北信病院ICLSテキスト

北信病院ICLSテキスト
チーム医療の重要性
北信総合病院
November 1, 2015
北信病院ICLS委員会
目次
1、 心肺蘇生法を学ぶ理由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2、 1次救命処置の(BLS:basic life support)の基本動作・・・・・・・・・・・2
成人の1次救命処置(BLS)のフローチャート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1.
周囲の確認(安全確認と感染防御)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2.
反応の有無の確認・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
3.
救急対応システムの要請と AED または除細動器の用意を依頼する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
4.
気道確保(頭部後屈・顎先挙上)と脈の確認(頸動脈触知)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
5.
胸骨圧迫(Circulation)と人工呼吸、CPR 開始・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
6.
AED(Automated External Defibrillator:自動体外式除細動器)の作動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
7.
CPR がいったん中断するのは?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3、 2次救命処置の(ALS:advanced life support)の基本動作・・・・・・・11
1. 気道管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2. 除細動(電気ショック)の役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3. 心停止の原因と鑑別診断・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
成人の2次救命処置(ALS)のフローチャート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
4. 成人の心停止の解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
5. PEA/ 心静止の治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
6. 心肺蘇生に用いる薬剤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
7. 蘇生後(ROSC)ケア 心拍再開後の集中治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
8. チームで行う心肺蘇生・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
4、 チームワーク向上のために・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
5、 今日一日大変お疲れ様でした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
巻末資料、薬剤の解説
心肺蘇生法を学ぶ理由
成人の場合、心停止の半分以上の例で、心室細動や無脈性心室頻拍などの致死的不整脈が原因と
なっていることがわかっています。これらの傷病者は、迅速に適切な処置が行われれば、命が助かり社会復
帰する可能性が非常に高いのです。それ以外の傷病者でも、迅速に適切な心肺蘇生を行うことで、救命の
チャンスが確実に広がります。
一方、心停止に陥った傷病者は待ってくれません。放置すれば容赦なく時間とともに臓器障害が進行しま
す。特に脳は心停止による虚血に弱く、5 分程度の心停止でも不可逆的ダメージを残してしまいます。もちろ
んほかの臓器も、数十分で不可逆的な障害を負います。すなわち、不幸な傷病者を救命し、社会復帰させ
ようとするために、残された時間はわずかなのです。その時間のうちに、いかに迅速に、必要な処置を「救命
の連鎖」として行うことができるかが傷病者の運命を決定します。
ICLS コースを受講する多くの皆さんは、多くは医療従事者でしょう。プロとして心肺蘇生法に精通していると
思われ、心肺停止の傷病者に遭遇したら適切な対応をすることが求められている人達です。一般市民に対
し心肺蘇生法の教育及び普及することを期待されているといっても過言ではありません。
しかしながら、医療従事者といえども、自信をもってそれができると答えられる人は少ないのではないでしょう
か。だからこそ、一緒に心肺蘇生法を学ぶのです。心肺蘇生は単に救命のための手段ではありません。医
療従事者としてのスキルアップのツールでもありますし、チーム医療の重要性を学ぶ方法でもあります。命の
大切さを考え直したり、お互いに助け合い、支えあうことの意義を知るきっかけになるかもしれません。その先に
は、よりよい医療風土や地域社会が待っている可能性すらあるのです。
1
§一次救命処置の(BLS; Basic Life Support)の基本動作
傷病者の発見から一次救命処置を実践します。周りで見ている人や、協力してくれるにも自分が何をして
いるのか分かるように、処置内容を言葉に出しながら行いましょう(本文中の赤色)。また、指示をされた人は、
必ず応答・復唱しましょう。
7
成人の1次救命処置(BLS)のフローチャート
2
1. 周囲の確認(安全確認と感染防御)
あなたは救助者です。目の前にいるのは、要救助者です。あなた自身が
要救助者になってはいけません。自分の身は自己責任で守ること、二次被
害者は出さないことが重要です。
『周囲の安全を確認しました、感染防御もしました。』
感染防御 → 手袋・ゴーグル・マスク・ポケットマスクなどのデバイス
周囲の安全 → 周囲の交通状況・地形・天候など危険な状況(ガス漏
れ・漏電・害獣など)・傷病者の出血や吐物などにも注意。不適切な場所
であれば要救助者の移動を考慮。観察しながら接近しましょう
2. 反応の有無の確認
両肩を軽く刺激しながら、刺激への反応を確認する
『大丈夫ですか?解かりますか?』
胸が動いているか確認する。5-10 秒
(正常な呼吸をしているか、死戦期呼吸でないか、ざっと判断)
3. 救急対応システムの要請と AED または除細動器の用意を依頼する
¾ (病院外、病院外来など)
『誰か来てください!』 『この人、反応がありません。』
『あなた、119 番(救急コール)通報をしてください。人を集めてください。
AED と救急用具を持ってきて下さい!その後、お手伝いをお願いします!』
¾ (病棟・病室において・・・ ナースコールを押す)
『○○さんが急変です。誰か来てください!院内救急コールをして医師など、
人を集めてください。救急カートと AED または除細動器を持って来て下さい。』
一人で出来ることは限られます。心肺停止の有無の確認の前に人を集めましょう。
除細動が 1 分遅れる毎に蘇生率は 10%ずつ下がります。
無駄になっても良いから、AED を大至急用意!!
ただ叫んでいるだけでは野次馬が増えるだけで、誰も動いてくれません。
集まった人に、直接指をさして具体的に指示を出しましょう。
¾ 周囲に人がいない場合
要救助者が成人の場合
⇒ 救急コールと資機材調達が優先となります。
要救助者が小児以下(第二次成長前)の場合で反応がない状態
⇒ 1サイクルの胸骨圧迫と人工呼吸が優先となります。その後、人を集めに行きます。
3
4.気道確保
保(頭部後
後屈・顎先
先挙上)と
と脈の確認
認(頸動脈触知))
『
『気道確保。
。呼吸・脈拍
拍を確認します。』 5-100 秒以内
¾ 一般市民(蘇生知識を
を習熟してい
いない人)では
は、気道確保と脈拍の確認は不要
要ですので、ざっと正常な
な
呼吸をして
ているかいな
ないか確認し
します。
吸(死戦期呼
呼吸)は正常呼吸ではな
ないと考え、呼
呼吸なしと同
同じ扱いとしま
ます。
¾ あえぎ呼吸
に頭部後屈顎
顎先挙上法
法です。外傷
傷などで脊椎
椎損傷のが
が疑われる場
場合は下顎挙
挙
¾ 気道確保は基本的に
上法を使用しますが、
、気道確保が
が優先されま
ます。
¾
呼吸の確
確認と同時に
に頸動脈で脈
脈拍の確認
認を行います。
¾
頭部後屈
屈顎先拳上
上したら、顎の
の手は離して
て構わないの
ので頸動脈を
を探します。甲状軟骨か
から手前に指
指
を引いてき
きて胸鎖乳突
突筋の内側
側で触れます
す。成人と小児では頸動
動脈で、乳児
児では上腕動
動脈で触知し
ます。
¾ 患者の口元
元へ耳を近付け、胸の動き・呼吸音
音・呼気の流
流れから判断
断します。胸
胸郭の動きを
を見て 「見て
て」、
吐息を聞いて 「聞いて」 、 吐息
息を感じて 「感じて」。『4、5、6、7、8、・・』
¾ いかなる場
場合も絶対
対に 10 秒以上かけ
秒
てはいけな
ない
¾ 正常な呼吸
吸を認める場
場合には、回
回復体位などを取らせ、
、傍らで経過
過観察し、助
助けを待ちます。明らかに
に
脈拍があ
あると判断でき
きた場合には
は、人工呼吸
吸のみを行い
います(10 回/分)。その
回
の後、少なくと
とも2分毎に、
呼吸と脈拍の再評価
価を行います
す。
¾ ただし、脈拍
拍の確認に
に自信が持て
てないときは呼吸の確認
認をし、呼吸が無い、異常である、と
と判断したら、
速やかに CPR を開始
始します。
4
5.胸骨圧迫(Circulation)と人工呼吸、CPR 開始
『胸骨圧迫を開始します。』
¾ 目撃された成人の心肺停止の多くが心原性であり、心肺停止に陥った直
後では血液内にいくらか酸素が残されていることから、人工呼吸よりも胸
骨圧迫の方が重要視されています。
¾ 傷病者が幼小児の場合では、心肺停止の原因が呼吸障害によるものの
頻度が高いため、可能であれば人工呼吸をできるだけ早期に行います。
¾ (位置)胸骨圧迫を行なう位置は、胸の真ん中・胸骨の下半分
¾ (速さ)1分間に 100 回以上のペース。
¾ (強さ)成人で5cm 以上、小児・乳児では胸郭の 1/3 以上凹むように行なう。
¾ (解除)胸骨圧迫は、必ず圧迫の力を完全に解除(リコイル)すること。
¾ ただし、手は胸からはなさないこと。
¾ 要救助者の背面が、ベッドのように柔らかければ背板を入れるなどして、
胸骨圧迫を有効なものにしましょう。
¾ 心停止ではとにかく胸骨圧迫優先です。
¾ 胸骨圧迫は心停止時の血流の維持を目的としているため、
中断は必ず 10 秒以内にする。
¾ ICLS コースで有りがちなのは、心電図波形の診断・処置法の逡巡、ス
タッフとの相談時に胸骨圧迫を忘れていることです。どんなに優秀な処置も、心血流が無い状態では
後の祭になってしまいます。
『人工呼吸をします。』
リーダーは『胸骨圧迫対換気は 30:2、同期でお願いします。』『換気は2回行って下さい。』
『1回1秒かけて押し込むようにして下さい。』と依頼する。
人工呼吸(Breathing)は、安全に換気を行う器具である BVM(バック・バルブ・マスク)、ポケットマスク、フェ
イスシールドを使用します。要救助者に感染症の危惧がないのであれば Mouth to Mouth
¾ 口対口(フェイスシールド)による換気法
(傷病者の側方より)頭部後屈顎先挙上法にて気道を確保し、額を抑えた手の指で鼻をつまみます。
自分の口で傷病者の口を完全に覆い吹き込みを行います。
¾ ポケットマスクによる換気法
一方弁付きのマスクで、傷病者の口に直接触れることなく換気が出来ます。
傷病者の側方⇒頭部後屈顎先挙上法にて気道を確保、
額と顎先で抑えた手の指でマスクを傷病者の口を覆い密着させる。
傷病者の頭側⇒下顎挙上法にて気道確保(複数の蘇生スタッフが必要・保持方法は後述 BVM を参照)
5
¾ BVM(バッグ・バルブ・マスク)の換気法
院内の急変時に、みなさんが最も使う可能性が高いのは、バックバルブバスクによる換気だとおもいます。
バッグバルブマスク(bag valve mask : BVM)は商品名をとってアンビューバッグとも呼ばれます。自己膨張性の
バッグと透明なマスク、呼気を送り込まないようにするための一方向弁とで構成されています。マスクを外せば、
気管チューブなどの高度な気道確保器具との接続もできます。BVMの利点は、リザーバーを装着し、毎分
10L以上の酸素流量を投与することで、高濃度酸素下でCPRが出来ることです。
z BVM の気道確保の方法はすべて下顎挙上法です。
z 換気法(マスク保持の仕方)は一人法(片手 EC 法)と二人法(両手 EC 法・拇指球法)があります。
9 一人法は、BVM のマスク保持は親指と人差し指をマスクに乗せ、残りの3指で下顎骨を保持します。
9 両手 EC 法は一人法のマスク保持を両手で、左右から行います。
9 拇指球法は両手の拇指・拇指球でマス
クを左右から顔面に圧着、残りの 8 本の
指を総動員して下顎を挙上します。
(手の小さい術者向き)
(二人法の場合、マスク保持に一人、
バッグ換気を行うのに一人必要です。)
BVM 換気は、一般的に成人用のバッグでは約 1600ml の容量があります。高濃度酸素下の有効な1回換
気量は 300-600ml(6-7ml/kg)で充分です。バッグ全体を潰してしまうと必要以上の空気を送り込むこととなり、
過量換気となります。また、一定の気道内圧を越えると気道確保が確実でも食道送気となり胃膨満の原因
となります。バッグを握り潰さず、1秒かけてゆっくりと軽く胸が上がる程度にバッグを軽く握ります。これによって
食道送気による胃膨満の防止と、一度虚脱した肺胞を膨らませることができます。
¾ 人工呼吸の方法
1. 換気回数は胸骨圧迫30回に対して人工呼吸2回行います(同期 CPR)。
2. 人工呼吸2回行うときの吹き込みは 1 回 1 秒かけます。
3. 換気量(換気が出来ているかの評価)は、軽く胸が上がる程度が目安。
換気量が多い、吹き込みの勢いが強いと胃内へ送気されてしまいます
z 漫然と行うのではなく、換気抵抗も確認します。
z 人工呼吸1回施行して換気不全があれば、再気道確保を行います。(舌根沈下の解除)
z 人工呼吸 2 回施行して換気不全があれば、直ちに胸骨圧迫開始を優先します。
胸骨圧迫を行いながら気道確認(吸引、異物除去等考える)をします。
(口腔内異物などの原因による窒息に伴う心停止も考慮します。)
6
¾ 胸骨圧迫と換気の評価
z
z
z
z
現場で蘇生を行っているリーダーは胸骨圧迫の質を保つために毎サイクル確認を行ってください。
胸骨圧迫の、位置・強さ・速さ・リコイルが出来ていなければ、出来るように指示しましょう。
換気(胸の上がり、換気抵抗など)についてもリーダーは確認を行いましょう。
5サイクル、または2分で交代してもらうように指示もしましょう。
(続けて 2 分以上胸骨圧迫を行うと、疲れて圧迫が浅くなったり、圧迫と圧迫の間の戻りが不十分にな
ったり、圧迫の速さが遅くなったりすることが分かっています。)
z また、5サイクル、または2分の途中でも、胸骨圧迫の質が保てなければ素早く交代してもらいましょう。
z 胸骨圧迫や気道確保・換気を行っている方々も何か異変が生じたら自分から周りの方々に報告し、交
代をしたり、口腔内の確認をしてもらう手伝いを依頼したりしましょう。
リーダー 胸骨圧迫の交代 『○○(胸骨圧迫係)さん、胸骨圧迫を交代して下さい。』
胸骨圧迫係を任命して、胸骨圧迫を継続します。
胸骨圧迫係に任命されたら『胸骨圧迫交代します。』 と、復唱し、間をおかずに胸骨圧迫をする。
確認の意味を込めて、リーダーは『胸骨圧迫は1分間に 100 回以上のペース、5cm 以上へこむように行
って下さい。』と、依頼する。
6.AED(Automated External Defibrillator:自動体外式除細動器)の作動
¾
AED を持ってきた人は、先に「AED 持ってきてください」とリーダーに言わ
れていますので、到着時に『AED 到着しました。』と、宣言してください。そ
の後 AED 係になりますが、現場では当然使用できない人が持ってくるか
もしれませんし、実際に使用可能な AED である可能性もあります。
¾ リーダーは『AED、使用できますか?』と確認しましょう。もちろん、チームで
の救命ですから、AED 係で使用ができる人は訊かれる前に「AED 装着し
ます。」と、リーダーに声掛けしても良いでしょう。
※AED を使用できる場合:『AED、使用できます。準備します。』と、明確に
答えましょう。
⇒VF(心室細動) と Pulseless VT(心室頻拍の中で脈が振れない「無脈性心室頻拍:脈なしVT」)は心肺停
止の状態とされる致死的不整脈で、速やかな電気的徐細動が必須です。
※AED を使用できない場合:『AED、使用できません。』と、明確に答えましょう。
⇒リーダーは、胸骨圧迫の交代要員としてその人を確保しましょう。
7
AEED 装着時
時の注意点
点
A) 電源が入っ
っているか
AED は複数
数の医療機器
器メーカーか
からの製品が
がありますが、
、代表的な
もの
のとしては右
右写真のような
な機種があります。AED は電化製品である以
上、電源スイッ
ッチが入らな
なければ作動
動しません。し
しかし、改良が進んでお
り、蓋(カバー
ー)を開けると
と自動的に電
電源スイッチ
チが入るものもあります。
電源が入ると同時に、要
要救助者の心
心電図波形
形と周囲の音
音声が AED
内に記録されて残されます
す。
あったパッドが
が入っている
るか
B) 年齢に合あ
小
小児用パッド
ドや小児用スイッチを使用してショックを成人にか
かけると、十
十分なエ
ネル
ルギーがかか
からず除細動の成功率
率が低くなる可
可能性があるので、成人
人(8 歳
以上)に小児用パッドを使
使用してはいけ
けません。
C) 電極の最短
短距離付近
近(胸部)に水
水分が付着し
していないか
か
傷
傷病者が卒
卒倒時に汗を
をかいている
ることがありま
ます。この場合、AED の電流は
抵抗が少なく流
流れやすい場所として濡
濡れた皮膚面
面を通ることが原因で、AED か
ら出
出る電流が有効に心臓
臓に到達でき
きません。胸
胸の前面の水
水分は事前
前に拭き
取っておくことが
が重要です。パッドを貼る皮膚面が
が濡れなけれ
れば、プールサイドで
も安
安全に使用できます。
D) 装飾品など
どの金属はな
ないか
倒
倒れている人
人がネックレス
スなどの金属
属類をしてい
いる場合は、ネ
ネックレスにパ
パッドが触れ
れないように注
注意しなくては
は
なりません。簡
簡単に取れる
るようなら外し
してから AED を使用します
す。ただし、パ
パッド間にな
ない金属類は
は外す必要は
は
あり
りません。
E) 植え込み機
機器(ペース
スメーカー、ICD)はないか
か
植え込み機
機器があれば
ば、その機器から8cm離し
してパッドを張
張ってください
い。
電極パッドを
を植え込み機
機器の真上に貼って通電
電すると、植
植え込み機器
器は設定がリ
リセットされてしまいます
F) 経皮的貼布薬剤を貼
貼布していない
いか
経
経皮的貼布薬
薬剤を貼布し
している場合
合は取り去っ
って皮膚をきれ
れいに拭きま
ましょう。取り除かず、上から貼って通
通
電すると、十分
分な除細動の
の効果が得
得られない恐
恐れがあります
す。
8
主 AED のアナウンス
主な
の
スと除細動
動の実行
① 電源を入れ
れる
『パッドを患者
者の胸に装着
着してください
い。』
ンプがついて
ているソケットに接続してくください。』
『プラグをラン
と、
、AED によるア
アナウンスが
があります。
② パッド装着・接続完了すると自動的
的に心電図
図の解析が始
始まる。
AED による心
心電図の解析のアナウン
ンスがあります。
『心
心電図を解析
析しています
す。患者から離れてくださ
さい。』
『離
離れてください
い!』
こ
このとき、要救
救助者に誰
誰かが触れて
ていると、ノイズ
ズを拾ってしまい、
AEED は正しく心
心電図を解析
析できないの
ので、必ず要
要救助者から
らすべ
ての
の救助者を引き離します
す。
≫除細動適応
応有りの場合
合
『シ
ショックが必要
要です。充電
電しています
す。』
9 この充
充電時間を無
無駄にせず、安全確認を
を同時進行させます
9 安全確
確認は惰性ですること無
無く、指差し確
確認で行うこ
ことをお勧めし
します。
『離
離れてください
い!私、あな
なた、酸素、周囲(救助
助者と関係者
者他)、よし。』
9 充電が
が完了すると
とブザーが鳴
鳴動し、AED 中央付近の
の赤いランプ
プが点灯します。
9 AED 係の責任で周
係
周囲の安全
全確保がとれ
れた段階で、『ショック!し
します』と宣言
言し、
9 AED 中央付近の赤
中
赤いランプを
を押しながら、
、『ショック!』と宣言しま
ます。
9 通電は
は一瞬で終了し、要救助
助者の体が跳ね上がりま
ます。
9 直ちに
に胸骨圧迫・・人工呼吸を
を再開します
す。リーダーは
は、AED 係又
又は待機中の
の救助者に対し、
『胸骨
骨圧迫を再開
開してください。』と、依頼します。
9 『ショッ
ックを実行しま
ました。必要であれば胸骨圧迫をして
てください。』
と AED
D からメッセー
ージがあります
すが、そのア
アナウンスを待
待つ必要はありません。
除細動
動に成功して
ても、有効な血流の拍出
出量があると
とは限りません
ん。
除細動
動器後に呼吸・脈拍、心
心電図波形
形の再確認も
も行わず胸骨
骨圧迫と
人工呼
呼吸は 5 サイ
イクル以上継
継続します。
2 分後
後に再び AED
D による解析
析があります。
。
≫AED が『ショ
ョックは不要で
です』と反応
応した場合
9 AED がショック不要
が
要と判断する
る理由は、解
解析した心電
電図が除細動適用でな
ない場
合です
す。
9 除細動
動不適応波
波形(PEA・asyystole)のことも多く、要救
救助者の循環
環の回復とは
は一致しませ
せん。
9 循環再
再開の徴候が明らかになる(体動・発語)までは
は、胸骨圧迫
迫を継続する
る必要があり
ります。
9
7.CPR がいったん中断するのは、以下のいずれかの場合です。
●傷病者に体動が現れた時:心拍が再開した可能性があります。CPRを一時中止し、呼吸や脈を確認して
みましょう。
●マニュアル除細動器が到着したとき:除細動器を使うべき状態か確認したり、必要があればショックをかけ
たりするために、CPRを中断せざるを得なくなります。
●他の医療従事者が到着した場合:自分よりも経験があるスタッフが集まって、蘇生をバトンタッチする場合、
最初の救助者はCPRをやめることになります。傷病者にとっては、新たに到着した他の救助者によってCPRが
続けられることになります。
●救助者や傷病者に危険が迫るとき。有効なCPRが出来ないとき。救助者や傷病者に危険が迫るときや
倒れている場所では有効なCPRが出来ないと判断される場合は、傷病者を移動させるためにCPRを中断せざ
るを得ません。
10
§2次救命処置の(ALS:advanced life support)の基本動作
1. 気道管理
ALS の中では気道管理は重要な項目のひとつです。心肺停止の傷病者に対する換気法には、さまざまな
方法がありますがどの方法を用いても、以下の重要なポイントに注意して行ないます。
換気の方法
1、 一回の吹き込みは1秒かけて行う
2、 吹き込む量は、軽く胸が上がる程度とする
3、 胸骨圧迫と換気の比率は30:2とする
4、 CPR中に高度な気道確保が行なわれれば、6-8秒に1回(8-10回/分)の換気を行なう。
5、 高度な気道確保(気管挿管など)後は、胸骨圧迫と換気は非同期とし、30:2にする必要はない。
傷病者の心拍再開率を高めるには、胸骨圧迫中断をできるだけ短くするべきです。気道確保と2回の吹き
込みを10秒以内で行ないます。傷病者の肺の状態や体格によって、吹き込む量や圧は異なります。過度の
吹き込は、胸腔内圧を高め、胸骨圧迫の効率を悪くします。また、胃膨満(胃にまで吹き込んで)をおこし、胃
内容の逆流のリスクが高まります。すべての傷病者に丁度良い換気量の目安は、胸の上がりが確認できる
のに十分な量です。胸の上がりが確認できれば、それ以上吹き込む必要はありません。過換気は有害です
気道確保の仕方
1、 頭部後屈・顎先挙上
2、 下顎挙上(頸椎損傷が疑われる場合。しかし頸椎より気道の確保を優先する。)
3、 経口エアウェイ・経鼻エアウェイの使用
¾ 経口エアウェイ(口咽頭エアウェイ)(OPA)
患者の口から挿入して咽頭後壁(のどの奥の壁)と舌の間に置き、気道を確保します。筒状のものと、断
面が H の字型のもの等があります。口咽頭エアウェイは、咽頭内容物の吸引ルートとしても使えます患者の
口角から下顎角までの長さとほぼ同じ長さのものを選びます。短いと舌に当たり、長いと喉頭蓋(気管の入り
口のふた)を押し込んだりして、気道が確保できません。挿入するときは、舌を押し込まないように注意します。
先端を頭側又は口角側に向け、途中で反転させたり、舌圧子で舌を押したりして挿入する方法が用いられ
ます。挿入したら、重要なことは、正しい位置に挿入され正しく換気出来るか、すなわち換気の際に患者の
胸が上がるかを確認することです。口咽頭エアウェイは後述する鼻咽頭エアウェイよりも手技が容易ですが、
咽頭反射を誘発するので、意識のある患者には使えません。口咽頭エアウェイ、鼻咽頭エアウェイのいずれ
も、CPR のどのタイミングで挿入してもかまいません。気管挿管のように、挿入に際して胸骨圧迫を中断する必
要もありません。胸の上がりが悪いと思ったら、迷わず使いましょう。30 回の胸骨圧迫の間に挿入すれば、次
の 2 回の換気に間に合い、30:2 のリズムも乱れません.
11
¾ 経鼻エアウェイ(鼻咽頭エアウェイ)(NPA)
患者の鼻から挿入して咽頭後壁(のどの奥の壁)と舌の間に置き、気道を確保します。筒状の構造で、咽
頭内容物の吸引ルートとしても使えます患者の鼻翼から耳たぶまでの長さとほぼ同じ長さのものを選びます。
OPA 同様、短かすぎても長すぎても、気道が確保できません。ゼリーを塗り、軽く回転させながらやさしく挿入し
ます。抵抗があれば反対側の鼻腔より再挿入を試みます。咽頭反射は口咽頭エアウェイより軽いので、意
識のある患者にも使えます。頭蓋底骨折があると頭蓋内に迷入する可能性があるため、頭部及び顔面外
傷のある患者には十分な注意が必要です。
BVM を用いた人工呼吸
※使用方法などは6ページ参照
BVM による換気が十分にできていれば、高度な気道確保を急ぐ必要はありません。心拍が再開しても呼吸
が回復せず、換気が必要な場合は、成人では 5-6 秒に一回(一分間に 10-12 回)、小児と乳児では 3-5
秒に一回(毎分 12-20 回)の換気を行います。ただし、BVM による換気が不十分である気道確保困難症例
では、気管挿管・ラリンジアルマスク・コンビチューブといった高度な気道確保を考慮する必要があります。
12
喉頭鏡を用いた経口気管挿管
専用の気管チューブを気管内に挿入する方法です。
気管チューブの先端は気管内に挿入され、手前側の端はバッグバルブマスクや人工呼吸器に接続します。
気管に入る部分にはカフがついており、これを膨らませるがことでチューブと気管壁の間の隙間が埋まります。
その結果、バッグバルブマスク(人工呼吸器)と気管チューブ、患者の気管内から肺が、咽頭腔などの他
のスペースと隔離され、閉鎖した空間になります。気管挿管は、正しく気管チューブが挿入されている限り、
最も確実な気道確保の方法です。送り込まれた量が漏れる
ことなく換気でき、咽頭分泌物や、逆流した胃内容が気管に
垂れこむこともなく、気管内吸引も可能です。反面挿入には
熟練を要し、挿管が難しい患者もいます。誤って食道に挿管
された場合、それに気がつかなければ致命的になります。気
管に挿入されていたチューブが、患者の移動などの際に抜け
てしまうこともあります。
高度な気道確保後の換気と胸骨圧迫
気管挿管、およびその他の高度な気道確保器具(ラリンゲ
アルマスク、コンビチューブ等)が挿入されたら、その後の CPR は胸骨圧迫と換気を 30:2 で同期させる必要
はありません(非同期)。胸骨圧迫は中断すること
なく、最低でも毎分 100 回のテンポで続けます。換
気は 6-8 秒に一回(一分間に 8-10 回)のペース
で行います。
気管挿管と胸骨圧迫の中断
胸骨圧迫を継続しながら気管挿管を行うことは非
常に困難であり、胸骨圧迫を中断せざるを得ない場合があります。胸骨圧迫の中断を最小限(10 秒以内)
に留めることは、心拍再開のために非常に大切なことです。十分な訓練を積んだ救助者が行うべきです。気
管挿管が心肺停止患者の予後を改善させるエビデンスがないことを知識として知っておく必要があります。
CPR 中の患者に気管挿管を行う場合、そのメリットと胸骨圧迫中断のデメリットを考慮する必要があります。バ
ッグバルブマスクで十分に換気できていれば、すぐに気管挿入を行う必要はなく、胸骨圧迫を中断するデメリ
ットの方が大きいでしょう。心拍が再開して、胸骨圧迫が必要なくなるまで気管挿管を先延ばししてもいいでし
ょう。一方、エアウエイを入れてもバッグバルブマスクで換気が上手くできない場合は、気管挿管を行うメリット
が胸骨圧迫中断の不利益を上回る可能性があります。低酸素が心停止の原因である場合は、特にそうか
もしれません。蘇生チームのリーダーは、これらのことを念頭に置いて、気管挿管を行うか否かを決定する必
要があります。
13
気管挿管の確認 の手順
比色式 CO2検出器
1. チューブが声門を越えたか
「スタイレットを抜いてカフエアー10cc入れてください」
2. EDD チェッカー・比色式 CO2 検出器、又は、ETCO2 モニターで確認※
胸骨圧迫を中断しないまま EDD 装着し確認。次に比色式 CO2 検出器を挿管チューブにつけておく
「胸骨圧迫を一時中断してください」-------------------------------------------------3. 胸郭の挙上の左右差はないか
中断時間は
4. 心窩部・胸部の 5 ポイント聴取(心窩部→左・右前胸部→左・右側胸部→再度心窩部)
10 秒以内
胸骨圧迫再開の指示
「胸骨圧迫を再開してください」------------------------------------------------------「胸骨圧迫は一分間に 100 回のペース・人工呼吸は一分間に 10 回のペースで胸骨圧迫と換気は非同
期でお願いします」
5.「呼気時に挿管チューブ内が水蒸気で曇るか」「比色式 CO2 検出器は紫色から黄色に変化したか」
ETCO2 モニターであれば、「モニターが呼気中の CO2を検出し、波形が出現しているか」
6.「100%酸素が 10L/分以上流れていて、バックバルブマスクにリザーバーがついており、膨らんでいるか」
7.「チューブの深さの確認」
8.「チューブの固定」
気管挿管の確認の解説
確実に挿管がされているかを確認することが重要です
※EDD チェッカーは食道挿管を防ぐための道具です。食道は通常つぶれて閉じている状態です。食道挿
管の場合陰圧にしても EDD は戻りません。気管の場合は気管軟骨で内腔が開いているため、EDD は 2 秒以
内に戻ります。これを 2 回繰り返し確認します。比色式 CO2 検出器は挿管チューブと BVM の間に取り付けて
何度か換気をすると呼気の CO2 に反応して紫色から黄色に変化します。
※ETCO2 モニターを使用する場合は EDD チェッカーと比色式 CO2 検出器による確認は必要ありません。
z 胸部を 5 点聴取し片肺挿管と食道挿管を再度確認します。BVM 担当は聴診者に合わせ、すばやく換気
を実施します。心窩部(胃内容物)のボコボコ音が聴かれれば、食道挿管の恐れがあります。
z 左・右前胸部→左・右側胸部の確認では左右差の音を耳で、胸郭の上がりを目で確認してください。
z 挿管後は胸骨圧迫と換気を非同期で行います。ここでも絶え間ない CPR が重要です。(中断は 10 秒以
内)挿管チューブ固定専用ホルダーはチューブの固定とバイトブロックの役割を兼ねています。チューブ
の留置の長さを確認しながら、確実な固定を行います。
DOPE 確認(挿管後に多いトラブルの原因)
Displaced Obstructed Pneumothorax Equipment Failure
位置異常, 閉塞,
気胸,
器具の不具合
D:位置異常・・・挿管チューブの抜け・挿入の深さ
O:閉塞・・・分泌物・折れ等による挿管チューブ閉塞
P:気胸・・・過度な換気量による肺胞損傷
E:器具の不具合・・・酸素チューブの折れ・はずれ、BVM の故障など
上記に注意し CPR・患者の移動等を行います。
14
ETTCO2 モニタ
ター(カプノ
ノメーター・カプノグラ
ラフィ)(波形
形表示呼気 CO2 モニ
ニター)
そのさらに確
確実な方法として、呼気
気炭酸ガス分
分圧をモニタ
ターすることを
を推奨してい
います。呼気
気炭酸ガス分
分
圧(end-tidal CO2:
C
ETCO2))は、ETCO2 モニターとい
モ
いう機器で測
測定できます。これを挿管
管チューブとバッグバルブ
ブ
の間に接続し
して用います。最近は小型でベッドサ
サイドでも使え
えるものが発
発売されていま
ま
マスクや人工呼吸器との
す。気管チュー
ーブが正しく気管内にあ
あれば、換気の際の呼気
気に炭酸ガス
スが含まれま
ますので、ETCO2 モニター
ー
の値が上昇し
します。上昇しない場合は
は気管チュー
ーブの先端
端が気管内に
にない、つま
まり食道挿管
管されているか
か、
咽頭に抜けていることを意
意味します。正
正しく気管内
内に入ったか確認するだ
だけでなく、ETTCO2 を連続
続モニターして
て
いれば患者を移動するとき
きなど、チューブが抜けていないかどうかの確認
認もできます
す。ただし、心
心停止の場合
合
は、
、胸骨圧迫
迫が適切に行
行われていな
ないと ETCO22 の値が上昇しないので
で注意してください。肺に
に血液が流れ
れ
ては
はじめて酸素
素と炭酸ガス
スの交換が行
行われ、呼気中に炭酸
酸ガスが検出
出されるので
です。不十分
分な胸骨圧迫
迫
では、肺に流れ
れる血流が不足するため
め、ETCO2 が上昇しませ
が
せん。このこと
とを利用して
て、胸骨圧迫
迫の質の確認
認
のために ETCO
O2 モニターを
を用いることも可能で、G
G2010 ではこ
これを推奨して
ています。
ETCO2 モニ
ニターによる気
気管チューブ
ブの位置確認
認。挿管後 ETCO2 モニ
ニターを開始
始すると、呼気
気終末時にピ
ークとして ETCO2 値が上昇
昇することが
が確認できた
た。チューブは
は気管内にあ
あるといえる。
。「AHA 心肺
肺蘇生と救急
急
心血管治療の
のためのガイドライン 20100」のハイライト」から改変
変。<10mmHgg ではCRPの
の質の向上を
を試みる必要
要
がある。ROSC(自己心拍再
再開)では 35~40mmHg
3
g以上と増加
加する。
カプ
プノグラフィが
が意味するこ
こと(気管挿管後、挿管
管チューブの位置及びCPRの質の確
確認とモニタリ
リングに有用
用)
ETCO2正常
正常
波形な
なし
無呼吸
吸、食道挿管
管、呼吸回路
路や気管内チューブのは
はずれ、
気道閉
閉塞、サンプリ
リングチューブ閉塞
15
2. 除細動(電気ショック)の役割
心停止には、心室細動や無脈性心室頻拍といった、突然の不整脈で起こるものがあります。この場合、
胸骨圧迫と換気だけでは心拍を再開させることはできず、除細動が必要です。除細動の必要のない心停
止もありますが、基本的には、質の高いCPRと除細動は車の両輪のようなものです。いずれが欠けてもいけま
せん。除細動は心臓に短時間に強い電流を流し、秩序を失った心筋細胞をリセットする治療です。従来は
心電図波形を判読できる医師だけが、マニュアル除細動器を使って行うことの出来る技術でした。しかし
AED(自動体外式除細動器)の登場により、誰でも確実に除細動ができるようになりました。
心停止の4つの波形
心停止、つまり反応がなく、呼吸をしていないかあえぎ呼吸で、脈が触れない傷病者に電極を取りとけたとき、心
電図は下に示す4つのいずれかを示すはずです。
‹ 心室細動(VF):心室の細胞がてんでばらばらに興奮し、何の秩序もなくなった状態です。心電図は全く規則
性のない、不規則な波形です。成人が突然倒れた直後に最も多く認められる波形です
‹ 無脈性心室頻拍(PulselessVT):幅の広いQRSが速い心拍(通常は HR>180bpm)で規則的にくり返して見られ
るとき、ほとんどは心室頻拍です。心室頻拍は普通は心停止になりませんが、心機能が悪かったり、低酸素
や脱水などの悪条件が重なると心停止になることがあります。これが無脈性心室頻拍です。
‹ 無脈性電気活動(PEA):心臓は収縮していないものの、規則的電気的活動は残っている状態を無脈性電気
活動と呼びます。。その電気的活動は心室細動や無脈性心室頻拍とは異なります。QRS幅が広い徐拍(レ
ートが遅い)のことが多いですが、頻拍(レートが速い)のこともありますし、QRS幅が正常の場合もあります
‹ 心静止(Asystole):心臓に全く電気活動がない状態で、心電図は平坦な一本の線を呈します。一分間に6
拍以下なら心静止に含みます。
除細動が必要な波形、除細動が不要な波形
これら4つの波形のうち、心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(PulselessVT)は除細動が必な波形です。これらを停
止させる手段としては、除細動が唯一の方法なのです。除細動によって、秩序を失ったり、速く興奮しすぎたりしている
心室の細胞を一斉にリセットして(パソコンの再起動をイメージしてください)、正常な心筋の興奮を取り戻せる可能性
があるのです。一方、心静止や無脈性電気活動は除細動を行う必要はありません。もともと心臓に電気活動がな
かったり、不規則な波形ではないので、除細動の出番がないのです。むしろ高いエネルギー電流を流すことによって、
心拍再開率が下がるという意見もあります。
除細動が必要であれ、不要であれ、心停止であれば常に質の高いCPRを絶え間なく行わなければなりません。除
細動が必要な波形であれば、これに加えて、除細動器が手に入り次第、すぐに除細動を行います。心停止後きわ
めて短時間にこれらの処置が行われれば、波形は無脈性心室頻拍や心室細動から、心拍再開が期待できるまと
まった波形(organized rhythm、オーガナイズドリズム)に変わり、心拍が再開するでしょう。除細動が必要な波形は、心
拍再開の可能性が高い、期待できる波形なのです。もっとも、これは理想的な場合で、ショックに成功しても心静止
または無脈性電気活動(PEA)にとどまってしまう場合も多いのです。ショックが成功せず、心室細動や無脈性心室
頻拍が続く場合もあります(VFに除細動を行った場合、それが成功する確率は毎分7%ずつ低下します。CPRを行って
いれば、このペースを毎分3-4%に下げることができます。)。これらの場合は依然として心停止が続くことになります。
16
心停止
止発生から発見までに
に4,5分が経過
過してしまうと
と、ほとんどの
の傷病者がこのような経
経過をとること
とがわかってい
います。
したが
がって、ショック
クのあとはその結果を確
確かめようとせ
せず、すぐに胸
胸骨圧迫か
からCPRを再開
開することが必要です。
一方
方、無脈性電気活動や
や心静止は、
、除細動とい
いう決定的な
な治療がなくく、その分心拍再開を得
得にくい波形で
です。
特に心
心静止はすべての心停
停止の終末像
像であり(究極
極の心停止
止)、救命はな
なかなか難し
しいのが実情
情です。
V
VF(心室細動
動)
QRRSは幅広く、不規則な波
波形を示し、ま
またP波は認
認められない。
除 細 動 適 応
無
無脈性VT(心
心室頻拍)
QRSは幅広
広く規則正しい
い波形が連
連続し、R-R間
間隔は一定。
。脈拍は触知
知できない。
除 細 動 適 応
PEA
P
(無脈性電気
気活動)
A
Asystole(心静
静止)
心電図上は
は何らかの波
波形を認める
るが,有効な
な心拍動がな
なく脈拍を触知できない。
。
頻脈性と除
除脈性がある
る
心電図は平坦となり、心臓は電気
気的に活動し
していない
17
3. 心停止の原因と鑑別診断
心停止の原因としてはさまざまな病気や事故が心停止のきっかけになりますが、最終的には下図に示すよ
うな病態を経て心停止に至ります。これらを解決しないかぎり、心拍再開も社会復帰も得られません。特に心
停止に陥ったときの初期波形が無脈性電気活動(PEA)や心静止の場合はこの原因の検索が重要です。
原因についての鑑別診断が、心拍再開の鍵なのです。
鑑別診断:Differential Diagnosis(心停止の原因)
ABC での覚え方
5H5T での覚え方
1. A: アシドーシス
(Acidosis)
Hypovolemia
循環血液量減少
2. B: 出血
(Bleeding)
Hypoxia
低酸素血症
3. C: 心タンポナーデ (Cardiac Tamponade)
Hydrogen ion
アシドーシス
高/低カリウム血症
4. D: 薬物中毒
(Drug)
Hyperkalemia/hypokalemia
低体温
5. E: 肺梗塞
(Embolism)
Hypothermia
6. F: 低体温
(Freezing)
Toxin
薬物過量・毒物暴露
心タンポナーデ
7. G: 低酸素血症
(Gas)
Tamponade,cardiac
緊張性気胸
8. H: 高・低カリウム血症(Hyper/Hypokalemia)
Tension pneumothorax
Thrombosis coronary
血栓症:心臓
9. I: 心筋梗塞
(Infarction)
10. J: 緊張性気胸
(Jam)
Thrombosis pulmonary
血栓症:肺
心肺蘇生では、検査結果の到着を待つ時間的な余裕がありません。CPR を行いながら可能な検査は、血
液検査、エコー(心臓、腹部)、モニター心電図波形くらいのものでしょう。血液検査も血液ガス分析以外は
すぐには結果が出ません(動脈血液ガス分析だけでも、血算と電解質についてもある程度の情報が得られ
ます)。十二誘導心電図は、CPR しながら電極を貼り、記録の際だけ CPR を中止するようにすれば(10 秒以
内)、利用できるかもしれません。このように検査の情報は限られるので、心停止になったときの状況や既往
歴、身体所見などが重要な手がかりになります。
原因検索
正しい鑑別診断を行うには、それぞれの病態についての理解が必要です。みなさんの職種によっては多少
難しいかもしれません。自分には鑑別診断が難しいと感じたら、カルテを取り寄せる、家族から話を聞くなど、
より沢山の情報を得ましょう。
*「カラダ」「カルテ」「カゾク」「ケンサ」4K から情報を収集し、原因を検索し、鑑別診断にあてはめます。
18
鑑別診断のポイントと治療法(5H5T)
Hypoxia(低酸素血症):呼吸器疾患の既往歴、気管支拡張薬の服用、在宅酸素療法の既往、動脈血液
ガスの低酸素血症など。→酸素投与、換気。
Hypovolemia(循環血液量減少):脱水(皮膚緊張の低下、下痢、嘔吐)、活動性出血(吐血、タール便、
体表面からの出血、外傷)、血液検査のヘモグロビン減少など。→輸液、輸血。
Hypothermia(低体温):冷たい患者、長時間の寒冷への曝露、心電図での Osborne 波形など。
→保温加温。
Hypo/hyperkalemia(高/低カリウム血症):血液検査のカリウム値が高い/低い、高カリウム血症をもたらす要
因の有無(腎不全、透析用シャントの存在、アシドーシス、カリウム製剤やスピロノラクトンの服用など)、低カ
リウム血症をもたらす要因の有無(アルカローシス、フロセミドや甘草を含む漢方薬の服用など)、心電図所
見(高カリウム血症:高い T 波→QRS 幅が広くなる→徐脈、低カリウム血症:QT 間隔の延長、陰性 T 波など)
など。
→高カリウム血症への重炭酸ナトリウム、カルシウム、グルコース+インスリン、血液透析
→低カリウム血症へのカリウム点滴静注
Hydrogen ion(アシドーシス):血液ガス分析の pH 値の低下、炭酸ガス分圧(PaCO2)の増加, 重炭酸イオン
(HCO3-)の減少など
→呼吸性アシドーシス(PaCO2 の増加)に対する換気、代謝性アシドーシス(HCO3-の減少)に対する重炭酸
ナトリウム(メイロン)の投与
Thrombosis, coronary(血栓(冠動脈)=急性冠症候群):胸痛の先行、冠危険因子(高脂血症、喫煙、糖
尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなど)の存在、虚血性心疾患の既往、十二誘導心電図での虚血
性変化(ST 上昇・低下、陰性 T 波、異常 Q 波)など
→血行再建(カテーテルインターベンションなど)
Thrombosis, pulmonary(血栓(肺)=肺塞栓):胸痛や失神の先行、下肢深部静脈血栓を疑う所見の有無
(下腿の腫脹、骨盤、下肢の手術後、長時間臥床からの起立直後など)、正しく胸骨圧迫を行なっても酸
素化されず、呼気炭酸ガス分圧(PETCO2)が上昇しない、など
→外科手術、カテーテルによる血栓破砕など
Tamponade(心タンポナーデ):心エコーでの心のう水貯留、頸静脈の怒張、胸痛の先行、外傷など
→心のう穿刺
Tension pneumotorax(緊張性気胸):胸部外傷、直近の鎖骨下静脈穿刺、頸静脈の怒張、呼吸音や胸郭
の左右差、皮下気腫など→緊急脱気
Toxin(毒物):毒物への曝露、毒物の摂取、薬剤の過剰服用(三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、抗不
整脈薬など。空になった薬剤シートの存在がヒント)、簡易薬物測定キットによる薬剤の検出など
→薬物ごとに特異的治療法あり(例:三環系抗うつ薬に対する重炭酸ナトリウム投与)
19
成人の2次救命処置(ALS)のフローチャート(アルゴリズム)
20
4. 成人の心停止の解説
※アルゴリズムに沿って説明します。前図と番号が一致しています。
反応がなく、呼吸がない又はあえぎ呼吸のみの人を発見したら、緊急システムを稼動し、人と物を集めます。
除細動器を依頼することを忘れないでください。
1. すぐに CPR を開始します。
BVM にリザーバー及び酸素を接続し高濃度酸素投与下での CPR を実施します。
モニター/除細動器が届いたら、電極を装着して心電図リズム(波形)を確認します。
2. 心室細動・無脈性心室頻拍(VF・PulselessVT)の除細動が必要か不必要な波形かを迅速に判断します。
3. 除細動が必要と判断したら、胸骨圧迫中断が 10 秒以内になるように迅速に、「1回目の除細動」をしま
す。できればマニュアル除細動器を推奨します。リズム判断や使い方に慣れていなければ AED でも良いでしょ
う。AED は、解析に時間を要し胸骨圧迫の中断時間を延長させてしまいますので、マニュアル除細動器が使
えるようになったら速やかに切り替えるべきです。
4. 除細動をかけたらその効果を確認することなく、即座に胸骨圧迫から CPR を再開します。心停止から数分
経過すると、CPR と除細動だけでは心拍が再開せずに心停止の状態が続くことがほとんどだからです。この
間 CPR を 2 分間続けます。図では 2 分間と表示してありますが、30:2 を 5 サイクルでもかまいません。毎分
100 回以上の速さで胸骨圧迫が行なわれていれば、後者はほぼ 2 分に相当します。蘇生チームの中に記録
及びタイムキーパーがいれば 2 分間を管理してもらうことが良いでしょう。AED を使用していたり、高度な気道確
保がすでに行われている状況であれば 2 分間とするのが良いでしょう。上記の管理が出来ないようであれば、
30:2 を 5 サイクルとして管理しても良いでしょう。
この CPR の間に、薬剤投与のための静脈路を確保します。また、換気で胸の上がりが悪いようなら、迷わず
エアウエイを挿入します。2 分ないし 5 サイクルの CPR が終わったら、すぐに2回目のリズム確認を行います。1
回目の除細動が有効であったかどうかをここで判断することになります。除細動が成功していれば、リズムが
変化しているはずです。心静止かもしれません。あるいは心拍再開が期待できる何らかのまとまった波形が
認められるかもしれません(オーガナイズドリズム)。後者の場合のみ、10 秒以内に頚動脈が触れるか確認し
ます。触れれば心拍再開です。触れなければ無脈性電気活動(PEA)です。
※PEA 又は Asystole と判断した場合は、アルゴリズムを変化させ9へ行きます。
5. 1 回目の除細動が不成功であり、除細動を必要とするリズムであれば「2回目の除細動」を行います。
※除細動の準備中は胸骨圧迫を行います。除細動をパドルで行うときは、充電中の胸骨圧迫を行いませ
ん。パッドで行うときは、充電中も胸骨圧迫を継続します。
21
6. 除細動後すぐに胸骨圧迫から CPR を再開します。
このサイクルで「薬剤投与」を行います。2回目の除細動後、まず投与するべきは、血管収縮薬です。第一
選択はアドレナリン(エピネフリン)で、1mg を静脈または骨髄内に投与します。アドレナリンは血中からの消失
が早いので、CPR の周期とは無関係に、3-5 分ごとに 1mg を繰り返し投与します。1回目か2回目のアドレナリ
ンの代わりに、バソプレシン 40 単位を使う方法もあります(国内では保険適用外)。
2回目の除細動から 2 分ないし 5 サイクルの CPR が終ったら、3度目のリズム確認です。ここでは血管収縮
薬の効果を確認することになります。
※PEA 又は Asystole と判断した場合は、アルゴリズムを変化させ9へ行きます。
7. 除細動が必要と判断したら「3 回目の除細動」を行います。
8. 除細動後すぐに胸骨圧迫から CPR を再開します。
このサイクルでは次の薬剤、すなわち抗不整脈薬の適応になります。3 回目の除細動後、すみやかにアミ
オダロン 300mg を投与します。2 分ないし 5 サイクルの CPR が終わり、4 回目のリズムチェックが行われるときに、
その効果を判断します。
このように、「リズムチェック」と「2 分ないし 5 サイクルの CPR」を、心拍再開もしくは蘇生の中止まで崩れること
なくくり返します。除細動が必要であれば、リズムチェックのあと、素早く行います。薬剤は、アドレナリンなら 3-5
分ごとのため、サイクルで考えれば 2 サイクルの 4 分ごとに 1mg、アミオダロンは初回 300mg、必要があればそ
の 3-5 分後に 150mg まで投与します。
22
除細動の手順
①除細動器の電源を入れる。
■除細動器のモニターは最初パドル誘導で立ち上がりますので、パッドを装着するかまたはパドルを体表に
あてていなければ心電図を表示できないので要注意。モニター心電図リード線を体表に装着する。
②胸骨圧迫を一瞬止めてリズムチェック!(モニターの波形の確認=モニターチェック、脈拍(頸動脈)の触
知=パルスチェック。両方を同時に行います)心停止のリズムを鑑別し、除細動の必要性を判断。
③ただちに胸骨圧迫を再開!リズムをメンバーにはっきり伝え、VF/VT であれば電気ショックの指示を出す。
④エネルギーレベルを設定する。
■VF、無脈性 VT であれば単相性では 360J、二相性では二相性ではメーカーが推奨するジュール数、不明
な場合は 150-200Jで行います。
⑤パドルまたは本体の充電ボタンを押して充電する。「充電します。」パドルの場合、充電中の胸骨圧迫は行
いません。パッドを使用する場合は、充電中も胸骨圧迫が可能です。大事なことは、胸骨圧迫の中断時間
を最小限にすることです。
■パドル使用の場合充電はパドルを傷病者に当てた状態で行う。充電された状態でパドルを振り回すと危険。
■充電開始とともに安全確認を行う。誰も触っていないこと、酸素の吹き出しが電極に向けられていないこと
を確認する。また、電気ショック適応の波形であることを素早く最終確認する。
⑥安全確認:「1(自分)、2(胸骨圧迫者)、3(酸素)4、(周囲)、最終波形「VF or VT」
■除細動操作に伴う胸骨圧迫中断が 10 秒以内になるように、すみやかに充電~放電を行う。
■電気ショックの際は、酸素を胸部から遠ざける。
⑦放電する。「ショックします。」充電が完了の音と表示が出たら、胸壁が変形する程度の圧(約10kg)で傷病
者に密着させ、両方のパドルの放電ボタンを同時に押す。パッドの場合は本体の放電ボタンを同時に押す。
⑧電気ショック後は再評価することなく、直ちに心肺蘇生を再開する。
心肺蘇生2分間(約5セット)の後、リズムチェックを行う。
5. PEA/ 心静止の治療
¾ PEA/心静止では初回リズムチェック後、2分間の心肺蘇生を行う(VF/VT ではショック後2分間)。
¾ PEA/心静止では電気ショックという切り札がない。従って薬剤は準備できしだい投与する。
¾ 最重要項目は VF/VT と同じく、良質の心肺蘇生を絶え間なく行うことで、2分間の心肺蘇生中に胸骨圧
迫を中断し、リズムチェックやパルスチェックを行うことを避ける。
¾ もう一つの最重要項目は、原因を検索し、治療を行うことである。
鑑別診断:Differential Diagnosis(心停止の原因)を参照のこと
¾ PEA/心静止であれば、高度な気道確保器具が必要かどうか評価する。手技に習熟した者がいれば、
できるだけ早い時期にラリンゲアルチューブ、コンビチューブ、ラリンゲアルマスク、気管挿管などの高度
な気道確保器具の挿入を考慮する。
¾ アドレナリンは3~5分毎に投与する。CPR 2サイクル毎に投与すれば、約4分ごとの投与となる。
アドレナリン以外にバソプレシンを使用しても良いが、健康保険適応外である。
23
心静止の心電図の確認、フラットラインプロトコール、CPR 中止判断
モニター付除細動器到着:「電源を入れ、Ⅱ誘導で装着してください」、波形診断:「波形はフラットです」
¾ 本当に Asystole であるか???心電図チェック
「フラットラインプロトコールを確認します」
1.「電源コード・電極の貼り、リードを確認してください」電極・接続の確認
リードチェック、
2.「モニターの感度を上げてください」感度を1倍以上に上げる
感度上げる時は胸骨圧迫を中断しない
3.「誘導をⅡ誘導からⅢ誘導に変えてください」誘導を変える
※誘導の確認のときのみ胸骨圧迫を一時中断し、確認できたらすぐに再開する。
フラットラインプロトコールの解説
1.心電図モニターの電源が外れている、またはバッテリー切れ。電極がはがれている、またはリードが外れている。
(リード)
2. モニターの感度が小さく設定されていないか。(カンド)
3. Ⅱ誘導では拾えない波形がⅢないしⅠ誘導で拾える可能性がある。(ユード)
(本当に心静止が確認されたら)心肺蘇生の適応の確認。DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)
治療方針の宣言:「Asystole の治療を行っていきます」
薬剤投与ルートの確保を指示:「輸液路を正中皮静脈に 18G 以上の針で確保してください」
「アドレナリン 1mg を静注してください」「生食 20ml で後押ししてください」「以後、3~5分毎に投与してください」
CPR2分毎に再評価:「胸骨圧迫を一旦やめてください」
CPR5サイクル(2分)毎、モニターチェック:「Asystole 継続、胸骨圧迫を続けてください」
CPR 中は常に CPR の質の評価と原因検索を行う
CPR 中止判断
CPR 中止判断
1. 適切な ACLS ができているか
2.
救命できる原因が隠れていないか
3.
4.
家族への説明と対応ができているか
正しい蘇生を行った
1. 適切な BLS・ACLS が行われているか。
z 質の高い胸骨圧迫がされている。
z 有効な換気が行えている。
z アドレナリンが投与されている。
z 可逆的原因が除外されている。
2. 非定型的臨床像がない。
z 溺水・低体温・薬物中毒・小児でない。
3. 患者家族への説明と同意がなされている。
4. 上記の正しい蘇生を継続している。
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6. 心肺蘇生に用いる薬剤
① 薬剤の有用性
心停止の患者に対して生存率を高め、社会復帰率を改善させることが証明されている薬剤はありません。
これに対して、迅速な CPR や除細動は生存率や社会復帰率を高めるエビデンスが明らかです。しかし、これ
らによって心拍再開が得られないような場合は、薬剤を使用します。
心肺蘇生に用いられる薬剤は繰り返しになりますが、これらの効果は、BLS に反応しなかった心停止に対し
て、心拍再開率を高める若干のエビデンスがある、しかし生存退院や社会復帰の確率を高めるものではない、
といったものです。心停止の際には血管収縮薬と抗不整脈薬が使用されますドパミン以外は ICLS コースの
枠をこえるので、参考程度にしてください。 *薬剤に関しては次ページ参照
② 薬剤投与経路
ICLS ではいくつかの薬剤が投与されます。まず、これらを投与するためのルートについて学びます。薬剤投
与路には末梢静脈、骨髄路、気管内、中心静脈などがありますが、まず考慮すべきは末梢静脈路です。
次に骨髄路を考慮します。気管内投与と中心静脈投与は推奨しません。
① 末梢静脈路
左右の両側の肘静脈は穿刺が容易であることに加え、CPR を中断せずに行えるという利点があります。そ
のため、心肺蘇生でも第一選択になります。静脈注射が可能な薬剤は全て投与できます。欠点は、薬剤が
中心静脈、ひいては心臓に到達するのに時間がかかることです。これを補うため、末梢静脈から薬剤を投与
した場合は、生理食塩水 20ml でフラッシュし、ラインを確保した上肢または下肢を 10-20 秒挙上します。ライン
をキープするための輸液は、生理食塩水・乳酸リンゲル(ラクテック)酢酸リンゲル(VeenF)がよいでしょう。
② 骨髄路
末梢静脈が確保できなければ、骨髄路確保を次に考えます。穿刺の際に CPR を中断する必要がなく、静
脈内投与ができる薬剤はすべて骨髄路からも投与できます。末梢静脈路よりも中心静脈への到達が早く、
5-10ml 程度の生理食塩水でフラッシュすれば十分です。欠点は、しばしば穿刺が難しいことです。高齢の女
性では骨皮質が柔らかく刺しやすいですが、男性では針を貫通しないことがあります。穿刺するときは、専用
の骨髄針を用いて、骨髄穿刺のときの要領と同様に、針を回転させて数直に骨膜を貫きます。成功すれば
針は支持なしでも立っています。当院の救急カートには、イリノイ針と呼ばれる骨髄針が用意されています。イリ
ノイ針には末梢静脈路に用いる輸液セットが接続できます。皮下組織が薄く、穿刺面が広く穿刺しやすいの
で、脛骨粗面がよく用いられます
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薬剤名
投与方法
コメント
アドレナリン
1 回 1mg iv、3〜5 分間隔で追加投与(最大使用規
定なし)
アミオダロン
初期投与として 300mg iv、追加投与利用として
CPR、電気ショック、昇圧剤投与に
(アンカロン)
150mg iv 投与を行う
反応しない Vf/無脈性 VT に投与を
考慮する。
炭酸水素ナトリウム
1mEq/kg iv
高カリウム血症、高マグネシウム血
(メイロン)
症、ファノバルビタール、三環系抗うつ剤
中速に使用
塩化カルシウム
2%塩化カルシウム 50mL
高カリウム血症、高マグネシウム血
症、低カルシウム血症に使用
ドパミン
5μg/kg/min(20μg/kg/min まで増量可能)
(カタボン)
ドパミンは心拍出量と動脈圧を増
加させる。蘇生後の低血圧に対して
使用
7. 蘇生後(ROSC)ケア 心拍再開後の集中治療
心停止後症候群
心停止後には、以下のような問題が頻繁に起こります(心停止後症候群)。これらに適切に対応できないと、患者
は高い確率で死亡します(多くは 24 時間以内)。
1解決されない心停止の原因:心停止の原因が未解決のまま残っていると、再度心停止を起こしてしまいます
2心停止後の心筋機能不全:心停止の際の虚血などの影響で、心拍が再開しても心機能が低下し、全身の血液循環
に悪影響を来します。
3低酸素性脳症:脳は最も虚血に弱い臓器です。心停止の際の虚血の影響で、脳にさまざまな程度の障害が起こり
ます。実際、心拍再開後も、多くの患者は昏睡状態です。この障害が不可逆的(元に戻らないこと)だと、重篤な
後遺症を残します。
4心停止後の全身反応:心停止時の虚血や、心拍再開後のサイトカインの放出などによって、心臓や脳以外にも、
多くの臓器が機能不全に陥ります(多臓器不全)。また、成人呼吸急迫症候群(ARDS)や血糖値の異常、生命維持
に必要なホルモンの異常などが起こります
蘇生後(ROSC)ケアについて整理出来ていますか?JRC 蘇生ガイドライン 2010 では、「心拍再開後の手中
治療」として表現されています。治療法が確立している訳ではありませんので知識の整理が難しいと思われま
すが、ガイドライン 2010 のトピックスでもありますので、出来る限り理解しやすいように説明させていただきます。
また、皆様が行う治療順番、A(気道管理)、B(呼吸管理)、C(循環管理)、D(原因検索)の順番に説明さ
せていただきます。
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1 蘇生後ケアの目的
心肺停止状態から蘇生した患者の病態について考えましょう。心肺停止に陥った原因は多岐に渡りま
すね。皆さんは患者を目の前にして、心筋梗塞?電解質異常?呼吸不全?などなど知識をフル活用し
て原因を探りますね。ただ言えることは、目の前の患者は「心肺停止した直前の状態に戻っているだけにす
ぎない。」ということなのです。心肺停止時間が長ければ長いほど体内の低酸素状態が悪化しています。
適正な気道管理・呼吸管理を行わないと低酸素から除脈が進行し、心静止に移行してしまうことはご理
解いただけると思います。低血圧であれば、臓器への組織還流が満たされていないため、多臓器不全や
低酸素を遷延します。つまり、蘇生後のケアが予後を決定付ける一つの因子となっていることが、ガイドライ
ン 2010 で強く訴えられていることなのです。まだまだ治療法が確立したわけではありませんし、数件の研究
結果ではありますが、「蘇生後ケアとして、包括的治療手順の実施により蘇生後の院外心停止昏睡例で
生存率が増加する。」という研究結果があることをご理解いただければと思います。
2 A.B:蘇生後の気道管理と酸素化
1でもご説明したとおり、蘇生後には低酸素状態が遷延しています。気管挿管を含めた適正な気道管理
と酸素化を行うことが必要不可欠なのです。特に酸素化については、動脈血酸素分圧(PaO2)または動
脈血酸素飽和度(SaO2)を指標に吸入酸素濃度を調節することとされています。また、ガイドライン 2010 のト
ピックスとして、呼気終末 CO2(PETCO2)を 35~40mmHg 適正値にすることを推奨されています。
3 C:循環管理
ガイドライン 2010 において「蘇生後の病態生理に基づいて、包括的治療の一部として輸液が行われるこ
とは理にかなっている。」「循環不全を呈する成人患者において、血管収縮薬や変力作用薬のルーチン
の使用に関して支持あるいは否定するエビデンスは十分ではない。」とされています。ICLS での循環管理と
して、まずは輸液負荷し血管内のボリュームアップ。輸液負荷しても血圧が上がらなければ血管収縮や変
力作用薬等を病態により選択していくこととなります。
4 D:原因検索
12 誘導心電図による急性冠症候群の判断や、血液検査による病態把握を早期に行い、心肺停止の
原因を見つけ治療することが必要となります。
5 体温調節
ガイドライン 2010 では「蘇生後高体温を呈する患者の転帰は不良である。高体温の予防、治療を行うこと
は理にかなっている。」「初期リズムが VF の院外心停止で蘇生後昏睡状態である患者に対して低体温療
法を施行すると、退院時あるいは退院後 6 か月の神経学的転帰が改善する。」との報告がされています。
まだまだ確立された治療ではありませんが、蘇生後の低体温療法の有効性が示されています。また、心
肺停止の原因が急性心筋梗塞である場合、低体温療法と再灌流療法(PCI)の併用が可能とされてい
ます。
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6 血糖コントロール
蘇生後の成人患者では 180 ㎎/dl 以上の高血糖は治療を考慮するとされています。
7 まとめ
ICLS の元となっている JRC 蘇生ガイドライン 2010 では、蘇生後ケアのアルゴリズム化がされていませんが、
次のとおり理解されるとわかりやすいと思います。
① SaO2 が 94%以下であれば気道管理と適正な酸素化を行う。
② 循環管理としてまずは輸液附加を行う。コントロールできなければ最低収縮期血圧が 90mmHg を上回
るか、平均動脈圧が 65mmHg を上回るように血管収縮薬等を病態にあわせ選択する。尿量コントロ
ール。
③ 低体温療法を考慮する。
④ 原因を突き止め治療を行う。専門医にコンサルトする。
⑤ 血糖コントロール。高血糖/低血糖は避ける
8. チームで行う心肺蘇生
心肺蘇生は時間との戦いです。蘇生に参加したスタッフは、短時間に非常に多くのことを行わな
ければなりません。さらに、心停止はいつ起こるか予測できません。そのとき居合わせたスタッフ
が即席のチームを作って対応しなければなりません。
このような困難な状況で蘇生を成功に導くには、蘇生チームの全員に心肺蘇生の共通理解がなけ
ればなりません。医療機関は突然の心停止が起こりやすい場所ですから、医師にかぎらず、すべて
の職員がコンセプトを共有している必要があります。この点で、ICLS コースに多職種のスタッフが
参加する意味があるのです。
さて、たとえ即席のチームでも、できるだけチームワークよく蘇生が行われなければ、良い結果
は望めません。団体競技のスポーツと同じです。一人のスーパーマンがいるよりも、チームとして
機能したかどうかが、蘇生の結果を左右するのです。
望ましいチームワークを実現するためには、それなりの方法があります。このチャプターでは
それを学びます。実際のコースのシナリオステーションでは、初対面の受講生とチームを作ります。
ここで学んだことを、そこで体験してゆくことになるでしょう。
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チームワーク向上のために
美しいハーモニーを奏でるには、自分の音を出すだけではだめです。お互いの音を聞き、互いに調和する
ような努力が必要です。蘇生チームも同じです。お互いにポジティブな影響を及ぼしあいながらチームのパフ
ォーマンスを高めてゆくために、次のようなことがらに留意します。
1双方向性のコミュニケーション(Closed loop communication ともいいます。)
キャッチボールのように、言葉をやりとりします。「アドレナリン 1mg 静注して」「わかりました」「アドレナリン 1mg 静注
します」「わかりました」
2明確な指示
たとえば薬剤の名前、量、その単位などをきちんと語り、文章の最後の動詞まではっきりと指示します。
×「アドレナリンやって」○「アドレナリン 1mg を、次のリズムチェックで VF が続いていたら静注してください」
3役割や責任分担を明確にする
リーダーが誰にどの役割を割り振るのかはっきりと伝えていないために、またメンバーがそれを忘れて個人プレ
ーに突っ込んでしまうために、この点が非常にあいまいになりがちです。メンバーはリーダーの指示に従い、リ
ーダーはメンバーが指示に従わなければ修正します。
4自己の限界を知る
メンバーは与えられた役割が自分にとって荷が重ければ、リーダーに申し出ます。リ
ーダーは他のメンバーとの交代を考慮します。
5情報を共有する
メンバーは自分が行動を起こすときは全員に聞こえるように声を出し、互いに何をし
ているかが理解できているように心がけましょう。リーダーは患者の病状や情報につ
いて、必要なものはメンバーに伝え、共通理解のうえで蘇生を行うようにしましょう。
6建設的介入
メンバーの誰かの間違いに気がついたら、指摘してあげましょう。蘇生を成功に導くための意見ですから、介
入された側は気分を害してはいけません。「そう、アドレナリンを 1g 静注してくれ」→「アドレナリン 1mg の間違いで
はないですか」
7再評価とまとめ
リーダーは蘇生の中で時間に、蘇生の進行状況や患者の状態、今後の治療方針などをまとめてメンバー
に伝えます。やるべきことで忘れているものはないか、メンバーに確認してもよいでしょう。
8お互いの尊重
生チームは蘇生の成功に向けて力を合わせる善意の人の集団です。そこには上下関係はありません。決し
て大声を出したり、叱ったりせず、押さえた口調で、互いを尊敬し、励ましながら蘇生をしましょう。
⇒×「何やってんだ、さっきも同じことを注意しただろ」
⇒○「そうだ、さっきよりずっといいぞ。今度はもう少し圧迫のテンポを速くしてみよう」
よいコミュニケーション明確な役割と責任分担自己の限界を知る建設的介入情報を共有する明確な指示
再評価とまとめが重要です。
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今日一日大変お疲れ様でした。
皆さんいかがでしたか?
今回の受講を機に周囲の人にもICLSを周知して頂ければなによりです。
この知識の継続のためにはやはり人に教えるのが一番です。
インストラクターなんて敷居が高いから…なんて思わず一緒に勉強しませんか?
継続こそが意味ある学習であると思っています。
是非、次回の ICLS コースへの参加をお待ちしております。
皆様とともに ICLS を学習し、
蘇生に関する様々な知識や手技をさらに院内に広めることが出来れば良いかと思っています
○参考文献 引用文献
ICLS コースのてびき G2010 上越総合病院 ICLS チーム
篠ノ井病院ICLS事前学習ポイント
興生 ICLS コーステキスト
JRC蘇生ガイドライン
AHA:EPマニュアル リソーステキスト
2010 AHA プロバイダーマニュアル
文責:CMD 渡辺徳
初版:2014/6/1
第3版:2015/10/12
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