wacca. 7 - スポーツ栄養コンサル・管理栄養士|株式会社WACCA

wacca.
要訳
7
Elite athletes in aesthetic and Olympic weight-class sports and the challenge of body
weight and body composition
審美系、オリンピック体重階級制競技のエリート競技者と体重と身体組成の課題
エリート競技者は、身体的理想を体現化し、「理想的な」体
ダイエットと極度な減量法の流行
型をつくるために重圧を経験することがしばしばあります。
審美系および体重階級制競技者間でのいくつかの調査で
また、体操、飛び込み、フィギュアスケーターのような審美系
は、エネルギーと栄養素摂取量の不足が報告されています
競技者は、体重減少のためのより大きな重圧を経験します。
が、これらの競技者での普及率はわかっていません。大部分
体重階級制競技者は、競技の必要条件として規定の体重に
の競技者は減量方法を組合せて用いますが、最も多く用い
ならなくてはいけません。これらの条件はダイエット、極度な
られる方法は、エネルギーと水分量の減少、さらなるトレーニ
減量法、秩序のない摂食行動と健康やパフォーマンスの障害
ングと脱水です。体重階級制競技の 94%以上が、試合体重の
につながるかもしれません。競技者の極端な食行動と食事
ためにダイエットと極度な減量法を用いると報告されていま
の問題は、ウエイトサイクリング(減量とリバウンドの繰り返
す。審美系競技では、秩序のない食行動と摂食障害を観察し
し)、運動性摂食障害と FAT(②Energy availavility 参照)など
ます。臨床評価による摂食障害の罹患率調査では、他の競技
を通して示されました。急速減量および極端な食事方法が
に比較し、審美系女性 40–42%と体重階級制競技 30–35%と
一般的な競技では、過去に死亡事例も生じています。
高い割合を示しました。体重階級制競技者では、シーズン中
に 3–6%(最高 13%)の減量を行います。軽量級カテゴリーの
ダイエット
競技者は、中量級および重量級競技者より多くの体重減少
低いエネルギー摂取量の理由は、制限的食行動、高いエネ
を実践します。競技者は、9–14 歳という早い年齢時期に減量
ルギー消費量に対する摂取の必要性への知識不足、成長と
を始めることも報告され、痩せ始める年齢と体重管理の過
発達のために必要とされるエネルギーが挙げられます。それ
酷さとの間には、関連があるようです。
と関連して、緩やかな減量のための健康的な食事や、極端
パフォーマンスへの影響
な減食や絶食、サウナやスウエットスーツ着用での運動によ
多くの競技者は、減量期には、より多くの専門的トレーニン
る脱水、下剤や利尿剤の利用、嘔吐、過剰な運動は、低いエ
グを行うため、筋力トレーニング量を減らします。負のエネル
ネルギーアベイラビィティ(<30kca/kgFFM/day)につながる
ギーバランスと筋刺激の減少は、FFM の減少を引き起こし、
かもしれません。さらに、競技者はボディイメージ、体重変動、
パワーとパフォーマンスを弱めるかもしれません。減量とパ
食行動そしてパフォーマンスの問題に苦悩します。
フォーマンスを検討した研究において、筋持久力と長時間の
勝つためのダイエット
有酸素および無酸素運動(大部分の格闘競技、ローイング
多くの競技者にとって、高いパワー/体重比を成し遂げる
ために、高い FFM と低い FM(体脂肪量)を持つことが望まし
等)では、急速な減量によりパフォーマンスを低下させそう
であることが示されています。
いです。体重階級制競技(レスリング、柔道、軽量級ローイン
計量からの回復時間により、回復戦略が用いられます。大
グ等)では、最大限可能な体力、パワーと持久力を持つ、実
部分の競技者の回復時間が 2–3 h あるならば、彼らは急速減
現可能な最も低い体重にすることで、有利に競技を成し遂
量による体重損失総量と計量後の最適なリカバリー戦略を
げようとします。いくつかの競技の体重階級と計量タイミン
慎重に考えなければいけません。1–7 日間の絶食または非常
グや手順は、競技者に極端な減量法を使用させるかもしれ
に低いエネルギー摂取量では、FFM を失うことは避けられま
ません。
せん。段階的な体重減少に関する研究では、穏やかな負の
wacca.
7
エネルギーバランスによる減量中、筋力トレーニングの付加
足から、それぞれの審美系および体重階級制競技者のため
が FFM を維持する望ましい結果となることを報告しました。
の特定ガイドラインを推奨することは難しいです。
興味深いことに、段階的なアプローチによる減量が、一部の
教育
競技者では、パフォーマンスの向上をもたらすかもしれない
す。教育項目には、食態度とエネルギー摂取量、好ましい身
ことも示されました。
体像や、身体組成を含めなければいけません。
競技者、トレーナー、コーチ、両親への教育が必要で
情報とガイドライン
各々の連盟は、栄養と身体組成を最適
健康への影響
化し、有害な減量法を減らすことに関連したガイドラインを持
脱水
つことにより適正な姿勢を示さなければなりません。
脱水により、温度調節機能を弱めて、競技者の健康を
危険に至らせるかもしれません。
主要・微量栄養素の不十分な摂取
体重を重視しない
根拠の十分な健康やパフォーマンスに
グリコーゲン減少、不十
関する理由がない限り、競技者の体重と身体組成は測るべ
分な疲労回復、除脂肪組織のより大きな損失(たんぱく質摂
きではありません。体重増加や体重階級の変更の可能性に
取量の減少から)につながります。繰り返しの減量は、ビタミ
ついては、競技者とも協議されなければなりません。
ンとミネラルの不足につながります。
不必要なダイエットは避けること
認識機能と精神的な要因
脱水と厳しいエネルギー制限は、
るように言うことを避けなければなりません。医科学スタッ
疲労につながります。急速減量経験者では、短期記憶の低下、
フは、競技者、コーチに、体重減少が必ずしもパフォーマンス
怒り、疲労、緊張と不安の増加が示されました。
強化につながるというわけではないことを教育しなければ
ストレス増加と免疫機能障害
なりません。さらにまた、競技者に食事制限と異常な食行動
慢性の疲労、怪我と酸化性ス
コーチは、競技者に痩せ
トレスのリスクを増し、免疫機能を弱め、長期的には、より頻繁
の副作用を知らせることが重要です。
な怪我と病気発症を生じるかもしれません。
―適切な体重減少/身体組成の変化の推奨
代謝変化
減量が必要な競技者に向け、以下の推奨を提示します:
減量を繰り返す競技者は、低い代謝率であるこ
とが知られています。しかし、シーズン後、ベースライン値ま
で回復が見られ、代謝率の減少が永久でないことが示され
――――――
・体重の目的は、身体組成(例えば DXA、超音波、ISAK の皮脂厚計)の
客観的な測定に、基づかなければなりません。
ています。また、実践経験から、長期間、減量を繰り返す競技
・減量は、シーズンオフ間に行われるべきです。
者は、しだいに目標体重にすることが難しくなりますが、代
・食事記録は食事計画のための基礎となります。
謝変化か他の要因によるものかはわかりません。
・月経障害を避けるための十分なエネルギー摂取、段階的(0.5 ㎏/週
長期の影響
重い体重を恐れるストレスは、精神的に心身を
程度)な体重減少を目指さなければなりません。
疲れさせ、さらに、トレーニングと試合を妨げます。
・スポーツ栄養士は、個別に食事計画を行います。
摂食障害、ホルモン変化と低骨密度
・FFM とパフォーマンス低下を軽減するために、減量期に筋力トレーニ
②Energy availability
in athletes 参照
成長と成熟
ングを含まなければなりません。
特に若年で減量を経験する審美系競技では、
・最低体脂肪率(男性 5%,女性 12%)の提案がされましたが、個別の評
成長期の不十分なエネルギーと栄養素摂取が、成長と思春
価が必要です。目的体重または体脂肪到達後、身体組成の変化を
期の発達を遅らせます。
最低でも 2 ヵ月間定期的にモニタリングしなければなりません。
・年間の多くが試合期である場合、減量は、試合体重の 3%で、急速減
推奨
エネルギーおよび栄養素摂取は、時期や減量の有無によ
量は体重の 2%以内を奨励します(回復戦略)。
・18 才未満の競技者では、体重減少を薦めるべきでありません。
り大きく異なります。また、自己申告による食事の過小報告
―――――――――――――――――――――――――
と過小摂取に注意して解釈しなければいけません。文献の不
いくつかの体重階級制競技の規則の修正が必要です。