サンプル

検 査
チョコレート囊胞の診断には経腟超音波検査が有用です(写真 3-2)
。しかし,チョコ
レート嚢胞に至らない軽度の病変には役立ちません。また,骨盤部 MRI はチョコレート嚢
胞と卵巣腫瘍の鑑別に有用です。子宮内膜症の確定診断は,腹腔鏡で色素病変や癒着な
どを直視下に確認することで行います。
ライフサイクル各期に起こる主な疾患
3
内部がやや
ザラザラした
感じ(微細点状)
の超音波像
です。
写真 3-2 チョコレート囊胞の経腟超音波所見
治 療
薬物療法によって,閉経期と同様のホルモン動態にすることで改善させます。これを偽
閉経療法(GnRH アナログ療法とダナゾール療法)と呼びます。ただし,治療を中止すれ
ば内因性のエストロゲン分泌が復活するので,完治を期待することができません。また,
GnRH アナログは連続投与で LH と FSH産生細胞が down regulation し,低エストロゲン
効果は強いが卵巣欠落症状を引き起こすという短所もあります。テストステロン誘導体の
ダナゾールも,増殖を抑制するという長所がある半面,弱いながらも男性化を来すという
短所があります。
また,経口避妊薬のルナベル ®およびヤーズ ®には囊胞縮小効果が認められます(偽
妊娠療法)
。
したがって,本症を根治するには手術で病巣を摘除する以外にありません。また。チョ
コレート囊胞は悪性化する可能性がある(特に閉経後に残存する直径10cm以上のもの)
ので,囊胞摘除を行います。閉経後の患者や,閉経間近で挙児希望がなければ卵巣摘出術
を行います。
【子宮内膜症】
◦子宮内膜様細胞がエストロゲンによって増殖する疾患
◦月経痛を主訴とし,不妊症を呈する
◦治療は GnRH アナログやダナゾールの投与(偽閉経療法)
◦根治療法は病巣部摘除術
38
第 1 章 婦人科領域
B 更年期の疾患
1 更年期障害 climacteric disorder
概 要
3
ライフサイクル各期に起こる主な疾患
卵巣機能が低下する更年期に出現する多種多彩な症状をまとめて更年期障害といいま
す。本症は1年〜数年間続きますが,多くは老年期に近づくとともに次第に軽快していきま
す。詳細は不明ですが,生体がエストロゲン不足に順応するためと考えられています。
また,更年期にはエストロゲン低下による骨粗鬆症と高コレステロール血症が好発しま
す。これらは更年期障害そのものではありませんが,同時に治療または経過観察の対象と
なります。
症 状
エストロゲンの低下によって,未知の血管拡張物質の分泌が促されることに起因すると
考えられる血管運動症状,社会的・環境的要因によるストレスおよびエストロゲン低下に
起因する精神神経症状があります。血管運動症状には,ホットフラッシュ(ほてり,のぼ
せ,発汗)
,冷感があります。精神神経症状は,頭重感,耳鳴,めまい,肩こり,抑うつ,
易疲労感,イライラ,不眠などが挙げられます。以上の症状のうちで最も頻度が高いのは
肩こりとされています。
クッパーマン
これらの不定愁訴を定量化する目的で作られたのが Kupperman更年期指数(表 3-5)で
す。この指数は,それぞれの症候群の症状の種類ごとにその強さを判断します。そして,
一番強い症状の種類の強さをその症候群の強さとし,これに評価度を掛けたものです(症
状の強さ×評価度)
。16〜20が軽症,21〜34が中等症,35以上が重症です。
ほてり
肩こり
抑うつ
第 1 章 婦人科領域
39
第1前方後頭位の回旋
<入口部>
前
右
<出口部>
左
大泉門
小泉門
後
4
第1斜径に一致
分娩の生理と管理
第2前方後頭位の回旋
前
右
左
後
第2斜径に一致
図4-23 第2回旋
c 第 3 回旋(第 2 胎勢回旋)(図 4-24)
児頭が骨盤出口から出る際に反屈する運動(伸展運動)で,第1回旋と反対向きの胎勢
回旋です(2 度目の胎勢回旋なので,第2 胎勢回旋とも呼ばれる)
。なお,横軸回旋である
点は第1回旋と同じです。児頭の先端が骨盤出口にあるときには,ちょうど児頭の中心は産
道の膝を通過中です。前述のように,産道の膝は大きく母体の前方(恥骨側)に屈曲して
いるので,これに沿う運動を迫られます。
図4-24 第3回旋
d 第 4 回旋(第 2 胎向回旋)(図 4-25)
児頭娩出後に肩甲を娩出するための回旋です。これはちょうど第 2回旋と反対向きの胎
144
第 2 章 産科領域
向回旋で(縦軸回旋である点は同じ)
,第2 胎向回旋とも呼ばれます。つまり,それまで母
体の肛門を見ていた胎児はここで母体の太ももを見るようになり,第1胎向であれば時計回
り,第 2 胎向であれば反時計回りの運動をします。
肩甲はもちろん横長ですが,骨盤峡部は縦長なので,スムーズに通過するためには胎位
を変える必要があります。また,母体の肛門を見る胎位だと両肩を同時に出すことになりま
すが,横向きの胎位であれば片方ずつ娩出できます。
分娩の生理と管理
4
図4-25 第4回旋
【分娩機転】
◦第1回旋:頤を胸に近づけ,屈位の胎勢を強め,小泉門が先進
◦第2回旋:母体の肛門を見る向きに体位を変換
◦第 3回旋:出口で反屈に胎勢を変換
◦第 4回旋:肩甲娩出過程で,母体の太ももを見る向きに体位
を変換
第 2 章 産科領域
145
前置・低置胎盤,巨大子宮筋腫,既往帝王切開,癒着
胎盤疑い,羊水過多・巨大児誘発分娩,多胎など
大量出血のリスク
あるいはまれな血液型
不規則抗体陽性
低い
なし
あり
通常の分娩
(出血量評価・バイタルチェック)
出血量:経腟1L,帝切2L以上,
またはSI:1以上
● 高次施設での分娩推奨
● 自己血貯血の考慮
● 分娩時血管確保
あり
● 血圧・心拍・SpO2モニタリング
● 高次施設への搬送考慮
分娩期の異常
6
SI
=
(ショックインデックス)
● 輸血の考慮
心拍数
収縮期血圧
● 血管確保(18ゲージ以上,複数)
● 十分な輸液
晶質液→人工膠質液
● 血圧・心拍・SpO2モニタリング
● 出血量・Hb・尿量チェック
妊婦のSI:1は約1.5L,SI:1.5は約
● 出血原因の検索・除去
2.5Lの出血量であることが推測される。
<産科医>
● マンパワー確保
● 麻酔科医へ連絡
● 輸血管理部門へ情報提供と発注
輸液・輸血の指示・発注と実施
● 出血・凝固系検査,各種採血
● 出血状態の評価
出血源の確認と処置
● 血行動態の安定化
輸液・輸血・昇圧剤の投与など
● 家族への連絡・説明
なし
(乏尿,末梢循環不全)
のいずれか
あり
産科危機的出血
①直ちに輸血開始
②高次施設へ搬送
<助産師・看護師>
● 出血量の測定・周知・記録
● バイタルサインの測定・周知・記録
● 輸液・輸血の介助
● 赤血球製剤だけでなく新鮮凍結血漿も投与
● 血小板濃厚液,抗DIC製剤の投与考慮
● 出血原因の除去
<輸血管理部門>
● 同型・適合血在庫の確認
● 各種血液製剤の供給
● 血液センターへの連絡,発注
通常の治療に戻る
患者看視は継続
出血持続,SI:1.5以上,
産科DICスコア8点以上,
バイタルサイン異常
● 動脈結紮術,動脈塞栓術,子宮摘出術など
なし
出血持続
治療を行ってもバイタルサイン
の異常が持続
あり
危機的出血の宣言
図6-26 産科危機的出血への対応フローチャート
(日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本周産期・新生児
医学会,日本麻酔科学会,日本輸血・細胞治療学会)
232
第 2 章 産科領域
なし
症 状
ほとんどが,分娩中または分娩後 2時間以内に突然の呼吸困難を訴え,血圧が低下し,
速やかにショック状態に陥ります。DIC を併発すると出血傾向が生じ,治療が奏効しなけ
れば多臓器不全に至って死亡します。
検 査
診断は,剖検で得た母体組織中に胎児成分を証明することで行います。ただし,母体死
亡が前提となり,治療には反映できません。
そのため近年は,血清学的診断として,母体末梢血中の亜鉛コプロポルフィリン(ZnCP)とシアリル Tn抗原(STN)を検出し,これで本症を確定します。前者は胎児特有の
6
分娩期の異常
ポルフィリンで,後者は羊水や胎便中のムチンに含まれる糖抗原で,両者とも母体に存在
しない物質です。
治 療
呼吸困難に対しては,マスクまたは気管挿管をしたうえで酸素を吸入させます。低血圧
に対しては,適切な昇圧薬(ドパミンやドブタミン)を投与します。DIC に対しては次項を
参照してください。
3 播種性血管内凝固症候群 disseminated intravascular coagulation(DIC)
概 要
何らかの理由によって,全身の細小血管内で種を播くように血栓が形成され,血栓の材料
となった血小板や凝固因子が消耗性に減少し,かえって出血傾向を来す病態です。基礎疾患
には,常位胎盤早期剝離,弛緩出血,子宮破裂,前置胎盤,羊水塞栓症などが挙げられます。
症 状
血小板減少に伴う出血傾向(鼻出血や消化管出血)
,凝固因子減少に伴う深部出血,線
溶系の亢進に伴う染み出るような出血(紫斑)が組み合わさって出現します。また,全身
の血管内で凝固が生じているため,種々の臓器で虚血が生じ,臓器不全とショックに陥り
ます。
診断は,表 6-4の“産科 DIC スコア”を参照してください。
第 2 章 産科領域
233
9 頸部立ち直り反射 neck righting reflex
原始反射の1つで,児を仰臥位とし,頭を右(左)に向けると,身体も全体として右
(左)に旋回するという反射です。出生直後からみられ,生後 6か月ころに消失します。
乳幼児の特徴と疾患
4
10 Galant 反射
ギャラン
原始反射の1つで,児の腹部に手を当てて水平抱きにし,脊柱の外側に沿って胸椎下部
から上方に擦ると,刺激された側を凹側にして体幹を弓状に曲げる反射です。出生時から
みられ,生後 4〜6か月で消失します。背反反射あるいは側彎反射とも呼ばれます。
D 乳幼児の発達
発達の特徴を以下の図4-2〜図4-5に示します。
a 運動機能の発達
座る,立つ,歩きなど,全体でバランスをとる粗大運動(図4-2)と,手先で協調して行
う微細運動(図4-3)に分類されます。ただし,これらの運動機能には個人差があり,特に
月齢が進むと個人差は大きくなります。
322
第 3 章 新生児〜思春期
3~4か月
頸がすわる
5~6か月
寝返りを打つ
7~8か月
おすわりをする
乳幼児の特徴と疾患
4
7~8か月
ずり這い
11か月
つたい歩き
2歳
階段登り
8~9か月
高這い(膝を立てて這う)
9~10か月
つかまり立ち
12か月
ひとり立ち
3歳
片足立ち
12~15か月
ひとり歩き
4~5歳
片足飛び
5~6歳
スキップ
図4-2 粗大運動の発達
第 3 章 新生児〜思春期
323