コラム:鉄道運賃のパターン,折れ線から曲線へ 環境情報学部教授 有澤 誠(ありさわ まこと) 私が春学期に担当している「情報数学 I」の授業で,関数とグラフの話をするときに, JR 東日本の幹線の普通運賃表を例にあげることが多い.営業キロに対して,片道運賃 (基準額)がどのようになるかを示す表は次の通りである.ただし営業キロは 1km 未満 は切り上げである.ここで,5km や 10km など,一定幅ごとに増加する金額(階差)を 右側に書き添えると,料金パターンの構造が分かる.紙面の都合で一部分を省いた形 にしてある. 営業キロ 片道運賃(基準額) 1 - 3 140 4 - 6 180 7 - 10 190 11 - 1 5 230 5 k m 階差 16 - 20 320 90 21 - 25 400 80 26 - 30 480 80 31 - 35 570 90 36 - 40 650 80 41 - 45 740 90 46 - 50 820 80 51 - 60 9 5 0 1 0 k m 階差 61 - 70 1110 160 71 - 80 1280 170 81 - 90 1450 170 91 - 100 1620 170 101 - 120 1890 20km 階差 121 - 1 4 0 2210 320 141 - 1 6 0 2520 310 161 - 180 2940 420 !! 181 - 2 0 0 3260 320 201 - 2 2 0 3570 310 221 - 2 4 0 3890 320 241 - 2 6 0 4310 320 261 - 2 8 0 4620 310 281 - 3 0 0 4940 320 ....... .... 581 - 600 9030 601 - 640 9350 40km 階差 641 - 680 9560 210 !! 681 - 720 9870 310 721 - 760 10190 320 761 - 800 10500 310 801 - 840 10820 320 841 - 880 11030 210 !! 881 - 920 11340 310 921 - 960 11660 320 961 -1000 11970 310 1001 -1040 12290 320 ....... .... 1961 -2000 19640 2001 -2040 19950 310 2041 -2080 20270 320 ....... .... 2961 -3000 26780 3001 -3040 27090 310 2041 -3080 27410 320 ....... .... この表を見ると,10km ごとに 160 円ずつ増えるという一次式のパターンを基本に して,60km 以下の近距離の場合はやや高めに,600km 以上の遠距離の場合は安めに 設定している.階段状であるが,何本かの直線を折線にしたものと見ることもできる. 注目したい点は,営業キロ 161-180 のところの階差が 320 でなく 420 になっており, 640-680 や 841-880 のところの階差が 310 でなく 210 になっていて,パターンを乱し ていることである.その理由は分からないが,いくつかの可能性を推測することはで きる.単なるミスと考えることもできるが,おそらくそんな簡単なことではないと思 う.当事者だけしか知らない何かの事情による誤差部分をここで吸収したという可能 性がありそうな気がしている.私個人としては,パターンはすっきり単純なものにな っていたほうが,授業の教材には好都合である. 実は,一万円近い金額に十円きざみの端数をつけることは,あまり望ましくない. 現金決済のときにはきりのいい数にしてくれたほうが,支払う側も受け取る側も便利 である.そこで直線を階段状にする際に,距離できりのいい 20km ごとや 40km ごと にせず,金額できりのいい 100 円刻みや 200 円刻みにしてはどうかと思った.当時 JR 東日本の部長だった三木彬生さんの説明では,それだと運賃改定の際に,前は同じ運 賃だった区間が改訂後には異なってしまうことが生じるために,乗客にとって分かり にくくなり,望ましくないとのことだった.これからは,Suica カードなど現金決済で はない方法が主流になる.それなら階段状にせず直線の折線か,あるいはもっと滑ら かな曲線にしておいて,1 円刻みで徴収し支払うことも不自由ではなくなると思う.
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