公共交通コラム 「みんなの足はみんなで守る!」 第 回 みんなで取り 組 む 交 通 ま ち づ く り 交通ジャーナリストの鈴木文彦先生とともに、大槌の 公 共 交 通 は ど う あ る べ き か を 考 え て い く こ の コ ラ ム。 前 も ち ろ ん、 鉄 道・ バ ス・ タ クシー会社はプロとしてのノ ウハウを十分に発揮して安全・ 確実な運行に責任を果たすと と も に、 乗 っ て も ら え る よ う に努力と工夫を続けなければ な り ま せ ん。 そ し て 行 政 は、 将来的な公共交通の必要性を 再 認 識 し、「 社 会 的 イ ン フ ラ 」 という観点から交通をしっか り と 位 置 づ け し た 上 で、 単 に 補助金を出すというより社会 「市民鉄道」が地域を変える 特 に 鉄 道 は、 そ の 存 在 自 体 が 観 光 資 源 に な っ た り マ ス コ ミに取り上げられたりすることによって、地域の知名度やイ メージを上げ、まち全体が活性化する場合があります。鉄道 を、あるいは駅をうまく活用することによって、訪れる人が 増え、その人たちが沿線を歩き、また沿線地域間の交流が生 まれ、結果として地域が潤い、活気が生まれるのです。 茨城県のひたちなか海浜鉄道というローカル鉄道がそれを 実践してきました。民間の鉄道会社が続けられなくなった鉄 道をどうするか、沿線みんなで議論した結果、沿線の市が出 資する第三セクターに転換し、自治会や商工会、商店街、観 り、育て、守っていく、つまり「協働」への転換が望まれま を考えると、事業者と沿線地域の行政、住民がみんなでつく えた上で、どうしたら持続できる地域公共交通ができるのか 年なのですから。これを踏ま うのは大切です。移動に不便を感じる人が増えるのは、高齢 来にわたって持続できることです。とりわけ「持続性」とい 生活移動が多少不便はあってもまかなえることと、それが将 を支払って乗る機会を増やすことです。そのことが最も確実 切なのは、前回提示したように、まずは「利用する」=運賃 くり、育てていくことが必要です。住民の関わり方の中で大 民が自ら提案し、また積極的に関わって、よりよいものをつ 事業者や行政へ要望して誰かにやってもらうだけでなく、住 生活にとってどんな交通を形成するのが望ましいのか、単に でも、それだけではすべて人任せになってしまい、どうに もならなくなった時に手遅れになります。自分たちの地域・ することが望まれます。 ります。まさに交通は「まちづくり」に直結しているのです。 人が増えました。鉄道を軸にまち全体が再生に向かいつつあ 降りて市街地を歩き、 買い物や飲食で〝お金を落としてくれる〟 ます。そしてみんなが一体となって工夫した成果として、駅に まさに協働による「市民鉄道」が成立し、利用者も増えてい 市民的に鉄道を守り活用しようという気運につながりました。 ます。そして震災によって 4 ヵ月間不通になったことが、全 PR と市民へのアピールなど、さまざまな取り組みをしてい を 巻 き 込 ん で サ ー ビ ス の 向 上 や イ ベ ン ト の 実 施、 全 国 へ の 光協会などが集って「応援団」を構成し、会社と一緒に市民 す。本当に地域にとって必要な交通手段であるならば、事業 に「持続」につながります。〝乗って残そう〟 という考え方 的投資という意味での支援を 者だけでなく自治体も住民も、その持続に向けての責任と役 です。もちろんそれだけでなく、いろいろな応援のしかたが になったら国や県、市町村が補助を出して何とかしてくれる〟 方でした。鉄道やバスの経営が難しくなると、今度は〝ダメ るもの〟 というのが、長年にわたる交通に対する一般の考え した。このため〝鉄道やバスは鉄道会社やバス会社が走らせ わりや社会的な位置づけはほとんどなされずに最近まできま 日本では、鉄道やバスなどの公共交通は歴史的に営利事業 として運営されてきたため、県や市町村などの地方行政の関 ます。こうして一人一人が「当事者」意識をもって関わるこ 造ったり、無人駅の待合室に壁画を描いたりした事例もあり まったところもあります。また、沿線の高校生が駅待合室を め、中には周辺の住民が寄附を集めて駅のトイレを造ってし やバス停で出迎えてもてなす「ウエルカム活動」などをはじ 「花いっぱい運動」や、鉄道やバスに乗ってきた観光客を駅 最近の全国の事例の中には、鉄道沿線にみんなで花を植える 交通ジャーナリスト 鈴木 文彦 せ ん。 貝 が ら の 年 輪 の 幅 や 成 分 を 調 べ る こ と で、 昔 の 環 で す。 実 は 私 の 研 究 は 貝 の 年 齢 を 調 べ る こ と で は あ り ま 以上も生きていたことがわかりました! 報告されている がわかると思います。貝がらの年輪の幅は、「その年が貝 境がどんなだったのかを解読する研究をしています。写 している貝が今でもすんでいるはずです。 の貝は暖かい年によく育つことが多いので、年輪の幅が 限りでは、おそらく日本一長生きしている動物だと考え 実 では、貝の年齢はどうやって調べるのでしょうか? は貝の外側に見える「しましま」は年輪とは限りません。 広い年ほど暖かかったということがわかるわけです。こ 真 の 年 輪 の 幅 に 注 目 し て み て 下 さ い。 あ る 年 は 年 輪 の 幅 なので、外側に見える「しましま」を数えても年齢を調 の年輪の幅を先端から根元に向かって計っていくこと ていて、現在詳しく調べているところです。そして、大 べることはできません。年輪を見るためには貝を切って、 で、 大 槌 の 海 の 水 温 が ど の よ う に 変 化 し て き た か を 過 去 が広い、ある年はせまい、というように年ごとに違う事 その断面を見る必要があります。写真にはビノスガイの 200年間さかのぼって調べることができるのです。さ にお答えします。 ます。選ばれれば、次回以降のこのコーナーで質問 フ ァ ク ス 0193(42)5612 で も 受 け 付 け 大 学 大 気 海 洋 研 究 所 国 際 沿 岸 海 洋 研 究 セ ン タ ー へ。 〒028-1102 大 槌 町 赤 浜 2-1061 東京 皆 さ ん か ら の 質 問 を お 待 ち し て い ま す。 住 所、 氏 名、 連 絡 先( 電 話 番 号 な ど ) を 明 記 し 「質問コーナー」 白井 厚太朗 東京大学大気海洋研究所・国際沿岸海洋研究センター助教 する、それが現在取り組んでいる研究テーマです。 槌の貝がらの記録からグローバルな環境変動を明らかに にもいろいろな環境のことを調べることができます。大 にとってどれくらい快適だったか」を示しています。北 断 面 に 見 え る 年 輪 を 顕 微 鏡 使 っ て 写 真 を 撮 っ た も の で す。 ら に、 貝 が ら に 含 ま れ て い る 成 分 を 分 析 す る こ と で、 他 齢がわかります。 矢印で示しているのが年輪で、この数を数えてやると年 槌の海には数度の津波を生き延びてきた、もっと長生き メートルの場所から採ってきた貝で、なんと200年 とが、地域の公共交通を維持・活用するために必要なのです。 あります。駅の清掃をしたりバス停にベンチを設置したり、 時代になりました。現在もこの段階を抜け出していないのか もしれません。 記憶力抜群!貝殻のヒミツ 年輪でわかる環境 そして、貝は長生きなだけではなくて、記憶力も抜群 大槌の長生き貝、ビノスガイ。断面に見える年輪を顕微鏡を 使って写真を撮ったもので、矢印で示しているのが年輪。年輪 の数を数えることで年齢がわかる みなさん、世界で一番長生きする動物はなにか知って い ま す か? ち な み に 人 の 最 長 寿 記 録 は フ ラ ン ス の 女 性、 ジャンヌ・カルマンさんで122歳まで生きました。ゾ ウガメは152歳という記録があります。意外に長生き する動物として、ウニの仲間には200年以上生きるも のもいます。ただ、日本の場合は寿命が来る前に捕まえ られて食べられてしまっているでしょう。魚にも長生き す る も の が い て、 2 0 5 歳 の メ バ ル が 知 ら れ て い ま す。 そして、ギネスブックにものっている世界で最長寿の動 物は、北大西洋にすんでいるハマグリのなかまでアイス ランドガイという貝です。なんと最長で507年も生き ていたそうです。この貝は日本なら戦国時代から生きて いたことになります。 長生きのビノスガイ 実は大槌の海にも、とても長生きする貝が生きている ことが私たちの調査でわかってきました。写真の「ビノ この駅を利用する高校生が手作りで ホームに待合室を作製(山形鉄道) 白井 厚太朗 1980 年愛知県生まれ。 専門は地球化学・古環境 学。貝がらやサンゴなど、 海の生き物が作る炭酸カ ルシウムの骨格を分析す ることで過去の環境変動 を調べている。長生きそ うな貝、珍しい貝を見つ けたら是非ご連絡くださ い! 10 スガイ」という貝です。写真の貝は浪板海岸の沖、水深 20 無人駅に高校生が描いた壁画。き れいにしただけで防犯にも役立っ た(長崎県・松浦鉄道) こう た ろう しら い 化が進むこれからの 5 年、 割を分担するという考え方です。 古い車両も観光資源としてみんなで支えようとする ひたちなか海浜鉄道 一人一人が当事者 意 識 を 前回も触れたとおり、地域交通にとって大切なことは、地 域のニーズに合った交通サービスが適切に提供されていて、 ながっている事例をご紹介します。 通の関わり方や公共交通の再生がまちづくりにうまくつ 重 要 さ に 触 れ て い た だ き ま し た。 今 回 は、 住 民 と 公 共 交 回 は、 住 民 が 地 元 の 公 共 交 通 に「 今 よ り も 乗 る 」 こ と の 5 ⑥ 10 Otsuchi Otsuchi 11 復興通信 公共交通コラム「みんなの足はみんなで守る!」 復興通信 「おおつち 海の勉強室」
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