掲載公立藤田総合病院様の寄稿論文はこちらから(PDF

◆Summar y
しながら電子カルテシステムは「基幹システ
公立藤田総合病院
1副院長 2事務次長兼医療情報管理課長
公立藤田総合病院におけるHIS更新と
将来に向けての展望
2
宍戸喜幸
1
佐藤昌宏
始めていた頃、国内外の2次利用データベー
のあらゆる診療データが集約されていると考
ム」とみなされることから、各部門システム
スとして評価の高い商用データベース
Caché
に興味を持ち、採用の検討を行った(図1)
。
問題を解決したかった。医療機関におけるD
使いこなせているとは言い切れず、まずこの
当院では 年にNEC製の電子カルテを稼
働させ、同社製のDWHが導入されていたが
DWHを使いこなす
トウェアを開発しているのであり、DWHと
れ ば、
「診療録記載業務」を電子化するソフ
ぼ使えない。電子カルテベンダの立場からす
子カルテベンダのDWHは、そのままではほ
対象に分析アプローチを取ろうとしても、電
毎に個別に管理しているのが実態である。
えがちだが、主要なデータは各部門システム
WHの用途としては、医療の質/医療安全に
して使い勝手のよいデータベース構造につい
国内の事例を調べてみてもなかなか見当たら
なかった。
る と 認 識 す べ き で あ る と の 考 え に 基 づ き、
ことはなく、複数メーカのシステムとデータ
した。構造についてはもちろん自院で把握し
に、 個 別 の パ ッ ケ ー ジ ベ ン ダ に 依 存 せ
Caché
ず、永続可能な構造の診療情報DWHを構築
内の
Ensemble
の採用を検討したことに始まる。電子カルテ
ベースによってシステムが形成される。しか
データプラットフォーム
更新を控え、DWHシステムについても考え
病院情報システムにおいては、電子カルテ
ベンダが 社単独でシステム全体を構築する
そ こ で、 中 央 集 約 的 な ア プ ロ ー チ を 諦 め、
電子カルテに格納されている診療情報だけを
関する分析、適正コストでの医療が行われて
当院ではHIS更新に際して、2013年
の 月に「医療情報連携基盤=
」 と
Platform,Clinical Information Platform
してインターシステムズジャパンの
い る か と い う 収 益 性 の 分 析 や 労 務 管 理 な ど、
ては特に留意していないのかもしれない。
つの目的で
を採用した背景と今後の見通しに
Ensemble
ついて述べてみたい。
連 携 基 盤 」 と い う、 異 な る
Clinical Data
(アンサンブル)を採用した。「D
Ensemble
WH」
「診療情報メッセージハブ」「地域医療
主に経営的視点からの分析などが考えられる
私たちは、今日のデジタル化される全ての
診療情報は、必ず何らかの目的で再利用され
要旨:当院では、HIS更新に際して「D
WH」
「診療情報メッセージハブ」「地域医
を
療連携基盤」の つの目的で Ensemble
採用した。今後のHIS更新では接続を簡
易化し、多様性と変化する規制や考え方や
ユーザの新しい要望、技術にいかに柔軟に
応えてくれるか考慮すべきである。
佐藤氏
が、完成されたDWHシステムというものは
3
当院が院内の情報システムのあり方におい
て
に関心を持ったのは、そのベー
Ensemble
ス技術となるデータベース Caché
(キャシエ)
07
1
3
10
検 証
The renewal of Fujita General Hospital HIS and the prospects for
the future
We adopted Ensemble for the purpose of DWH, medical information
message HUB, and the basis of community medicine cooperation at
the renewal of HIS. We should think about more easy connection and
adopt new HIS of flexible and variable system for the future.
病院進展の可能性
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図1 Ensemble に期待するテクノロジー
ており、各項目の意味も認識している。
子カルテ変更時におけるマスタとしても活用
DWHへの各システムからの情報は「デー
タプラットフォーム側にデータを公開する」
できるとも考えている。
限り長期にわたる保存が求められる。データ
形で取り込み、
今後ますます取り込まれるデータ種別が追
加されていくことも予測され、同時に可能な
ベースは構造的に複雑化し、容量的には増大
タ を 加 工 し、 自 身 に 内 包 す る Caché
へデー
タを取り込む。電子カルテ等のソースデータ
のデータベースの構造やDWHそのものの構
は公開されたデー
Ensemble
化と随時成長していくことが予想される。
将来、電子カルテベンダが複数社変遷した
としても本データベースは資産として受け継
がれ、診療 情報を長期保管する 予定である。
造は Ensemble
上で辞書(正しくは Class
定
義)の形で管理され、変更や追加は柔軟に行
える。DWHはインターシステムズジャパン
とそのパートナである日本ダイナシステム
ズ、PSPによる共同設計である。
医学的な構造設計の部分については、デー
タベースの専門家であると同時に医師である
日本ダイナシステムズの嶋先生に大いにご協
力いただいた。また、電子カルテベンダNE
Cの協力にも感謝している。
診療情報メッセージハブ
〜
%を、
電子カルテ導入時にベンダから提示される
費用明細を確認された経験のある方は想像で
きると思うが、導入費用における
⑴費用の問題
の実際を示す(表1)。
も頭の痛い問題であるようである。以下にそ
ザにとってのみならず、実はベンダにとって
ついて回るが、「システム間接続」こそが、ユー
テム間の接続には必ずこの接続費用の問題が
いわゆる接続コストが占めている。複数シス
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高額な費用が提示される背景としては、①
自社の採用は確定している、または既に採用
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( )
10
また万が一の場合には、本データをもとに電
表1 導入システムのポイント
図2 地域連携グランドデザイン
れなければ、そのまま病院側の負担として跳
いずれにしろ、ベンダ間の価格交渉が解決さ
す ケ ー ス で あ り、 特 に ①、 ③ は 悪 質 で あ る。
このうち、最初の つに関しては、ベンダ
間でも相手ベンダ側の見積に対して頭を悩ま
ま通るケース、等が考えられる。
テムベンダの提示する見積もりがほぼそのま
なく、運用フェーズに入っているため、シス
札などで他社コンペが多く存在する状況では
て高額な費用を提示するケース、④初期の入
ステムと接続をしたくない「意思表示」とし
ケース、③ベンダ側の論理で政治的に相手シ
い た め、 保 険 と し て 多 大 な 工 数 を 見 積 も る
に不透明な部分が多く、開発工数が見通せな
もその価格がそのまま通るケース、②技術的
されており、接続費用にいくら提示しようと
れにより Ensemble
はシステム上を流れるオ
ーダ情報や実施情報をメッセージとして認識
位置する
ムで直接やりとりされるのではなく、中間に
施情報はオーダリングシステムと部門システ
例えば、オーダリングシステムから出され
るオーダ情報、部門システムから戻される実
を 中 心 に 据 え た 1: n の H U B &
Ensemble
SPOKE型の接続となる。
ありがちなn:nのMESH型接続ではなく、
に 個 別 に 接 続 し、 デ ー タ を 公 開 し
Ensemble
受け渡しする。従来の電子カルテシステムに
システムはデータプラットフォームとしての
メッセージハブ」の成功事例がある。各々の
名 古 屋 市 立 大 学 や 久 留 米 大 学 の「 診 療 情 報
これら病院情報システムにおけるシステム
間 接 続 の 問 題 を 解 決 す る ア プ ロ ー チ と し て、
⑶世の中の流れ
し、正しいオーダ情報であればそのまま通し、
を介在して行われる。こ
Ensemble
ね返ってくるため、ユーザサイドとしても看
⑵技術的な問題
万が一、データの内容に問題があれば、
オーダ
情報や実施情報の再要求などが可能となる。
易度の上昇に比例して、品質リスクも高まる。
あり、n:nの接続になるとその複雑さ、難
やりとりされるデータに関して、コードの
問題/桁数の問題など解決すべき項目が複数
が容易でないことは想像に難くない。
わせて全体で正しく動くモノを作り上げるの
⑷当院の試み
個別論文などの参照をされたい。
して利用できる。両院における事例の詳細は、
突合させれば、それ単体でも一種のDWHと
報/実施情報はメッセージログとしてデータ
門システムに通知することなども Ensemble
側の設定だけで可能となる。全てのオーダ情
また、必要に応じて検査結果などの情報を
単に上位に戻すのみでなく、分岐して他の部
費用的な問題で挙げた②にも通ずるが、この
ベース化されるため、これに患者基本情報を
難易度、リスクこそが技術的な問題の根幹で
ある。
現時点では、院内におけるメッセージハブ
としての活用には着手されていないのが実状
動くものを寄せ集めてきても、それを組み合
子機器を考えてみても、部品単体では正しく
ける大きな課題であるということである。電
専門家の話では、「システム間接続」こそが、
病院情報システムに限らずシステム開発にお
過できない問題である。
3
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入済の Ensemble
を今後、成功例を参考にし
ながら、メッセージハブとしても活用してい
地域医療連携システムにおける技術的な課
題は、一施設内のDWHの課題とほぼ同等と
地域医療連携基盤について (図2)
る。例えば、パンデミック対策や在宅患者の
当院の考える地域医療連携の NextStep
と
してダイナミックな地域医療連携の検討があ
である。しかし、プラットフォームとして導
きたい。電子カルテ単体ではカスタマイズ費
捉えることができる。従来、問題の根幹は電
る 予 定 で あ る が、 当 面 は、 Human Bridge
、
M
- IXゲートウェ
用がかさみ、実現が難しそうな内容であって
子カルテベンダごとに個別のデータフォー
モニタリングなど医療情報の流通に即時性を
イに対し、 Ensemble
経由で情報を引き渡し
ていく形での接続を予定している。
のSS
ID-Link
を利用すればCDS機能以外
Ensemble
にもさまざまな可能性が広がりそうである。
または
も、
マットがあり、各社それを積極的に公開しよ
用があまり進んで来なかった。これによって
期待される。単なるSS M
- IXゲートウェ
イやIHEゲートウェイではない能動性を
求 め ら れ る こ と も 少 な く な い。 こ れ に は
各社間の診療情報の交換や共有が実現されて
持った連携が可能となり、今後の医療現場へ
うとせず、さらには標準的なデータ形式の採
この際、電子カルテや部門システムだけで
はなく、 FileMaker
などの非構造化データと
の連携や、医療機器との接続によるデータ取
いなかったが、ここ数年、ようやくSS M
-
の 適 用 に つ い て は、 継 続 し て 検 討 を 続 け て
機能の活用が
ActiveAnalytics
り込みなどにも、新たな用途が見出せるもの
IXへの対応が一般的になりつつある。
いる。
総 論
の
Ensemble
と考える。
SS M
- IXに関しては電子カルテベンダ
固有の方言があるような話も聞くが、従来と
HIS更新は「システムは常に変化す
る」という大前提に立つことが必要
病院情報システムに見られるような大規模
シ ス テ ム と い う も の は、 ベ ン ダ 1 社 の パ ッ
ケージだけで完結することはほとんどない。
を採用した大きな
Ensemble
を単なる院内情報
Ensemble
システム基盤としてではなく、来るべき地域
もない。
多様性を諦めることはあらゆる意味で健全で
としての可能性を評価した点にもある。
一方、既成パッケージを完全否定し、複雑
な病院情報システムを、腕に覚えのあるエン
ら れ て い る。 協 議 会 で は 富 士 通 の
Human
、 N E C の ID-Link
を標準ソフトと
Bridge
決 定 し た が、 Ensemble
は Human Bridge,
ともにIHE機能を用いてデータ交
ID-Link
換が可能なようである。
ど、柔軟性は失われていく。
を細部にわたって究めようとすればするほ
計やデータベース設計など、システムの設計
病院で利用される情報システムは、絶えず
変化していく。このため、インタフェース設
わっている事例が枚挙にいとまがない。
ジニア集団で開発しようとしても、失敗に終
当院が位置する福島県県北地区において
は、 年度に総務省予算による地域医療連携
医療連携に備え、地域医療連携ゲートウェイ
当院において
理由の1つは、
生労働省を中心に検討されている。
さらには本年度からはSS M
- IXで足りな
い部分をIHEで補完しようとする動きが厚
比 較 す る と 大 き な 前 進 で あ る と 感 じ て お り、
病院進展の可能性
今後、地域医療連携ネットワークに接続す
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検 証
ネットワークの整備が県協議会において進め
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HIS更新がもたらす
経営的進化
図3 IT 投資の目的と位置付け
更新を機に行うHISの全面強化策
■
総特集
■
デ ー タ ベ ー ス の 世 界 で は One Place, One
と い う 考 え 方 が あ る が、 デ ー タ プ ラ ッ
Fact
トフォームの考え方は、必ずしも中央に集約
された統合データベースの構築を意味するも
のではない。また、最先端の高額ハードウェ
アを高性能なサーバラックに集約し、超並列
処理を実現させようというアプローチでも
ない。
今後のHIS更新に必要なのは、以下のこ
とである。それは、接続の複雑さを簡易化し
て「システムは常に変化する」という大前提
に立ち、多様性を受け入れ、変化する規制や
考え方やユーザの新しい要望、および技術に
いかに柔軟に応えてくれるベンダであるかを
考慮することであると考えている(図3)。
HIS更新がもたらす
経営的進化
謝辞:本稿の作成に当たっては、ご協力いた
総 論
だいたインターシステムズジャパンの南部茂
※ ※
樹様に深く感謝申し上げます。
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佐 藤 昌 宏( さ と う・ ま さ ひ ろ ) ● 年 福 島 県 生
まれ。 年福島県立医科大卒。 年同大大学院卒、
医 学 博 士 を 取 得。 同 年 同 大 副 手、 年 日 本 脳 神
経外科学会専門医を取得。福島県立医科大助手。
以 後、 同 大 附 属 病 院 や 大 学 か ら の ト ラ ン ク と し
て 郡 山 市 総 合 南 東 北 病 院、 横 浜 市 東 横 浜 病 院、
枡 記 念 病 院、 福 島 赤 十 字 病 院、 原 町 市 立 病 院 等
に て 勤 務。 年 公 立 藤 田 総 合 病 院 就 職、 年 同
院 脳 神 経 外 科 科 長、 年 副 院 長 と し て 現 在 に 至
る。専門は脳血管障害の診断と外科治療。
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更新を機に行うHISの全面強化策
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総特集
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検 証
病院進展の可能性
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