初等中等教育における ICT 活用学習の学力向上効果の

公益財団法人 情報通信学会
2015 年度春季個人研究発表予稿
初等中等教育における ICT 活用学習の学力向上効果の検証
―全国学力・学習状況調査データを用いた定量分析の試み―
坂倉 康平 SAKAKURA, Kohei 《要旨》 本研究では教育生産関数を用いて学校教育における ICT の利活用が子どもたちの確かな
学力に与える効果について定量的な検証を試みている。全国学力・学習状況調査スコアを
用いた推計結果から、学習環境として教育用 PC を配備し ICT を活用しやすい環境を整備す
ることや、学習機会として授業における ICT の活用の頻度が上昇することが学習意欲を主
とした子どもたちの確かな学力の向上に好ましい影響を持つ可能性が示された。また教員
の校務負担軽減のための ICT 活用も同様に子どもたちの学習意欲と正の相関関係にあるこ
とが示されている。公教育として ICT 教育の普及が目指される中で、確かな学力に対する
ICT を活用した学習の効果性を全国データから示したことは本研究の一定の貢献である。今
後、学校教育での更なる ICT の活用促進のためには個票データや学校別データのような仔
細な学力調査結果による教育現場の実態を反映した更なる効果検証が研究課題となるだろ
う。 キーワード: ICT 利活用、教育の情報化、確かな学力、教育生産関数、OLS 推計 平成 27 年 4 月 30 日
以下、本文
目次
はじめに ...................................................................................................... 1
第 1 節 研究背景と意義 ............................................................................................................. 1
第 2 節 研究課題と対象 ............................................................................................................. 1
第 3 節 本論文の構成 ................................................................................................................. 2
第 2 章 先行研究の整理 ................................................................................... 3
第 1 節 学力の規定要因に関する研究 ....................................................................................... 3
第 2 節 ICT 活用学習の学力効果に関する研究 ......................................................................... 4
第 3 章 日本における教育の情報化事業の動向 ..................................................... 7
第 1 節 確かな学力の育成に向けた教育政策の動向 .................................................................. 7
第 1 項 新たな学力観としての「確かな学力」 ............................................................................. 7
第 2 項 「確かな学力」育成に向けた政策動向 ............................................................................. 8
第 3 項 新学習指導要領に示された諸方策 ................................................................................... 10
第 2 節 教育の情報化事業の政策的遷移と現状 ....................................................................... 11
第 1 項 「確かな学力」と学校情報化の推進 ............................................................................... 11
第 2 項 学校の情報化の実態について ........................................................................................... 15
第 4 章 分析方法 ........................................................................................... 19
第 1 節 分析モデル .................................................................................................................. 19
第 2 節 「確かな学力」の定義 ................................................................................................ 20
第 3 節 学力規定要因の定義 .................................................................................................... 22
第 1 項 ICT を利活用した教育に関連する要因 ........................................................................... 22
第 2 項 その他の学校要因 ............................................................................................................... 23
第 3 項 家庭要因 ............................................................................................................................... 24
第 4 項 地域要因 ............................................................................................................................... 25
第 4 節 予測と本分析の意義 .................................................................................................... 28
第 5 章 分析 ................................................................................................. 30
第 1 節 記述統計 ...................................................................................................................... 30
第 2 節 小学校データの推計結果 ............................................................................................. 34
第 3 節 中学校データの推計結果 ............................................................................................. 39
第 4 節 分析結果 ...................................................................................................................... 44
第 6 章 結果および考察 .................................................................................. 48
第 7 章 おわりに ........................................................................................... 50
参考文献 ..................................................................................................... 53
付表 ........................................................................................................... 59
i
図表目次
表 1 学習指導要領で示される ICT 活用に関する表記 .............................................................. 12
表 2 学力の 3 要素に対応した ICT 活用授業イメージ .............................................................. 14
表 3 小学校と中学校における ICT 環境整備の進捗状況 .......................................................... 16
表 4 第 2 期教育振興計画における整備目標 ............................................................................... 18
表 5 「確かな学力」の定義 ........................................................................................................... 21
表 6 分析に用いる変数 ................................................................................................................... 27
表 7 各説明変数の変動係数 ........................................................................................................... 31
表 8 記述統計量(小学校) ................................................................................................................ 32
表 9 記述統計量(中学校) ................................................................................................................ 33
表 10 最小二乗法による推定結果(小学校・算数) ...................................................................... 37
表 11 最小二乗法による推定結果(小学校・国語) ...................................................................... 38
表 12 最小二乗法による推定結果(中学校・数学) ...................................................................... 42
表 13 最小二乗法による推定結果(中学校・国語) ...................................................................... 43
表 14 教育 ICT 要因の学力効果推定の結果 ................................................................................ 45
図 1 小学校・教育用 PC1 台当たりの児童数推移 ...................................................................... 17
図 2 中学校・教育用 PC1 台当たりの生徒数推移 ...................................................................... 17
図 3 学習意欲・算数と無線 LAN 整備率..................................................................................... 46
図 4 学習意欲・国語と無線 LAN 整備率..................................................................................... 46
付表 1 教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数推移 ...................................................................... 59
付表 2 主成分分析の結果(小学校・算数) ............................................................................... 60
付表 3 主成分分析結果(小学校・国語) ................................................................................... 60
付表 4 主成分分析結果(中学校・数学) ................................................................................... 61
付表 5 主成分分析結果(中学校・国語) ................................................................................... 61
付表 6 主成分分析結果(小学校・自宅学習の習慣) ............................................................... 62
付表 7 主成分分析結果(中学校・自宅学習の習慣) ............................................................... 62
ii
はじめに
第1節 研究背景と意義
知識基盤社会と称される 21 世紀を迎えて久しい現在、我が国の学校教育ではこれまでの
知識偏重型教育ではなく「生きる力」や「確かな学力」といった新たな学力観に基づく教
育が目指されている。2000 年代の学力低下論争を乗り越え、国家の目指す新たな学力観と
なった「確かな学力」では子どもたちの基礎的な知識や技能の定着に加え、思考力・判断
力・表現力や自ら学ぶ意欲といった、変化の激しい 21 世紀の社会を生きる上で必要となる
能力を育成することが目指されている。また ICT(Information Communication Technology:情報
通信技術)の急速な発展と普及により進んだ高度な情報社会の中で、21 世紀にふさわしい学
びを実現することを目標として、学校教育の情報化が推進されている。
学校教育における ICT の活用は、これまで国家の文教政策を担う文部科学省や情報通信
政策を担う総務省によって促進され、学びのイノベーション事業(2011-2014)やフューチャ
ースクール推進事業(2010-2013)といった様々な実証研究が実施されてきている。しかし
2000 年代の教育改革により、教育行政の権限主体が中央から地方に移管し、市町村教育委
員会や各学校の裁量が拡大された。そのため公教育にかかる支出は地方財政の負担に依る
ものとなり、公立学校の情報インフラ整備や学習における ICT 活用の普及状況は未だ十分
ではないのが実情である。
公教育の中でも初等教育や中等教育は各市区町村の地方公共団体に支えられた学校教育
であり、各地域の公共財政の影響を受けやすい。学校現場への ICT の導入には環境整備や
維持管理に多くのコストを必要とするため、今後の教育政策や公教育投資の方向性を考え
る意味でも、学校教育における ICT を活用した学習が子どもたちの学力に対してどのよう
な効果を持つのか明らかにすることが必要である。また義務教育課程では教育の公平性や
公正性が特に重要となる。教育の公平性を考慮すると、ICT を活用した学習が地域による分
け隔てなく、すべての子どもたちが等しく受けることのできる教育として普及することが
求められる。また公支出に基づく教育政策として、ICT を活用した学習の公正性を担保する
ためには「確かな学力」の育成に向けて実施されている他の教育的な取組みを考慮した上
でその効果検証が求められる。
第2節 研究課題と対象
そこで本研究においては、全国データを用いながら ICT を活用した学習と子どもたちの
「確かな学力」の間の関係性について定量的な分析を行い、公教育における ICT の利活用
1
が子どもたちの学力形成に与える影響について検証を試みる。基礎的・基本的な知識や技
能、知識や技能を活用する力、学習意欲といった広い概念を持つ「確かな学力」という学
力観の個別の学力要素に対して、ICT を活用した学習がどのような効果を持っているのかに
ついて明らかにすることが本研究の課題である。「確かな学力」の効率的な育成に向けた適
切な教育施策の在り方への示唆を得るためには学校教育における ICT 以外の教育資源や各
地域の特性が与える影響を考慮する必要がある。そのため本分析では教育生産関数の考え
方を用いて、ICT 以外の学校要因や地域要因、家庭要因といった学力に影響を与え得る因子
と子どもたちの「確かな学力」との関係性を明らかにすることで ICT を活用した学習が子
どもたちの学力形成にどれほどの効果を持っているのかを検証する。
主な研究の対象は先に述べたように公教育の中でも公財政の影響を受けやすく、また公
平性と公正性が重要となる初等教育と中等教育の義務教育課程とし、「全国学力・学習状況
調査」の結果データを用いながら公立小学校の児童・公立中学校の生徒の学力形成につい
ての推計を行う。
第3節 本論文の構成
本論文では、まず第 2 章でこれまで行われてきた学力の規定要因に関する研究と ICT を
活用した学習の学力効果に関する研究について先行研究の整理を行い、本研究の位置付け
を探る。第 3 章ではこれまでの確かな学力に関連した教育政策と教育の情報化政策の動向
について整理を行っている。続く第 4 章では本論文における分析モデルと学力推計に用い
る各被説明変数と各説明変数のデータの定義を行った上で結果の予測と本分析の意義を示
した。第 5 章では小学校データと中学校データについてそれぞれ行った最小二乗法(OLS)推
定の結果を教科別に示した。最後に第 6 章では分析結果を踏まえた上で ICT を活用した学
習の学力向上効果について考察を行う。なお、本文中に示さない注や図表は巻末に示して
いる。
2
第2章 先行研究の整理
第1節 学力の規定要因に関する研究
学力の規定要因に関する分析は主に教育社会学の領域における関心であるが、教育経済
学の立場でも教育生産関数による分析が行われてきた。この教育生産関数分析の嚆矢とな
ったのは、1966 年米国で発表されたコールマン報告(Coleman et al. :1966)である。以来、教
育生産関数を用いた研究は主に英国(Dustmann:2003)や米国(Hanushek:1997,2006)といった欧
米の研究者による研究が蓄積されてきた。
一方で日本での教育生産関数の研究は、欧米に比べるとそれほど盛んではなかった。こ
の背景には小塩隆士(2003)が指摘するようにそれまでの日本においては定量的な分析に用
いることのできる学力データの入手が困難であり、研究を行うことが難しかったという状
況がある。近年 PISA 調査・TIMSS 調査といった国際学力調査、また「全国学力・学習状況
調査」のテストスコア等の定量的な学力データの利用が可能になると、学力の規定要因や
効果のある学校への実証的な研究が様々な研究者によって行われるようになっている(苅谷
武彦:2003,2004、志水宏吉:2004、堀健志:2004、川口俊明:2009 など)。耳塚寛明(2007)は、欧
米の教育社会学での一貫した関心であった「だれが、なぜ学力を獲得するのか」という関
心が、1990 年代後半以降に「ゆとり教育」や子どもたちの学力低下の状況が問題となると
日本においても研究の対象として扱われるようになってきたとしている。以来、家庭や地
域といった学校以外の要因を考慮しながら教育政策の効果について推定を行うことができ
る教育生産関数は日本の事例についても適用されるようになった。
日本の事例について教育生産関数分析を行っている研究としては、地域の社会経済的な
特性による学力効果の推計を行った舞田敏彦(2008)や中高一貫校における学力推計を扱っ
た小塩隆士・佐野晋平・末冨芳(2009)がある。また全国学力・学習状況調査データを用いた
研究としては、公教育支出の学力格差縮小への効果を分析した野崎祐子・平木耕平・篠崎
武久・妹尾渉(2011)がある。
また「生きる力」と「確かな学力」という新たな学力観が登場すると、それらの学力観
に対応した学級規模縮小や少人数指導、習熟度別指導といった子どもたちの個に応じた効
果的な指導実現のための取組みが実施され、それらの教育施策の学力向上効果について定
量的な実証分析が行われている。学級規模縮小や少人数指導の学力効果についての実証研
究として、山崎博敏・藤井宣彰・水野考(2006)は学級規模とティームティーチングや習熟度
別指導といった指導方法が授業に及ぼす影響についての分析を行い、学級規模の縮小が教
員の指導方法に大きな影響を与え、子どもたちの学習や指導を順調にさせる効果がある可
能性を示した。また少人数指導が国語・数学・英語の 3 教科、ティームティーチングが数
学における教員の学習指導に対してそれぞれ好ましい効果を持つという結果を示している。
3
さらに、山崎ら(2009)は学級規模の縮小とティームティーチング、習熟度別指導が学力に及
ぼす影響について詳細な分析を行い、学級規模が学級の秩序と指導方法に密接に関係して
いることと指導方法としてのティームティーチングと少人数指導が学力に好ましい影響を
与える可能性を一部示唆している1。
赤林英夫・中村亮介(2011)は横浜市公開データを用いた教育生産関数による実証分析を行
い、学級規模の縮小が学力に対して好ましい効果を持つことを明らかにしている。また国
際学力調査の TIMSS データを用いて分析を行った北條雅一(2007,2010)は習熟度別授業の実
施が生徒の平均的な学力を向上させることを明らかにし(2010)、習熟度別授業が確かな学力
の育成に対して期待通りの効果を示しているとしている。また北條は習熟度別学習が家庭
環境の違いによる生徒間の学力差を縮小させる効果がある可能性を示した(2007)。
学級規模の縮小や習熟度別学習といった取組みの効果に対する分析が行われてきた一方
で、ICT を活用した学習の学力向上効果を主な研究対象とした生産関数分析は未だ数が多く
ない。数少ない研究の中では、千葉県公立校データを用いて学校資源と学力の関係を分析
した篠崎武久(2008)が、その分析の中で学校の物的資源としての教育用 PC や無線 LAN 配置
の有無などの ICT 設備の整備と学力の関係を検証し、ICT 機器の整備は子どもたちの教科学
力に対して有意な関係を持たないという結果を示した。また亀井慶二(2009)が全国学力・学
習状況調査の結果を用いて小中学生の教育生産関数分析を行った際に「IT 技術導入度」を
含めた推計を行っている。亀井は教員の質が子どもたちの教科学力の向上に強い影響を与
えていると明らかにした一方で、学級規模の縮小や IT 技術導入度に関しては有意な結果が
得られなかったとしている。
篠崎や亀井が示した ICT 活用学習の効果についての生産関数分析ではいずれの場合も
ICT と学力の間に関係性は確認されないというものであった。しかし篠崎らの研究は、現在
の新学習指導要領で目指される「確かな学力」の新たな学力観を主な分析の対象としてい
ないため更なる分析が必要となろう。また「確かな学力」の効果的な育成を支える学習指
導の実現に向けた様々な取組みが行われている現在、少人数指導・習熟度別学習といった
他の教育施策の影響についても考慮しながら ICT を活用した学習と学力の間の関係性を検
証することが望ましい。公共の支出に支えられた義務教育としての小学校および中学校で
行われている教育は特にその効率性が重要になる。ICT を活用した学習が子どもたちの学力
向上にどのような関係を持っているいるのか、学校教育に ICT を導入することの効果性や
効率性についての実証的な分析が必要である。
第2節 ICT 活用学習の学力効果に関する研究
学校の情報化が進められる中で ICT の導入と学力形成との因果関係はその政策効果を測
る上で重要な関心事となってきた。これまで文部科学省による実証研究や各地の大学・教
育センターといった教育機関による個別の事例研究として、その成果が様々に蓄積されて
4
きている。
山本朋弘・清水康敬(2006)は ICT 活用の実証研究を行った小学校 3 校において行動観察法
を用いて、授業の中での ICT の活用が子どもたちの集中力や学習行動にどのような影響を
与えるのかを検証した。その結果として ICT 活用場面において子どもたちの集中力が高ま
ることや、よそ見などの消極的行動が減少し、考える・書くといった積極的な行動が増加
することを明らかにしている。
授業内の学習場面での ICT 活用が子どもたちにどのような影響を与えるかを体系的に整
理したものとしては堀田龍也・木原俊行(2008)の研究がある。堀田・木原は教育工学の立場
から授業内での活用方法と活用場面に注目して、ICT がどのように子どもたちの学力や能力
に効果を与えるかについて類型化を行っている。同研究は個別学習や協同学習を可能にす
る ICT の特性を踏まえ、ICT を活用することが教員によるきめ細やかな指導を成立させるた
めの基盤になるとし、ICT 活用学習が子どもたちの知識・理解の育成に対して効果的である
と示した。
また、清水・山本・堀田ら(2008)は教員と児童・生徒に対する意識調査および客観テスト
に基づく分析を行い、結果として中学校教員よりも小学校教員の方が ICT を活用すること
の効果を感じている割合が大きく、特に「関心・意欲・態度」の観点における評価が高い
ことを示した。児童・生徒に対する意識調査の結果としても同様に学習に対する積極性や
意欲の観点で ICT を活用した学習の効果が確認され、子どもたちの学習意欲に対しても好
ましい影響を持つことが示されている。
しかし、堀田・木原(2007)は ICT の有効性を認める一方で、今後の課題としてマクロな調
査データを用いた全量的な調査が必要であるとし、教育行政や教育現場が取り組むべき課
題について優先順位をつけるためには ICT を活用した学習のその効率性や効果性を十分に
示すことが今後の課題であることを指摘している。マクロデータを用いた分析としては野
中陽一ら(2008)が全国学力・学習状況調査の追加研究として、37 の市町村教育委員会を通じ
て得た 865 校への質問紙調査結果と学力調査結果成績を組み合わせて行った研究がある。
野中らは ICT 環境整備と活用状況の関係および活用状況と学力成績の関係を調査し、ICT
整備が進むと活用の頻度が上がることと日常的な ICT の活用が子どもたちの学力向上に寄
与することを結果として示している。
一方で、豊田充崇・野中陽一ら(2007,2008)は、小学校で半年間の実証研究を行い、子ども
たちの学力向上には ICT 環境整備や日常的な ICT の活用だけが影響しているのでは、他の
指導上の要因も強く関係していることを指摘している。また学習が形成されるプロセスに
は授業の質や教員数など学校内要因のほかにも、例えば児童・生徒の通塾の有無や両親の
学歴など学校要因以外にも様々な要因が存在しており学力を決定する要因を一概に明らか
にすることはできない。
そのため、子どもたちの学力が形成されていく要因を分析する上では、学級規模の縮小
や少人数指導といった教員による効果的な指導を可能にする他の教育施策や家庭や地域と
5
いった学校教育外の要因の影響も考慮した分析を行うことが望ましい。野中陽一ら(2008)
の分析では ICT 以外の他の教育要因については考慮されておらず、ICT を活用した学習の学
力向上効果の相対的な効果性については判断することはできない。そういった意味で、他
の教育施策や学力形成要因の影響を考慮しながら ICT 活用学習の効果について検証を試み
る本研究の教育生産関数分析は一定の意義を持つものであると考える。また、全国的なマ
クロデータを用いた量的分析により ICT 活用学習の効果の一般的な傾向を明らかにするこ
とで教育行政や教育現場が取り組むべき課題への示唆を探ることができるのではないだろ
うか。
6
第3章 日本における教育の情報化事業の動向
第1節 確かな学力の育成に向けた教育政策の動向
本節では我が国の学力理念である「確かな学力」についての文部科学省の考え方を整理
し、学力の育成に向けた様々な教育政策の動向について確認する。新たな学力観の出現に
あわせ繰り返し改訂が行われてきた学習指導要領の内容の変化を追うことで、初等中等義
務教育の学校教育として子どもたちの確かな学力の育成に向けてどのような教育活動を行
うことが目指され、また同時に ICT 活用学習にどのような役割が期待されているのかを明
らかにしたい。
第1項 新たな学力観としての「確かな学力」
「確かな学力」という学力観は 1996 年以来、現在まで学校教育の基本理念として掲げら
れてきた「生きる力」を構成する要素の 1 つである。確かな学力の考えではそれまでの知
識偏重型の教育からの脱却を図り、(1)基礎的かつ基本的な知識・能力の定着 に加えて、(2)
知識や能力を活用して問題解決を行うための思考力・判断力・表現力といった能力の養成、
そしてそれらを根幹となる子どもたちの(3)学習意欲や主体性のある学習態度の養成 を目
的としている。
「確かな学力」という言葉が登場したのは 2002 年に文部科学省が示した「確かな学力向
上のためのアピール 2002『学びのすすめ』」においてであるが、それ以前より確かな学力に
通じる学力観は示されてきた。1998 年の学習指導要領改訂に向け、1996 年に行われた中央
教育審議会(以下、中教審)の答申「21 世紀を展望した我が国の教育の在り方について」にお
いて、国際的な経済発展や情報通信技術の浸透によって社会の変化が激しくなる 21 世紀の
新時代を生きる子どもたちに必要な能力として「生きる力」の考えが示された。
その中ではいわゆる「詰め込み教育」と呼ばれる教師から子どもたちへの一方的な知識
の伝達ではなく「いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、
主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」(中教審答申 1-2「今後の
教育の在り方の基本的な方向」:1996)の育成が学校教育の目標とされた。この主体的な学習
と問題解決のための能力は豊かな人間性や健康な体力と共に「生きる力」を構成する能力
とされ、現在の学校教育における基本理念である「生きる力」と「確かな学力」の考えと
共通している。
一方で 2000 年以降には、PISA テスト(2000)や教育課程実施状況調査(2001)などの学力調
査によって子どもたちの学習習慣の欠如や学習意欲の低下が実態として明らかになった。
また学校教育の各現場からは子どもたちの基礎学力の低下が指摘されるようになり「学力
7
低下」の問題に対しての注目が高まった(中教審答申 p.11-p.14:2008)。子どもたちの学力低
下の問題を前に「ゆとり教育」への批判が生まれる中でも、PISA 型能力に通じる学力観2で
ある「確かな学力」の考えは維持されることとなり、小中学校で 2002 年から全面実施とな
った学習指導要領において文部科学省は「生きる力」の重要性を改めて示している。
2003 年の中教審答申では「子どもたちに求められる学力」としての確かな学力の意義に
ついて触れ、確かな学力を「知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や自
分で課題を見付け、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力等まで
を含めたもの」としている(中教審答申 1-2「子どもたちに求められる学力についての基本的
な考え方」:2003)。この「生きる力」とそれを支える「確かな学力」という新たな学力観は、
現行の新学習指導要領にまで続く我が国の教育政策における一貫した学力観となっており、
総則中の教育課程の一般方針において学校教育が目指す学力の重要な要素に(1)基礎的・基
本的な知識・技能の習得 (2)知識・技能を活用して課題を解決するための必要な思考力・判
断力・表現力等、(3)学習意欲 の 3 つの要素が示されている(新学習指導要領解説 総則編
p.22:2008)。
第2項 「確かな学力」育成に向けた政策動向
これまでの確かな学力の育成にむけた教育政策を見てみると、子どもたちの個性や到達
度や関心といった「個に応じた学習」の実践が模索されてきたと言える。
まず 1998 年の学習指導要領の改訂を控えた教育課程審議会では、学校教育のあり方とし
て子どもたちの主体性のある学習を重視した中教審答申(1996)の考え方を引き継ぐ形で、
「自ら学び、自ら考える力」の育成と基礎的・基本的な学習内容の知識の定着、そして児
童・生徒個人の個性や特性に応じた指導を行うことの重要性が示されると同時に、新たな
学力観に応じた指導として現場教員には子どもたちの個に合わせた新たな指導の工夫・改
善が求められるものとした(教育課程審議会答申 1-1「教育課程の基準の改善の基本的考え
方」:1998)。また同年の中教審答申「今後の地方教育行政の在り方」では「生きる力」育成
に向けた教育改革を目的として各市町村教育員会や各学校への国や各都道府県教育委員会
の関与を縮小すると共に、学級編成や教職員配置に関して各市町村教育委員会や各学校の
裁量を拡大する方針が示されている。これによって各自治体の判断によって国の標準を下
回る規模での学級編成を行うことが可能になり、各教育委員会や学校の独自の取り組みと
してティームティーチングや少人数指導を行う自治体も現れるようになった。以来、少人
数指導の他にも選択学習や総合的な学習の取組みなど様々な教育施策が展開されてきた(山
崎・藤井・水野:2009)。
以上の「生きる力」のための個に応じた学習の実現を目指す学習指導要領は 1998 年に改
訂され、2002 年よりすべての小学校・中学校において全面実施された。しかし、学校によ
っては各教科の指導に必要な時間の確保や総合的な学習の時間の実施などに問題がある事
8
例もあり3、実際の教育現場での学習指導に学習指導要領のねらいが活かされていない状況
があった(中教審答申 1-1-2「新学習指導要領の実施状況とその課題」:2003)。また PISA 調
査や教育課程実施状況調査といった学力調査によって学力低下の実態が明らかになると、
2003 年の中教審答申「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策に
ついて」が示された。この答申では「確かな学力」を子どもたちに求められる学力として
位置づけ、学習指導要領の理念である「生きる力」の育成と、それを実現するための基礎
的・基本的な内容の定着、個性を生かす教育の実践の必要性が改めて確認された。また同
時に学力低下の要因として子どもたちの判断力・表現力や、学習意欲・学習習慣について
の課題が指摘されることとなった。
これらの課題に対して中教審は総合的な学習の時間などを通じて学びへの動機づけを行
い、個に応じた「わかる授業」を実践しながら子どもたちの学習意欲を高めることが確か
な学力を育む上で重要な視点だと示した。同時にこの「わかる授業」の実践や総合的な学
習の時間の活用による体験型・課題解決型の学習活動の推進のため、教育内容の厳選、選
択学習の幅の拡大、「個に応じた指導」の充実、総合的な学習の時間の創設といった具体的
な取組みや方策が提示された(中教審答申第 2 章「新学習指導要領のねらいの一層の実現を
図るための具体的な課題等」:2003)。
以上の中教審答申の内容を受けて 2003 年に「学習指導要領」には一部改訂が加えられた。
この改訂では(1)学習指導要領の基準性4の一層の明確化、(2)教育課程を適切に実施するため
の必要な指導時間数の確保、(3)「総合的な学習の時間」の一層の充実、(4)「個に応じた指
導」の一層の充実、(5)教育課程及び指導の充実・改善のための教育環境の整備等 といった
内容について更なる明確化が行われ、「確かな学力」の育成への考え方と「わかる授業」の
実践のための具体的な方策について一層の周知と徹底が図られている。
文部科学省による支援としては、少人数指導や個に応じた学習指導を行うための適切な
環境を実現するための教職員定数の改善計画、学習環境を整備するための教育環境の整備
計画が示されると同時に「学力向上アクションプラン」として学力向上フロンティア事業
や「総合的な学習の時間」推進事業5、放課後学習チューターの配置等に関する各種調査研
究が実施されている。例えば「学力向上フロンティア事業」では、(1)発展的な学習や補充
的な学習など個に応じた指導のための教材の開発、(2)個に応じた指導のための指導方法・
指導体制の工夫改善、(3)児童生徒の学力の評価を生かした指導の改善 を目指した実証事業
が実施された6。また 21 世紀の新たな時代における教育の在り方を示すものとして改正が行
われた 2006 年の教育基本法、2007 年の学校教育法といった教育政策の根幹を担う法制でも、
「生きる力」の理念に基づく「確かな学力」の育成は義務教育の目標として規定され7、こ
れらの学力観は現在の我が国の教育政策の中での一貫した理念的な基盤となっている。
9
第3項 新学習指導要領に示された諸方策
教育基本法・学校教育法による学力の定義や知識基盤社会の到来といった社会状況を背
景として、学習指導要領は 2008 年に再度改訂が加えられ、2011 年から「新学習指導要領」
が実施された。新学習指導要領では学校教育の理念としての「生きる力」の意義が再確認
されると同時に、基礎・基本的な知識や技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成の
バランスが重視されることとなった。この背景としては国際調査や全国学力・学習状況調
査といった各種学力調査によって、基礎的・基本的な知識や技能の習得に一定の成果が見
られる一方で子どもたちの思考力・判断力・表現力といった読解力や記述力といった能力
に課題があると明らかになったことがある8(中教審答申:2008)。また中教審答申(2008)ではそ
れらの学力の問題の要因の 1 つとして、子どもたちの学習意欲や家庭学習などの学習生活
習慣に課題があることが指摘された。
そのため、新学習指導要領では思考力・判断力・表現力等の育成と学習意欲の向上が重
要視されている。家庭でのしつけ習慣の低下や雇用環境の変化といった家庭や地域といっ
た社会的な状況変化を踏まえた上で、学校教育において取組むべき課題として(1)学習指導
要領の理念実現のための具体的な手立て 9と(2)教師が子どもたちに向き合う時間の確保と
効果的・効率的な指導のための条件整備10の 2 つを挙げている。2011 年度からは文部科学省
によって「確かな学力の育成に係る実践的調査研究」が開始され、新学習指導要領の円滑
な実施のため、都道府県教育委員会や市町村教育委員会と連携・協力の下で確かな学力の
育成に向けた取組みに関する PDCA サイクルの確立を目指す実践研究が行われている。
また、この新学習指導要領の特徴としては校務支援と効果的な学習の実現のために教育
現場における ICT の活用が重視されたことにある。ICT による校務支援環境の整備は教職員
定数の改善と同様、教員が子どもに向き合う時間数を確保するための環境整備の諸方策の 1
つとして考えられており、これは子どもへの個別的な学習指導に十分な時間を割くことの
できない状況にある現場教員の事務負担の問題に対応するものである。
効果的な学習指導のための ICT 活用としては、学習活動において ICT の活用が果たす役
割が強調された。学習活動における ICT の活用は 1998 年の学習指導要領「総則」において
初めて明文化されたものであるが、「各教科等の指導に当たっては、児童がコンピュータや
情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実する
とともに、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」という文言
の表記に留まっていた(学習指導要領総則 1-5「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」
2-(8):1998)。2008 年の新学習指導要領においては「総則」中の表記に加え各教科内容の「指
導計画の作成と内容の取扱い」の配慮事項に教科内容の取扱いとして具体的な活用場面と
共に記されることとなり、学習指導においてより積極的に ICT を活用することの必要性が
示されている。
しかし、現実の教育現場の情報化には遅れがあることも事実である。中教審答申(2008)
では「効果的・効率的な教育を行うことにより確かな学力を確立するとともに、情報活用
10
能力など社会の変化に対応するための子どもの力をはぐくむため、教育の情報化が重要で
ある」との ICT 活用についての提言がなされる(中教審答申 4-(3)「教師が子どもたちと向き
合う時間の確保や効果的・効率的な指導のための条件整備」:2008)と同時に、「社会の変化
に対応して教科を横断的に改善すべき事項」の 1 つとして情報教育の改善を図ることや教
育現場における情報化の遅れと改善の必要性が指摘されている(中教審答申 9-(2)「教師が子
どもたちと向き合う時間の確保のための諸方策」:2008)。本論文の主たる研究対象であるこ
の教育における ICT 活用の位置づけについては次節にて詳細に整理を行うこととする。
第2節 教育の情報化事業の政策的遷移と現状
文部科学省の「教育の情報化に関する手引き」(以下、情報化の手引き:2010)によると、現
在「教育の情報化」は(1)情報教育、(2)教科指導における ICT 活用、(3)校務の情報化の 3 つ
の観点から構成されており、これらの取組みの実現を通じて教育の質的な向上を図ること
を目的として推進されている。また、この教育の情報化事業は文教政策としてだけではな
く、政府全体の情報通信技術の基盤整備や利活用に向けた政策の中での施策の 1 つとして
位置づけられ、一連の国家の情報通信戦略と呼応して推進されてきている。そのため「教
育の情報化」事業の政策的な動向を整理する際には、関連する一連の国家戦略や文教政策
について確認しておく必要がある。また上記の(1)情報教育、(2)教科指導における ICT 活用、
(3)校務情報化という 3 つの個々の観点から整理を行うことが望ましいが、ICT を活用した
学習が子どもたちの学力向上に与える影響について明らかにすることを目的にしている本
論文では「教育の情報化」の 3 つの観点の中でも(2)教科指導における ICT 活用 に関連した
施策を主な対象としその政策的な系譜と学校教育の情報化の現状について整理を行う。
第1項 「確かな学力」と学校情報化の推進
前節で見てきたように、教育政策として「生きる力」や「確かな学力」の育成が目指さ
れるようになると新たな学力観を支える学びを実現する手段として、情報活用教育や教科
指導における ICT の活用への期待が大きくなっていった。1998 年改訂の学習指導要領では
総則に指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項として「各教科等の指導に当たっては、
児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用す
る学習活動を充実するとともに、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を
図ること」との文言が追加された。また、「生きる力」「確かな学力」の育成理念の拡充が
行われた 2008 年改訂の新学習指導要領になると総則に加え、教科ごとの指導計画の作成と
内容の取扱いとして指導に際しての ICT の活用が規定され、具体的な活用場面とともに示
されている。記載の内容については小学校学習指導要領を例として表 1 に示した。
11
表 1 学習指導要領で示される ICT 活用に関する表記
2002 年
総則
教科ごとの指導計画の作成と内容の取扱い
各教科等の指導に当たっては、
記載なし
児童がコンピュータや情報通
信ネットワークなどの情報手
段に慣れ親しみ、適切に活用す
る学習活動を充実するととも
に、視聴覚教材や教育機器など
の教材・教具の適切な活用を図
ること。
2008 年
各教科等の指導に当たっては、
小学校 国語
児童がコンピュータや情報通
第 2 の各学年の内容の「A 話すこと・聞くこと」、「B 書くこと」、
信ネットワークなどの情報手
「C 読むこと」及び〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事
段に慣れ親しみ、コ ン ピ ュ ー
項〕に示す事項については、相互に密接に関連付けて指導するよ
タで文字を入力するなどの
うにするとともに、それぞれの能力が偏りなく養われるようにす
基本的な操作や情報モラル
ること。その際、学校図書館などを計画的に利用しその機能の活
を身に付け、適切に活用でき
用を図るようにすること。また、児 童 が 情 報 機 器 を 活 用 す る 機
るようにするための学習活
会を設けるなどして、指導の効果を高めるよう工夫すること。
動 を 充 実 するとともに、これ
小学校 算数
らの情報手段に加え視聴覚教
数量や図形についての感覚を豊かにしたり、表やグラフを用いて
材や教育機器などの教材・教具
表現する力を高めたりするなどのため、必 要 な 場 面 に お い て コ
の適切な活用を図ること。
ンピュータなどを適切に活用すること。
(「小学校学習指導要領」1998 総則 1-5、「小学校新学習指導要領」2008 総則 1-5,2-1 国語,2-3 算数より抜粋)
太字に示したようにこの学習指導要領の文言修正では ICT を効果的に使用する学習活動
を通して教科の目標の達成と併せて情報活用能力の育成を図る機会の充実を図ることを示
している(教育の情報化に関する手引き:2010)。学力向上を目指した学校の情報化について
整理を行っている東原義訓(2008)によると、この修正はそれまで教育の情報化の主な目的で
あった ICT リテラシーや情報モラルといった子どもたちの情報活用能力の育成と同時に、
教科目標を実現するための効果的な指導を可能にする手段として学習指導における ICT 活
用が目指されるようになったことを意味している。新学習指導要領と同じ年の 2008 年に文
部科学省によって策定された「第 1 期教育振興基本計画」では「今後 5 年間に総合的かつ
計画的に推進すべき施策」として、確かな学力の保証が特に重点的に取り組むべき事項と
して掲げられており、新学習指導要領の円滑な実施のための教職員の配置数の改善、教科
書・教材や学校施設整備等の教育の条件整備が検討課題とされた。その中で、学校の情報
化推進の目的については確かな学力の育成に向けた個に応じた学習や校内事務の効率化を
12
可能にする環境整備や学校と家庭・地域間の連携を実現するための手段とされている11。
また 2011 年には確かな学力の育成への対応と 2020 年度までの学校の総合的な情報化推
進方策として文部科学省によって「教育の情報化ビジョン」(以下、情報化ビジョン)が策定
された。情報化ビジョンでは、新たな学力観への対応として学校教育の情報化を通じて、
子どもたち一人一人の多様性を尊重しそれぞれの強みを高める「個に応じた教育」と「コ
ミュニケーションを通じて協働して新たな価値を生み出す教育」といった質の高い教育を
行うことが重要だとしている。具体的には情報化の手引き(2010)と同様に(1)情報教育、(2)
教科指導における ICT 活用、(3)校務の情報化の 3 つの取組みを通じて、教育の質を高める
ことを目標としている。
情報化ビジョンの中で、教科指導における ICT の活用については確かな学力の育成を目
的として ICT の特性を生かした一斉授業・個別学習・協働学習を行うことが推進された。
情報化ビジョンで示されている具体的な活用イメージは表 2 に示した。たとえば一斉授業
の場面では任意箇所の拡大や動画・音声教材の利用による分かりやすい授業や子どもたち
の関心を高める授業が期待されている。個別学習では子どもたちの学習履歴を把握・活用
することにより個別に応じた効率的な学習指導の場面、協働学習では ICT の双方向性が可
能にする教員と子どもたちの間の相互的な情報伝達、子どもたち同士が教え学び合う学習
の場面が想定されている。
また 2013 年に新たに策定された「第 2 期教育振興基本計画」では 5 年間での具体的方策
として確かな学力の育成のための ICT 活用が示されている12。この中では子どもたちの学習
意欲や知的好奇心を引き出すような協働型・双方向型の新たな学びへの転換を目標として、
グループ学習・課題解決型授業の実施のための ICT 活用の意義が強調されている。また教
育投資の基本的な方向性としても、確かな学力を支える指導に必要な教員の ICT 活用指導
力の向上や ICT 環境整備の促進が目指されており、学校教育の情報化の意義が改めて示さ
れることとなった。
13
表 2 学力の 3 要素に対応した ICT 活用授業イメージ
ねらいとする学力の
ICT の活用場面
学習の類型
基礎的・基本的な知
学習者用の情報端末や電子黒板等を無線 LAN でつなぎ、情報端末への書き込
協働学習
識や技能の習得
みを電子黒板等において共有すること
要素
前の時間や直近で学んだこと、つまずきやすい内容について、他学年等で指導
個別学習
したデジタル教材とリンクし、自由に振り返ることを可能にすること
一斉学習
知識・技能の確実な定着を図るために反復学習を行うに当たって、子どもたち
の習熟度に応じて教材をカスタマイズして作成したり、自動採点機能や誤答分
個別学習
析機能により習熟度別の問題を提供したりすること
重要な部分を拡大、強調すること等によって理解を深めること
一斉学習
個別学習
観察・実験等の体験的な学習に加えて、簡潔で分かりやすい音声・画像・動画
一斉学習
等を合わせ活用し、理解を進めること
個別学習
思考力・判断力・表
学習者用の情報端末や電子黒板等を無線 LAN でつなぎ、情報端末への書き込
現力等の育成
みを電子黒板等において共有することにより、子どもたちが教え合い、学び合
協働学習
う、双方向型の授業の充実を図ること
インターネット等を活用して、他校等の子どもたちと意見交換したり、図書
館・博物館等の社会教育施設、研究機関、地域の人々との交流を図る授業を行
協働学習
うこと
各種ソフトウェア等を活用し作業の効率化を図ることによって、分析・解釈の
ための時間を確保し、自らの考えを分かりやすく伝えるための授業の充実を図
協働学習
ること
描画や図形の操作を容易にしたり、自らの動きをカメラで撮影し課題を明確に
個別学習
したり、思考力判断力表現力の充実を図ること
一斉学習
協働学習
インターネットや辞書機能などを活用して様々な内容を調べるとともに、自己
個別学習
の考えをまとめる授業の充実を図ること
協働学習
主体的に取り組む学
授業の導入時等において、多様なコンテンツや機能を活用した子どもたちへの
協働学習
習態度の育成
指導を行うこと
一斉学習
お互いに話し合うといった協働学習等を通じて子どもたちの興味関心を高め、
協働学習
自らより深く調べようとする意欲を引き出すこと
一斉学習
(文部科学省「教育の情報化ビジョン」2011 p.15-p.17 より筆者作成)
14
第2項 学校の情報化の実態について
以上見てきたように、「確かな学力」の学力観の登場と新学習指導要領の策定とともに、
学校における ICT の活用はその期待される役割が大きくなり、教育政策の文脈において教
育の情報化は重要な課題となってきている。また国家の情報通信戦略においても教育にお
ける ICT の活用は重点分野として捉えられており、e-Japan 重点計画(2001)や IT 新改革戦略
(2006)では明確な達成目標が示され、学校の情報化は推進されてきた。
e-Japan 重点計画(2001)では、2005 年度を達成目標としておおむね全ての公立小中高等学
校の高速インターネット接続、校内 LAN の整備や全ての教室へのインターネット接続、コ
ンピュータ教室における 1 人 1 台の環境整備に加え、普通教室への教育用 PC 整備を促進し
教育用 PC1 台当たり児童・生徒数 5.4 人を達成することが目指された。またおおむね全て
の公立学校教員について、ICT を活用して指導を行えるように ICT の活用能力を向上するこ
とが目標とされている(e-Japan 重点計画 3「教育及び学習の振興並びに人材の育成」:2001)。
しかし進捗状況は思わしくなく、2005 年に文部科学大臣から「教育の情報化の推進のため
の緊急メッセージ」が発表され、各自治体による一層の取組みの推進が促された。続いて、
策定された IT 新改革戦略(2006)では教育分野における 2010 年度までの達成目標が示された。
教育用 PC1 台当たり児童・生徒数の目標数字が 5.4 人から 3.6 人に引き下げられた他は
e-Japan 重点計画で示された目標に引き続き学校の ICT 環境整備を進めていくことが目指さ
れた。第 1 期教育振興基本計画(2008)では、先の IT 新改革戦略(2006)で示された数値目標に
基づいて 2010 年度までに校内 LAN 整備率 100 %、教育用コンピュータ 1 台あたりの児童・
生徒数 3.6 人、超高速インターネット接続率 100 %、校務用コンピュータ教員 1 人 1 台の整
備、すべての教員が ICT を活用して指導できるようになること、教育委員会・小中高等学
校等への学校 CIO(Chief Information Officer::学校の情報化を計画的・戦略的に推進するため
の統括責任者・機関のこと)の配置を促進する施策に取り組むこととされた(第 1 期教育振興
基本計画 p.35:2008)。
新たな学力観や情報活用能力の重視から教育における ICT の活用への期待が大きくなる
につれ、情報通信政策や教育政策の両面から学校の情報化は推進されてきた。しかし、そ
の政策的な重要性が増してきた一方で、目標達成に向けた学校現場の情報環境整備は進ん
でいないのが実態である。
次の表 3 は、2007 年度以降の小学校と中学校における ICT 環境の整備状況についての全
国平均データを 3 年ごとにまとめたものである。校務用 PC 整備率に関しては、2011 年度前
後に小学校・中学校のいずれにおいても 100 %を達成しており、IT 新改革戦略下での目標
がおおむね達成されたと考えられる。一方で、設備環境としての教育用 PC1 台当たりの児
童・生徒数やインターネット接続率は徐々に整備が進んでいるものの 2013 年度時点におい
ても e-Japan 重点計画以来、示されてきた達成目標の数値に及んでいないことがわかる。
15
表 3 小学校と中学校における ICT 環境整備の進捗状況
小学校・全国平均
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
教育用 PC1台当たりの
児童数〔人〕
8.26
7.84
8.06
7.70
7.17
7.07
6.99
6.85
普通教室の LAN 整備率
〔%〕
54.18%
59.65%
61.51%
68.12%
79.29%
80.51%
81.69%
83.18%
インターネット接続率
(光ファイバ回線)〔%〕
49.26%
53.74%
58.18%
62.78%
65.58%
69.93%
72.75%
76.08%
インターネット接続率
(30Mbps 以上回線)〔%〕
34.40%
50.95%
59.92%
63.75%
65.55%
69.30%
73.23%
77.18%
教員の校務用 PC 整備率
〔%〕
38.70%
53.25%
57.20%
74.91%
97.25%
101.71%
106.69%
110.30%
中学校・全国平均
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
教育用 PC1台当たりの
生徒数〔人〕
6.31
6.18
6.39
6.32
6.01
6.06
6.08
6.07
普通教室の LAN 整備率
〔%〕
56.24%
62.68%
63.31%
69.86%
78.47%
79.36%
80.80%
82.55%
インターネット接続率
(光ファイバ回線)〔%〕
51.10%
55.96%
59.04%
63.34%
66.42%
70.05%
73.04%
76.26%
インターネット接続率
(30Mbps 以上回線)〔%〕
36.29%
53.85%
61.82%
65.38%
66.83%
70.76%
74.70%
78.23%
教員の校務用 PC 整備率
〔%〕
39.26%
53.59%
57.75%
73.91%
95.68%
99.13%
105.01%
108.85%
(文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」2006-2013 より作成)
また都道府県ごとの ICT 環境整備の状況について見ていくと、地域や学校階層によって
整備状況に大きなばらつきがあることがわかる。次の図 1 と図 2 は、各都道府県における
小学校・中学校の教育用 PC1台当たりの児童・生徒数の整備状況を表したグラフである。
2007 年度、2010 年度、2013 年度時点の数値を示しており、棒グラフから右下がりの傾向が
見られれば、整備が進んでいるということが読み取れる。
グラフ全体からは都道府県間で整備状況に大きなばらつきが見られ、学校への教育用 PC
の整備状況には地域間での大きな差が生じていることがわかる。また小学校と中学校では
減少の幅に違いがあることから学校階層によっても整備の進捗状況が異なると推察される。
図 1 の小学校における推移からは、2007 年度から 2010 年度、2013 年度にかけて全般的に
右下がりのグラフとなっており、PC1 台当たりの児童・生徒数が順調に減少していることが
わかる。一方で、図 2 の中学校における推移は全般的に平坦もしくは右上がりのグラフと
なっており、中学校への教育用 PC の導入は思うように進んでいない状況があると考えられ
る。なおグラフに示す各都道府県における整備状況についての数値については、巻末の付
表 1 に示した。
16
図 1 小学校・教育用 PC1 台当たりの児童数推移
(文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」2007,2010,2013 より筆者作成)
図 2 中学校・教育用 PC1 台当たりの生徒数推移
(文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」2007,2010,2013 より筆者作成)
この地域差の理由としては、各市町村教育委員会や各学校での ICT 活用や ICT 環境の整
備に向けた動きが活発化していないことが推察される。第 3 章で述べたように、1998 年の
中教審答申以来の新たな学力観に対応した教育改革の流れの中で、地方教育行政において
は各市町村教育委員会や各学校といった現場レベルの裁量や権限が拡大された。各学校か
らの要請は各市町村教育委員会が取りまとめ、都道府県や政府関係箇所に伝達される仕組
みとなっており、地域における公教育の方針と予算についても各学校や各市町村教育委員
会といった地方の裁量が大きくなっている。国や文部科学省が教育の情報化事業について
の政策的な方向性を定める一方で、実際に情報化を推進していく主体は各市町村教育委員
17
会や各学校が担うこととなる。ICT 環境の整備には、コンピュータ・プロジェクター等の機
材配備やネットワーク環境の構築、運用支援のための人材配置など多くの予算が必要とさ
れるため、東原(2008)が指摘するように学校の情報化を推進していくためには地方公共団体
の財政的な負担を軽減するための予算措置を考慮することは重要である。
確かに学校の情報化に必要となる予算は国による整備補助金や地方交付金の補助対象と
なっているものの実態としての ICT 環境の整備は進んでいないのが実情である。豊福晋平
(2005)は自治体教育委員会の情報化対応として、自治体内に整備向上への積極的な動機づけ
がないとし文部科学省が目標を示す一方で地方の教育行政として情報化に向けた予算措置
や事業化が有効に機能していないとしている。また、学校の情報化事業の全国的な普及促
進を図るためには補助金や地方交付金を受けずに独自の財源で学校情報化を進めていかな
ければならない自治体や学校への動機付けも重要になってくると考えられる。
新学習指導要領を踏まえた第 2 期教育振興基本計画(2013)では 2011 年に定められた教材
整備指針に基づいて 2020 年度の情報化ビジョン目標の達成に向けて 2017 年度までの中間
目標として以下表 4 の取組みの促進が示されており、2014 年度にはこれらの目標の達成に
向けた「教育の IT 化に向けた環境整備 4 か年計画」が策定され、2017 年度まで単年度 1678
億円、総額 6712 億円の財政措置が取られるなど、一層の情報化促進が図られている(第 2 期
教育振興基本計画 p.71:2013)。しかし、豊福(2005)が指摘するように情報化推進のためには
政策決定者への動機づけが重要になる。そのためには公共の支出に基づく教育政策として
学校の ICT 化を行うことの意義が示されることが必要となるだろう。次章では本研究の関
心である ICT を活用した学習の学力向上効果について定量的な分析を行い、学校の情報化
の意義への示唆を探りたい。
表 4 第 2 期教育振興計画における整備目標
達成目標
○ 学校における ICT 環境の整備
・教育用コンピュータ 1 台当たりの児童生徒数 3.6 人
(コンピュータ教室 40 台、各普通教室 1 台、特別教室 6 台、可動式コンピュータ 40 台)
・1 学級 1 台の電子黒板・実物投影機の整備
・超高速インターネット接続率及び無線 LAN 整備率 100%
・校務用コンピュータ教員 1 人 1 台の整備
・教育クラウドの導入
・ICT 支援員・学校 CIO の配置
○ 教員の ICT 活用指導力向上
・全教員の ICT 活用指導力獲得のための取組み
(文部科学省「第 2 期教育振興基本計画」2013 p.71 より筆者作成)
18
第4章 分析方法
第1節 分析モデル
本研究においては教育政策の分析に広く利用されている教育生産関数を用いた定量的な
分析を試みる。この教育生産関数は教育の一種の生産活動とみなし、学校資源・家庭資源・
地域資源などをインプット、学力などの教育効果をアウトプットとして両者の関係性を分
析するための考え方である。一人の子どもの学力が形成される過程では必ずしも学校資源
の特性のみの影響が作用しているのではなく、子どもの家庭環境や居住する地域の特性な
どの広く様々な要因が存在する。教育生産関数分析では、これらの諸要因を総合的に捉え
た上で、それぞれの教育的資源が学力にどのような作用をもたらしているのかについて推
定を行うことが可能である。
一方で、学力は分析の対象となる一時点もしくは一期間で形成されるのではなく、児童
生徒のそれまでの学習履歴の長年の蓄積であるため、一時点の学力推計しか行えない教育
生産関数の分析による学力把握に手法としての限界があることも事実である。
しかし、公教育の財源が限られる中で学力向上の効率的な実現のための適切な教育施策
のあり方を明らかにするためにも、教育への資源投入と子どもの「確かな学力」との関係
性を明らかにし、学力を形成している要因を把握することが必要である。本研究では生産
関数によって規定されるアウトプットとしての学力を「確かな学力」とし、子どもたちの
基礎的・基本的な知識や技能、知識や技能を活用する力、学習意欲を対象とする。そして
それらの学力を規定するインプットを ICT を活用した教育に関連する要因(以下「教育 ICT
要因」)、他の学校要因、家庭要因、地域要因の 4 つのカテゴリーから選択した。ICT を活用
した学習は学校に関連する要因の 1 つとして含まれるものであるが、教育 ICT の効果推定
を目的とする本研究では学校要因を教育 ICT に関連するものとそうではない他の要因とに
区別している。また用いるデータは都道府県ごとの 2 ヶ年分の公表データである。本分析
で推定する学力生産関数の推定式は以下のように表すことができる。
Yit=(aXit+bSit)+cFit+dRit+µit
Yit は t 時点におけるの個人 i の学習効果を集約した学力である。このアウトプットとして
の学力は、学校、家庭または地域に関連した教育的資源をインプットした学習を個人 i が受
けた結果として形成される。Xit は本分析において研究対象としている ICT を活用した教育
についての学校要因であり、Sit はその他の学校要因である。
19
また Fit は通塾の有無や自宅学習習慣といった児童・生徒の家庭要因とし、Rit は大学進学
率や就学援助受給者割合といった児童・生徒が居住している地域に固有する特性を含む地
域要因である。当然、個人の学力は以上 4 つの要因でのみ説明できるものではなく、学力
を規定する上でそれらの要因で説明することのできないものを誤差項 µit としている。たと
えば子どもたちの固有能力やピア効果といった様々な要因が考えられる。学力分析を行う
上ではそれらの観測できない要因を固定効果として扱った推計を行うことが望ましいが、2
ヶ年分の都道府県データを用いる本分析ではサンプル数に限りがあり Hausman 検定による
有効な結果が示されなかった。それにより変量効果モデルや固定効果モデルによる推計が
適用できないため、今回の分析では最小二乗法(OLS)に基づいた推計を行っている。
第2節 「確かな学力」の定義
教育生産関数に関する先行研究の多くでは、アウトプットである教育の効果として計量
可能な指標である学力テストのスコア結果を用いている。本研究においても先行研究にな
らい、「全国学力・学習状況調査」の都道府県別の教科スコアの結果を学力の指標として推
定に用いる。データは 2013 年度および 2014 年度の 2 ヶ年分の調査結果から作成したプー
リングデータを用いる。同調査は文部科学省により毎年、日本全国の小学校 6 年生と中学
校 3 年生を対象として実施される全国的な学力調査であり、小学校では算数と国語、中学
校では数学と国語の 2 科目で教科学力に関する調査が行われている。教科に関する学力調
査にはそれぞれ A 問題、B 問題の 2 種類があり、A 問題は主に児童・生徒の基礎的・基本
的な「知識」や技能を、B 問題は主に知識・技能を「活用」する力を測ることを目的として
作成されている。また教科学力に関する調査と同時に、児童・生徒および学校を対象とし
て生活習慣や学校環境に関する質問紙調査も実施されている。
本研究においては「確かな学力」を以下のように定義する。確かな学力を構成している 3
要素のうち(1)基礎的・基本的な知識 には児童・生徒の「知識・技能」を測定することを目
的としている全国学力調査の各教科 A 問題の平均正答率、(2)知識・技能を活用した課題解
決能力 には知識を「活用」する能力を測定することを目的としている各教科の B 問題の平
均正答率を指標として用いる。なお各教科の正答率については毎年の設問数や問題の難度
が異なるため、年度間の平均値の変動を考慮しなければならない。そのため各教科の平均
正答率を標準化した指標を作成した。また「確かな学力」のうち、主体性のある(3)学習意
欲 に関しては児童・生徒質問紙調査結果より学習意欲の度合いを表す指標を作成した。質
問紙調査には学習意欲に関する複数の質問項目が設けられており、それらの質問項目への
好ましい回答の割合の高低が学習意欲の高低を表していると考えられる。指標の作成にあ
たっては統計分析に用いる変数の質を揃えるため、質問内容と回答方法について同様の形
式を持つ質問項目のみを選出した13 。いずれも、「(1)当てはまる」「(2)どちらかといえば、
20
当てはまる」「(3)どちらかといえば、当てはまらない」「(4)当てはまらない」の 4 つの選択
肢から回答を選択する形式の質問群である。それぞれの回答の比重を考慮した評価変数を
作成するために「(1)当てはまる」から「(4)当てはまらない」までの選択肢にそれぞれ 3 点
から 0 点までの評価点を付与した。それぞれの回答選択肢の回答者割合にこの評価点を乗
ずると(1)から(4)までの回答選択肢ごとの評価点を計算することができ、それらの 4 つの評
価点を加算した数値が学習意欲に関連した質問項目の評価指標となる14。また、同質の質問
項目を選出するために児童・生徒の学習意欲に関する質問項目群に対して主成分分析を行
い、第 1 主成分の相関が近く負荷量平方和が大きくなる組み合わせを選択した上で合成変
数を作成している。主成分分析の結果は巻末の付表 2 から付表 5 に示した。
本来、学習意欲は教科科目の好き嫌い、学習内容への関心、学習への態度や意欲などの
子ども自身に由来する諸要素を広範に含んだものであるが、合成変数を用いる今回の研究
では児童生徒の関心・意欲・学習態度といった学習意欲を構成している個別の要素までを
明らかにできないことは留意しておきたい。以下の表 5 がこれまで述べてきた本研究の学
力推計に用いる被説明変数の一覧である。子どもたちの「確かな学力」のうち基礎的・基
本的な知識の指標を各教科 A 問題の平均正答率、知識を活用する能力の指標を各教科 B 問
題の平均正答率、学習意欲の指標を児童・生徒質問紙調査の「学習意欲」関連質問項目か
ら作成した合成変数として第 6 章では学力推定を試みる。
表 5 「確かな学力」の定義
被説明変数
定義
(基礎的な知識)
小学校・算数 A 問題スコア
平均正答率(標準化)
小学校・国語 A 問題スコア
平均正答率(標準化)
中学校・数学 A 問題スコア
平均正答率(標準化)
中学校・国語 A 問題スコア
平均正答率(標準化)
(活用する能力)
小学校・算数 B 問題スコア
平均正答率(標準化)
小学校・国語 B 問題スコア
平均正答率(標準化)
中学校・数学 B 問題スコア
平均正答率(標準化)
中学校・国語 B 問題スコア
平均正答率(標準化)
(主体的な学習意欲)
小学校・算数への学習意欲項
第 1 主成分の合成変数(標準化)
小学校・国語への学習意欲項
第 1 主成分の合成変数(標準化)
中学校・数学への学習意欲項
第 1 主成分の合成変数(標準化)
中学校・国語への学習意欲項
第 1 主成分の合成変数(標準化)
21
第3節 学力規定要因の定義
第 1 節で述べたように本分析の教育生産関数推計で用いる学力規定要因は教育 ICT 要因、
他の学校要因、家庭要因、地域要因の 4 つの要因である。確かな学力の育成に向けた ICT
の活用効果を検証することを主な目的としている本分析では、特に教育 ICT 要因に注目し、
他の学校要因、家庭要因、地域要因はコントロール変数として扱う。
第1項 ICT を利活用した教育に関連する要因
ICT を利活用した教育に関する要因としては学習環境における ICT の整備程度を示すも
のとして「教育用 PC1 台あたりの児童・生徒数」
「普通教室への無線 LAN 整備率」、教員に
関する ICT 要因として「校務支援 PC 整備率」「授業において ICT を活用した指導ができる
教員の割合」、ICT を活用した学習の頻度として「協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度」
を採用した。これらの変数は文部科学省が年次調査である「学校における教育の情報化の
実態等に関する調査」(以下「学校情報化調査」)よりデータを得た。学校情報化調査は文部
科学省が公立学校の情報化進捗の状況把握を目的として各地方公共団体の教育委員会を通
じて実施している調査であり、同調査からは公立学校における ICT 機器の整備状況や教員
の ICT 活用指導能力についての統計的なデータを得ることができる。
教育用 PC1 台あたりの児童・生徒数、普通教室への無線 LAN 整備率からは、それぞれ学
習環境の基礎条件として ICT を活用した学習を受ける機会の程度、普通教室での ICT を活
用した学習の機会の程度が推察できる。また学校の情報化の目的の 1 つには ICT による教
員支援があり、校務支援 PC の導入によって現場教員の事務負担が軽減され児童・生徒に対
する細やかな学習指導の時間が増えることが期待されている。そのため教員に関係する教
育 ICT 要因を示す指標として校務支援 PC 整備率を採用した。
しかし、学校情報化調査から得られたこれらの教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数、無
線 LAN 整備率、校務支援 PC 整備率のデータはいずれも学校設備の整備状況を示したもの
であり、学習環境を示す指標にすぎないことに留意する必要がある。ICT を活用した教育の
実態を把握するためには、教育現場において実際にどれくらい ICT が利用されているかを
測定した現実的な利活用の程度を示した指標が望ましいが、学校現場における実際の ICT
の利活用状況を明らかにした全量的な統計調査は未だ整備されていない。そのため本分析
では、野中ら(2008)が明らかにした研究結果に基づき、ICT 機器の整備率が増えれば活用の
度合いが増えるという仮定に基づき分析を行うことを付記しておきたい。
また、本分析では現場教員の ICT 活用指導能力の把握を目的として「ICT を活用した授業
ができる教員の割合」を変数として採用している。ICT を利活用した学習活動を行うために
は、学習環境としての ICT 機器の整備だけではなく、実際に授業を担う現場教員が ICT を
活用した授業を実践できる能力を備えていることが条件となる。学校情報化調査では教員
22
の ICT 指導力に関する質問としては活用場面に応じた A から E までの 5 つの大項目が設け
られているが、本分析ではその中でも授業における活用能力について示した大項目 B の結
果を採用した15。なお、この ICT 活用指導教員の割合について学校情報化調査の都道府県別
の公表データから得られる数値は、それぞれの項目に「わりにできる」と「ややできる」
と回答した教員の割合の大項目平均となっている。そのため、教員の ICT 活用指導能力を
細かく反映した指標ではなく、また複数項目の平均値となっているため変数の取り方に統
計的な誤りを含む可能性もある。しかし現時点で利用可能である全国的な統計データはこ
の学校情報化調査に限られているため、本分析では以上の点を考慮した上で同調査の結果
を利用している。
実際に ICT を利活用した授業・学習活動が行われているかを示す指標としては「ICT を活
用した協同学習・課題解決型授業の実施度」を採用している。「全国学力・学習状況調査」
の学校質問紙調査では前年度までの授業における情報機器の活用に関して複数の設問が設
けられており、算数(数学)と国語のそれぞれの授業の中でどれほどの頻度で ICT が活用され
ているのかを知ることができる。しかし学校質問紙調査の質問内容は毎年変更が加えられ
るため、教科授業における ICT 活用の頻度については 2013 年度調査と 2014 年度調査では
質問項目の内容が不一致となっていた16。そこで本分析では ICT を活用した先導的な学習に
ついての質問項目を授業における ICT 活用の程度を示す代理変数としている。
第2項 その他の学校要因
コントロール変数であるその他の学校要因としては「1 学級当たりの児童・生徒数」「テ
ィームティーチング実施度」「教職員の校内外研修や研究会への参加度」を変数として用い
ている。「1 学級当たりの児童・生徒数」と「ティームティーチング実施率」は、確かな学
力の向上をねらいとする学級規模の縮小や少人数指導といった教育政策の効果を示すもの
としている。1 学級当たりの児童・生徒数は学級規模の縮小や少人数指導を可能とする教職
員配置といった条件整備に向けた教育政策の効果を表す指標であり、文部科学省の年次調
査である「学校基本調査」よりデータを得た。ティームティーチング実施率については少
人数指導や習熟度別学習といった子どもたちの個に応じた学習の実現に向けた実際の教育
的な取組みの程度を表す指標としている。データは「全国学力・学習状況調査」学校質問
紙調査の前年度の各科目の授業指導においてどの程度ティームティーチングによる指導を
行ったかを問う設問の結果から作成している。回答選択肢は(1)年間の授業のうち、おおよ
そ 3/4 以上で行った、(2)おおよそ 1/2 以上、3/4 未満で行った、(3)1/4 以上、1/2 未満で行っ
た、(4)1/4 未満で行った、(5)行っていないの 5 つである。ティームティーチング実施度につ
いても学習意欲項と同様に回答に比重を付加するため、選択肢(1)から選択肢(5)まで順番に
4 点から 0 点までの評価点を付け「ティームティーチング実施度」の評価指数を作成した。
なお学校質問紙では少人数指導の実施度に関する項目も設けられているが、データ不備
23
のため今回の分析では変数として採用することができなかった。今回の分析対象である
2013 年度調査および 2014 年度調査から共通して得られるデータは算数(数学)の指導におけ
る少人数指導の実施度についてのみであった。国語科の指導においてどの程度少人数指導
を実施しているかを問う質問項目は 2014 年度調査より新設されているため 2013 年度調査
からはデータが得られない。そのため今回の分析ではティームティーチングの実施度を子
どもたちの個に応じた学習への教育的取組みを表す指標として推計に用いる。
また学力向上に効果のある教職員の取組みとして「教職員の校内外研修や研究会への参
加度」を採用している。これは「全国・学力学習状況調査」の公表に合わせ文部科学省が
発表した報告書(2014)を参考にしている。同報告書では学力と関係のあった回答項目のうち
「教職員の取組み」として「教職員は校内外の研修や研究会に参加し、その成果を教育活
動に積極的に反映させている」の項目を挙げており、授業改善や指導方法の工夫への教職
員の積極的な取り組みが児童・生徒の学力向上に対して効果を持つことを示唆している。
この質問項目への回答選択肢は(1)よくしている、(2)どちらかといえば、している、(3)あま
りしていない、(4)全くしていない の 4 つであり、この教職員の校内外研修の参加度の変数
についても回答への重みづけのため選択肢(1)から選択肢(4)まで順番に 3 点から 0 点の付点
を行い、評価指数を作成した。
第3項 家庭要因
家庭要因としては児童・生徒の「通塾度」と「自宅学習率」を採用している。これらの
変数は「全国学力・学習状況調査」児童・生徒質問紙の調査結果からデータを得た。
通塾度については、質問項目の中の「学習塾(家庭教師を含む)で勉強をしていますか」
の回答結果から指標を作成した。子どもたちの通塾に関する質問は(1)学習塾に通っていな
い、(2)学校の勉強より進んだ内容や難しい内容を勉強している、(3)学校の勉強でよく分か
らなかった内容を勉強している、(4)上記の(2)、(3)の内容を勉強している、(5)上記の(2)、(3)
の内容のどちらともいえない の 5 つの選択肢から回答する形式である。これまで評価点を
用いて作成した他の指標とは設問形式が異なっていることに注意したい。選択肢の内容を
見てみるとこの通塾度に関する質問は通塾目的を(2)の発展的な学習と、(3)の補充的な学習
の 2 つに大別した質問であることが読み取れる。そこで本分析では発展的な学習を基礎的
な知識を習得したうえでのより高度な学習であると仮定し、(2)発展的学習の回答に 2 点、
(3)補充的学習の回答に 1 点、(4)発展・補充の両方という回答に 3 点の評価点を付点した上
で通塾度に関する評価指標を作成した。
自宅学習率に関しては、教職員の校内外研修の参加度と同様に「全国学力・学習状況調
査」報告書(2014)を参考にして採用した。児童・生徒質問紙調査に設けられている子どもた
ちの自宅学習・学習習慣に関する質問項目である「家で、自分で計画を立てて勉強してい
ますか」
「家で、学校の宿題をしていますか」
「家で、学校の授業の予習をしていますか」
「家
24
で、学校の授業の復讐をしていますか」の 4 項目の回答結果に評価点を付点し、学習意欲
項と同様に主成分分析を行った上で合成変数を作成した。合成変数の作成にあたっては、
第 1 主成分の負荷量平方和が大きくなる組み合わせを選んでいる。この自宅学習の程度に
関するこれらの質問項目はいずれも(1)している、(2)どちらかといえば、している、(3)あま
りしていない、(4)全くしていない の 4 つの選択肢より回答する形式であり、選択肢(1)から
(4)まで順番に 3 点から 0 点までの評価点を付点した。主成分分析の結果、小学校では「家
で学校の宿題をしていますか」を除く 3 項目、中学校では全ての項目について類似した関
係にあることが確認された。この主成分分析の結果は付表 4 と付表 5 に示した。
第4項 地域要因
地域要因としては「大学進学率」「就学援助を受けている割合」を変数として採用してい
る。大学進学率は文部科学省の年次調査「学校基本調査」より作成し、就学援助を受けて
いる割合については「全国学力・学習状況調査」学校質問紙調査よりデータを得た。
大学進学率は、子どもたちの進学意欲を表す代理変数として採用した。これは学習意欲
や進学意欲と学力との関係性を研究した堀の研究結果(2004)を参考にしている。堀は進学意
欲を将来的に希望する教育年数として捉えて統計的な推定を行い、結果として進学意欲が
学習意欲と並んで教科テストの平均正答率に強い影響を与えることを明らかにしている。
この堀の調査結果を踏まえ、本研究では子どもたちの進学意欲の代理変数として地域の大
学進学率を採用し、地域要因として推計に用いる17。
また一般的に教育費と学力の間には相関関係があると見られており、子どもたちの経済
的な家庭背景を示す変数として「就学援助を受けている割合」を変数として採用した。学
力と経済的背景に関する研究としては、耳塚ら(2014)が全国学力・学習状況調査のきめ細か
い調査として保護者に対する調査を実施し、子どもの学力に影響を与える社会的背景につ
いての実証的な研究を行っている。その結果、耳塚らは学習塾などへの学校外教育費支出
と世帯所得が多いほど学力が高いということを明らかにした。そこで本分析では「全国学
力・学習状況調査」学校質問紙調査に設けられている項目「就学援助を受けている児童・
生徒の割合」から子どもたちの家庭の経済的背景を示す指標を得た。この就学援助の受給
割合に関する質問は、対象学校に在籍している児童・生徒のうち就学援助を受けている児
童・生徒のパーセント割合について選択肢から回答する形式である。回答選択肢は(1)在籍
していない、(2)5%未満、(3)5%以上、10%未満、(4)10%以上、20%未満、(5)20%以上、30%
未満、(6)30%以上、50%未満、(7)50%以上の 7 つである。比重を設けるために(1)から(7)ま
で順番に 1 点から 7 点までの評価点を付点し評価指数を作成した。
通常、統計的な分析では学力とこれらの学力形成要因の間の相関関係は推定できるもの
の因果関係の方向については判断することができない。たとえば仮に ICT 活用学習の頻度
25
と学力の間に相関関係が見いだせたとしても、ICT を用いる頻度が上がるから学力が向上す
るのか、あるいは学力が高いから ICT を活用する頻度が上がるのか、その因果の原因がど
ちらにあるのかが判断できない。この問題に対処するため本分析では被説明変数と説明変
数の間に 1 年間のラグを取っている。なお、ICT を活用した課題解決型授業の実施度やティ
ームティーチングの実施度については前年度の実施状況に関する設問であるためラグは 0
としている。
全国学力・学習状況調査は毎年度の小学校 6 年生と中学校 3 年生を対象とした学力調査
であり、1 年間のラグを取ることでサンプルの対象が変わる。そのため同一の子どもたちか
ら得られた調査結果ではなくなることでデータの不整合の問題が生まれる可能性がある。
本分析では子どもたちの学力や各学力規定要因を都道府県の地域ごとの傾向や特性として
観測されるものと仮定して次章以降の推計を進めていきたい。
なお、今回の分析で用いる各変数を表 6 に一覧として示した。
26
表 6 分析に用いる変数
変数
被説明変数
出典
ラグ
算数/数学 A 問題 平均正答率(標準化)
「全国学力・学習状況調査」教科問題結果
0
国語 A 問題 平均正答率(標準化)
「全国学力・学習状況調査」教科問題結果
0
算数/数学 B 問題 平均正答率(標準化)
「全国学力・学習状況調査」教科問題結果
0
国語 B 問題 平均正答率(標準化)
「全国学力・学習状況調査」教科問題結果
0
算数/数学への学習意欲項
「全国学力・学習状況調査」児童・生徒質問紙調査
0
国語への学習意欲項
「全国学力・学習状況調査」児童・生徒質問紙調査
0
教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数
「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」
1
普通教室への無線 LAN 整備率
「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」
1
校務支援 PC 普及率
「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」
1
「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」
1
「全国学力・学習状況調査」学校質問紙調査
0
教員 1 人当たりの児童・生徒数
「学校基本調査」
1
1 学級当たりの児童・生徒数
「学校基本調査」
1
算数/数学でのティームティーチング実施度
「全国学力・学習状況調査」学校質問紙調査
0
国語でのティームティーチング実施度
「全国学力・学習状況調査」学校質問紙調査
0
教職員の校内外研修への参加度
「全国学力・学習状況調査」学校質問紙調査
0
通塾(家庭教師含む)の度合い
「全国学力・学習状況調査」児童・生徒質問紙調査
1
自宅学習度
「全国学力・学習状況調査」児童・生徒質問紙調査
1
家庭でのコミュニケーションの度
「全国学力・学習状況調査」児童・生徒質問紙調査
1
大学進学率
「学校基本調査」
1
就学援助を受けていない児童・生徒の割合
「全国学力・学習状況調査」学校質問紙調査
1
国・私立校に在籍する児童・生徒の割合
「学校基本調査」
1
(基礎的な知識)
(活用する能力)
(主体的な学習意欲)
説明変数
(学校要因:ICT 利活用教育)
ICT を活用した授業が出来る教員の割合
ICT を活用した課題解決型授業の実施度
(学校要因:その他)
(家庭要因)
(地域要因)
27
第4節 予測と本分析の意義
前節では、本分析で用いる変数についての定義を行った。本節では学力向上に対してこ
れらの変数が示すと考えられる予測を示し、今回の分析の意義について触れたい。
もし本研究が対象としている ICT を利活用した学習が子どもたちの学力に対して一定の
効果があるとすれば、ICT を活用した課題解決型授業の実施度は学力に対してプラスの相関
関係を示すと考えられる。また、利活用にあたっての基本的な環境・人的条件である無線
LAN 整備率や ICT を活用した授業ができる教員の割合もプラスの相関を示すと考えられる。
また ICT を活用した学習の環境条件整備が進展することで ICT 機器 1 人 1 台の学習環境に
近づくと推察されるため、教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数はマイナスの係数を示すと
考えられる。また校務支援 PC 整備率については、端末が整備されることで教員の事務負担
の軽減と児童・生徒に対する細やかな学習指導が実現すると考えられるためプラスの相関
を示すはずである。
これまでの先行研究の結果を踏まえて考えると、学級規模の縮小や子どもたちに対して
きめ細やかな学習指導が可能になる教職員配置が取られることは学力に対してプラスの効
果を持つと考えられる。つまり学級規模や学校規模の縮小が学力に対してプラスの効果を
持つとすれば、1 学級当たりの児童・生徒数が下がるほど児童・生徒に対するきめ細やかな
学習指導が可能になり学力向上に対してより高い効果を持つと考えられるため、1 学級当た
りの児童・生徒数はマイナスの相関関係を示すと予想される。また教科指導におけるティ
ームティーチングの実施度と教職員の校内外研修への参加度は授業改善や指導方法の工夫
に対する教職員の積極的な取り組みを示すものと考えられるため、学力に対してプラスの
相関を示すはずである。
通塾度に関する評価指数は、値が大きくなるほどより発展的な学習や基礎に対する補充
的な学習が行われていることを示しているため、児童・生徒のより高度な学力や学力の底
上げを反映している。学校外教育としての通塾の有無が学力形成に効果を持つとすれば、
通塾度はプラスの相関を示すと考えられる。また自宅学習についても同様であり、自宅学
習の程度が増え、子どもたちの学習時間が確保されることで学力にプラスの影響をもたら
すものと考えられる。
また堀(2004)や耳塚ら(2014)の研究成果を踏まえると、進学意欲の代理変数である大学進
学率は学力にプラスの相関、児童の社会的・経済的背景を反映している就学援助を受けて
いる割合については学力へマイナスの相関を示すと考えられる。
以上、今回の学力生産関数の推定においてそれぞれの学力形成要因が示すと考えられる
相関関係の予測を行った上で、以下では本研究の学力生産関数の分析モデルの意義につい
て示したい。
まず第一には「確かな学力」の形成に対して ICT を利活用した学習が持つ効果の可能性
について推計することにあると考える。これまで清水ら(2008)や豊田ら(2009)などが示して
28
きたように、学習活動において ICT を利活用することが学力に対してプラスの効果を持つ
可能性があることは個々の実証研究において明らかになりつつある。しかし堀田・木原
(2008)は同時に学力向上を意図した ICT 活用がミクロレベルでの分析に留まり、ICT を用い
た学習が学力を構成する要素のどの部分に影響を与えるかについては明らかになっていな
いことを指摘している。本研究では対象とする「学力」を「確かな学力」と位置付けたう
えで、子どもたちの基礎的な教科知識や、知識・技能を活用する能力あるいは学習意欲と
いった個別の要素について推計を行うことが可能である。
また第二の意義としては、分析モデルとして教育生産関数を用いることで他の学級規模
縮小や教職員配置といった他の教育政策や、通塾や自宅学習といった児童・生徒に由来す
る諸要因を考慮した上で ICT を利活用した学習が、子どもたちの学力に対してどのような
効果を持つ可能性があるのか総合的な分析が行えることにあると考える。また都道府県単
位で得られたデータを用いて全国レベルでの学力効果の推計を行う本研究では巨視的な視
点から ICT を活用した学習と学力との間の一般的な傾向についての推察を行うことが可能
であり、
「確かな学力」の育成を目指す教育政策の中での ICT を活用した学習を推進するこ
との持つ意義について示唆を得ることが可能であると考える。
29
第5章 分析
第1節 記述統計
本節では推計に用いる小学校データと中学校データの記述統計量について見ていく。本
推計の各説明変数は単位と規模が異なる変数を用いており単純に標準偏差のみを見て分布
のばらつきの大小を判断することはできない。そのため変数間のばらつきの差を見る指標
として別途、変動係数(平均値÷標準偏差)を算出して表 7 に示した。また小学校データと
中学校データの記述統計量についてはそれぞれ表 8 と表 9 に示している。被説明変数のう
ち、算数・国語の A 問題、B 問題の平均正答率については 2013 年度結果、2014 年度結果に
ついてそれぞれ統計的な処理を行い、標準化を行っているため各変数の平均は 0 となって
いる。また主成分分析の結果、加重平均した合成変数を作成している各学習意欲項、自宅
学習の程度についても平均値は 0 を示している。
表 8 と表 9 から今回推計する「確かな学力」のデータの特徴を A 問題結果、B 問題結果
や学習意欲評価点から確認していくと、教科間のデータの分布に大きな傾向の違いは確認
できないものの、小学校データよりも中学校データの方がデータのばらつきがやや下方に
移動していることがわかる。中学校生徒に比べ、小学校児童の方が平均正答率や評価点が
高い傾向にあることが推察される。
学力規定要因として本分析の推定に用いる各説明変数のデータのばらつき具合は表 7 に
示した変動係数を確認できる。変動係数を見てみると、教育 ICT 要因には 10%から 20%前
後の分布のばらつきが見られる。個々の変数の変動係数を確認すると、教育用 PC1 台当た
りの児童・生徒数が他の教育 ICT 要因に比べて変動係数の値が少し大きくなっており、小
学校データで 18.32 %、中学校データでは 19.04 %のばらつきが生じていることがわかる。
普通教室への無線 LAN 整備率では小学校と中学校で約 15 %前後、校務支援 PC 整備率では
約 12 %前後の変動性がある。ICT を活用した授業ができる教員の割合は小学校で 11.21 %、
中学校で 12.01 %のばらつきがあり、中学校教員の方が 1%程度、分布のばらつきが大きい。
協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度については、小学校データで 11.99 %、中学校デー
タで 9.45 %の変動性が示されており、小学校データでばらつきが若干大きくなっているこ
とが確認できる。
コントロール変数のうち、学校要因の中からはティームティーチング実施度の変動係数
が高くなっていることが確認され、実施している地域と実施していない地域の差が大きい
ことがわかる。特に国語科のティームティーチングについては小学校、中学校ともに 50%
以上のばらつきが示されている。学級規模を表す 1 学級当たりの児童・生徒数は小学校で
11.05 %、中学校で 8.83 %ほどデータのばらつき方に差があることが示されている。一方で、
教員の校内外研修への参加度については小学校、中学校データで 5%前後のばらつきとなっ
30
ており地域差が小さいことが示され、教員の研修の参加度については地域間でそれほど大
きな差がないことがわかる。家庭要因では通塾度が小学校、中学校ともに 25%前後のばら
つきを示している。自宅での学習習慣の程度については平均を 0 とした合成変数となって
いるため、変動係数が作成できなかった。表 8 と表 9 から標準偏差を確認すると小学校で
0.60、中学校で 1.52 となっており、中学校生徒の方が自宅学習習慣に差が生じていること
がわかる。大学進学率については小学校での推計と中学校での推計に共通しているデータ
であるため同じ値を取っている。大学進学率の変動係数は 13.07 %となっており、都道府県
間で約 13%のばらつきがあることが示されている。就学援助を受けている割合については
小学校で 32.37 %、中学校で 21.18 %となっており、中学校データの方がデータのばらつき
が小さくなっていることが示されている。
表 7 各説明変数の変動係数
小学校
説明変数
中学校
平均
標準偏差
変動係数
平均
標準偏差
変動係数
教育用 PC1 台当たりの生徒数
6.92
1.27
18.32%
6.08
1.16
19.04%
普通教室への無線 LAN 整備率
82.44
13.14
15.94%
81.67
12.29
15.05%
校務支援 PC 整備率
108.49
13.67
12.60%
106.93
12.50
11.69%
授業で ICT 活用した授業ができる教員の割合
72.62
8.14
11.21%
65.67
7.89
12.01%
協同・課題解決型 ICT 授業の実施度
159.46
19.12
11.99%
150.52
14.23
9.45%
1 学級当たりの生徒数
22.89
2.53
11.05%
27.30
2.41
8.83%
数学科ティームティーチング実施度
151.73
54.78
36.10%
147.21
60.79
41.30%
国語科ティームティーチング実施度
33.53
17.41
51.93%
34.55
22.51
65.16%
教員の校内外研修への参加度
227.78
9.25
4.06%
213.52
11.21
5.25%
70.72
17.70
25.03%
115.32
28.23
24.48%
0.00
0.60
-
*
0.00
1.52
-*
大学進学率
51.49
6.73
13.07%
51.49
6.73
13.07%
就学援助を受けている程度
251.74
81.49
32.37%
259.45
54.96
21.18%
(教育 ICT 要因)
(学校要因)
(家庭要因)
補充・発展学習のための通塾度
自宅での学習習慣の程度
(地域要因)
* 自宅での学習習慣の程度については主成分分析の結果平均 0 の合成変数となっているため変動係数は算出できない。
31
表 8 記述統計量(小学校)
変数
被説明変数
観測数
平均
標準偏差
最小値
最大値
94
0.00
1.01*
-2.22
3.39
94
0.00
1.01
*
-1.99
3.06
算数 B 平均正答率(標準化平均)
94
0.00
1.01*
-1.65
3.53
国語 B 平均正答率(標準化平均)
94
0.00
1.01*
-1.58
3.85
算数 学習意欲 評価点
94
0.00
2.71
-4.81
9.63
国語 学習意欲 評価点
94
0.00
2.43
-4.76
8.16
観測数
平均
標準偏差
最小値
最大値
教育用 PC1 台当たりの児童数
94
6.92
1.27
4.49
10.29
普通教室への無線 LAN 整備率
94
82.44
13.14
43.56
99.82
校務支援 PC 整備率
94
108.49
13.67
71.35
132.55
授業で ICT 活用した授業ができる教員の割合
94
72.62
8.14
59.25
97.94
協同・課題解決型 ICT 授業の実施度
94
159.46
19.12
116.60
209.70
1 学級当たりの生徒数
94
22.89
2.53
17.68
29.17
算数科ティームティーチング実施度
94
151.73
54.78
53.20
306.00
国語科ティームティーチング実施度
94
33.53
17.41
3.00
94.70
教員の校内外研修への参加度
94
227.78
9.25
208.50
250.90
補充・発展学習のための通塾度
94
70.72
17.70
30.90
106.10
自宅での学習習慣の程度
94
0.00
0.60
-1.24
1.88
大学進学率
94
51.49
6.73
37.70
68.60
就学援助を受けている程度
94
251.74
81.49
122.30
508.50
(基礎的・基本的な知識や技能)
算数 A 平均正答率(標準化平均)
国語 A 平均正答率(標準化平均)
(知識や技能を活用する能力)
(主体的な学習意欲)
説明変数
(教育 ICT 要因)
(学校要因)
(家庭要因)
(地域要因)
* 小数点第 3 位で切り上げているため、標準偏差の数値は 1.00 よりも若干大きくなっている。
32
表 9 記述統計量(中学校)
変数
被説明変数
観測数
平均
標準偏差
最小値
最大値
94
0.00
1.01*
-4.07
2.62
94
0.00
1.01
*
-4.12
3.02
数学 B 平均正答率(標準化平均)
94
0.00
1.01*
-3.76
2.49
国語 B 平均正答率(標準化平均)
94
0.00
1.01*
-2.59
3.27
数学 学習意欲 評価点
94
0.00
2.40
-6.56
5.74
国語 学習意欲 評価点
94
0.00
2.49
-5.52
5.93
観測数
平均
標準偏差
最小値
最大値
教育用 PC1 台当たりの生徒数
94
6.08
1.16
3.90
8.70
普通教室への無線 LAN 整備率
94
81.67
12.29
45.51
99.58
校務支援 PC 整備率
94
106.93
12.50
74.18
130.74
授業で ICT 活用した授業ができる教員の割合
94
65.67
7.89
49.15
91.67
協同・課題解決型 ICT 授業の実施度
94
150.52
14.23
114.40
191.40
1 学級当たりの生徒数
94
27.30
2.41
20.47
32.21
数学科ティームティーチング実施度
94
147.21
60.79
45.10
291.30
国語科ティームティーチング実施度
94
34.55
22.51
1.10
127.80
教員の校内外研修への参加度
94
213.52
11.21
188.30
240.30
補充・発展学習のための通塾度
94
115.32
28.23
52.90
161.60
自宅での学習習慣の程度
94
0.00
1.52
-3.43
5.45
大学進学率
94
51.49
6.73
37.70
68.60
就学援助を受けている程度
94
259.45
54.96
158.60
400.20
(基礎的・基本的な知識や技能)
数学 A 平均正答率(標準化平均)
国語 A 平均正答率(標準化平均)
(知識や技能を活用する能力)
(主体的な学習意欲)
説明変数
(教育 ICT 要因)
(学校要因)
(家庭要因)
(地域要因)
* 小数点第 3 位で切り上げているため、標準偏差の数値は 1.00 よりも若干大きくなっている。
33
第2節 小学校データの推計結果
小学校データの推計結果については算数と国語の結果をそれぞれ表 10 と表 11 に示した。
推計モデル全体はいずれの場合も 1%水準で有意であった。以下では A 問題、B 問題、学習
意欲の結果について順番に見ていきたい。
まず算数 A の結果では、教育 ICT 要因のうち教育用 PC1 台当たりの児童数が 5 %水準で
有意性を示している。係数を見ると PC1 台当たりの児童数が 1 人増加すると、算数 A 問題
の平均正答率が-0.21 標準偏差分下がる傾向があることがわかる。つまり PC1 台当たりの児
童数が 1 人減少すると、平均正答率が 0.21 標準偏差分上がる傾向にあると言える。
他のコントロール変数からは、学校要因のうち教員の校内外研修が 10 %水準で有意性を
示し、教員の研修への参加度の評価点が 1 点増加すると、学力が 0.02 標準偏差分、平均点
が高くなっていることがわかる。家庭要因の補充・発展学習のための通塾は 1 %水準で強い
関連性が見られるが、係数は-0.05 となっており、予測とは反対に学力に対してマイナスの
関係を持っていることがわかる。地域要因からは大学進学率が 1 %水準で強い有意性を示し
ている。係数からは地域の大学進学率が 1%高くなると、平均正答率も 0.08 標準偏差分高く
なる傾向が読み取れる。一方で、就学援助を受けている程度は 5%水準で有意性を示してい
るものの、係数は 0.00 となっており、学力に与えている影響は極めて小さいことがわかる。
算数 B の結果では、教育 ICT 要因から統計的に相関が見られる変数は確認できなかった。
コントロール変数のうち学校要因からは教員の校内外研修参加度が 1 %水準で有意性を示
し、研修の参加度が 1 評価点増加すると学力が 0.04 標準偏差分、得点が高くなる傾向が確
認できる。家庭要因からは通塾度が 1 %水準で有意性を示しており、係数は-0.04 となって
いるため、算数 A と同様に学力に対してはマイナスの関係を持っていることが確認できる。
また地域要因からは大学進学率が 1 %水準、就学援助を受けている程度が 10 %水準でそれ
ぞれ有意性を示している。大学進学率の係数は 0.10 となっており、大学進学率が 1 %増加
すると学力も 0.10 標準偏差分、得点が高くなる傾向がある。一方で就学援助を受けている
割合については統計的な有意性が確認できるものの、係数は 0.00 となっており算数 A 同様
に学力に対する影響は極めて小さいことがわかった。
算数学習意欲の結果に対しては全ての教育 ICT 要因が統計的な有意性を示している。教
育用 PC1 台当たりの児童数、普通教室への無線 LAN 整備率、協同学習・課題解決型 ICT 授
業の実施度が 1 %水準、校務支援 PC 整備率と ICT を活用した指導ができる教員の割合が
10 %水準でそれぞれ相関を示している。係数を見てみると、教育用 PC1 台当たりの児童数
は-0.86 となっており、PC1 台当たりの児童数が 1 人減少すると学習意欲の評価点が 0.86 点
増加する傾向があることがわかる。協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度についても評
価点が 1 点増加すると、学習意欲が 0.04 点増加する傾向があることが確認できる。また校
務支援 PC 整備率が 1 %上昇すると学習意欲の評価点が 0.03 点増加し、ICT を活用した指導
ができる教員の割合が 1 %増加すると学習意欲の評価点が 0.05 点増加する傾向が確認でき、
34
教員側の ICT 活用が算数の学習意欲に対して好ましい影響を与えている可能性が示されて
いる。
コントロール変数のうち、算数の学習意欲に対して有意性を示したものは、学校要因で
は 1 学級当たりの児童数、教員の校内外研修参加度であった。教員の校内外研修参加度は A
問題結果と B 問題結果と同様に、学習意欲に対してプラスの関係が見られ、参加度の評価
点が 1 点増加すると学習意欲の評価点が 0.11 点高くなる傾向があることがわかる。一方で、
学級規模に関しては 1 学級当たりの児童数が 1 人減少すると、学習意欲の評価点も 0.04 点
減少する傾向が示されており、学級規模の縮小が学習意欲の向上に対して有意にプラスの
効果を持つとは確認できなかった。また、他の変数としては家庭要因の通塾度、地域要因
の大学進学率がそれぞれ 1%水準で有意性を示している。係数を見てみると通塾度は-0.10
となり A 問題結果・B 問題結果と同様に学習意欲の学力に対してマイナスの関係を持って
いる。大学進学率については 0.13 となっており、大学進学率が 1 %上昇すると学習意欲の
評価点が 0.13 点増加することがわかる。
修正済み R2 値を見てみると、A 問題結果の推定では 0.30、B 問題結果への推計では 0.32、
学習意欲への推計では 0.56 となっており、本分析での小学校児童の算数の「確かな学力」
への推計モデルの説明力は、学習意欲>B 問題>A 問題の順で高くなっていることがわかる。
また誤差項の値が示しているように、モデルで用いた変数以外に存在している他の要因に
よる影響も学習意欲>B 問題>A 問題の順で大きい。
国語 A の結果では、教育 ICT 要因や他の学校要因から統計的に相関が見られる変数は確
認できなかった。コントロール変数のうち家庭要因の通塾度と地域要因の大学進学率が 1 %
水準で有意性を示している。大学進学率の係数は 0.07 となり学力に対してプラスの関係が
あることが示されている。一方で通塾度の係数は-0.04 となっており学力に対してマイナス
の関係があることが確認できる。これは算数 A の結果と同様の傾向があることがわかる。
国語 B の結果からは、教育 ICT 要因のうち教育用 PC1 台当たりの児童数が 5%水準、普
通教室への無線 LAN 整備率が 1%水準でそれぞれ有意性を示している。教育用 PC1 台当た
りの児童数の係数は-0.20 となり、PC1 台当たりの児童数が 1 人減少すると 0.20 標準偏差分、
平均正答率が高くなる傾向が確認できる。一方で無線 LAN 整備率の係数は-0.01 となってお
り、無線 LAN 整備率が 1 %高くなると学力が-0.01 標準偏差分、得点が低くなる傾向が確認
できる。これは予測とは異なる結果となっている。コントロール変数からは、他の学校要
因の教員の校内外研修参加度が 1%水準、国語科でのティームティーチング実施度が 10 %
水準で有意性を示している。係数を見てみると教員の校内外研修の参加度が 0.04 とプラス
の関係を示した一方で、ティームティーチングの実施度の係数は-0.01 を示しており、ティ
ームティーチング実施度の程度が 1 評価点分増えると-0.01 標準偏差分、B 問題の得点が下
がるという学力に対してマイナスの関係にある傾向が確認できる。家庭要因からは通塾度
が 1%水準、地域要因からは大学進学率が 1 %水準で有意性が示された。また就学援助を受
35
けている程度についても 10 %水準で有意性が見られたものの、係数は 0.00 となり学力に対
する影響は極めて少ないことがわかる。
国語の学習意欲の結果からは、教育 ICT 要因のうち無線 LAN 整備率と協同学習・課題解
決型 ICT 授業の実施度がそれぞれ 1 %水準で統計的な有意性を示している。係数を見てみる
と、協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度が 1 評価点分増加すると国語の学習意欲が 0.06
点増加する傾向が確認できる。一方で、無線 LAN 整備率については他の結果と同様に学習
意欲の学力に対してマイナスの関係があることが確認できた。コントロール変数のうち、
他の学校要因からは教員の校内外研修参加度が 1%水準で有意性を示しており、研修の参加
度が 1 評価点分上昇すると学習意欲の学力が 0.08 点高くなる傾向が確認できる。また他の
結果と同様に、家庭要因からは通塾度が 1 %水準で有意性が見られ、学力に対してマイナス
の関係を持つ傾向が示されている。地域要因からは大学進学率が 5 %水準で有意性を示し、
学習意欲の学力に対してプラスの関係があることが確認された。
修正済み R2 値を見てみると、A 問題結果の推定では 0.30、B 問題結果への推計では 0.38、
学習意欲への推計では 0.61 となっており、本分析の推計モデルが小学校児童の国語の「確
かな学力」へ持つ説明力は、学習意欲>B 問題>A 問題の順で高くなっていることがわかる。
また誤差項の値が示しているように、モデルで用いた変数以外に存在している他の要因に
よる影響も学習意欲>B 問題>A 問題の順で大きい。これらは算数の結果と同様であった。
36
表 10 最小二乗法による推定結果(小学校・算数)
説明変数
算数 A
算数 B
算数 学習意欲
係数
係数
係数
(教育 ICT 要因)
-0.21
教育用 PC1 台当たりの児童数
普通教室への無線 LAN 整備率
校務支援 PC 整備率
ICT を活用した指導ができる教員の割合
協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度
**
-0.09
-0.86
(0.11)
(0.11)
(0.23)
-0.01
0.00
-0.09
(0.01)
(0.01)
(0.02)
-0.01
-0.01
0.03
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.01
0.01
0.05
(0.01)
(0.01)
(0.03)
0.01
0.00
0.04
(0.01)
(0.01)
(0.01)
0.08
0.00
0.04
(0.06)
(0.06)
(0.13)
0.00
0.00
0.00
(0.00)
(0.00)
(0.00)
***
***
*
*
***
(他の学校要因)
1 学級当たりの児童数
ティームティーチング(算数)実施度
0.02
教員の校内外研修参加度
*
(0.01)
0.04
***
(0.01)
0.11
***
***
(0.02)
(家庭要因)
-0.05
補充・発展学習のための通塾度
自宅での学習習慣の程度
***
-0.04
***
-0.10
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.18
0.14
-0.24
(0.16)
(0.16)
(0.35)
***
(地域要因)
0.08
大学進学率
***
(0.02)
0.00
就学援助を受けている程度
-6.21
***
(0.02)
**
(0.00)
誤差項
0.10
0.00
-12.32
*
0.00
(0.00)
***
-33.86
2
0.39
0.41
0.62
2
0.30
0.32
0.56
R 値
修正済み R 値
注) ***1%水準、**5%水準、*10%水準で統計的に有意である。
括弧( )内は標準誤差を表している。
小数点第 3 位で切り上げているため、係数や標準誤差の値に 0.00 と表れている値がある。
37
***
(0.05)
(0.00)
**
0.13
***
表 11 最小二乗法による推定結果(小学校・国語)
説明変数
国語 A
国語 B
国語 学習意欲
係数
係数
係数
(教育 ICT 要因)
教育用 PC1 台当たりの児童数
普通教室への無線 LAN 整備率
校務支援 PC 整備率
ICT を活用した指導ができる教員の割合
協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度
-0.04
-0.20
**
(0.12)
(0.10)
(0.19)
-0.01
-0.01
-0.07
(0.01)
(0.01)
(0.02)
-0.01
-0.01
(0.01)
(0.01)
(0.01)
0.00
0.00
0.01
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.01
0.01
0.06
(0.01)
(0.01)
(0.01)
0.01
0.01
0.06
(0.06)
(0.06)
(0.11)
0.00
-0.01
(0.01)
(0.01)
0.01
0.04
(0.01)
(0.01)
*
-0.28
***
0.01
***
(他の学校要因)
1 学級当たりの児童数
ティームティーチング(国語)実施度
教員の校内外研修参加度
*
0.00
(0.01)
***
0.08
***
(0.02)
(家庭要因)
-0.04
補充・発展学習のための通塾度
自宅での学習習慣の程度
***
-0.04
***
-0.08
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.15
0.22
0.75
(0.17)
(0.15)
(0.29)
***
(地域要因)
0.07
大学進学率
就学援助を受けている程度
***
0.09
(0.02)
(0.02)
0.00
0.00
(0.00)
(0.00)
***
0.09
(0.04)
*
0.00
(0.00)
-3.40
-8.50
2
0.39
0.46
0.66
2
0.30
0.38
0.61
誤差項
R 値
修正済み R 値
***
注) ***1%水準、**5%水準、*10%水準で統計的に有意である。
括弧( )内は標準誤差を表している。
小数点第 3 位で切り上げているため、係数や標準誤差の値に 0.00 と表れている値がある。
38
**
-23.96
***
第3節 中学校データの推計結果
中学校データでの推計結果は表 12 と表 13 に示した。表 12 が数学、表 13 が国語での推
計結果となっており、いずれの結果もモデル全体では 1%水準で有意であった。まず数学の
A 問題、B 問題、学習意欲の結果について順番に確認していく。
数学 A の結果では教育 ICT 要因の ICT を活用した指導ができる教員の割合、学校要因の
教員の校内外研修参加度、地域要因の大学進学率がそれぞれ 1 %で有意性を示している。し
かし、ICT を活用した指導ができる教員の割合の係数は-0.04 とマイナスを示しており、ICT
活用指導が可能な教員の割合が 1 %増加すると、数学 A の得点が-0.04 標準偏差分減少する
という学力に対してマイナスの関係性がある傾向が確認できる。コントロール変数である
学校要因の教員の校内外研修参加度は 0.03 標準偏差分、得点を増加させる傾向があり、ま
た地域要因の大学進学率についても 0.10 標準偏差分、得点に対してプラスの関連性を持つ
ことが示されている。
数学 B の結果から、教育 ICT 要因のうち関連が見られたものは、普通教室への無線 LAN
整備率と ICT を活用した指導ができる教員の割合であった。無線 LAN 整備率は 10 %水準
で有意性が見られ、係数は 0.01 という結果から無線 LAN 整備率が 1 %上昇すると国語 B の
学力が 0.01 標準偏差分増加する傾向にある可能性が示されている。一方で ICT を活用した
指導ができる教員の割合については 1 %水準で有意性が確認できるものの係数は-0.05 とな
っており、数学 A 同様に数学 B の学力に対してマイナスの関係がある傾向がわかる。コン
トロール変数からは、他の学校要因の教員の校内外研修参加度と地域要因の大学進学率が
1 %水準で高い有意性を示している。両者の係数を見ると、いずれも数学 B の学力に対して
プラスの関係性が示されており、数学 A 結果と同様の傾向が確認できる。
数学学習意欲の結果からは教育 ICT 要因のうち教育用 PC1 台当たりの生徒数、普通教室
への無線 LAN 整備率、校務支援 PC 整備率について統計的な有意性が確認できた。普通教
室への無線 LAN 整備率については小学校結果と同様に、1 %水準で高い有意性が示される
ものの係数は-0.04 となっており、学習意欲に対してはマイナスの関係性を持つ傾向が示さ
れている。教育用 PC1 台当たりの生徒数は 1 %水準で有意性が確認され、また係数も-0.34
となっていることから教育用 PC1 台当たりの生徒数が 1 人減少すると、数学の学習意欲が
-0.34 評価点分増加する傾向にあることが確認される。校務支援 PC 整備率については 5 %水
準で統計的な有意性が示され、係数 0.03 となっていることから校務支援 PC 整備率が 1 %増
加すると学習意欲が 0.03 評価点増加している傾向が示されている。コントロール変数の中
からは、他の学校要因の 1 学級当たりの生徒数と教員の校内外研修の参加度がそれぞれ 1 %
水準で統計的な有意性を示している。教員の校内外研修の参加度についてはこれまでの他
の結果と同様に学力に対してプラスの関係性が見られ、研修の参加度が 1 評価点分上昇す
ると学力意欲が 0.05 評価点分上昇する傾向がある。しかし 1 学級当たりの生徒数について
は 1 %水準で有意性が見られるものの示された係数は 0.02 となっており、1 学級当たりの児
39
童数が 1 人減少すると、学習意欲が 0.02 評価点分減少する傾向が確認された。この学級規
模と数学の学習意欲の結果では学級規模の縮小が学習意欲の向上に対して有意なプラスの
効果を持つとは確認できなかった。これは小学校算数の学習意欲での結果と同様の結果で
ある。
修正済み R2 値を見てみると、A 問題結果の推定では 0.38、B 問題結果への推計では 0.41、
学習意欲への推計では 0.69 となっており、本分析の推計モデルが中学生の数学の「確かな
学力」へ持つ説明力は、学習意欲>B 問題>A 問題の順で高くなっていることがわかる。ま
た誤差項の値が示しているように、モデルで用いた変数以外に存在している他の要因によ
る影響も学習意欲>B 問題>A 問題の順で大きい。
国語 A の結果では教育 ICT 要因の中から ICT を活用した指導ができる教員の割合が 1 %
水準、協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度が 10 %水準でそれぞれ統計的な有意性を示
している。ICT 活用指導可能な教員の割合については係数が-0.05 となっており、他の結果
と同様に学力とマイナスの関係にある傾向が示されている。協同学習・課題解決型 ICT 授
業の実施度の係数は 0.01 となっており、わずかながらも学力へプラスの関連がある可能性
があることがわかる。コントロール変数の中からは、他の学校要因の教員の校内外研修参
加度、家庭要因の通塾度、地域要因の大学進学率がそれぞれ 1 %水準で有意性を示し、これ
までの結果と同様の傾向を示している。また地域要因の就学援助を受けている割合につい
ても、5 %水準で統計的な有意性が見られた。しかし係数は極めて低い値をとっており、学
力に対しての影響は限定的であることがわかる。
国語 B の結果からは教育 ICT 要因のうち ICT を活用した指導ができる教員の割合と協同
学習・課題解決型 ICT 授業の実施度が統計的な有意性を示した。ICT を活用した指導ができ
る教員の割合には学力に対してマイナスの関連性が見られ、協同学習・課題解決型 ICT 授
業の実施度にはわずかにプラスの関連があることが示されている。これは国語 A の結果と
同様の傾向であった。コントロール変数からは他の学校要因の教員の校内外研修の参加度、
家庭要因の通塾度、地域要因の大学進学率、就学援助を受けている程度について統計的な
有意性が示されており、係数についても国語 A の結果と同様の傾向が確認される。また国
語 B の結果では家庭要因のうち、自宅での学習習慣の程度について 5 %水準での有意性が
確認された。係数は 0.15 とプラスの関係性が見られ、自宅での学習習慣の程度が 1 評価点
分増加すると国語 B の平均正答率が 0.15 標準偏差分増加している傾向にあることがわかる。
国語の学習意欲については、教育 ICT 要因のうち校務支援 PC 整備率と協同学習・課題解
決型 ICT 授業の実施度について統計的な有意性が見られる。校務支援 PC 整備率は 1 %水準
で有意であり、係数 0.04 という結果から校務支援 PC 整備率が 1 %向上すると、国語の学習
意欲が 0.04 評価点分増加する傾向にある可能性が示されている。また協同学習・課題解決
型 ICT 授業の実施度については 1 %水準での高い有意性が見られ、係数 0.08 という結果か
ら ICT を活用した授業の機会が 1 評価点分増えることで国語の学習意欲が 0.08 評価点分増
40
加する傾向にあることが確認された。コントロール変数からは家庭要因の自宅での学習習
慣の程度のみ 1 %水準で有意性が確認され、係数は 0.53 となっており自宅学習の習慣が中
学校生徒の国語の学習意欲に対して強い影響を持つことがわかる。一方で学校要因の 1 学
級当たりの生徒数や教員の校内外研修の参加度、家庭要因の通塾度、地域要因の大学進学
率といった他の推定結果で統計的な有意性が見られた諸変数については関連が見られなか
った。
推計モデルの誤差項の値については、他の結果と同様に学習意欲>B 問題>A 問題の順で
大きくなっている。一方、修正済み R2 値に注目してみると、A 問題結果の推定では 0.55、
B 問題結果への推計では 0.54、学習意欲への推計では 0.36 となっており、本分析の推計モ
デルが中学生の国語の「確かな学力」へ持つ説明力は、A 問題>B 問題>学習意欲の順で高
くなっていることがわかる。国語の学習意欲への説明力が下がっていることから、中学生
の国語への学習意欲に関しては他の分析結果で推計した「学力」とは性質や傾向が異なっ
ている可能性が示される結果となった。
41
表 12 最小二乗法による推定結果(中学校・数学)
説明変数
数学 A
数学 B
数学 学習意欲
係数
係数
係数
(教育 ICT 要因)
教育用 PC1 台当たりの児童数
普通教室への無線 LAN 整備率
校務支援 PC 整備率
-0.02
-0.10
-0.34
(0.12)
(0.12)
(0.20)
0.01
0.01
(0.01)
(0.01)
(0.01)
0.00
0.00
0.03
(0.01)
(0.01)
(0.01)
-0.04
ICT を活用した指導ができる教員の割合
協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度
***
-0.05
*
***
-0.04
***
***
**
0.01
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.01
0.01
0.02
(0.01)
(0.01)
(0.01)
0.01
0.01
0.02
(0.06)
(0.06)
(0.01)
0.00
0.00
0.00
(0.00)
(0.00)
(0.00)
(他の学校要因)
1 学級当たりの児童数
ティームティーチング(数学)実施度
0.03
教員の校内外研修参加度
***
0.03
***
0.05
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.00
0.00
0.00
(0.00)
(0.00)
(0.01)
0.11
0.08
1.03
(0.08)
(0.08)
(0.14)
***
***
(家庭要因)
補充・発展学習のための通塾度
自宅での学習習慣の程度
***
(地域要因)
0.10
大学進学率
就学援助を受けている程度
***
0.09
***
0.01
(0.02)
(0.02)
(0.03)
0.00
0.00
0.00
(0.00)
(0.00)
(0.00)
-7.48
誤差項
***
-9.70
***
-22.00
2
0.46
0.49
0.73
2
0.38
0.41
0.69
R 値
修正済み R 値
注) ***1%水準、**5%水準、*10%水準で統計的に有意である。
括弧( )内は標準誤差を表している。
小数点第 3 位で切り上げているため、係数や標準誤差の値に 0.00 と表れている値がある。
42
***
表 13 最小二乗法による推定結果(中学校・国語)
国語 A
国語 B
国語 学習意欲
係数
係数
係数
説明変数
(教育 ICT 要因)
教育用 PC1 台当たりの児童数
普通教室への無線 LAN 整備率
校務支援 PC 整備率
-0.05
-0.08
0.38
(0.10)
(0.10)
(0.30)
0.00
0.00
-0.01
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.00
0.00
0.04
(0.01)
(0.01)
(0.02)
-0.05
ICT を活用した指導ができる教員の割合
***
(0.01)
0.01
協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度
-0.04
***
(0.01)
*
0.01
*
-0.02
(0.04)
*
0.08
(0.01)
(0.01)
(0.02)
0.01
0.01
0.08
(0.05)
(0.05)
(0.14)
0.00
0.00
-0.01
(0.00)
(0.00)
(0.01)
***
(他の学校要因)
1 学級当たりの児童数
ティームティーチング(国語)実施度
0.03
教員の校内外研修参加度
***
(0.01)
0.03
***
(0.01)
0.01
(0.02)
(家庭要因)
-0.02
補充・発展学習のための通塾度
自宅での学習習慣の程度
***
-0.01
(0.00)
(0.00)
0.10
0.15
(0.07)
(0.07)
***
-0.01
(0.01)
**
0.53
***
(0.20)
(地域要因)
0.10
大学進学率
***
(0.02)
0.00
就学援助を受けている程度
-6.13
***
(0.02)
**
(0.00)
誤差項
0.10
0.00
(0.05)
***
(0.00)
***
-9.35
0.00
0.00
(0.00)
***
-13.89
2
0.61
0.59
0.45
2
0.55
0.54
0.36
R 値
修正済み R 値
注) ***1%水準、**5%水準、*10%水準で統計的に有意である。
括弧( )内は標準誤差を表している。
小数点第 3 位で切り上げているため、係数や標準誤差の値に 0.00 と表れている値がある。
43
**
第4節 分析結果
本章ではこれまで前節では小学校データと中学校データを用いて「確かな学力」を育成
する諸要因に関する教育生産関数の推定結果を見てきた。本節ではそれらの推定結果を踏
まえた上で本研究の主な関心である教育 ICT 要因が確かな学力の向上に与える効果につい
て整理を行いたい。
まず本分析で推計を行った学力規定要因の中からは、他の学校要因のうち教員の校内外
研修への参加度が各推計結果に安定して統計的な有意性を示し、知識・活用・意欲といっ
た確かな学力の形成にプラスの相関関係を持つことがわかる。また家庭要因の通塾度や地
域要因の大学進学率も多くの推定結果において広く説明力を持つという結果が示された。
教員の校内外研修の参加度が学力とのプラスの相関を示した結果からは、授業改善や指
導方法の工夫などに向けた教員の意欲的な姿勢が子どもたちの学力に対して向上効果を持
つと推察される。研修に参加する度合いが増えることは教員の授業改善や指導方法の工夫
の機会が増えることを意味していると考えられ、教員のよりよい学習指導が実現すること
によって子どもたちの学習の質が向上し、教科学力や学習意欲の向上がもたらされている
可能性があると考えられる。しかし、確かな学力の育成を目指した教育的な取組みとして
の学級規模の縮小やティームティーチングの実施については本分析では学力への好ましい
効果は確認できず、山崎ら(2009)や赤林・中村(2011)の研究とは異なる結果を示すこととな
った。地域要因の大学進学率については中学校の数学・国語の学習意欲を除いて、小学校・
中学校の全ての教科学力に対してプラスの相関が確認でき、堀(2004)と同様の結果が示され
た。一方で家庭要因の通塾度については安定的な説明力を持つ一方で、学力とマイナスの
相関が示されており苅谷(2003)や堀(2004)の結果と異なっている。
次に、教育 ICT 要因が確かな学力の向上に与える効果を整理していきたい。教育 ICT 要
因の学力効果の推定結果は別途、表 14 に示した。教育 ICT 要因のうち、授業における ICT
の活用の程度を示す「協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度」については小学校・算数
学習意欲、小学校・国語学習意欲、中学校・国語 A、国語 B、国語学習意欲の結果からプラ
ス方向への有意性が確認され、また学習環境の条件としての「教育用 PC1 台当たりの児童・
生徒数」は小学校の算数 A と算数学習意欲、小学校の国語 B、中学校の数学学習意欲に対
してプラスの相関が確認できた。この結果からは協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施が
小学校・算数学習意欲、国語学習意欲、中学校・国語学習意欲に対して好ましい効果があ
る可能性を示し、また教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数が小学校・算数学習意欲、中学
校・数学学習意欲に対してプラス方向の強い相関を示していることが確認できる。このこ
とは学習における ICT の活用と ICT を利用できる機会の整備が子どもたちの確かな学力の
うち主に学習意欲の向上に効果を持っている可能性があることを示している。
44
表 14 教育 ICT 要因の学力効果推定の結果
小学校
教育 ICT 要因
学力要素
教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数
基礎的・基本的な知識や技能
算数
+
国語
+
**
***
+
*
−
***
+
**
+
*
基礎的・基本的な知識や技能
−
***
−
***
知識を活用する能力
−
***
−
***
基礎的・基本的な知識や技能
+
*
知識を活用する能力
+
*
+
***
+
***
基礎的・基本的な知識や技能
知識を活用する能力
主体的な学習意欲
−
***
主体的な学習意欲
主体的な学習意欲
協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度
−
***
−
*
基礎的・基本的な知識や技能
知識を活用する能力
ICT を活用した指導ができる教員の割合
国語
+
主体的な学習意欲
校務支援 PC 整備率
数学
**
知識を活用する能力
普通教室への無線 LAN 整備率
中学校
主体的な学習意欲
+
+
+
*
*
***
+
***
注) ***1%水準、**5%水準、*10%水準で統計的に有意である。
+-の符号は学力に対する影響力の方向を示している。
また学習意欲以外にも、協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度は中学校・国語の基礎
的な知識や技能、知識を活用する能力に対して好ましい影響力を持つことが確認できる。
また教育用 PC の整備についても、小学校・算数の基本的な知識や技能、小学校・国語の知
識を活用する能力に対してプラス方向の相関を示し知識や活用といった学力の向上効果を
持つ可能性が示されている。ICT を活用した学習が学習意欲を中心とした子どもたちの学力
に好ましい影響を与えるという結果は清水・山本ら(2008)の研究を支持するものとなった。
また、教員側の ICT 活用としての「校務支援 PC 整備率」は小学校の国語 B の推計にお
いてわずかにマイナスの相関を認められ部分的に効果が認められない結果があったものの、
小学校・国語学習意欲を除いて小学校・算数学習意欲、中学校・数学学習意欲、中学校・
国語学習意欲に対してプラスの影響力を持つ可能性を示している。
しかし一方で、普通教室への無線 LAN 整備率や ICT を活用した指導ができる教員の割合
については、学力に対してマイナスの相関が示される結果となっていることに注意したい。
教育用 PC の整備と同じように学習環境の情報化の程度を示す「普通教室への無線 LAN
整備率」については統計的な有意性が確認される小学校・算数学習意欲、小学校・国語学
習意欲、中学校・数学学習意欲のすべての結果から学習意欲に対してマイナスの相関を持
45
つ可能性が示された。学習意欲と普通教室への無線 LAN 整備率の関係性を確認するため、
小学校データを用いて以下に散布図を作成した。図 3 は算数学習意欲、図 4 は国語学習意
欲について普通教室への無線 LAN 整備率との相関を表している。なお、データの分布を詳
細に見るために分布より著しく外れた値を取り除いて作成した。
図 3 学習意欲・算数と無線 LAN 整備率
図 4 学習意欲・国語と無線 LAN 整備率
(文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」2012-2013,
文部科学省「全国学力・学習状況調査」2013-2014 より作成)
図 3 では 2013 年度から 2014 年度にかけてデータの分布が右方向にシフトしており無線
LAN 整備率の上昇が確認できる。しかし上方向への分布の移動は見られず、また近似曲線
もほぼ水平となっていることから無線 LAN 整備率の上昇は算数の学習意欲の向上に影響を
及ぼしていないと考えられる。一方で、図 4 からは右下がりの近似直線が示されており、
無線 LAN 整備率と学習意欲の間にマイナスの相関関係があることが確認できる。2013 年度
から 2014 年度にかけてデータの分布はほぼ上方向にシフトしており国語の学習意欲は上昇
しているものの、無線 LAN 整備とは関係なく学習意欲が向上しているものと推察される。
以上の算数・国語の学習意欲と無線 LAN 整備率の相関図からは、無線 LAN 整備率の上
昇は算数の学習意欲の向上に影響を及ぼさず、また 2013 年度から 2014 年度にかけて学習
意欲の向上が見られた国語の結果に対しても無線 LAN 整備率は影響力を持っていないこと
が読み取れる。この結果からは無線 LAN 整備率と学習意欲に共通した何らかの要因による
見かけの相関の可能性が排除できないため結果の取扱いには注意が必要である。
共通の要因としては、たとえば教育支出上の予算配分の差異が想定される。読書活動の
拡充や図書館の整備といった国語教育に関する施策に対して予算面で力を入れている都道
府県の方が国語の学習意欲が高くなっているとすれば大きな整備予算を必要とする無線
46
LAN 整備の政策的な優先順位が下がり整備が遅れ、学習意欲に対してマイナスの関係性を
示した可能性がある。
また「ICT を活用した指導ができる教員の割合」については小学校・算数学習意欲に対し
てプラスの相関がみられたものの、中学校の数学 A・数学 B、国語 A・国語 B に対してマ
イナスの相関が確認でき、中学校生徒の基本的な知識や技能、知識を活用する能力の育成
に対しては好ましくない影響を持つ可能性が示されている。この結果についてはいくつか
の理由が考えられる。
まずデータに由来する問題が想定される。ICT 活用指導教員の割合は「学校における教
育の情報化に関する調査」中の教員の ICT 活用指導力調査から採用している指標である。
しかしこの調査で示される結果は教員の主観的な判断によるアンケート回答に基づいたデ
ータであるため、現実の教員の ICT 活用能力を適切に反映していない可能性がある18 。ま
た、一般的に勤務経験年数が長いベテラン教員は生徒に対してより効果的な学習指導を行
うことができると考えられ生徒の学力形成に対する影響も大きい。しかし同時に年齢が高
くなるほど ICT を活用する度合いが低くなると考えられるため、ICT を活用した指導と学
力の間にマイナスの相関が生まれた可能性がある。
以上のように、学習環境としての教育用 PC の整備、学習機会としての協同学習・課題解
決型 ICT 授業の実施、校務支援 PC の整備が、学習意欲を中心にした「確かな学力」の向上
に対して一定の効果がある可能性が示された。しかし一方では普通教室への無線 LAN 整備
率や ICT 活用指導教員の割合といったように学力に対してマイナスの相関が示される結果
も見られるものもあり、本分析で示された教育 ICT 要因の学力への影響力は、一概に学力
に対してプラスの効果を持っているとは言えない結果となった。次章ではこれらの結果を
踏まえ、ICT を活用した学習に関連した諸要因が「確かな学力」の育成に対して持つ効果に
ついて考察を行いたい。
47
第6章 結果および考察
前章での分析から得られた結果を踏まえて、本章では初等中等教育における ICT を活用
した学習が子どもたちの確かな学力の向上に与える効果について考察を行う。
表 14 に示したように、教育 ICT 要因として投入した各変数はそれぞれの学力に対して相
関の符号が異なるなど安定した結果を見せていないものの、「教育用 PC1 台当たりの児童・
生徒数」や「協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度」についてはいずれの結果からも学
力に対してプラスの相関が確認された。「教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数」の減少は、
小学校児童の算数の基礎知識と学習意欲、国語の活用する力に対して好ましい効果を持つ
可能性がある。また中学校生徒の数学の学習意欲の向上に対しても同様の結果が得られた。
「協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度」は小学校の算数・国語の学習意欲、また中学
校の国語の基礎知識、活用する力、学習意欲の向上に対してプラスの相関を示している。
これらの結果は学習環境条件としての ICT を活用する機会が増えることと学習活動におい
て ICT を活用することが、子どもたちの学習意欲、一部の基本的な知識や技能の習得、知
識や技能を活用する能力といった「確かな学力」の向上に好ましい効果を持つ可能性があ
ることを示している。
「教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数」は第 4 章第 2 節で見たように小学校においては
経年的に児童数の減少が見られ、普通教室への教育用 PC の配備・可搬式機材の導入やコン
ピュータ教室の整備によって学校への教育用 PC の配備が進んでいると考えられる。野中ら
(2008)が示したように ICT 環境の整備が ICT を利用する機会の増加につながるとすれば、
「教
育用 PC1 台当たりの児童・生徒数」が中学校結果よりも小学校結果で学力への影響を強く
示した本分析の結果は、教育用 PC の整備により ICT を利用しやすい学習環境が整備される
ことで、学習における ICT の利活用の頻度が増加し子どもたちの学力に好ましい影響を与
えている可能性があることを示唆している。
ICT を活用した学習の頻度を示す「協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度」が学力に好
ましい効果を示したことは教員側の指導工夫が要因となっていることが考えられる。コン
トロール変数の教員の校内外研修への参加度が安定的な説明力を持っていることから、授
業改善や学習指導の工夫に対して積極的な姿勢をもつ教員は子どもたちの学力形成に効果
的な影響力を持つと考えられる。そのように指導への工夫に積極的な教員が学習指導にお
いて ICT を活用した先導的な授業を実践することが子どもたちの学力に対して効果的な影
響を及ぼしている可能性がある。また、教員側の ICT 活用としての「校務支援 PC 整備率」
については、小学校国語の活用する力に対してわずかにマイナスの相関が示されたものの
小学校算数の学習意欲、中学校の数学・国語の学習意欲に対してプラスの相関がみられ、ICT
による校務の効率化が教員の子どもたちへの学習指導に好ましい影響を与えている可能性
が示されている。
48
しかし一方で「普通教室への無線 LAN 整備率」や「ICT を活用した指導ができる教員の
割合」については学力にマイナスの相関が示される結果となった。
「教育用 PC1 台当たりの
児童・生徒数」と同じように学習環境条件としての無線 LAN 整備率の結果からは普通教室
でのインターネットを活用した学習は子どもたちの学力に対して好ましくない影響を与え
る可能性が示された。第 4 章第 2 節で示された学校での無線 LAN 整備が遅れている実態を
考えると普通教室でのインターネットを活用した学習は未だ一般的ではなく、また第 6 章
第 4 節で見て来たように無線 LAN 整備と学力の相関は直接的な因果関係を持たないと考え
られる。
また「ICT を活用した指導ができる教員の割合」については授業における ICT の活用頻度
の程度を示す「協同学習・課題解決型 ICT 授業の実施度」の結果と対立するものとなり、
疑問が残る結果となった。第 6 章第 4 節で述べたように本分析で用いた学校情報化調査の
結果では客観的な指標に基づいた教員の ICT 活用能力の把握ができないため、今後の研究
として教員の年齢層や指導能力といった教員間の特性を考慮した上で教員の ICT 活用能力
の実態についての客観的な調査分析が行われる必要があるだろう。
本論文の生産関数推計の結果では、確かな学力の向上に対する ICT の効果について十分
に明らかにできなかった部分もある。しかし確かな学力の向上に向けた取組みとしての学
級規模の縮小やティームティーチングの実施といった他の学校要因については学力に対し
て好ましい効果を持つという結果は得られなかった一方で、学習環境条件としての ICT 機
器の整備や学習における ICT の活用、教員支援としての ICT 活用といった学校での ICT の
利活用に関連した要因については、子どもたちの学習意欲を中心とした学力に対して向上
効果がある可能性が示されることとなった。
49
第7章 おわりに
以上、限られた範囲内ではあるが本研究では「確かな学力」の各学力要素に対する ICT
を活用した学習の効果に関していくつかの示唆が得られた。「確かな学力」の育成に向けた
教育施策として ICT の活用が目指されている一方で、実態としては ICT 活用の普及には課
題があり政策的な目標通りには導入が進んでいない。そのような中でも、学習環境条件と
して教育用 PC を配備し ICT を活用しやすい環境を整備することや学習において ICT を活用
する機会を増加させること、校務支援 ICT による教員の支援が子どもたちの「確かな学力」
の向上に対して一定の効果を持つ可能性があることが本研究の結果として示された。
これまでの研究で示されてきた少人数指導や学級規模の縮小といった他の教育施策を考
慮した上で、ICT を活用した学習が学力向上に対して効果的な教育施策であるという結果を
得られたことは教育政策上の示唆となると考える。またこのような結果を個別の研究事例
としてではなく、全国レベルのマクロデータの分析の中から得られたことは学校教育にお
ける ICT の活用が学力に対して好ましい影響を及ぼしているという一般的な傾向を示すも
のであり、一定の意義があったものだと言える。
もちろん本研究の教育生産関数分析は児童・生徒個人データではなく都道府県別データ
に基づいたものであり、分析の結果示された統計的な結果をそのまま学力形成効果として
解釈することは難しい。今回のマクロデータを用いた分析によって教育資源としての ICT
と確かな学力との間の一般的傾向は一部示すことはできたが、これまで蓄積されてきた
個々の事例研究の結果を十分に支持するものとは言えず、教育現場の実態と乖離している
可能性は否めない。また ICT の活用として、授業において ICT を活用した指導が可能な教
員の存在や、普通教室への無線 LAN 整備率の影響など、ICT が子どもたちの学力へどのよ
うな効果を及ぼしているのかその影響を明らかにできなかった要因があることも事実であ
る。
今後、学校教育では更なる ICT の整備促進や活用普及が目指され、学校現場への ICT 導
入や環境整備を阻害している要因の解明や地方自治体教育委員会への動機付けが重要にな
る。そのためには地方教育行政の裁量を担う現場教員や地方自治体の学校教育における ICT
活用への姿勢や動機を明らかにするための実態調査や、個票データや学校別データのよう
な仔細な学力調査結果による教育現場の実態を反映した上での効果検証が今後の研究課題
となるだろう。そのためには、学校現場の ICT 活用実態を適切に反映した調査の実施や各
学校・各市町村レベルでの学力調査結果の学術的利用の促進など学力効果の検証に向けた
研究条件の整備が期待される。
50
〈脚注〉
1
山崎らはティームティーチング・少人数指導が学力に与える効果について回帰分析、マルチレベル分析、
共分散構造分析の 3 つの分析を行った。回帰分析の結果からは学力効果が認められる一方で、マルチレベ
ル分析、共分散構造分析の結果からは有意な影響が見いだせなかったとしている。
2
中教審答申(2008)では PISA 調査の概念的な枠組みである主要能力(キーコンピテンシー):(1)知識や技能
を含んだリソースを活用して課題解決に対応する能力、(2)多様な人々に適応するコミュニケーション能力、
(3)自立した行動のための能力 は文部科学省が示した「生きる力」と類似した能力観であるとしている。
3 中教審答申(2003)では、各教科の指導にあたり、指導に必要とされる時間が十分に確保できない例や、総
合的な学習の目的が不明確なままで指導要領が意図している資質・能力の育成が図られなかったり、子ど
もの主体性を重視するあまり教員が適切な指導を行わず十分な教育効果が得られなかったりする事例が見
受けられたとしている。
4
学習指導要領の基準性とは、学習指導要領の「歯止め規定」の記述を見直し、学習指導要領において授
業中に最低限取り扱う学習内容を示すことで、基礎・基本の確実な定着と、子どもたちの関心や習熟度に
合わせた柔軟な指導工夫を計るものである。また、カリキュラムの適切な実施のための指導時間数の確保
が示されたことで、長期休業期間の増減や二学期制の工夫など柔軟な裁量が計ることが可能になった。な
お「歯止め規定」とは、進度や理解の度合いに応じて教員の裁量によって扱う内容を減らすことを可能に
する規定のことである。
5
「総合的な学習の時間」推進事業の取組みでは、各都道府単位でのモデル地域において学校間・地域間
の有機的な連携による地域全体での教育活動の在り方に関する実証研究が行われ、その実践成果の幅広い
普及が目指された。平成 16 年度時点で全 62 校(小学校 24 校、中学校 17 校、高等学校 11 校)がモデル校
の対象となっている。これは学習指導要領で総合的な学習の趣旨が明確化され、教科横断的な学習や児童
生徒の関心や興味に基づいた学習を行うための学年間・学校間・地域間の連携の必要性が示されたためで
ある。 6
この事業は文部科学省の委託を受けた各都道府県の教育委員会が主体となって実施し、各地域内の拠点
校となる学力向上フロンティアスクールには平成 16 年度時点で小学校 973 校、中学校 649 校が指定され
全国的に展開している。
7 教育基本法では教育の目的として「生きる力」の考えに即した「幅広い知識と教養を身に付け、真理を
求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと」という文言が記され
た。また学校教育法では義務教育の目標として「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを
活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に
取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」とされ、確かな学力の理念が示されている。
8
国際学力調査としては 2003 年の PISA 調査・TIMSS 調査や 2006 年の PISA 調査がある。全国学力・学
習状況調査は 2007 年より実施されている。
9
学習指導要領の理念を実現するための具体的な手立てとして、指導要領が目標とする「生きる力」の理
念の学校・保護者・地域間での共有や、授業時間数の増加による指導時間数の確保、言語活動・理数教育
といった各種活動の充実が図られた。
10
教員の指導のための条件整備としてはよりきめ細かい指導を可能にするための教職員定数の改善が示さ
れた。新学習指導要領実施後には「公立義務教育諸学校の学級規模及び教職員配置の適正化に関する検討
会議」が 2011 年に実施され、2012 年には平成 29 年までに 27,800 人の教職員定数増加を目指す 5 ヶ年計
画として「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案」が策定された。政権交代によ
り予算規模が縮小されたものの、この教職員定数の増加に向けた方針は維持されている。
11
「基本的方向 4 子どもたちの安全・安心を確保するとともに、質の高い教育環境を整備する ②質の
高い教育を支える環境を整備する」に対応する施策として「学校の情報化の充実」が挙げられており、教
51
育用 PC、校内 LAN などの ICT 環境整備、教員の ICT 指導力向上への支援が示された。また 2010 年度ま
での数値目標も合わせて示されている。
12
「成果目標 1(「生きる力」の確実な育成)」に対応する「基本施策 1 確かな学力を身に付けるための教
育内容・方法の充実」として ICT の活用等による協同型・双方向型の新たな学びの推進が示されている。
また「基本施策 25 良好で質の高い学びを実現する教育環境の整備」では教育環境の充実として ICT 環境
の整備促進への取組みが示された。
13
通常、児童生徒が勉強に対してどの程度の関心や意欲を持っているかということは不可視的なものであ
り計測することは容易ではないため、質問項目の選択にあたっては学力調査に併せて公表されている文部
科学省の解説を参考にしている。また、回答を 4 項目から選択する方式の質問項目が揃ったもののみを抽
出した。
14
たとえば「(1)当てはまる」への回答割合が 20%、
「(2)どちらかといえば当てはまる」に 40%、
「(3)どち
らかといえば当てはまらない」に 30%、「(4)当てはまらない」に 10%という回答者割合が得られた質問項
目があったとすると、評価指数の計算式は(20%×3 点)+(40%×2 点)+(30%×1 点)+(10%×0 点)=170 点と
なる。
15
5 つの大項目は A「教材研究・指導の準備・評価などに ICT を活用する能力」B「授業中に ICT を活用
して指導する能力」C「児童・生徒の ICT 活用を指導する能力」D「情報モラルなどを指導する能力」E「校
務に ICT を活用する能力」となっている。
16
2014 年度調査では各科目の授業における指導として「コンピュータ等の情報通信技術(パソコン(タブ
レット端末を含む)、電子黒板、実物投影機、プロジェクター、インターネットなどを指す)を活用した授
業を行いましたか」という質問項目が 1 つあるが、2013 年度調査では「普通教室でのインターネットを活
用した授業を行いましたか」と「発表などする際に児童(生徒)がコンピュータを使う活動を行いました
か」という 2 つの項目になっている。
17
実際の大学進学率は本人の進学意欲だけでなく域内に所在する大学数や世帯所得といった社会的・経済
的な理由によって強く影響を受けると考えられる。しかし、
「全国学力・学習状況調査」には児童・生徒の
希望教育年数に関する質問項目はなく、進学意欲に対するデータが得られないため、本分析では大学進学
率は本人の進学意欲によって説明されるものと仮定する。
18
西村友三郎・米盛徳市(2013)は全国学力調査データを用いて教員の ICT 活用指導力と学力テスト結
果の相関分析を行い、両者に相関関係がないことを明らかにしている。西村らは情報化実態調査のアンケ
ートによる主観評価に、統計調査としての課題があるとしている。
52
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(2014/12/23 確認)
以上
58
付表
付表 1 教育用 PC1 台当たりの児童・生徒数推移
小学校・
教育用 P C 1 台当たりの児童数 中学校・
教育用 P C 1 台当たりの生徒数 2007 年度 2010 年度 2013 年度 2007 年度 2010 年度 2013 年度 全国平均 7.84 7.17 6.85 6.18 6.01 6.07 北海道 8.11 7.10 6.69 5.56 5.12 4.90 青森県 9.17 7.61 7.20 7.00 6.09 5.81 岩手県 6.52 5.98 5.82 5.12 4.68 4.97 宮城県 9.01 10.99 9.68 5.91 6.80 6.70 秋田県 6.18 5.79 5.78 4.53 4.73 4.70 山形県 8.31 6.79 6.69 6.69 6.01 6.18 福島県 6.53 7.01 6.22 6.03 6.30 6.07 茨城県 7.17 7.35 7.34 6.14 6.25 6.63 栃木県 7.76 6.87 6.75 6.40 6.12 6.87 群馬県 6.47 6.37 6.20 5.25 5.51 5.77 埼玉県 11.14 10.55 10.02 8.15 8.22 8.30 千葉県 8.55 7.51 7.62 6.62 6.55 6.75 東京都 11.08 9.86 9.07 6.69 6.98 7.19 神奈川県 11.49 9.00 8.53 8.01 7.83 8.11 新潟県 6.58 5.65 5.53 5.66 5.24 5.35 富山県 5.83 5.66 5.79 5.53 5.59 6.34 石川県 7.31 7.48 6.51 6.56 6.95 7.58 福井県 6.91 6.42 5.84 6.73 5.37 5.55 山梨県 5.23 4.98 4.98 4.79 4.76 4.57 長野県 6.81 7.51 7.34 5.80 6.69 6.82 岐阜県 6.70 7.01 6.62 5.21 6.01 6.29 静岡県 8.77 7.42 7.06 6.49 5.99 6.14 愛知県 9.72 9.44 9.09 8.11 8.49 8.70 三重県 7.44 6.93 6.81 6.49 6.43 6.28 滋賀県 8.40 6.40 6.43 7.41 5.97 6.24 京都府 7.30 6.48 6.82 5.49 4.97 5.58 大阪府 10.62 7.93 7.32 9.37 7.94 8.13 兵庫県 8.65 8.00 7.63 7.55 7.94 8.04 奈良県 11.83 9.53 8.87 7.96 7.76 7.73 和歌山県 7.20 6.41 5.17 5.51 5.45 4.89 鳥取県 5.87 6.21 6.36 5.08 5.02 5.24 島根県 7.32 7.84 7.76 4.90 5.06 4.99 岡山県 7.67 7.16 6.25 6.53 6.39 6.52 広島県 7.81 6.86 6.32 6.28 6.04 5.79 山口県 9.24 7.27 7.32 5.82 5.15 5.29 徳島県 5.94 5.34 4.61 4.77 4.75 5.14 香川県 6.24 5.76 6.05 6.25 6.22 6.94 愛媛県 6.56 6.67 6.26 5.09 5.47 5.69 高知県 6.95 6.63 6.21 4.28 4.21 4.09 福岡県 8.76 8.60 8.82 7.09 7.20 7.45 佐賀県 10.06 7.47 6.07 6.59 6.22 4.06 長崎県 6.20 5.42 5.35 5.00 4.40 4.51 熊本県 7.41 6.77 7.16 5.79 5.49 5.38 大分県 6.37 6.21 6.09 5.84 5.60 5.35 宮崎県 8.24 7.58 7.88 6.25 5.46 5.65 鹿児島県 6.31 4.54 4.49 5.13 4.08 3.90 沖縄県 8.73 8.48 7.29 7.04 6.81 6.15 1.61 1.37 1.25 1.07 1.07 1.18 最大値 11.83 10.99 10.02 9.37 8.49 8.70 最小値 5.23 4.54 4.49 4.28 4.08 3.90 標準偏差 (文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」2007,2010,2013 より作成)
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付表 2 主成分分析の結果(小学校・算数)
第 1 主成分
算数 学習意欲項
算数の勉強は好きですか
0.32
算数の勉強は大切だと思いますか
0.32
算数の授業の内容はよく分かりますか
0.31
算数の授業で新しい問題に出合ったとき、それを解いてみたいと思いますか
0.34
算数の問題の解き方が分からないときは、諦めずにいろいろな方法を考えますか
0.34
算数の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考えますか
0.34
算数の授業で学習したことは将来、社会に出たときに役に立つと思いますか
0.29
算数の授業で問題を解くとき、もっと簡単に解く方法がないか考えますか
0.30
算数の授業で公式やきまりを習うとき、そのわけを理解するようにしていますか
0.33
算数の授業で問題の解き方や考え方がわかるようにノートに書いていますか
0.27
初期の固有値
7.34
負荷量平方和(%)
73.44
(「平成 25 年度全国学力・学習状況調査」児童質問紙 I 質問番号 73,74,75,76,77,78,79,80,81,82 および「平成 26 年度全国
学力・学習状況調査」児童質問紙質問番号 62,63,64,65,66,67,68,69,70,71 より項目選択)
付表 3 主成分分析結果(小学校・国語)
第 1 主成分
国語 学習意欲項
国語の勉強は好きですか
0.32
国語の勉強は大切だと思いますか
0.35
国語の授業の内容はよく分かりますか
0.33
国語の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか
0.33
国語の授業で目的に応じて資料を読み、自分の考えを話したり、書いたりしていますか
0.36
国語の授業で意見などを発表するとき、うまく伝わるように話の組み立てを工夫していますか
0.39
国語の授業で自分の考えを書くとき、考えの理由がわかるように気を付けて書いていますか
0.39
国語の授業で文章を読むとき、段落や話のまとまりごとに内容を理解しながら読んでいますか
0.36
初期の固有値
5.90
負荷量平方和(%)
73.79
(「平成 25 年度全国学力・学習状況調査」児童質問紙 I 質問番号 53,54,55,57,58,59,60,61 および「平成 26 年度全国学力・
学習状況調査」児童質問紙質問番号 50,51,52,54,55,56,57,58 より項目選択)
60
付表 4 主成分分析結果(中学校・数学)
第 1 主成分
数学 学習意欲項
数学の勉強は好きですか
0.36
数学の勉強は大切だと思いますか
0.36
数学の授業の内容はよく分かりますか
0.29
数学ができるようになりたいと思いますか
0.32
数学の問題の解き方が分からないときは、諦めずにいろいろな方法を考えますか
0.36
数学の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考えますか
0.36
数学の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか
0.32
数学の授業で問題を解くとき、もっと簡単に解く方法がないか考えますか
0.28
数学の授業で問題の解き方や考え方が分かるようにノートに書いていますか
0.33
初期の固有値
5.78
負荷量平方和(%)
64.25
(「平成 25 年度全国学力・学習状況調査」生徒質問紙 I 質問番号 73,74,75,76,77,78,79,80,82 および「平成 26 年度全国学
力・学習状況調査」生徒質問紙質問番号 62,63,64,65,66,67,68,69,71 より項目選択)
付表 5 主成分分析結果(中学校・国語)
第 1 主成分
国語 学習意欲項
国語の勉強は大切だと思いますか
0.38
国語の授業の内容はよく分かりますか
0.38
国語の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか
0.38
国語の授業で目的に応じて資料を読み、自分の考えを話したり、書いたりしていますか
0.33
国語の授業で意見などを発表するとき、うまく伝わるように話の組み立てを工夫していますか
0.39
国語の授業で自分の考えを書くとき、考えの理由がわかるように気を付けて書いていますか
0.40
国語の授業で文章を読むとき、段落や話のまとまりごとに内容を理解しながら読んでいますか
0.39
初期の固有値
6.22
負荷量平方和(%)
88.79
(「平成 25 年度全国学力・学習状況調査」生徒質問紙 I 質問番号 54,55,57,58,59,60,61 および「平成 26 年度全国学力・学
習状況調査」生徒質問紙質問番号 51,52,54,55,56,57,58 より項目選択)
61
付表 6 主成分分析結果(小学校・自宅学習の習慣)
第 1 主成分
自宅学習の習慣
家で、自分で計画を立てて勉強をしていますか
0.54
家で、学校の授業の予習をしていますか
0.59
家で、学校の授業の復習をしていますか
0.60
初期の固有値
2.54
負荷量平方和(%)
84.59
(「平成 25 年度全国学力・学習状況調査」児童質問紙 I 質問番号 29,30,31,32 および「平成 26 年度全国学力・学習状況調
査」児童質問紙質問番号 21,22,23,24 より項目選択)
付表 7 主成分分析結果(中学校・自宅学習の習慣)
第 1 主成分
自宅学習の習慣
家で、自分で計画を立てて勉強をしていますか
0.59
家で、学校の宿題をしていますか
0.43
家で、学校の授業の予習をしていますか
0.33
家で、学校の授業の復習をしていますか
0.61
初期の固有値
2.32
負荷量平方和(%)
57.88
(「平成 25 年度全国学力・学習状況調査」生徒質問紙 I 質問番号 29,30,31,32 および「平成 26 年度全国学力・学習状況調
査」生徒質問紙質問番号 21,22,23,24 より項目選択)
以上
62