………………………………… 久保田 理 貴
51
債権譲渡の社会的機能と「民法(債権関係)の改正に関する
中間試案」における債権譲渡規定の検討
………………………………………………………… 小 林 健 治
77
契約譲渡における要件の再検討
―契約譲渡の機能の拡大に基づいて―
………………………………………………………… 薦 田 淳 平
107
債務引受規定の立法に向けて
―決済における利用と問題点―
………………………………………………………… 坂 井 柚 香
137
iv
将来債権譲渡に関する総合的考察
―平成19年判決の残した課題―
…………………………………………… 青木 志穂・瀬戸宗一郎
161
前表 和宏
収益型担保としての集合物譲渡担保
―「物」の概念から再構成して―
…………………………………………… 内津みずほ・髙野 美弥
185
村井 惠悟
債務承継の現状と課題
―営業譲渡における預託金・過払金問題と民法改正中間試案から―
…………………………………………… 奥村 達朗・目崎 里奈
205
佐々木里奈・齊藤 健太
濫用的会社分割と詐害行為取消権
―今日の債権法改正をうけて―
…………………………………………… 東郷 慧・永井 恒佑
227
永田 絢子・陸田 優貴
開発法学2013 中国民族自治の実際とあるべき姿
…………………………………………… 鈴木章太郎・松下 研仁
249
開発法学2013 ベトナムの司法制度についての考察
…………………………………………… 首藤みさき・丸山 大貴
279
v
開発法学2013 カンボジア児童買春への法的アプローチの可能性
―私たちにできること―
…………………………………………… 揖斐 哉子・赤城 拓人
303
宮川 貴穂
開発法学2013 中国における開発政策
―都市化政策のための法改革―
…………………………………………… 木曽美由紀・高橋 里沙
337
山田あすか
企業合併と国際私法
………………………………………………………… 北 澤 研 究 会 371
特許権侵害の準拠法と知的財産法における属地主義原則の妥当性
………………………………………………………… 北 澤 研 究 会 399
有期労働契約の更新における改正労働契約法の法的課題
………………………………………………………… 内 藤 研 究 会 423
帰国支援という名の強制退去
―諸外国の制度との比較から―
………………………………………………………… 前 田 研 究 会 449
資 料
平成25年度 関東学生法律討論会 論旨………………………………… 475
第 1 回 刑 法……………………………………… 井 上 武 彦
477
平成25年度 法律学科ゼミナール委員会活動報告……………………… 483