品川区空き家等の適正管理等に関する条例と今後の課題

品川区空き家等の適正管理等に関する条例と今後の課題
1.都内で 9 例目となる条例
東京都内で 9 例目となる空き家等の適正管理用に関する条例が策定され、2015 年 4 月 1
日に施行される。品川区の条例は、国分寺市と同様に空き地の適正管理を含むとともに、
都内では初となる「有効活用」を定めたものである。また、下表のように代執行規定も規
定している。
条
例
名
策定年月
足立区老朽家屋等の適正管理に関する条例
2011 年 10 月
大田区空き家等の適正管理に関する条例
2012 年 12 月
小平市空き家等の適正管理に関する条例
2012 年 12 月
八王子市空き家等の適正管理に関する条例
2012 年 12 月
新宿区空き家等の適正管理に関する条例
2013 年 6 月
墨田区老朽建物等の適正管理に関する条例
2013 年 7 月
台東区老朽建物等の適正管理に関する条例
2014 年 3 月
国分寺市空き地及び空き家等の適正な管理に関する条例
2014 年 3 月
品川区空き家等の適正管理等に関する条例
2015 年 11 月
実 態 調 査
立 入 調 査
助 言 ・ 指 導
勧
告
命
令
公
表
代
執
行
緊急安全措置
安全代行措置
助
成
必 要 な 支 援
警察等との連携
等
有 効 活 用
足立
○
大田
○
小平
○
八王子
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
新宿
○
○
○
○
○
○
○
墨田
○
○
○
○
台東
○
○
○
○
○
○
○
改正
○(代執行))
国分寺
○
○
○
○
○
○
品川
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
2.「有効活用」の規定
「有効活用」は条例には次のように規定されている。
○
○
(有効活用)
第 14 条 区長は、空き家(管理不全状態にある空き家を除く。)または空き地(廃棄物等
に起因する管理不全状態にある空き地を除く。
)の所有者等に対し、当該空き家または空き
地の有効活用を促進するため、区が実施する事業への協力を求めることができる。
3.有効活用規定の問題点
品川区の条例の「有効活用」の問題点として以下列挙する。
① 空き家の定義が狭いこと
品川区条例では、空き家は次のように定義されている。
空き家の定義-区の区域内に存する建築物(建築基準法第 2 条第 1 号に規定する建築物
をいう)であって、現に人の居住その他の使用のないことを常態としているものをいう。
*「建築基準法第 2 条第 1 号に規定する建築物」とは、
この条例の範囲でいえば戸建て住宅や事務所である。建築基準法では共同住宅は特殊
建築物に定義され、マンションも共同住宅に含まれる。
*これに対して京都市の「京都市空き家の活用,適正管理等に関する条例」では次の
ように定義されている。京都市の空き家の定義-本市の区域内に存する建築物(長
屋及び共同住宅にあっては,これらの住戸)で、現に人が居住せず、若しくは使用
していない状態又はこれらに準じる状態にあるものをいう。
すなわち問題点は、品川区の条例は基本的には戸建て住宅を対象としており、アパー
ト、マンション、長屋(店舗に多い)が含まれないのではないかということである。ま
た 1 階のみが空いており、2 階に居住している場合などは空き家とはみなされないのでは
ないかと考えられる。京都市の条例が 1 階部分のみ空き家状態のものを対象にしている
かどうかは分からないが、長屋や共同住宅は対象となっている。
②
区が実施する事業への協力とは何か
条例は前記のように「所有者等に対し、当該空き家または空き地の有効活用を促進す
るため、区が実施する事業への協力を求めることができる。」と定めている。しかし、
「区
が実施する事業」とは何かが明らかではない。昨年 10 月の区議会建設委員会において矢
木住宅担当課長は次のように説明している。
『対象は空き家と空き地で、空き地等の「等」を除いておりますので、ごみ屋敷につ
いては有効活用の対象とは規定しておりません。また有効活用の具体策につきましては、
現在空き家等の実態調査を行っており、その中で所有者の貸し出し意思を確認しつつ、
今後具体的な施策、それを行うための体制を検討してまいります。』
また、ある議員は次のように質問した。『この事業を選ぶという基準をどこに持ってい
くのかというところが、とても重要であると思っています。優先順位的に区の側が求め
る事業なのか、地域の住民の方の願いを実現するためのものなのか、この「区が実施す
る事業への協力を求めることができる」という一文はとても違和感があるのですけれど
も、このところの基準はどのように考えているのか、教えてください。』
この質問に対して担当課長は次のように答弁している。
『決して区が勝手に決めたもの
に従いなさいとか、そういう趣旨ではございません。あくまで地域の声を聞き、また皆
様のお声を聞いて、施策のほうは決めてまいりたいと思っておりますので、ご協力をお
願いいたします。』『具体的にはいろいろなメニューがございます、他区市町村で先行自
治体もございますので、その辺を調査、研究しながら、既存の事業とも整理した上で、
施策を打っていきたいと思っております。』
また藤田都市環境事業部長は次のように答弁している。『その地域にお住まいだった
方々とその地域との関係の中で、ぜひそこを活用したいんだというようなお話があれば、
区としてその中に入り、いろいろ調整して有効活用の道を探っていこうじゃないかとい
うようなことでございます。ですので、民から民への部分との区分けという意味でも、
区が実施する事業の協力という形になっております。もちろんその中で、地域の人たち
が望まない形で有効活用を図る、それはあり得ないことだと思っていますので、その辺
については、皆さんが喜んでいただけるような形につなげていきたいと考えてございま
す。』
以上のようなやり取りがあった上で、建設委員会では 14 条に反対の会派があったもの
の、賛成多数で可決された。反対は共産党で、区がこの条文を使用して道路計画や再開
発計画等に利用することを警戒したのが理由と思われる。どのように活用するか、区側
ももう少し具体的なイメージを出して議論して欲しかったと思う。
③
民間団体の活用は想定していないのか
なお条例は、区が実施する事業への協力は規定したものの、民間団体の活用は規定し
ていない。区は先述の議会答弁のように、民間事業者の活用はあくまで民―民との関係、
民―民契約として考えている。
しかし、他の自治体ではNPO法人や社会福祉法人などの団体が自治体(委託なども
含む)の窓口などの仲介のもとで活用を促進しようとする例もある。品川区がなぜこの
ような事業を見送ったのか、その理由は明らかではないが、今後の課題になると思われ
る。
*
国土交通省と総務省は、空き家対策推進特別措置法を踏まえ、空き家の撤去を促すた
めの指針案をまとめた。基本指針を受け、市町村は空き家の撤去を進めるための実施計
画をつくることになる。この指針は 2 月 26 日にも公表されるが、今後の市町村の対応も
課題である。