地域の魅力を発信する-宮津市養老地域のエコミュージアムマップの検討

地域の魅力を発信する-宮津市養老地域のエコミュージアムマップの検討
三橋研究室 足立英里
1.研究の背景と目的
現在、都市と農村にはそれぞれの悩みがある。本研究
対象地域である京都府宮津市養老地区は、日々少子高齢
化が進み、市町村合併を目前にひかえている。農業と漁
業の村であるこの集落には、若い一家を支えるだけの収
入が見込める仕事は極めて少ない。町の未来を担える若
者が都市へと流れ、地域の活力低下は深刻化するばかり
である。一方、都市には、自然が少なく人口密度の高い
空間で日々仕事とストレスに追われ、癒しを求めている
たくさんの人たちであふれている。
都市と農村におけるこれらの問題に対して、その解決
にデザインの力が活かされないか。その観点から、エコ
ミュージアムにおける都市と農村の交流という視点に立
ち、これらの問題を解決する方法として、エコミュージ
アムマップについて検討した。
「観光」とは「地域の光や価値を観ること」であり、
「エコミュージアム」とは「地域がまるごと、生きた博
物館ということ」である。
本研究では、特に、都市住民が養老地域を訪れ、地域
の自然や生活文化、そして地域の人びとと触れあい、学
ぶことのできる「体験学習観光」という視点から、エコ
ミュージアムのあり方を考え、その魅力・価値を発信す
るためのエコミュージアムマップの制作を検討する。
地域住民にとっては日常の生活であり、普段見慣れた
自然でも、都市住民にとっては、すでに身の回りで失わ
れてしまった貴重な生活文化であり、かけがえのない自
然環境である場合が少なくない。エコミュージアムによ
る都市と農村の交流を通して、地域の魅力を発見し、そ
の魅力を共に学び、たのしむことのできる情報媒体とし
てのエコミュージアムマップを提案したい。
2.事例調査
養老地区のエコミュージアム研究のため、洗練された
たのしみ方のシナリオを考案すべく、他地域の先進的エ
コツアーに参加して、たのしみ方や組織の運営方法など
について調査した。
1)『京北町片波川流域自然観察ガイドウォーク』(京
都府京北町/6.15)に参加。林業で栄える地域。巨大杉
の生息する自然環境保全地域内をインストラクターと回
る山歩きツアー。企画、運営について聞き取り調査を行
った。
2)『養老海釣り祭り』(養老/9.28)に参加。地域住
民の指導の下、釣り、地引き網体験、柿渋染めづくり、
漁師汁を食すなどのイベント。地域住民と都市住民との
交流も果たせる。養老の豊かな自然や生活文化資源を再
発見した。
3)『湖北田園空間博物館大会』(滋賀県長浜市、高月
町/10.10∼11)
、『エコミュージアム学会』に参加。農
業用水を活かしたまちづくりについて学ぶ。地域住民と
交流し、聞き取り調査。エコミュージアムを通してのま
ちづくり会議に参加した。
3.エコミュージアムマップのデザインコンセプト
養老という海があり山があり川もある、広く、多様な
地形要素を有する地域が本研究の対象地域であること、
実際にこのマップが今後利用されることなどを考慮し、
現地調査に基づいた、正確なマップ制作を行った。しか
も、単に養老地域の地理的情報を伝えるだけの既存のマ
ップとは異なり、地域の人びとが生活を営み、生活文化
をはぐくんできた証を地図上に表現し、都市住民との交
流の場として、住民の顔が、地域の色が見えるマップづ
くりをコンセプトとした。
4.制作のプロセス
養老地域の魅力あふれる資源=光を、発掘し採集する。
デザインサーベイ 2001 年、2003 年の調査・収集情報、
三橋研究室の過去6年間の養老、奥波見地域のデザイン
サーベイによる蓄積情報、養老住民の方がたからの聞き
取りにおける調査結果・収集内容等から、集まった資源
=光の「点」を、たのしみ方の6つのフェーズ=作る、
学ぶ、見る、聞く、遊ぶ、汗する、に分類し、エコミュ
ージアムマップ上に表現した。また、特記すべき資源=
光の事例は、カード形式に整理し表現した。
それぞれの資源=「光」の点をつなぎ、四季のめぐり
や参加者の志向と対応させながら、エコミュージアムの
たのしみ方のシナリオを検討した。
5.制作の内容
1)養老の魅力マップ
養老のエコミュージアムマップを作成し、39 ケ所の
養老の魅力スポットを挙げた。そのスポットでのた
のしみ方をそれぞれ写真と6つのフェーズ(作る、
学ぶ、見る、聞く、遊ぶ、汗する)に色分けして表
示した。また、奥波見水マップを作成した。
2)養老の魅力カード
聞き取り調査による養老の 18 の資源について、生
図1 養老の魅力マップ
活文化や魅力を写真とより詳しい説明でもって紹介
した。
3)たのしみ方シナリオ
午前 10 時から翌日昼過ぎまでの 1 泊2日のコース
設定になっている。宿泊施設は、岩ヶ鼻、奥波見、
中波見の地球デザインスクールセミナーハウスとし
地域の方々との交流、食材提供などを前提とした。
養老マップ、時間軸に沿ったたのしみ方のフローチ
ャート、魅力スポットでのたのしみ方を写真ととも
に解説した。
『海の生活文化を学ぶ』
:
岩ヶ鼻、長江の海側の地域をまわるコース。海で生活
文化、食文化を地域住民との交流を通じて学ぶ。
『山の生活文化を学ぶ』
:
奥波見をまわり、山での生活文化をたずねる。ぞうり
づくりや柿渋染め体験で地域の住民といっしょにもの
づくりを行い交流を深める。
『海のなりわいを学ぶ』
:
漁業体験や港まつりに参加し、漁師さんの仕事を生で
学ぶ。また、海を一望できる古城展望公園で山歩きも
楽しむ。
『実り豊かな秋を堪能する(1)』
:
海でのイカ釣り、山での稲刈り体験で汗し、秋の味も
堪能する。2日目には、山側の梅ヶ谷から海側の長江
まで、絶景をたのしみながら歩く。
4)養老 Sound Map
デザインサーベイ 2003 において「波の音」「ウグイ
スの鳴き声」「犀川の音」「奥波見の音」などを採集
した。これらの聴覚情報によって、視覚世界では感じ
られない養老の魅力を堪能してもらう。
6.エコミュージアムマップへの期待
「都市の住民と農村の住民が交流し、共にたのしみた
い。活気を失った農村にどこにも無いここにしかない生
活文化や自然のすばらしさを知ってほしい。そして、も
っと誇りに感じてほしい」という想いから、本研究を進
めてきた。本研究制作のエコミュージアムマップが養老
地域の有する潜在的な資源=光をより輝かせるための一
助となり、地域住民と都市住民との交流、たのしみや癒
しの旅の契機になることを期待したい。
図2 たのしみ方シナリオ
参考文献
・
「片波川減流域自然観察ガイドウォーク」パンフレット、2003
・
「湖北田園空間博物館大会」パンフレット、2003
・
「エコミュージアム 理念と活動 世界と日本の最新事例集」
、日本エコ
ミュージアム研究会偏、1997
・
「エコミュージアム研究 No.7」
、日本エコミュージアム研究会編、2002
・
「じょんのびの里地区振興計画 報告書」
、新潟県高柳町、1996
・「雨森発! 第一集」
、雨森まちづくり委員会、2003
・「雨森発! 第二集」
、雨森まちづくり委員会、2003
・「観光白書」
、国土交通省偏、2002