全国お食事券商標事件 - Hiroe and Associates

岐阜大学産官学連携推進本部 知的財産部門主催
知的財産セミナー
事例に学ぶ知的財産
『全国共通お食事券』商標事件
日時
平成27年6月12日(金) 16:00~17:00
場所
岐阜大学 研究推進・社会連携機構 1階ミーティングルーム
講師
岐阜大学非常勤講師
特許業務法人 広江アソシエイツ特許事務所
所長 弁理士 廣江政典
HIROE
AND
ASSOCIATES
特許業務法人
広江アソシエイツ特許事務所
岐阜市宇佐3丁目4-3 〒500-8368
Tel 058-276-2122 Fax 058-276-7011
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Website http://www.hiroe.co.jp/
知財高裁 平成26年(行ケ)第10067号
取消請求事件 平成26年10月30日判決言渡
原告
株式会社ジェフグルメカード



平成4年8月に外食産業の業界団体である一般財団法人日本フードサービス協会
とその加盟社及び金融機関の出資により設立された株式会社である。
標準文字商標として「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」を商標登録している
(登録番号第5489803号)。
「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」は、券面額500円の商品券であり平成4
年12月1日から発売が開始され、平成24年3月現在での総発行枚数は約1億44
13万枚であり、全国の3万を超える店舗で利用できる。
1
被告
株式会社ぐるなび



平成元年10月に設立された株式会社であり、飲食店情報検索サイト「ぐるなび」
の運営を主要な業務としている。
「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」の文字(標準文字)からなる商標につ
いて、指定役務を第36類「食事券の発行」として商標登録(平成23年7月12日登
録出願、同年12月22日設定登録。登録番号5459425号)を受けた商標権者で
ある。
「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」は、券面額500円、1000円、5000
円及び1万円の4種類の商品券であり平成23年9月15日から販売が開始され、
全国の1万3900を超える店舗で利用できる。
2
特許庁における手続の経緯
原告(株)ジェフグルメカードは、平成25年2月28日、特許庁に対し、本件商標「ぐるなびギフトカード全
国共通お食事券」の登録の無効を求める審判を請求し、特許庁は、上記請求を無効2013-890011
号事件として審理をした結果、平成26年2月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本を、同月17日、原告に送達した。
審決理由の要旨
原告(株)ジェフグルメカードが本件商標の登録の無効理由として引用する商標は、原告が、役務「ギ
フトカード(前払式証票)の発行」について使用している「全国共通お食事券」の文字からなるものであ
るところ、この商標は、「加盟契約をしている全国の飲食店において食事の提供を受けることができる
前払式証票の発行」という役務との関係で自他役務の識別機能を果たし得ない語であり、原告の使用
によっても、原告の取扱いに係る本件役務を表すものとして一般に広く認識されているとの事情は認
められないから、本件商標には、商標法4条1項15号、同項10号又は同項19号違反は認められない
し、また、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めることもできないから、同項7号
違反も認められず、同法46条1項により無効とすることはできない、というものである。
商標権第4条第1項
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
7号
10号
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識さ
れている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれ
らに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
15号 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前
号までに掲げるものを除く。)
19号 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における
需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的
(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以
下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
商標権第46条
商標登録が第4条第1項の規定に違反してされた時ときは、その商標登録を無効にすること
について審判を請求することができる。
3
争点
(1) 引用商標「全国共通お食事券」は識別力のある商標かどうか。(識別性)
(2) 引用商標「全国共通お食事券」は原告(株)ジェフグルメカードの使用により原告の役務を表すも
のとして一般に広く認識されているかどうか。(周知性)
(3) 本件登録商標「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」は公の秩序又は善良の風俗を害す
るおそれがある商標かどうか。
争点1 引用商標「全国共通お食事券」は識別力のある商標かどうか。(識別性)
についての原告の主張
・
「全国共通お食事券」の語は、暗示的な語であるとしても、直接的かつ具体的に役務の質を記
述し、説明する語ではないというべきである。
・
商標法3条1項3号は、その役務の質、その役務の提供の用に供する物を普通に用いられる方
法で表示する標章のみからなる商標は識別力がないと規定しているが、商標審査基準において
も、指定役務の質等を「間接的」に表示する商標は、同号に該当しないとの判断手法が示されて
おり、審決取消訴訟でも同手法に従った判断がされている。
・
なお、商標法3条1項3号については、独占適応力を欠く商標について商標登録の要件を欠くと
されているが、「全国共通お食事券」の語は、「全国」「共通」「食事」「券」の四つの語の順番を入
れ替えて用いたり、また、「食事券」の語を「飲食店食事券」や「レストラン食事券」に変えれば代
替可能であり、更には、「全国共通外食券」、「全国外食店共通食事券」、「全国共通グルメ券」な
ど、種々の代替可能な名称が存在するから、独占適応性を欠くような状況にはない。
・
自他役務の識別力を有するか否かの判断は、「全国共通お食事券」の表示が、原告の出所識
別標識として機能しているか、という点からなされるべきである。そして、引用商標は、上記のとお
りの態様で約20年にもわたり、継続して使用されてきた結果、外食産業のギフトカードの分野で
原告商品を指称する又は原告商品と関係がある表示としての出所識別標識として機能するに至
っており、「全国共通お食事券」という語の生来的な自他商品・役務識別機能とも相俟って、原告
の業務に係る一つの表示として認識されている。
・
したがって、「全国共通お食事券」の表示(引用商標)は、自他商品・役務識別力を欠く商標では
なく、独占適応性を欠く商標でもないから、審決は、前提事項である「全国共通お食事券」の語の
識別性の認定判断を誤ったものである。
4
争点1 引用商標「全国共通お食事券」は識別力のある商標かどうか。(識別性)
についての被告の主張
・
原告商品が往々にして、「ジェフグルメカード」単独で表記されてきた実態があるのに対し、「全
国共通お食事券」の単独表記の実態は存在せず、両表示が併記されてきた事実は、「全国共通
お食事券」の部分が単独では自他識別機能を持たないことの端的な証左である。
争点1 引用商標「全国共通お食事券」は識別力のある商標かどうか。(識別性)
についての裁判所の判断

「全国共通お食事券」のうち、「全国共通」は「全国で共通して」程度の意味と解されるし、
「お食事券」も、社会通念上、「取扱店で利用できる食事券」程度の意味と解されるから、
「全国共通お食事券」は、上記の取引者及び需要者からみると、「全国で共通して取扱店で
利用できる食事券」程度の意味で認識される語であると認められる。したがって、同語を、
「全国で共通して取扱店で利用できる食事券」という商品について使用すれば、これに接す
る取引者及び需要者をして、商品の品質を記述的に表示したものと認識させるものといえ
るし、そのような食事券の発行という役務について使用すれば、これに接する需要者をして、
役務の質を記述的に表示したものと認識させるものといえる。

そうすると、「全国共通お食事券」という語は、上記のような商品又は役務との関係では、
これに接する取引者及び需要者にその出所を表示するものとは認識されないものといえる
から、同語は、これらの商品又は役務についての自他識別標識としての機能を果たし得な
いものである。
争点2 引用商標「全国共通お食事券」は原告(株)ジェフグルメカードの使用により
原告の役務を表すものとして一般に広く認識されているかどうか。(周知性)
についての原告の主張
・
実際の取引の現場では、原告商品と被告の発行に係るギフトカードを取り違える事態が生じて
いる。原告の注意喚起にもかかわらず、このような錯誤が生じている要因は、両商品が「全国共
通お食事券」という名称で同じだからであり、現場では、「全国共通お食事券」は、原告の商品名
という位置付けで捉えられ、原告商品の加盟社やその従業員にあっては、「全国共通お食事券」
とは、原告商品を指すという認識が既に出来上がっていたからであり、引用商標の認知度を示し
ている。
引用商標は、遅くとも平成23年7月12日には、原告商品を指称する出所識別標識として認識さ
れるに至っていたものである。
5
争点2 引用商標「全国共通お食事券」は原告(株)ジェフグルメカードの使用により
原告の役務を表すものとして一般に広く認識されているかどうか。(周知性)
についての被告の主張
・
原告商品の名称は
「ジェフグルメカード」
「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」
「全国共通お食事券 ジェフグルメカード」
であって、
「全国共通お食事券」
ではない。
争点2 引用商標「全国共通お食事券」は原告(株)ジェフグルメカードの使用により
原告の役務を表すものとして一般に広く認識されているかどうか。(周知性)
についての裁判所の判断
・
原告商品を指し示す表示として、これまで「全国共通お食事券」という語が単独で使用されたこ
とはなく、同語は、常に「ジェフグルメカード」という語と併記されて使用されてきたものである(原
告も争っていない。)
・
「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」が併記されている表示を見た取引者及び需要者と
しては、「全国共通お食事券」とは、原告商品の記述的、説明的な表示であり、「ジェフグルメカー
ド」の表示の方が原告商品の出所を示すものと認識するものと認められる。
したがって、「全国共通お食事券」という表示を使用した商品券が他に存在したとは認められない
ことを考慮しても、取引者及び需要者が、「全国共通お食事券」という語が単独で原告商品ないし
これを発行するという原告の役務についての出所を示す表示であると認識するものとは認められ
ない。
・
・
以上によれば、引用商標は、本件商標の出願時に、原告商品の発行、すなわち「全国で共通し
て取扱店で利用できる食事券の発行」という原告の役務の出所を表示するものとして、取引者及
び需要者に認識されていたとは認められない。
6
争点3 本件登録商標「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」は公の秩序又
は善良の風俗を害するおそれがある商標かどうかについての原告の主張
・
本件商標は、その出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の
予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるから、商標法4条1項7号
に該当するのに、これに該当しないとの審決の判断は誤っている。
争点3 本件登録商標「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」は公の秩序又
は善良の風俗を害するおそれがある商標かどうかについての被告の主張

被告は、食事券の発行という役務の質を取引者・需要者にわかりやすく伝えるために「全国共通お
食事券」という表現を選んだ上で、その出所を明らかにするために「ぐるなびギフトカード」との表示を
併記しているのであって、「全国共通お食事券」という語を「不正の目的」をもって使用しているもので
はない。また、原告商品と被告商品とは、「ジェフグルメカード」と「ぐるなびギフトカード」という表示に
より明確に区別できる。また、「全国共通お食事券」の表示に化体した「原告の信用」など存在せず、
被告の行為が原告の信用を低下させることはないから、原告の主張には理由がない。
争点3 本件登録商標「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」は公の秩序又
は善良の風俗を害するおそれがある商標かどうかについての裁判所の判断

原告の主張は、引用商標「全国共通お食事券」に原告の信用が化体されており、被告は、引用商
標と同一の表示を含む本件商標を出願、使用することにより原告の信用を借用、ただ乗りしようとし
ているとの理解を前提とするものである。しかし、引用商標が原告の役務を表示するものとして取引
者及び需要者の間に認識されているとは認められないのであるから、引用商標に原告の信用が化体
されているということはできず、引用商標を含む本件商標を出願することが、社会的相当性を欠くもの
であるとも、本件商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するとも認められない。
したがって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとの審決の判断に誤りはなく、原告の主
張を採用することはできない。

以上のとおり、原告の各取消事由の主張にはいずれも理由がなく、原告の本件請求は理由がない
から、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
7
「全国共通お食事券」不正競争防止法事件
・
原告(株)ジェフグルメカードが被告(株)ぐるなびに対して、不正競争防止法に基づき「全国共通
お食事券」なる表示の使用の差止めと1000万円の損害賠償を求めた事件。
・
第一審 東京地方裁判所 平成25年(ワ)第1062号 平成26年1月24日判決も控訴審の知
財高裁 平成26年(ネ)第10024号 平成26年10月30日判決も原告の訴えを棄却した。
・
判決理由の要旨は、『原告の商品等表示として単独で「全国共通お食事券」の表示の使用があっ
たとは認められず、原告の商品等表示としては、「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」、「全
国共通お食事券 ジェフグルメカード」が使用されていたと認められるから、原告商品を購入、取
得した取引者及び一般消費者は、原告商品の識別力を有する標章としては、「ジェフグルメカー
ド」をまず認識するのが通常であると解される。
したがって、「全国共通お食事券」の名称が、「ジェフグルメカード」の名称とは別に、原告主張
の意味及び品質を有するものとして識別力を有するというためには、取引者及び一般消費者に対
してその認識を促すような特別の宣伝広告等がされ、取引者及び一般消費者が広くそのことを認
識する必要があるというべきである。』
8
H1.10
(株)ぐるなび 設立
H4.8
(株)ジェフグルメカード 設立
H4.12.1
ジェフグルメカード 全国共通お食事券 発売開始
H23.7.21
ぐるなびギフトカード
全国共通お食事券 出願
H23.9.15
「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」 販売開始
H23.10.13
「全国共通お食事券」を(株)ジェフグルメカードが出願
H23.12.22
同上 登録
H24.3
1 億 4413 万枚の「ジェフグルメカード 全国お食事券」発行済
加盟店 3 万 54
H24.6.11
「全国共通お食事券」 拒絶査定
H25.2.1
不正競争防止法に基づく損害賠償請求訴訟提起
H25.2.28
無効審判請求
H26.1.24
損害賠償請求訴訟 棄却判決
H26.2.7
無効審判不成立
H26.10.30
損害賠償請求訴訟 控訴棄却
以上
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