世界のストラクチャード・ファイナンス 案件における特別目的会社の倒産

STRUCTURED FINANCE
JANUARY 29, 2015
CROSS SECTOR
RATING
METHODOLOGY
世界のストラクチャード・ファイナンス
案件における特別目的会社の倒産
隔離の基準
Bankruptcy Remoteness Criteria for
Special Purpose Entities in Global
Structured Finance Transactions
はじめに
目次:
はじめに
1
SPE 倒産の潜在的影響
2
倒産隔離の基準
2
SPE に対する強制的な倒産法適用
申請に関連した保護の仕組み
3
SPE による任意の倒産法適用申請に
対する保護の特徴
5
実体的連結に関連した保護の特徴
6
SPE が倒産隔離されていない場合の
7
格付への影響の評価
コンタクト:
東京
03.5408.4210
特別目的会社(Special Purpose Entity, 以下「SPE」)が倒産隔離されていれば、
1)SPEによる、あるいはSPEに対する倒産法適用申請 1、または 2)実体的連結
(倒産した関連会社とSPEの資産・負債の統合)が行われる可能性は十分に低く、
格付には影響を及ぼさない。
ムーディーズは、多数の基準に照らして、SPE が倒産隔離されているか否かを
検討する。こうした多数の基準は、それぞれの基準による保護の特徴が、倒産
法適用申請の種類(強制か任意か)に関わるものなのか、あるいは実体的連結
のリスクに関わるものなのかによって分類される。
SPE が倒産隔離されていないと判断した場合は、潜在的な倒産リスクが格付に
影響を及ぼすか否かを検討する。その影響は、倒産の可能性と、ノート保有者
が被りうるネガティブな影響から、ケース・バイ・ケースで評価する。
This rating methodology is based on Moody’s Investors Service’s rating methodology titled “Bankruptcy Remoteness
Criteria for Special Purpose Entities in Global Structured Finance Transactions (October 7, 2014).” The rating
approach described in the Moody’s Investors Service report was adopted on January 29, 2015.
ムーディーズ SF ジャパン株式会社は、金融商品取引法
の下で金融庁に登録された信用格付業者であるが、
NRSRO(米国 SEC の登録を受けた格付機関)ではない。
従って、ムーディーズ SF ジャパン株式会社の信用格付
は、日本で登録された信用格付業者の信用格付である
が、NRSRO の信用格付ではない。
1
本稿における「倒産法適用申請」および「倒産」は、いずれかの司法管轄で倒産手続きまたは同様の
手続き(プレパッケージ型倒産法適用申請等)が円滑に開始されたことをさす。
ムーディーズ SF ジャパン株式会社
STRUCTURED FINANCE
SPE 倒産の潜在的影響
SPE の倒産は、適用される倒産法や、当該案件のストラクチャー、取引を規定する契約書類
の内容に応じて、ノート保有者に様々なマイナスの影響をもたらしうる。
多くの司法管轄では、倒産手続きが開始されると、債権者への支払が停止され、債権者によ
る強制執行(倒産会社の担保差し押さえなど)が制約される。その結果、SPE が倒産すれば、
ノートの保有者に対する期日通りの支払が阻害される。
一部の司法管轄では、倒産法上、倒産した会社の債務の条件変更(満期延長、金利引き下
げ、元本減額等)が認められている。SPE の債務に関するそうした変更は、ノート保有者に損
失をもたらす可能性がある。
SPE は通常、スワップ契約、サービシング契約、流動性ファシリティ契約などのサポート契約を
締結している。SPE による、あるいは SPE に対する倒産法の適用申請は通常、これらの契約
上のデフォルト事由に該当し、サポート提供者は債務履行を停止することが出来る。SPE のサ
ポート契約の終了は、ノート保有者への全額・期日通りの支払を行う能力に大きく影響を与え
うる。
ノート保有者は、適用される倒産法が、1)サポート契約の(自動的または破産管財人の判断に
よる)終了を規定している場合、2)重要なストラクチャー上の特徴(優先劣後および担保に関
する取り決め)を無効とする場合、あるいは 3)ノート保有者の同意なく SPE の資産を清算する
ことが出来るとしている場合には、損失を被ることもある。
また、SPE に対する倒産法手続きの開始は通常、ノートのデフォルト事由に該当する。ノート
のデフォルト事由に該当すれば、受託者は自らの裁量またはシニア・ノート保有者の裁量によ
り、ノートに関する強制執行通知を提出することが出来る。ノートの強制執行の影響は次のよう
なものとなる。
»
大幅に低い価格での資産の売却:強制執行通知が提出されると、SPEの資産は売却され
る可能性があり、ノート保有者は時価による損失を被りうる 2。
»
強制執行後の支払順位への移行:強制執行後、キャッシュ・フローの配分は通常変更さ
れ、より優先順位の高いノートが全額償還されるまでジュニア・ノートやメザニン・ノートの
保有者への元利払いが行われなくなる。強制執行に伴い、特定クラスのノートのサブ・クラ
ス間での、元本キャッシュ・フローの配分が変更されることもある。
倒産隔離の基準
倒産法の適用申請は強制の場合と任意の場合がある。強制申請は債権者などの第三者が
行い、任意申請は債務者自身が行う。ムーディーズは、倒産隔離の基準を、倒産法適用申請
の種類の違いに伴う保護の仕組みと、実体的連結のリスクに対する保護の仕組みとに分けて
設けている 3。
本件は信用格付付与の公表で
はありません。文中にて言及され
ている信用格付については、
ムーディーズのウェブサイト
(www.moodys.com)の発行体の
ページの Ratings タブで、最新の
格付付与に関する情報および
格付推移をご参照ください。
2
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シニア・ノートの保有者は通常、強制執行プロセスをコントロール出来、自らが損失を被らないように計らうため、時価損
失リスクは劣後ノートの保有者に最も影響を与える。
3
個々の案件では、倒産に対して代替的な保護が得られる場合があり、本稿に述べる保護的な特徴がなくても倒産隔離
がなされることがある。そうした代替的な保護の有効性についてはケース・バイ・ケースで検討する。
クロス・セクター格付手法:世界のストラクチャード・ファイナンス案件における特別目的会社の倒産隔離の基準
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SPE に対する強制的な倒産法適用申請に関連した保護の仕組み
ムーディーズは通常、以下のa)からf)までの基準を満たせば、SPEに対する外部債権者 4から
の強制的な倒産法適用申請がなされることはないと想定している。
a) 業務内容が適切に制限されている。
SPE に認められている業務は、(i)設立に関する書類、(ii)取引を規定する契約文書にお
けるネガティブ・コベナンツ、または(iii)法律によって制約されうる。主に次のような制約が
ある。
»
取引を規定する契約文書に想定されているもの以外の業務(何らかの債務を負うこと
も含む)を行わない。
»
他の事業体との合併を行わない。
»
実体資産の保有または占有を行わない。
»
子会社をもたない。
»
従業員をもたない。
b) 出資、運営ともに独立している。
SPEの出資者および役員が、案件当事者から十分に独立しており、SPEの業務に大きな
経済的利害をもたなければ、a)に挙げた制約に抵触するインセンティブは働かない 5。
一方、1) a)に挙げた制約がSPEの設立に関する書類に盛り込まれ、それが変更不可能で
あるか、当該司法管轄の法律に規定されており、第三者に対して拘束力がある場合 6、ま
たは、2) 出資者及び / または役員が独立してはいないものの、特定のSPEに制限された
業務を行わせるインセンティブがあるとは極めて考えにくい場合 7には、独立した出資者
および役員が存在しないことが強制的な倒産法適用申請が行われる可能性に大きな影
響を与えることはない。
c) 副次的な債務が発生する可能性が現実的にない。
SPE が企業グループに属する場合、ムーディーズは通常、他のグループ企業が負う債務に
対して責任を有さねばならなくなる可能性があるか否かについての法律意見書を求める。
また、これに関連はするもののこれとは異なる、実体的連結のリスクについては後述する。
d) 業務に伴って税の支払義務が発生することがない。
例えば、取引を規定する契約書によって定められている SPE の業務において税の支払
義務が発生することはないとの十分な説得性のある法律意見書が得られている場合には、
税務当局によって強制的な倒産法適用申請が行われる可能性は低いと判断することが
出来る。
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4
案件を規定する契約書類上の当事者ではない、あるいは想定されていない債権者。
5
i)の、SPE の出資者および役員が十分に独立しているとみなす基準を参照されたい。一定の状況では、資本面で独立し
ていないにも関わらず必要な独立性を確保しているとみられる場合もある(制限された業務に携わることに関連して、適
宜適用される倒産隔離の基準 j)参照)。
6
米国の多くの SPE のように、オリジネーターのグループ会社である場合が多い。
7
例えば、1)オリジネーターにとって証券化が重要な資金調達手段であり、かつ 2)SPE の実質的に全ての資産が証券化
の債権者側の担保に供されている場合、オリジネーターは SPE を異なる目的で使おうとはせず、SPE を他の債務発行の
ために用いることによるメリットは限定的となろう。
クロス・セクター格付手法:世界のストラクチャード・ファイナンス案件における特別目的会社の倒産隔離の基準
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e) 過去の業務による債務が存在しない。
SPE に商業活動の実績があり、格付対象ノートの発行を目的として「再利用」されている
場合、案件以外の債権者に対する債務を負っている可能性がある。ムーディーズは、再
利用されている SPE に既存債権者が存在しないことを法律上でも事実上でも確認する。
f)
必要な許認可を全て得ている。
SPE が必要な許認可を得ていない場合、解散となるか、金銭的ペナルティが課される可
能性がある。これは通常、法律意見書の中で手当てがなされていることを期待する。
上記a)からf)に挙げた保護的な特徴の 1 つ以上を欠いても、SPEが債権者に全額期日通り
の支払を行うか、請求額に応える可能性が十分にある場合には、特定の債権者による強制
的な倒産法適用申請が行われないと考えることが必ずしもできないわけではない。例えば、
SPEが、支払のウオーターフォールに従って税を全額期日通りに支払う資金を有しているこ
とが十分に確実と判断されれば、税務当局による倒産法適用申請には至らないと想定する
ことがある 8。
ムーディーズは通常、以下の g)または h)の基準を満たせば、債権者が SPE に対して強制的
な倒産法適用申請を行うことはないと想定する。
g) 案件の債権者が、SPEへの倒産法適用申請を法的に禁止する契約条項に同意して
いる 9。
取引を規定する契約文書には通常、SPEに対して案件の債権者が倒産法適用申請を行
わないことに同意する破産等申立制限条項や、債権者がSPEに請求出来る額を支払のウ
オーターフォールに従った支払可能額の範囲内に制限するリミテッド・リコース条項が盛り
込まれている 10。
ムーディーズは、案件ごとに、適用可能な破産等申立制限条項またはリミテッド・リコース
条項が、倒産法適用申請の可能性を大幅に排除しているか否かを(適切な法律意見書
その他に基づき)検討することがある 11。一方、倒産法適用申請が法的に可能か否かが
不確実な場合 12、このg)の基準は満たされない。
破産等申立制限条項またはリミテッド・リコース条項だけによって倒産の可能性が大幅に
排除されるほどの有効性がない場合でも、案件の債権者による適用申請のインセンティ
ブを低下させ、次の基準 h)を満たすことにつながる可能性がある。
h) 案件の債権者が SPE に対して倒産法適用申請を行う可能性が低い。
ムーディーズは通常、案件の債権者は、SPE が当該債権者に対する債務でデフォルトし
たかデフォルトの可能性がある状況でない限り、倒産法適用申請を行わないものと想定し
ている。
4
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8
しかし、SPE に対する倒産法適用申請が行われる可能性が大きくない場合でも、SPE が債務を負う見込みがあれば、ノ
ート保有者に配分する資金の額に影響を与え、格付にマイナスとなることがある。
9
または将来的に同意する場合(例えば発行体が、債権者がリミテッド・リコースや破産等申立制限条項に合意しない限り、
案件の債権者と追加的に契約を結ぶことはしないとのコベナンツが設定されている場合等)。
10
これとは異なる方法としては、ウオーターフォールに従って SPE の資産が完全に配分された時点で、債権者の請求権が
消滅することに同意するというのがある。
11
例えば、一部の司法管轄では、適切なリミテッド・リコース条項によって、SPE がテクニカルに支払不能となることはないよ
う規定できることもある。
12
破産等申立制限条項に関連してこうした状況が生じることはよくあることである(債権者が倒産法適用申請を行う法的権
利が契約によって制約されていることが、公序良俗に反するという理由から)。
クロス・セクター格付手法:世界のストラクチャード・ファイナンス案件における特別目的会社の倒産隔離の基準
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案件の債権者に対し支払が行われなかったとしても、倒産法適用申請を行うインセンティ
ブがない限り、1)適用申請が受理されない可能性が高いか 13、2)破産等申立制限条項へ
の抵触等によりマイナスの影響を受ける場合には、適用申請はなされないものと通常は
想定する。
例えば、1) 適用される倒産法において、契約上の劣後に異議を申し立てることが可能と
されている、または 2) ノートまたはサポートに関する合意で、倒産に起因するデフォルト
事由により恩恵を受ける立場にある場合には、案件の債権者には倒産法適用申請を行う
インセンティブがあるとみられる。
SPE による任意の倒産法適用申請に対する保護の特徴
ムーディーズは通常、以下の i)から l)の基準のひとつ以上を満たせば、SPE に対する任意の
倒産法適用申請がなされる可能性はないと想定している。
i)
出資面および運営面で独立している。
SPEの出資者および役員が案件当事者から十分に独立しており、SPEの業務に大きな経
済的利害をもたなければ、SPEを倒産させるインセンティブはないはずである。そうでない
場合には、出資者または役員はSPEの倒産から恩恵を受けることがある 14。
例えば、案件関係者のいずれとも関連がない受託者が慈善信託によって SPE の全株式
を保有している場合には、SPE の出資は十分に独立しているとみなす。
SPEの役員に関しては、A) 1)少なくとも一名の役員が、国内で認知された企業向けサー
ビスを提供しており(あるいはそうしたサービスの提供者から派遣されており)案件当事者
のいずれとも関係がない場合か、あるいは 2)案件当事者のいずれとも関係のない 2 名以
上の役員がいる場合で、かつB) 独立していない役員がいる場合、任意の倒産法適用申
請の前提条件として、設立に関する書類に 2 名以上の独立した役員 15の合意が必要と
規定されている(そしてそれを確保する有効性が認められる)場合には、この基準i)を満
たしているとみなす 16。
j)
出資は独立していないが、任意の倒産法適用申請には、少なくとも 1 名の独立した役員
(当該国で認知された企業向けサービスを提供しており、当該 SPE の出資者に対してな
んらの義務も負っていない者)の賛成票が必要である。
独立した役員の存在 17は、SPEの出資が十分に独立していない場合でも任意の倒産法
適用申請に対する有効な保護の役割を果たしうるが、あくまで、設立に関する書類に次
の通り(拘束力があり有効な形で)規定されておりそれが変更不能な場合に限られる。す
なわち、1)当該国で認知された企業向けサービスを提供する少なくとも 1 名の独立した役
員が常に存在しなければならず、2)独立した役員の解任には十分な理由が必要であり、
3)任意の倒産法適用申請の前提条件として独立した役員の同意が必要であり、かつ 4)
5
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13
例えば、リミテッド・リコース条項や破産等申立制限条項による。
14
例えば、General Growth Properties, Inc. (GGP)は、自社にとって財務上のメリットがあるキャッシュ・プーリング・システムの
運営による恩恵を引き続き受けるために、子会社である SPE の倒産法適用申請を行った。
15
または、当該国で認知された企業向けサービスを提供する(あるいはそこから派遣されている)、少なくとも 1 名の役員。
16
また、SPE の出資者が十分に独立している場合、役員が独立していなくとも i)の基準を満たすとされることがある。ムーデ
ィーズはこれをケース・バイ・ケースで判断し、特に当該司法管轄で任意の倒産法適用申請を行うために出資者の同意
が必要か否かを考慮する。
17
本稿の「役員」には、LLC のマネージャーなど、同等の地位にある者を含む。
クロス・セクター格付手法:世界のストラクチャード・ファイナンス案件における特別目的会社の倒産隔離の基準
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任意の倒産法適用申請を行うか否かの投票において、独立した役員は、SPEの出資者の
利益を考慮する義務はない、という規定である 18。
k) 出資者及び / または役員が SPE が倒産法適用申請に動くインセンティブがあるとは極
めて考えにくい。
出資者または役員が独立していない場合でも、SPEが倒産法適用申請に動く大きなイン
センティブは必ずしも存在しない。ムーディーズはこれを、各案件の事実関係および適用
される倒産法に照らしてケース・バイ・ケースで判断する 19。
しかしながら、SPEの役員が、適用される倒産法 20を理由に同法の適用申請を行わなければ
ならない、あるいは行うインセンティブがある場合には、上記i)からk)の基準を一つ以上満たし
ていても、それだけではSPEが任意の倒産法適用申請の対象とはならないと想定することは
出来ないこともある。
l)
倒産法適用申請を行うような苦しい財務状況に陥る可能性が実質的にはない。
ムーディーズは、特定のSPEが、任意の倒産法適用申請を行うほど苦しい財務状況に陥
ることはないと考える場合がある。これについては、適用される倒産法に照らして検討する。
例えば、倒産が、バランスシートに基づく明確かつ客観的な支払不能の判断基準により
引き起こされる場合、SPEの取引を規定する契約文書において適切なリミテッド・リコース
条項が存在していたり、負債に対する資産価値の比率が高い場合には、任意の倒産法
適用申請の可能性が大幅に排除される可能性がある。一方、一部の司法管轄では、同
様の判断基準がそれほど客観的なものではなく、基準を満たさないと判断することがより
困難となってしまう 21。
実体的連結に関連した保護の特徴
以下の m)または n)の基準が満たされれば、ムーディーズは通常、SPE の資産・負債と倒産し
た関連会社の資産・負債が統合されることはないと想定する。
m) 実体的連結が適用されない司法管轄に設立されている。
欧州やアジアの大多数の国々を含む多くの司法管轄では、実体的連結が認められてい
ない 22。
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18
GGP のケースにおいて、米国破産裁判所は、SPE のマネージャーは GGP の利害を考慮する義務があるので、倒産法
適用申請にあたって SPE のマネージャーは不適切な行動はとっていなかったとしている。しかし、デラウエア州 LLC 法
では、LLC 契約でマネージャーの信認義務を制限することが出来るとしている。従って、デラウエア州 LLC の独立したマ
ネージャーは、任意倒産の票決において、出資者の利害を考慮する義務を大幅に免れることが可能である。
19
例えば、出資者または役員が倒産法適用申請を行わない(そしてもし倒産法適用申請を行ったならば、ノート保有者に
対し直接債務を負う)という契約上の取り決めが有効であり、かつ後継の役員および出資者が同様のコベナンツに同意
しなければならないならば、それがなければ倒産法適用申請につながったかもしれない商業上のインセンティブを低減・
中立化する。
20
例えば、英国では、債権者による会社解散が不可避となったときに取引を継続していれば、役員は法律により罰せられ
る(ただし、任意の倒産法適用申請に関するムーディーズの基準を十分に満たすことにより、SPE の債権者による解散が
不可避となるようなことはないようにすることはできるはずである)。
21
例えば、米国における倒産法適用申請のハードルは低い。債務者は支払不能である必要はなく、「苦しい財務状況にあ
る」ことさえ示せればよい。事実、破産裁判所は GGP の判例において、倒産法の適用申請に際し「破産法では財務状
況の苦しさの度合いが特定の水準にあることを求めるものではない」としている。
22
一部の司法管轄では、法人格否認の法理等、倒産法に実体的連結に類似した考え方が定められていることがあるが、こ
うした考え方は非常に限定的な状況においてのみ適用され、典型的なストラクチャード・ファイナンス案件と無関係である。
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n) 連結リスクが大幅に排除される形で設立・運営されている。
米国など、実体的連結の概念がある司法管轄では、1)SPE 及びその関連企業と取引があ
る当事者は、両者をひとつの法的主体として取り扱われるとは考えておらず、かつ 2)SPE
の資産・負債が関連会社とは分離して維持されれば、連結リスクは一般に緩和されている。
SPE は通常、連結リスクが最小となるよう設立・運営される(例えば、設立に関する書類に
おける分離条項の規定等)。この上、実質的に、SPE の資産全てが担保に供されている
(従って、親会社である債権者が実体的連結を求めるインセンティブが小さい)のであれ
ば、SPE が連結されることはないと想定することが出来る。
SPE が倒産隔離されていない場合の格付への影響の評価
SPEは倒産隔離されていないと判断した場合、ムーディーズは、倒産リスクが格付に影響を与
えるか否か 23を検討する。その際、倒産の可能性 24と、ノート保有者が被りうるマイナスの影響
の両者に基づいてケース・バイ・ケースで影響を検討する。
ある SPE が倒産してもノート保有者に何らのマイナスの影響ももたらさないとムーディーズが
判断した場合、ノートの格付は、倒産隔離されているか否かということに対する感応度は低く
なる。倒産に伴う期待損失の増加を十分な確度で計測することが可能な場合、ムーディーズ
はそれをモデルによる分析に織り込むことがある。しかし、ノート保有者が被る期待損失を容
易に計測できない場合(実体的連結リスクが大きい場合など)、または倒産により多額の支払
遅延が生じる可能性がある場合、ムーディーズはノートに対する格付に上限を設ける、あるい
はノートへの格付を行わないことがある。
7
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23
いずれの場合もノートの格付に照らして検討。
24
例えば、SPE が親会社の債務に関して副次的債務を負う可能性は、親会社の信用力によって決まる。
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ムーディーズ SF ジャパン株式会社
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20F
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他の種類の責任を除く)、あるいはそれらの者の支配力の範囲内外における偶発事象によるものである場合を含め、責任を負いません。
ここに記載される情報の一部を構成する格付、財務報告分析、予測及びその他の見解(もしあれば)は意見の表明であり、またそのようなものとしてのみ解釈されるべきものであり、これに
よって事実を表明し、又は証券の購入、売却若しくは保有を推奨するものではありません。ここに記載する情報の各利用者は、購入、保有又は売却を検討する各証券について、自ら研究・
評価しなければなりません。
ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、(明示的、黙
示的を問わず)いかなる保証も行っていません。
Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社である Moody's Investors Service, Inc.は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を
含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、Moody's Investors Service, Inc.が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約 250 万ドルの手数料を Moody's
Investors Service, Inc.に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO 及び MIS は、MIS の格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO
の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社間に存在し得る特定の利害関係に関す
る情報は、ムーディーズのウェブサイト www.moodys.com 上に"Investor Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、掲載されます。
オーストラリアについてのみ:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金融サービス認可
番号 336969)及び(又は)Moody's Analytics Australia Pty Ltd ABN 94 105 136 972(オーストラリア金融サービス認可番号 383569)(該当する者)のオーストラリア金融サービス認可に基づき行わ
れます。この文書は 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内からこの文書に継続的にアクセスした場合、
貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしていること、及び、貴殿又は貴殿が代表する法人が、直
接又は間接に、この文書又はその内容を 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。ムーディーズの信用格付は、発行者の
債務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール顧客が取得可能なその他の形式の証券について意見を述べるものではありません。リテール顧客が、ムーディ
ーズの信用格付に基づいて投資判断をするのは危険です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
日本についてのみ:ムーディーズ・ジャパン株式会社(以下、「MJKK」といいます。)は、ムーディーズ・グループ・ジャパン合同会社(MCO の完全子会社である Moody’s Overseas Holdings Inc.の
完全子会社)の完全子会社である信用格付会社です。また、ムーディーズ SF ジャパン株式会社(以下、「MSFJ」といいます。)は、MJKK の完全子会社である信用格付会社です。MSFJ は、全
米で認知された統計的格付機関(以下、「NRSRO」といいます。)ではありません。したがって、MSFJ の信用格付は、NRSRO ではない者により付与された「NRSRO ではない信用格付」であり、
それゆえ、MSFJ の信用格付の対象となる債務は、米国法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MJKK 及び MSFJ は日本の金融庁に登録された信用格付業者であり、
登録番号はそれぞれ金融庁長官(格付)第 2 号及び第 3 号です。
MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を含みます。)及び優先株式の発行者の大部分が、MJKK 又は MSFJ(のうち該
当する方)が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)に支払うことに同意していることを、ここ
に開示します。
MJKK 及び MSFJ は、日本の規制上の要請を満たすための方針と手続も整備しています。
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JANUARY 29, 2015
クロス・セクター格付手法:世界のストラクチャード・ファイナンス案件における特別目的会社の倒産隔離の基準