生徒が英語をまなばざるを得ない仕掛け作り

生徒を伸ばす指導のヒント
ベネッセコーポレーション
GTEC for STUDENTS 事業推進課
vol.46
【GTEC 通信】
http://www.gtec.for-students.jp/
<指導事例研究>
生徒が英語を学ばざるを得ない仕掛づくり(授業とテスト)
∼All English 授業・グループワーク・定期テストの取り組み∼
0:はじめに・・・
奈良県立法隆寺国際高校は、高校卒業後の進路先が大学・
専門学校・就職と多岐にわたっている学校です。従って大学
入試に英語が必要という理由では、全ての生徒に英語学習の
動機付けを行うことはできません。英語を学ばせる必然性が
語りにくい状況下で、同校は平成 19 年度英語教育優良学校文
部科学大臣賞を受賞されました。どんな工夫・仕掛けが生徒
を英語学習に向かわせるのか。具体的な取り組みを3人の先
生(渡部先生:英語科主任・其田先生・松本真紀先生)にイ
ンタビューしました。
1:事例のサマリー(3人の先生のお話より)
同校の指導から検証までの流れ(イメージ)
①英語に対
する恐怖心を
ぬぐうため、
少し易しい素
材使用
⑤量をこなし
「達成感を」
持たせる
④Timed
Readingで
ダラダラし
ない展開
【テストで測るReading力】
・概要把握
・語彙類推
→初見の問題で把握でき
る力
→必要に応じて英語で情
報を検索できる力
②生徒が関
心を示しやす
い素材
③All English
授業によりもが
き、英語に向き
合う姿勢をつく
る
ポイント:「英語に対する恐怖心」を取り除き、「小さな成功体験を積ませる」ため、易しい英
文を数多く読ませることを重視。
英語のテストでは暗記力ではなく、英語力を測定するための「初見問題」を出題。
①英語に対
する恐怖心を
なくすための
題材の工夫
■大事なこと
・小さな成功体験を積み重
ねること
・初期指導を大切にするこ
と
③暗記力で
はなく、英
語力を測定
するテスト
2:松本先生のリーディングの取り組み
松本先生リーディング力向上のイメージ
②学ばざるをえ
ない状況づくり
All English/
Writingテーマ
学習
英語学習を前向きに継続にさせる仕掛けは、3つポイント
があります。まず1つ目は英語に対する恐怖心をなくすこと
です。同校では国際科であっても、英語に苦手意識をもって
入学してくる生徒が少なくありません。従って扱う題材は、
易しめのものから、テーマは身近でイメージしやすいものか
ら与えます。そして2つ目は、入試を前提としない以上、学
ぶ必然性を生徒に語るのではなく、授業中に学ばざるを得な
い状況をつくることです。例えば、All English 授業、Writing
を通じての学習がそれにあたります。そして3つ目は、この
ような授業で身につけた英語力を試す試験があることです。
定期テストは「初見の問題」や「授業で扱った問題文でも普
段と違う設問を出す問題」を多く出題します。生徒の暗記力
ではなく、英語力を測定したいという思いからです。以上3
つのポイントを踏まえることで、生徒自身が「できた」とい
う達成感を継続的に持てるようになります。生徒には学年の
はじめに授業の方針を徹底して伝えています。このような指
導を受けた生徒達は、英語の授業で鍛えられてよかったとい
う声が多いようです。さらに詳細な取り組み内容を、松本先
生の国際科リーディングの取り組みと、其田先生の国際教養
科エッセイライティングの取り組みを伺いました。
松本先生:リーディングの授業は、国際科高1∼高3にお
いて、英語総合、英語理解という科目で週3回扱っています。
あとは上図に示した通りの流れで進めます。最初から思考力
を深めることを求めすぎず、まずは英語に対して自信をもて
る状態を目指します。そのための工夫として授業では、普段
からやや易しい題材で生徒の興味を惹くものを選び、
「でき
た」と思わせ次のレベルに進みます。また、読む活動の際ダ
ラダラしてしまうのを防止するための工夫として、時間を区
切って読むことをさせます。このような授業により、リーデ
ィング力の中でも概要把握する力、限られた時間の中でより
多く読む力、分からない単語がでてきても類推できる力をま
ずは身につけさせたいと思っています。
All English 授業は、生徒ははじめ抵抗があるようでした
が、
「生徒が先生は何を言っているんだろう」と授業を注意し
て聞き、何とかついてこようとするようになったと思います。
先生が日本語で説明すると生徒は分かったような気になりま
すが、実は英語は身についているかわかりません。All
English 授業を行うと英語を理解しようと、もがかせざるを
得なくなります。教師側がこの姿勢を貫き続けることで、生
徒が英語を理解しようと努力します。注意しなければならな
いのは、生徒が分からないという顔をしたら察知し、少し簡
単な英語で説明し直すことです。
生徒のアンケートからも All
English 授業はプラスだと感じている生徒が多いようです。
定期テストの工夫はどのようにされていますか?
松本先生:授業で習った題材を違う角度で問う「既習問題」
と、授業では解説していない「初見問題」で、大まかに概要
把握、内容理解できているか?をみます。評価は既習問題と
初見問題を別々にテストして、その平均点でつけています。
既習問題は、授業で内容理解をした英文が多いですが、リラ
イトしたり設問を変えたりして、なるべくテスト時間中に英
文を読ませるようにしています。理由は、内容を覚えていた
から解けるという類ではなく「英文を読む力(リーディング
力)
」を問いたいからです。初見問題も同様の目的で出題して
います。初見問題は、休暇中に読み物(Catch a Wave:英
語情報誌)を長期休業中などの課題として生徒に与えておき、
その関連問題をテストに出題しています。初見問題の定期テ
ストは、そこから関連問題が出されることを予告します。例
えば、オバマ大統領の演説に関する読み物があった場合、オ
バマ大統領が福井県小浜(オバマ)市に与えた影響に関わる
文章を加えて出題をします。ただ、定期テストなので、語彙
は習得した範囲に限定するようにしています。このようにし
て試験時間中にも生徒が英文を読まざるをえない状況をつく
っています。
3: 其田先生のエッセイライティングの取り組み
其田先生:ライティング力向上のイメージ
①自己表現を
したいと思え
る課題を出す
④人に読ん
でもらい「達
成感」を味わ
う
【テストで測るWriting力】
・語数=伝える意欲
・内容=伝えたい内容
・正確さ(Writingはスピー
キングが介在しない)
→テストでもこの力を測定
(語数=意欲を重視)
学校パンフレットの
英文作成
③人に読ん
でもらう前提
でWriting
身の回りのことや
悩みを書かせ、ペ
ア・グループワーク
②生徒が描
写したいと思
える素材
(映画など)
Reading/Listening
によりテーマの背
景知識を増やす
ポイント:Out Put(Writing) を前提とすると、素材を調べようとする(読む・聞く)
Writingで人に読んでもらうことを前提とすると「達成感」が味わえる
授業で行ったライティングと似て非なる問題を出題
其田先生:3年生のエッセイライティングの取り組みです。
なるべく「まとまりのある発信」をすることを心がけ、以下
のようなテーマの流れで指導しました。意識したのは、身の
回りのことから社会的なテーマに少しずつ変化させること、
読み手を意識させたライティングに変えていくことでした。
また、グループ学習など入れることで学ばざるをえない、人
に質問をせざるをえない環境をつくりました。
【扱うテーマは時系列で以下の通り(例)
】
① 自己紹介・自分の悩み → グループ・ペアワーク
② ジェスチャーの多い映画の英語での描写
③ 「タイタンズを忘れない(映画:人種差別に関わる)
」を
みる (→この映画の内容でライティングの定期テスト
が出題されることを予告)
④ 学校パンフレットを生徒が英語で作成する (→多くの
人が見るものであることを生徒に意識させる)
定期テストの工夫はどのようにされていますか?
其田先生: 例えば映画「タイタンズを忘れない」であれば、
以下のような問題を出します。授業では映画を見るだけです。
入れずに出題しています。そうすることで見た映画の内容が
把握できているか?や、映画の主題にそって Writing ができ
ているかを試しています(テストは辞書持込可としています)
。
評価は図式中の【テストで測る Writing 力】での記載に準じ
て行います。授業でやったことを暗記すればいいという問題
はあまり出題していません。
4:Q1 生徒が「英語を勉強したくなるきっかけ」は
何でしょうか?また、Q2 先生が「英語を勉強する意
味」を生徒に尋ねられたらどう答えられますか?
渡部先生:
A1:英語を通して達成感を味わった時だと思います。その経
験がないと、生徒たちは英語に対するコンプレックスを抱え、
結果英語の学習に尻込みしてしまうのです。小さなことばか
り気をとられず「英語が通じた!わかった!」という経験を
積ませることが、生徒に自信を与え「もっと頑張りたい」と
いう学習の意欲喚起につながるのだと思います。
A2:「英語を勉強し、異言語、異文化に触れることで改めて
日本語や日本文化の良さ、ありがたみを実感できるから」と
伝えたいと思っています。日本語と英語を学ぶことで主観的
な考え方と客観的な考え方という2つのものの考え方を養う
ことができるというのも伝えていきたいです。
其田先生:
A1:2つあると思います。1つは渡部先生と同じで、達成
感だと思います。
「分かった」という瞬間的な達成感に併せて、
「ここまでできた」というこれまでの頑張りの積み上がりを
実感させることも重要です。もう1つは、実生活の中で英語
が上手く使えなくて困った経験も英語に興味を持たせるきっ
かけになります。ALTの先生と上手く会話できなかったな
どの小さな苦戦経験が良い刺激となるのでしょう。
A2:英語を学ぶことで得られる新しい発見から喜びや驚き
を経験できるからと伝えます。また喜び驚きだけでなく、新
しい視点、考え方も身につけることができるということも伝
えています。日本での普段の生活では身につけられないこれ
ら考え方は、きっと日本での生活にも良い影響を与えてくれ
ると思っています。
松本先生:
A1:英語を通して新しい発見をさせることだと思います。
オールイングリッシュの授業は、生徒たちにとって簡単に理
解できるものではないのですが、一生懸命聞き取って知りえ
たことに喜んだり驚いたりする時、生徒たちは本当に良い顔
をしています。
A2:自分の可能性を広げるためと伝えます。自分の成長の
ためには興味を広げ、新しいことに触れていく必要がありま
す。
「英語を通して新しいことに触れることで自分では思いも
よらなかった自身の可能性を見つけることができるかもしれ
ないよ。
」と伝えます。これは英語だけではなくどの教科にも
言えることだと思います。
5:編集後記
この映画のテーマを英作文しようとすると、
「フットボール」
「人種差別」などは欠かせない重要単語です。しかしテスト
ではそのような単語は、ヒントとして与える語群にはわざと
All English 授業は進路が多様な学校では難しいと聞く
が、教師側の配慮と最後まで英語で授業を行うことを徹底
することで生徒の授業をうける姿勢も変わると思いました。
生徒に英語がなぜ必要なのか?という議論の前に、英語を
学ばざるを得ない仕掛けがあることを同校から感じました。
(聞き手:ベネッセコーポレーション大阪事業所 中井友香
ベネッセコーポレーション GTEC 事業推進課 青木忠司)