数学の学習方法 (講義) 柿澤 亮平 (島根大学 教育学部 数理基礎教育講座) 1. 大学の数学 大学の数学を学ぶことには, 中学校・高等学校の数学に存在する背景を理解する という重要な目的が あります. 例えば, 生徒から • 原始関数の定義 • 不定積分の定義 について質問されたとき, 原始関数も不定積分も同じものであると回答する教員は, 微分法も積分法も 理解していないと断言できます. 原始関数と不定積分は違うものであり, 上記の質問に回答するために は, 微分可能関数, 連続関数, 可積分関数を理解していなければなりません. 安易な “分かった” からの 反省を促し, 教科書に潜在する “ごまかし” を見抜くことが, 背景を理解することなのです. 2. 講義の目的 独学で数学を理解するのは (結果的には) 可能ですが, 高等学校の教科書からいきなり大学の数学書を 読み理解できるのは, 一握りの天才・秀才だけです. その決定的な理由は, 高等学校の数学でも大学受験 でも道具としての数学を活用することが重視される一方, 大学の数学では理論としての数学を理解する ことが重視されるからです. 数学の講義には, その内容の本質的な概念・論法を解説することによって, 数学の適切な学習方法を身につけたり, さらに学ぶきっかけを得たりするという目的があります. 独学 で数学の理論を完全に理解できるようになるためにも, ぜひ毎回の講義に出席しましょう. 3. 講義の学習方法 数学の理論を完全に理解するとは, 論理的にどこまで分かってどこから分からないのかを明確にする ということを意味します. 定期試験の直前だけ学習してもこの分析力は身につけられませんので, 講義 の内容を完全に理解するためには, 一般的なサラリーマンのように, 1 回 (1 週間) あたり 40 時間くらい 学習しても不思議ではありません. 独学で講義の内容を完全に理解しようという心構えができたら, 講義・演習の自筆ノートを 1 冊ずつ 用意し, 下記の (1)–(3) の順序で内容を学習するのが望ましいと思います. (1) 定義の意味を理解する: 何を満たせば, 何と言う・呼ぶのか. ※ 定義の意味を論理的に理解するのはもちろんのこと, 感覚的にも理解できるようになりましょう. (2) 命題の主張を理解する: 何を仮定とし, 何を結論とするのか. ※ 命題の主張を理解できないということは, 定義の意味を理解していないということを意味します. (3) 命題の証明を理解する: 何を用いて, どの方法で論じるのか. ※ 命題の証明だけでなくその方針も理解すれば, 命題の本質的な概念・論法を説明できるはずです. 講義の内容を完全に理解したつもりでは, 学習したことになりませんので, 演習によって講義の内容 を実際に理解したかどうかを確認します. あまり講義の内容を理解できないこともあると思いますが, その時は友人と徹底的に議論したり, 教員に積極的に質問したりしましょう.
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