デデキントの切断定理は必要か

デデキントの切断定理は必要か
伊東由文
徳島大学名誉教授・理学博士
平成
年
月
日
「デデキントの切断定理は必要か」という問題は 「解析学の基礎」の問題の
一部です
「解析学の基礎」の問題というのは 「実数の概念の定義とその存在」の問題
です
実数の概念の定義は 体の公理 大小関係の公理と連続性の公理を規定すること
によって与えられます
その存在は 有理数を用いて実数の概念のモデルを構成することによって証明
できます
このとき 実数の連続性の公理の表現として 次の4種の型があります
デデキントの切断定理 公理 ワイエルシュトラスの定理
単調有界数列の収束定理
カントールの共通部分定理
この
~
の命題はすべて同値です
したがって どれか一つの命題を連続性の公理と規定すれば 他の三つの命題は
定理と考えることになります
私の考えでは デデキントの切断定理の命題を連続性の公理と規定する方が実
数論の理解と説明がすっきりするように思います
実は この
~
の命題は 次の
の命題とも同値になります
ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理
コーシーの収束 判定 条件
これらは 実数列の極限の存在の根拠となる命題で 実数の基本性質の一部なの
です
極限に関するこの実数の基本性質に関係する6個の基本命題がすべて同値であ
るというのが 実数論の不思議なところです
解析学あるいは微分積分学においては この実数列の極限の存在の保証が最も
大切なことです これは 大学で解析学を学ぶときに最初に学習することです
ここのところをよく理解できているかどうかがその後の解析学の学習 研究 応
用において致命的な点です
微分積分の計算だけならば この点についての理解はそれ程完全である必要は
ないかもしれません 教えられたとおりに訓練し 熟練すればよいからです
しかし 解析学を用いて 何かの理論を創造しょうとするときに その真の意味
を理解しているかどうかが致命的なのです
大学の1年生に毎年解析学の講義をされる数学の教員の一部を除いて ほとん
どの学生と研究者にとっては この実数の連続性と対峙するのは 多分 一生に
一度大学1年生のときに限られると思います 私はそれで十分であると思ってい
ます
一生に一度実数の連続性の理解にとりくんで 極限の存在に関することを理解
し それに基づいて証明される連続関数の基本性質について理解すればそれで十
分なのです
ほとんどの数学の利用者にとっては その後 実数の連続性にまでいちいち立ち
返る必要はないと思います
極限の存在について最も必要性を感じるところは自然対数の底 の存在を示す
ところです
実数 の値は四則演算によっては決して求めることができません
ある有理数列の極限として定められる実数であるとしか定義しょうがありませ
ん しかし その事実に基づいて を底とする指数関数が定義されます その逆
関数として対数関数が定義されます
その指数関数の定義に基づいて 指数関数の微分積分の公式が証明できます。
これは フーリエ解析において最も基本的な関数として広く応用されます
その理論的根拠が 実数の連続性の公理によって実数列の極限が存在している
という事実であります
これまでの数学の教科書の表現が分かりにくかったために無用の混乱を引き起
こしているように思っています
私もそれで苦労した一人です
それで 「数学を分かるとはどういうことか」というテーマを生涯考え続け 分
かりやすい数学の本を作ろうと努力しているところです
実数の連続性の公理については 拙著
「解析学の基礎」 サイエンスハウス
「算術の公理」 サイエンスハウス
が参考になるかと思っています
京都大学の稲垣耕作先生にいただいた 「デデキントの切断定理は必要か」と
いう命題について私なりの解答を作って見ました