進化生態学(第5講) http://www.est.ryukoku.ac.jp/est/kondoh/gakusei.html(パスワード:evoeco) 今日の話題:自然選択による進化、適応度、最適戦略 1. 進化のメカニズム:自然選択 個体の生存率や子供の数が遺伝子のタイプ(遺伝子型)に大きく影響されるとき、集団 のほとんどの個体が似た遺伝子を持つようになることが予想される。例えば、ここにネ ズミの集団があって、個体によって「足を早くする遺伝子」をもったものと「遅くする 遺伝子」をもったものの2種類があるとしよう。ネズミの集団がいつも猫の脅威にさら されている時、「足を遅くする遺伝子」をもった個体は早晩すべて猫に殺されてしまう ため、最終的にはすべての個体が「足を速くする遺伝子」をもつようになるだろう。 このようにある種の集団を構成する個体の持つ遺伝子型がある特定の方向に大きく変 化することを「進化」という。 もしも最も有利な遺伝子をもった個体だけが生き残るならば、進化は「いま存在する遺 伝子」の範囲内でしかおきないことになる。つまり、最初の時点で存在した遺伝形質以 外には現れ得ないことになる。これは短期的に見れば本当かもしれないが、長い目で見 ると間違っている。なぜなら遺伝子は親から子へと受け渡しされる際に「コピーミス」 がおきるからである。ほとんどのコピーミスはこれまで「改良に改良を重ねて」きた生 物の形質を損なうだけで良い結果をもたらさない。そういったコピーミスは自然選択の 結果取り除かれてしまう。しかし、まれに突然変異によってより有利な遺伝子が生まれ る場合がある。そのような突然変異は自然選択によって選択され、次第に集団中に広が っていくだろう。 自然選択による進化の条件は以下のようにまとめられる: #1 個体間で遺伝する形質に変異がある #2 生物の旺盛な繁殖能力のため、すべての個体が生き残れるわけではない #3 生き残る子孫の数は遺伝形質の影響を受ける → 有利な変異の保存 (不利な変異の棄却) ダーウィン流の進化論における適応進化とは、「遺伝子に生じた有利な突然変異をもつ 系統がその個体群を占める事で生じる自然選択」のことである。自然選択説によると、 進化によって生物は少しずつ姿を変え、多様化する。たとえば猿と人は共通の祖先から 少しずつ変化してそれぞれ今の姿になった。これは、いいかえると「猿と私は共通のお じいさんをもっている」ということだ。猿が人になったわけではないことに注意。 2. 自然選択と適応度 適応度とはある遺伝的形質を持った個体が1個体当たり次世代に残す成熟個体の 平均のことであり、 (1個体当たりの子の数の平均 子の繁殖までの生存率)と計算さ れる。ライフサイクルが一周したら何倍になっているかを表す。自然選択においてある 形質が有利であるとは、ある種内においてその性質を持った遺伝子型の適応度が他の 性質を持った遺伝子型の適応度よりも高いということ。自然選択による進化は、適応度 を高めるような形質の進化と言い換えることもできる。ただし、適応度の増加は同 種 の多個 体と比較して 有利であるというだけで、そういう形質を持つことが他の種 と 比較して有利であるとは限らないことに注意が必要である。 3. 最適戦略 生物には「適 応度を高めよう」という意志があるわ けではない。しかし、自然選 択の結果として、より高い適応度につながる形質を持つものが生き残ることになる。こ のような場合、どのような形質を持つものが進化するのかを考えるときに、生物の持つ すべての遺伝形質は生物がもつ「戦略 (strategy)」であるとみなす方便が役に立つ。 生物の持つ形質と適応どの関係が数式化できれば、適応度を最大にする最も有利な戦略 (最適戦略)こそが進化すべき形質だと予測できるわけだ。 4. 種子・卵の不思議 植物の発芽は種子にある栄養を使っておこなわれる。動物は卵の栄養を使って初期の発 生をおこなう。種子も卵も生物の親が次世代(子供)に残す資源遺産である点でおなじ であると言える。 ここで疑問。「今年は種がたくさん出来た」とか「卵がたくさん生まれた」ということ があっても、「今年の種は大きい」とか「卵の大きさが大きい」といったことはあまり 耳にしない。あったとしても、サイズよりも数の方がその変動の大きさはずっとおおき いように見える。これはどうしてだろうか? 4-1. 種子や卵の大きさはどうして(種内では)同じか 餌を良く与えられたニワトリもあまり与えられないニワトリも、産む卵の数が変わって も、その大きさはさほど変わらない。これは最適戦略として理解できる。 資源量が一定のとき卵の大きさを大きくすれば数が減るだろう。これが制約条件 であ り、総資源量が T、卵のサイズが S、卵の数が N のとき以下のように描ける: T=SN (S, N ≥ 0) (1) 卵一つあたりの生存率は次のような関数 W(S)で描けるだろう: これは(1)卵が小さすぎると肺発生が うまくいかず子供が育たないこと、 (2) 生存率 卵のサイズをいくら大きくしても生存 W 率の増加には限界があること、を表現し ている。 卵のサイズ(S) 卵のサイズ(S)と数(N)が戦略のとき、適応度は: F = W(S) N = W(S) (T / S) (2) となる。これを最大化する S を求める最適化問題を解くには、適応度関数 F が S のどの ような関数になっているかを調べればよい。S*が W を最大化するとき、dF/dS = 0 が成 り立っているはずだ。F を S で微分すると: W ' (S )S " W (S ) dF d [W ( S )T S ] = =T 2 dS dS S (3) より、S*は ! W’(S*) S* = W(S*) (4) を満たすことがわかる(W を最小化する S も式9を満たすので、式4を満たすからとい って最適値ではない可能性があることに注意)。この S*の候補は原点から関数 W に接線 を引いた接点として下図のように求まる: 傾き W’(S*) 生存率 W(S*) W S* 卵のサイズ(S) この最適卵サイズの候補 S*が確かに最大値であることを確かめるには、 F”(S*) < 0 (5) が成り立っていれば良い。計算してみると F" ( S *) = T 2 S W ""2( SW '"W ) 3 S (6) となるが、S*は S W’ – S = 0 を満たすので、F”(S*) < 0 となり、S*が最適卵サイズ。こ ! の最適サイズの大きさは T(総資源量)の影響を受けない。 4-2. 結論 資源量がどんなに変動しても、生物が最適戦略をとっている限り、種子や卵の大きさは 一定に保たれてあまり変わらず、数のみが変動することがわかった。つまり、充分に適 応進化がはたらいていれば、卵や種子のサイズは種内で一定に保たれるというわけだ。 この予測は現実にあっているようにみえる。したがって、自然界で見られる現象(卵や 種子のサイズは比較的一定に保たれている)は、種子や卵のサイズや数が自然選択の結 果でき上がったものであることを意味しているのかもしれない。 以上
© Copyright 2024 ExpyDoc