特集 富山バイオバレー構想の推進

特集 富山バイオバレー構想の推進
富山県は、低廉な電力と豊富な工業用水、勤勉な労働力などを背景として
工業化が進み、第2次産業のウェイトが全国平均と比較して高いという産業
構造が示すように、製造業を中心として日本海側屈指の産業集積を形成し
てきました。
しかし、これまで本県経済を支えてきた金属、化学、繊維等の基礎素材型
産業を主とする基幹産業は、一部で成熟化が進んできています。
● ●
このような背景から、県では、本県経済が安定的に発展し、県民に魅力的
な雇用機会を提供できるよう、本県産業を支えている既存企業の事業活動
を充実するとともに、ITやバイオ、深層水など今後成長が期待できる分野に
おいて、企業の研究開発や付加価値の高い新商品の開発等創造的事業活動
を支援し、新規創業や既存産業の新事業展開を促進することにより、本県の
次代を担う力強い新事業・新産業を創出していくこととしています。
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特集 富山バイオバレー構想の推進
1.富山バイオバレー構想とは
ーは、今後とも最重要視される研究分野の一つとなっ
「富山バイオバレー構想」は、300年余の伝統を誇る
ています。
「薬の富山」に代表されるように、本県に蓄積された
ポテンシャルを生かし、遺伝子解析等の先端的なバイ
オ技術を活用した研究開発を推進し、バイオ分野の研
3.国の地域科学技術・産業政策
究・産業集積を構築するものです。
わが国の第2期科学技術基本計画において、
『地域
医薬バイオ分野を中心に、酵素応用や高機能食品開
における「知的クラスター」の形成』がうたわれていま
発、環境バイオ、品種開発・改良等を重点分野とし、応
す。知的クラスターとは、
「地域のイニシアティブの
用技術として、テーラーメイド医療、遺伝子の機能解析、
下で、地域において独自の研究開発テーマとポテンシ
バイオセンサー、バイオインフォマティクス等に取り
ャルを有する公的研究機関を核とし、地域内外から企
組むこととしています。
業等も参画して構成される技術革新システム」と定義
されています。つまり知的クラスターとは、大学等の
【1-図】
富山バイオバレー構想とは富山に蓄積されたポテンシャル
を生かし、バイオ技術を活用した研究開発を推進し、バイ
オ研究・産業集積を構築します。
研究シーズをもとに地域独自の産業集積を新たに形
成するものです。
このような計画のもとに、文部科学省では「知的ク
●重点分野
ラスター創成事業」、経済産業省では「産業クラスター
医薬バイオ
品種開発
改良
酵素応用
計画」を実施しています。
本県では、バイオバレー構想の一環として「知的ク
ラスター創成事業」に「とやま医薬バイオクラスター」
高機能食品
開発
を提案し、本年4月に試行地域に選定されました。また、
環境バイオ
産業クラスター計画の一環である地域新生コンソー
シアム研究開発事業において、
「植物遺伝子導入を利
●応用技術
テーラーメイド医療
バイオセンサー
遺伝子の機能解析
バイオインフォマテ
ィクス
用した代謝工学による有用物質生産技術」が採択を受
け、産学官で研究開発を進めています。
【3-図】
国の地域科学技術・産業政策
第2期科学技術基本計画
○地域における「知的クラスター」の形成
2.バイオテクノロジーの将来展望
わが国のバイオテクノロジーの市場規模は今後大
地域のイニシアティブの下で、地域において独自の研究開発
テーマとポテンシャルを有する公的研究機関を核とし、地域
内外から企業等も参画して構成される技術革新システム
きな拡大が見込まれています。2001年に1兆3000億
円であったものが2010年には25兆円にまで成長する
と予測されています
知的クラスター創成事業
文部科学省
(大学等を中心に日本版シリコンバレーを形成)
本県は試行地域に選定:「とやま医薬バイオクラスター」
また国の科学技術政策においても2001年から5カ
年で総額24兆円の政府研究開発投資が行われますが、
そのなかでも特にライフサイエンス、情報通信分野、
環境分野、ナノテクノロジーの4分野に重点配分され
産業クラスター計画(地域再生・産業集積計画)
経済産業省
(地域経済産業局が結節点となって、産学官の広域的な人的
ネットワークを形成)
中部経済産業局→「北陸ものづくり創生プロジェクト」
高度精密加工・材料、バイオ
ます。ライフサイエンスに含まれるバイオテクノロジ
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4.とやま医薬バイオクラスター
て、「伝統医学活用による生活習慣病の克服と健康
本県は、全国市場を形成した「とやまの薬」として医
増進」
(文部科学省地域先導研究)、
「生合成工学によ
薬品製造業105社、医薬部外品製造業44社、医療用具
る有用物質生産技術の開発」
(経済産業省地域新生コ
製造業31社により、生産額2,300億円(全国比3.7%)
ンソーシアム研究開発事業)、RSP事業(文部科学省)
と高い集積をもつ産業クラスターを形成してきました。
における可能性試験の実施やコーディネート活動を
これに対し「とやま医薬バイオクラスター」は、世界市
展開してきました。
場をねらう「とやまの医薬」として、富山医科薬科大学
さらに、平成12年には富山医薬大が中心となり産学
等が有する医薬バイオ分野の技術と富山大学、県工業
官連携による新しい薬の開発を目指したフォーラム富
技術センター、県立大学等が有するエレクトロニクス
山「創薬」が設立され、活発な研究会活動を進めています。
分野の技術の融合を図り、バイオ関連産業を創出する
新たな知的クラスターの形成をめざすものです。
6.富山バイオバレー構想の推進体制
【4-図】
全国市場を形成した
とやまの薬
医薬品製造業:105社
(118製造所)
医薬部外品製造業:44社
医 療 用 具 製 造 業:31社
生産額:2,300億円
(全国比 3.7%)
世界市場を狙う
とやまの医薬バイオ
バイオとエレクトロニ
クスの融合をめざす
新産業の創出
バイオバレー構想は、大学、県立試験研究機関、企業
の産学官が連携することとしています。大学について
は、富山医薬大、富大、県立大学、北陸先端科学技術大
学院大学の4大学が中心となります。県立試験研究機
関については、工業技術センター、バイオテクノロジ
ーセンター、国際健康プラザ・国際伝統医学センター、
衛生研究所、薬事研究所など、企業については県内の
製薬、電子、電機、情報産業などの関連企業が加わりま
す。この産学官の連携を取りまとめるのが新世紀産業
5.これまでの取り組み
機構に置かれるバイオバレープロジェクト推進本部
バイオバレー構想に関わるこれまでの研究開発や
の役割となります。
事業の状況をみると、富山医薬大、バイオテクノロジ
バイオバレープロジェクトの事業として、共同研究
ーセンター、国際伝統医学センター、薬事研究所など
プロジェクトを推進するほか、マーケティングや研究
において、西洋近代医薬学に和漢薬を中心とした東洋・
成果の特許化に関する調査、各種研究会及びフォーラ
伝統医学を調和させ、
「医薬一体の総合医薬学」を特
ムの開催などを予定しています。
徴として研究に成果をあげています。一方、電気機械
製造業も抵抗器などからセンサーや集積回路などの
【6-図】
富山バイオバレー構想推進体系図
付加価値の高い製品へ移行してきており、工業技術セ
ンターにおける半導体製造プロセスを応用したマイ
クロマシニング技術を核としてDNAチップの開発
など、さらに高度なメディカル分野へのエレクトロニ
大 学
富山医科薬科大学
富山大学
富山県立大学
北陸先端科学技術
大学院大学 等
県立試験研究機関
富山県
工業技術センター
バイオテクノロジー
センター 等
クス技術の応用展開の取組みが進んでいます。
県では、これらのバイオテクノロジーを核とした新
バイオバレープロジェクト推進本部
産業の振興を図るため、いち早くバイオ産業振興協会
(財)富山県新世紀産業機構
やバイオテクノロジー推進懇談会、バイオバレー研究
会を組織するとともに、平成12年に医薬バイオを中
県内企業
心とした研究・産業集積を構築する「富山バイオバレ
(製薬、電子、電機、情報等)
ー構想」を打ち出しました。また、産学官連携事業とし
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特集 富山バイオバレー構想の推進
7.産学官大型共同研究プロジェクトの推進
めざします。
バイオバレープロジェクト本部が展開する事業の
また、今後の研究成果を活用して、既存の電子機器
核となるのが、共同研究プロジェクトの推進です。具
やメカトロニクス、金属・素材メーカーが新たな事業
体的な研究プロジェクトとして、地域新生コンソーシ
分野として先端的な医療機器、医療材料の開発に参入
アム研究開発事業により「植物遺伝子を導入した代
したり、医薬品・食品メーカーが新薬や機能性食品の
謝工学による有用物質生産技術の開発」を実施して
開発に取り組まれることを期待しています。
います。このプロジェクトは、植物の遺伝子を利用し、
化学合成が困難な医薬品原料等の有用物質の大量生
産技術を開発するものです。
9.富山バイオバレー構想の将来展望
また、知的クラスター創成事業(試行地域)により「免
将来への展望として、医薬と電子・機械分野、西洋
疫マイクロアレイチップの開発」や「DNAチップの開
医学と東洋医学の融合も図りながら、産学官が連携し
発」などを進めることとしています。このプロジェク
研究開発を推進することにより、バイオセンサー、遺
トは免疫反応や遺伝子の反応を利用し、感染症や生活
伝子診断、創薬を核とした「とやま医薬バイオクラス
習慣病等を簡便に診断するマイクロチップを開発す
ター」を構築します。これによりさらには生命に関す
るものです。これらの研究プロジェクトにより、臨床
る様々な分野の科学技術、産業、医療等の機能が集積し、
応用・治験を経て富山オリジナルの診断機器、医薬品
人類の健康に貢献する「生命科学の国際的基地」の形
などを創出することをめざしています。
成をめざします。
【7-図】産学官大型共同研究プロジェクトの推進
【10-図】
富山バイオバレー構想の将来展望(10年後の目標)
植物遺伝子を導
入した代謝工学
による有用物質
生産技術の開発
免疫マイクロア
レイチップの開
発
DNAチップ
西洋医学
電子工学
臨床応用
治 験
富山オリジナル
免疫センサー、DNAチップ、診断機器、医薬品
機械工学
とやま医薬バイオ
クラスター
バイオセンサー
遺伝子診断
創 薬
東洋医学
薬 学
・生命科学の国際的基地の形成
産学官が連携し構想を強力に推進
8.研究成果の実用化
バイオ研究の成果の実用化については、遺伝子解析
やバイオインフォマティクス分野のバイオベンチャ
ーが研究開発活動を展開するとともに、肝炎ウイルス
やO-157などの食中毒菌などを検出する微小電極D
NAチップによる測定システムの実用化を目前とし
た企業もあります。バイオバレー構想では、産学官の
研究プロジェクトの成果の実用化を図るため、こうし
たバイオベンチャー企業のさらなる創出及び育成を
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