平成 27 年 1 月 28 日放送 「妊娠中の薬について」 総合病院 土浦協同病院 薬剤部 審査役薬剤主任 三村 敦美 司会:妊娠中に薬を飲むと赤ちゃんにどのような影響がでるのか教えてください。 三村:薬を飲む時期が問題となります。その時期により赤ちゃんへの影響が違ってきます。 妊娠初期は赤ちゃんの体に何らかの異常が生じる催奇形性に注意が必要であり、妊 娠中期以降では赤ちゃんの育ち方や機能に影響が出る胎児毒性に注意が必要です。 司会:赤ちゃんの体に異常がでる心配な時期とは妊娠初期のどの時期ですか? 三村:赤ちゃんの体に異常が出やすい時期は妊娠 2∼4 ヶ月です。現在では週数で表します ので妊娠 4 週∼15 週末までとなります。特に注意が必要な時期は妊娠 2 ヶ月です。 月経が遅れて妊娠に気づく頃は妊娠 2 ヶ月に入りますので、最も注意が必要です。 妊娠を希望されている女性は薬を飲む前に自分が妊娠をしている可能性がないかよ く考えて下さい。 司会:妊婦さんと分かっていて処方される薬は安全と言えるのですか? 三村:産婦人科であれば妊娠の継続のために必要と判断される薬が処方されると思われま す。長年使用されてきて、より安全性が高く、リスクが少ない薬が処方されます。 薬を使用する場合は産婦人科医に相談されることをお勧めします。 司会:赤ちゃんの体に何らかの異常が生じる催奇形性の確率はどのくらいですか? 三村:薬など飲んでいない女性でも小さな異常も含めて 3∼5%に出現すると言われていま す。これは 100 人のうち 3∼5 人の確率になります。この確率はすべての妊婦さんの 共通のリスクとなります。原因はほとんど不明ですが薬が影響する確率としては 10000 人のうち 2 人ほどの確率となり、薬の影響はかなり少ないと言えます。 司会:次に赤ちゃんの発育などに心配な時期はどの時期ですか? 三村:妊娠 5 ヶ月(妊娠週数で言いますと 16 週以降)から分娩までとなります。 司会:この時期に催奇形性は心配ないのですか? 三村:赤ちゃんの器官の形成が終了する時期になりますので、催奇形性は心配ありません。 ただ、分娩前に飲む薬によっては出産後赤ちゃんの適応障害、離脱症状などの影響 1 が出ることもあります。一概に妊娠後期だからと言って安心とは言えません。 司会:では妊娠に気づく前に薬を飲んでしまった場合、薬の影響はあるのですか? 三村:月経が予定日より遅れて妊娠と気づく頃は妊娠 2 ヶ月となります。これ以前に飲ん だ薬の影響は妊娠が成立しない時期であり、影響があるとすれば妊娠までは至らな いため、問題ないことが多いと考えられます。月経が不順な女性は妊娠の週数が確 実ではないこともあります。 司会:薬を飲んでしまって、不安がある場合はどうしたらいいですか? 三村:もし、不安があれば早めに産婦人科医に相談されるといいと思います。どの時期に 何の薬を飲んだのかをお話しください。薬の説明書には妊娠中は避けてくださいと 書かれている薬でもその理由が大切となります。ほとんどの薬では通常の量を数回 服用しただけではすべての妊婦さんの共通のリスクと変わらず、問題ないことが多 いと考えられています。 司会:慢性の病気で、すでに継続して薬を飲んでいる女性が妊娠を希望する場合にはどう したらいいですか? 三村:慢性の病気をお持ちの女性はその病気を診てもらっている医師に妊娠前に、妊娠中 飲み続けていい薬かどうかを聞いておいてください。もし、妊娠中には避けたほう がいい薬,慎重に考えた方がいい薬であれば妊娠する前に他の薬に変更をして病気 のコントロールをしてから妊娠を計画されることをお勧めします。 司会:飲んでいる薬がある場合は病気のコントロールも大切という事ですね。もし、薬を 中断するとどういう影響が出るのですか? 三村:慢性の病気をお持ちの女性の中には妊娠したら薬は飲んではいけないと思い、自己 判断で中止してしまうケースも少なくありません。飲んでいる薬を中断することに より病状が悪化し薬の追加、入院での治療が必要になる場合もあります。お母さん が苦しい思いをするときは赤ちゃんにも影響すると思ってください。妊娠前に正し い知識を得ることで赤ちゃんへの影響も少なくなります。自己判断で中止すること は避けていただきたいと思います。 司会:数年前から妊婦さんは葉酸を摂ると言いと聞きますがその理由を教えてください。 三村:平成 13 年からは母子手帳に葉酸の摂取について記載されています。 二分脊椎などの神経管閉塞障害の防止のために葉酸をはじめビタミンなどを多く含 む栄養のバランスのとれた食事を推奨しています。 2 司会:葉酸を飲み始める時期はいつが一番いいのですか? 三村:飲みはじめの時期は妊娠してからではなく、妊娠をする 2∼3 ヶ月前より妊娠 4 ヶ月 までの期間が最適と言われています。サプリメントで葉酸として 0.4∼0.5mgほど の量を飲むことで予防になります。 司会:妊娠中、サプリメントは飲んでいても影響はありませんか? 三村:ビタミン剤でも水溶性ビタミンのビタミンB、Cは問題ありませんが、脂溶性ビタ ミンのビタミンAの摂取の用量が多くなりますと頭蓋神経に影響が出る場合があり ます。ビタミンAは 5000 単位を超えないようにしてください。何事も程度が大切で す。サプリメントを数種類合わせて飲む方は重複しないように注意してください。 司会:妊娠中、市販の薬を使用する場合注意することはありますか? 三村:妊娠中はできれば病院におかかり下さい。軟膏、点鼻薬、点眼薬、湿布等外用薬は 問題なく使用することができるものが多いのですが最近問題になりました湿布でも 注意が必要なものもあります。病院で処方される薬の成分が入った湿布は成分によ り妊娠後期に注意が必要となりますので、市販薬を購入する場合は薬局薬剤師に相 談することをお勧めします。 司会:妊娠中、かぜやインフルエンザ感染について気を付けることがあれば教えてくださ い。 三村:薬を飲むことは良くないと考え、予防のためにヨードのうがい薬を毎日使う方がい ます。ヨードは胎盤を通過しますので赤ちゃんの甲状腺に影響が出ることが知られ ています。感染予防には、手洗いは当然ですが、水、お茶でのうがいをお勧めしま す。治療でも極力ヨードの入ったうがい薬は避けられた方がいいと思います。また、 市販のうがい薬でスプレー式のうがい薬はヨードの用量が多く入っていますので注 意が必要になります。 司会:妊娠中のインフルエンザワクチンの接種について教えてください。 三村:インフルエンザワクチンは不活化ワクチンで、毒性がありませんので接種は安全と 考えられています。 司会:妊娠のどの時期でも受けることができますか? 三村:妊娠初期には流産の可能性もあるという意見もありますので、産婦人科医に相談す るといいと思われます。 3 司会:もし、かかってしまったらインフルエンザの薬は使用することができますか? 三村:抗インフルエンザ薬は使用可能です。流産や先天異常の発症率は通常と変わらず赤 ちゃんへの影響はないとされています。 4
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