様々な動物のアレルギーから発するトランスレーション研究 田中あかね

様々な動物のアレルギーから発するトランスレーション研究
田中あかね(東京農工大学農学研究院動物生命科学部門)
免疫は、自己と非自己の識別により、宿主を外敵から守るために発達してきた生体防御
機能である。そこには、すべての非自己に対する防御反応ではなく、有益なもの、あるい
は病原性がない非自己にはあまり過剰な反応が起こらないという寛容さを含んでいたはず
である。しかしながら近年、特に先進国では、免疫系の過剰かつ異常な活性化によって宿
主に不利益がもたらされる事象、すなわちアレルギーに悩む患者の数が増えている。先進
国では何らかのアレルギーに罹患する患者は全人口の30%にものぼるといわれており、
化学物質、昆虫、フルーツなど、従来の食物あるいは花粉アレルゲンに代表されるたんぱ
く質抗原とは性質の異なる新たなアレルギー惹起物質が毎年のように報告されている。喘
息、蕁麻疹、花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、生活の質を低下させる
深刻な問題であり、その社会的要請の高さから毎年新たな治療薬が開発されている。新薬
や治療法の開発には、多角的な病態の解析が必須である。そのため、ヒトのアレルギー疾
患を再現する動物モデルは、患者からは決して得ることのできない貴重な情報を提供する
研究のパートナーであると言える。本口演では、現在多くの新薬開発に用いられているア
レルギーの疾患モデルとして、われわれの研究グループが解析を続けているヒトアトピー
性皮膚炎自然発症モデル NC/Tnd マウスに関する研究の一部を紹介する。とくに、皮膚の
バリア機能と、皮膚 pH の変化によるバリア機能の低下およびかゆみや皮膚炎の発症との
関連について最新の知見を紹介したい。また、ヒトと共に暮らしヒトと同じ病気を自然発
症することで注目されつつある伴侶動物のイヌやネコ、あるいは実験小動物で再現するこ
とが難しい蕁麻疹を自然発症するウマについても概説し、比較動物医学的見地から今後の
アレルギー研究への応用、すなわちトランスレーション研究の今後の可能性と課題を考察
してみたい。