温水配管用樹脂管の熱劣化による評価と耐久性向上のための配合設計

博士論文
温水配管用樹脂管の熱劣化による評価と耐久性向上のための配合設計
平林秀雄
要旨
住宅内の衛生系配管の給水管には亜鉛メッキ鋼管や樹脂ライニング鋼管などの炭素
鋼鋼管などが多く使用され,給湯配管には銅管などが多く使用されてきた。1965 年代
から、銅管の本格的な採用が始まり、セントラル給湯用の配管、暖房システム用の配管
の普及に加え、超高層建築物に対応した施工性、耐震性、軽量性等から使用量が急激に
増加した。ところが、銅管を採用した給湯配管や暖房配管で、孔食による漏水事故が発
生するようになり、その原因及び対策が確立していないことから、現在でも問題を残し
ている。そこで、新築の集合住宅を中心に住戸内の配管には,金属配管材料より可撓性,
耐食性及び軽量性に優れた非金属配管材料の樹脂管、特に、ポリオレフィン管を用いる
工法が、1990 年代から採用されるようになってきた。現在では、新築のほとんどの住
宅に暖房給湯器が設置されるようになり、その配管材料として、ポリオレフィン管でも
耐熱性に優れる架橋ポリエチレン管が主に使用され、給水給湯用配管だけでなく、暖房
温水用配管としても使用されている。そして現在では、架橋ポリエチレン管だけでなく、
暖房用として使用可能な非架橋ポリエチレン管も使用されている。しかし、これらの暖
房・給水・給湯用配管用の架橋・非架橋ポリエチレン管は、使用温度や使用圧力による
負荷により寿命に影響を及ぼす事が分かっている。架橋ポリエチレン管の経時的な破壊
は、延性的破壊を示すステージⅠ、脆性的破壊を示すステージⅡ及び局所的に化学劣化
を伴うステージⅢに分けられる。ステージⅠとステージⅡでは破壊時間の応力依存性が
大きく、ステージⅢの破壊は化学劣化により発生し、高温下での長期間の使用により、
架橋ポリエチレン管が劣化して低い応力状態でも破壊することが確認されている。また、
水道道水の殺菌のために添加されている塩素も、暖房・給水・給湯用配管の架橋ポリエ
チレン管の寿命に大きく影響していることが確認されている。このように、経時的な劣
化や不具合の事例の調査や実際に使用された管を回収して分析された事例は多くある。
しかし、これらの複合的な要因で発生する破壊について評価する方法や破壊モードを考
慮した酸化防止剤の配合設計も明らかにされていない。
本研究の目的は、これから問題となると思われる既設の暖房・給水・給湯用配管とし
て使用されている管の寿命評価やこれから開発される管の長寿命化の要望に応えるた
めに、各種の酸化防止剤を配合したパイプを試作評価し、酸化防止剤の配合による寿命
へ影響の評価を行い、酸化防止剤の配合のガイドラインと適切な評価方法を確立するこ
とである。
第1章では、緒言として本論文の背景と必要性、意義を述べる。第2章では、架橋・
非架橋ポリエチレン管の促進劣化後の劣化状態の評価を行う。その結果、非架橋ポリエ
チレン管では、劣化により発生したクラック部分で銅イオンの存在が明らかになり、管
の内面と肉厚中央部分で結晶ラメラの成長の差が見られることを明らかにした。 第3
章では、暖房用途に使用される非架橋のポリエチレン管に酸化防止剤を追加配合したも
のを試作し、長期熱間内圧クリープ試験と長期温水循環水試験で促進劣化を行い、長期
性能の評価を行う。その結果、暖房用に使用される非架橋ポリエチレン管では、長期温
水循環試験での促進試験が実用的な評価であり、酸化防止剤は光安定剤が長期性能に有
効であることを明らかにした。第4章では、給湯用途に使用される架橋ポリエチレン管
に酸化防止剤を追加配合したものを試作し、長期熱間内圧クリープ試験と長期塩素水循
環試験で促進劣化を行い、長期性能の評価を行う。その結果、酸化防止剤には、架橋反
応に阻害を及ぼすものがあることが分かり、塩素水に対する性能を確保するには、フェ
ノール系酸化防止剤だけでは限界があり、分子量の異なる光安定剤を加えることで、長
期的な耐久性が発揮される事を明らかにした。第5章では、第4章で試作した給湯用途
に使用される架橋ポリエチレン管に配合された酸化防止剤が、架橋構造へ及ぼす影響の
評価を行う。その結果、核磁気分光や動的粘弾性の測定から、架橋点間の分子量や架橋
密度の違いが分かり、架橋構造が長期的な寿命に影響を及ぼしていることを明らかにし
た。第6章では、暖房用の非架橋ポリエチレン管及び給湯用の架橋ポリエチレン管の配
合設計のガイドラインと実用的に有効な長期寿命の評価方法を検討した。第7章では、
本研究であられた主要な結果をまとめた。
本研究において、長期耐久性の向上には、酸化防止剤の配合だけでなく、樹脂の構造
が関与していることが分かり、架橋ポリエチレン管では酸化防止剤が架橋構造へ影響を
及ぼすことが分かり、塩素水による劣化に対しては光安定剤の組み合わせが有効である
ことを明らかにした。