ピュアスチーム発生器の「ユーザー要求」作成について

2015年9月24日
ピュアスチーム発生器の「ユーザー要求」作成について
株式会社 イシン技研
西 治男
■ はじめに
注射用水(Water for Injection,以下 WFIと略す)をユースポイントへ供給するシステムの「ユーザー要求」に関して
は、すでに「 ISPE日本本部 C&Q COP「リスクベースC&Q実践セミーナー」 (2015年9月17日~18日、東京開催)で
展開されている。(参照:参考資料1)
ピュアスチームの製造方式は、循環縦型流下膜式が国内外で広く使用されている。ここでは、ピュアスチーム発生
器(Pure Steam Generator,以下PSGと略す)について実施されたリスクアセスメント(参照:参考資料2)に基づき、
ユーザー要求(User Requirement,以下URと略す)を作成する際のポイントを解説する。
URは、プロジェクト開始時の基本文書で明確に定められたプロセス要求 であり、「意図した用途に適合する」 シ
ステムの設計の根拠となる。また、URはプロセスユーザー要求と一般ユーザー要求を含む。
1. プロセスユーザー要求 (Process User Requirement, 以下PURと略す)
PURは、適正な品質の製品を製造するためのプロセスにおいて、ユーザーが必要とする要求事項であり、科学的
なプロセス知識と品質リスクマネジメントに基づく。 (参照:参考資料1)
PURの作成には次のことに留意すること。
・プロセス知識
・製品/プロセス・製品品質に関連する要求事項
・製品知識
・GMP 規制遵守に関わる要求事項
・品質リスクマネジメント
・クオリティ・ユニットによって承認
・品質ポリシーと法規則
→PURはクオリファイされなければならない
・変更管理下 (設計通りに完成し、稼動することがベリファイされ、クオリ
ティ・ユニットが承認する文書として文書化)
・設計、リスクアセスメント、ベリフィケーション計画の基礎となる情報構成要素 である。
・C&Q プロセス終わりにエビデンスによりPUR に適合していることを実証すること。
・設計/建設およびC&Q チームに利用可能な情報には、製品の重要品質特性(CQA)を含むこと。そして、少なくとも
CQA をサポートするか、あるいは直接CQA にリンクする重要プロセスパラメータ(CPP)を含むこと。
(1) CQA(Critical Quality Attributes:重要品質特性)要求事項
①「・・・要求される製品品質を保証するため、適切な限度内、範囲内、分布内であるべき物理学的、化学的、生物
学的、微生物学的特性または性質。」
②「医薬品のCQAは要求される品質、安全性、および有効性を授ける特性を含む。」
③これらの特性とパラメータは、通常、C&Q プロジェクトチーム以外(例えば、研究開発グループ、技術移管グルー
プ等)によって確立される。
④例えば、製剤のCQAとなり得る特性は、目標製品品質プロファイルおよび/またはこれまでに得られた知識に基
づいて得られ、製品および工程開発の指針として利用される。
通常、プロセス毎に「固定され」、確定された後は、変更はほとんど行われない
(2) CPP(Critical Process Parameter:重要工程パラメーター)要求事項
①工程パラメータのうち、その変動が重要品質特性に影響を及ぼすもの、したがって、その工程で要求される品質
が得られることを保証するためにモニタリングや管理を要するものである。
②CPPは、一般的に制御管理目標/範囲(制御パラメータ)、管理設定値(モニタリングパラメータ)などが挙げられ
る。
③原則、プロセス毎に「固定され」、一旦、確定された後は、頻繁な変更はほとんど行われない。但し、プロセスメカ
ニズム(例:充填機の充填方式)が変更になった場合は変更となる
(3) CA(Critical Aspect:クリティカル・アスペクト)要求事項
CAは、設計段階の品質リスクアセスメントによる主要なコミッショニングとクオリフィケーションのアウトプット であり、
特定することによって施設、システムが品質要求を満たすことになる。
①製品品質に影響を与える、あるいはCPPやCQAを満たすために役立つ物理的または機能的な設計上の特徴で
ある。
②製品品質に関する静的なユーザー要求事項(材質/仕上等)、システムがCQA/CPPの適切な範囲で稼動して
いることを保証する機能などが挙げられる。
③設計方針や管理戦略が進捗し、修正されるに従って、繰返し変更されることが多い。
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(4) PURの例:
検証業務における判定基準の基礎となる。
・システムが付与または保持しなければならないCQAもしくは製品出荷基準
→局方要求事項(例:日本薬局方、USP、またはEPのWFI規格)
・プロセス/製品に固有の規制当局要求事項(例:製品の申請、または関係書類の要求事項)
・システムがサポートしなければならないCPP
・CPPやCQAを満たすために役立つ物理的または機能的な設計上の特徴
① CQAに関するもの(参照:参考資料3、9,10)
ピュアスチームの品質は、HTM2010,BS EN285に規定されている。
・基準値:非凝縮性ガス量≦3.5vol/%以下
・基準値:0.90≦乾燥度≦1.05
・基準値:過熱度≦25℃ (MTM2010にのみ規定)
ピュアスチームの凝縮水の品質は、「注射用水と同等以上」を要求されるので、以下のものもCQAに含める。
・ 性状:無色澄明無臭
・ TOC:0.50mg/L以下
・ 導電率:2.1μ S/cm以下@25℃、オフライン測定
・ エンドドキシン:0.25EU/mL未満
*1:EP、USPおよびJPにおいて、すべて処置基準値となっている。
・ 生菌:10CFU/100mL 但し、処置基準値
(・ 不溶性微粒子試験はバルクの場合規定が無いが、100mL以上の容器の場合、「10μ m以上で12個/mL以下、25
μ m以上で2個/mL以下」で適合の規定がある。この規定をCQAに含める場合がある。)
② CPPに関するもの(参照:参考資料4)
②-1.制御パラメーター
・ ピュアスチーム出口圧力:0.3MPa(ユースポイントにより定まる。)
・ 蒸留器出口温度:85℃~100℃
・ インライン導電率(処置基準値):1.1μ S/cm以下@20℃
(・ オンラインTOC(処置基準値):300ppb以下)
・ 供給水接液部を熱水にてサニタイゼーションするとき、温度80℃以上
②-2.モニタリングによる工程管理パラメーター
・ HTM2010やBS EN285の規定による測定
・ インライン導電率(処置基準値):1.1μ S/cm以下@20℃
(・ オンラインTOC(処置基準値):300ppb以下)
・ 生菌(処置基準値):10CFU/100mL未満
(・ オフライン不溶性微粒子試験:10μ m以上で12個/mL以下、25μ m以上で2個/mL以下)
③ CAに関するもの(参照:参考資料5,6,7、8)
GMP要求事項に関するもの:
-日本薬局方に準拠すること。
-GMP省令に準拠すること。
-無菌操作法による無菌医薬品製造に関する指針に準拠すること。
-PIC/S GMPガイドラインに準拠すること。
・ 将来,USPおよびEPへの準拠を考慮する.。
・ 関連法規やガイドライン等に準拠すること
③-1機能に関する CA
・ インライン導電率測定機能:測定ポイント、レンジ、精度等の要求仕様を記載
・ オンラインTOC測定機能:測定ポイント、レンジ、精度等の要求仕様を記載
・ ベントフィルターの自動蒸気滅菌(SIP)機能
・ HTM2010やEN285に規定するサンプリング器具:サンプリング個所は、打合せの上、決定
・ 運転停止時の陽圧保持機能:大気吸入、クリーンエア封入若しくは窒素ガス封入のいずれかに決める。
・ 非凝縮性ガスの削減機能:科学的根拠がある方法(過熱液体と溶解ガスの平衡が崩れたとき、非凝縮性ガスを
放出する。)で実施しているか。
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③-2構成/構造・材質/仕上機能に関する CA
・ 供給水配管は、高温水によるサニ対ゼーションを可能とすること。
(供給水ループ配管から蒸留器までの供給水配管も同様に熱殺菌を可能にすること。)
・供給原水接液部は、サニタリー仕上以上であること。
・ 供給水、WFI配管およびドレン配管の勾配は、1/100より大であること。
・ 供給水ポンプを含む場合、バイパス配管を設けないこと。
・ 供給原水接液部材質は、SUS316以上であること。
・ WFI接液部材質は、SUS316Lであること。
・ WFI接液部の表面仕上げ:バフ#400+電解研磨+不動態化処理 (表面粗度:Ra≦0.8μ m、JPでは規定無し)
・ 蒸留器を構成する、第1蒸発缶、予熱器、コンデンサーなどは二重管板式熱交換器を用いること。
・温度検出器の接液部構造は適切であること。
・ 供給水およびWFIの接液部の圧力検出部はオイルフリーの隔膜式であること。
・ 供給水およびWFIの接液部の弁はダイヤフラム式であること。
・飛沫同伴の発生を防止するために蒸発缶に高水位を検知する水位検出器を取付け、フェイルセーフ設計である接
続(B接点)を行うこと。
・発生した飛沫同伴を除去するためにフェイルセーフ設計された高性能な気水分離機構を設置をすること。 参照:参考資料5
・ 供給水またはWFIの流速:0.9m/s以上(十分な乱流である)。参照:参考資料6、7
・ 供給水またはWFI配管のレッドレグはL/D≦6(最小、適用規準により≦3の場合もある)であること。 参照:参考資料8
・ 外気を吸入するためのベントフィルター(孔径:0.2μ m)を設けること。このフィルターは蒸気滅菌(SIP)が可能であ
る構成であること。
・ 最終蒸発缶における飽和水は、供給水量の5%以上とすること。
・ 立上げ運転や確認運転時、ピュアスチームを外部に廃棄させるためのラインを設けること。
・ ドレン配管からの逆流防止:排水ラインには逆流防止機能を設けること。
・ 断熱施工:放熱や火傷を防止するために充分行うこと。
2. 一般ユーザー要求(General User Requirement, GURと略す)
環境、安全、およびビジネスに関する要件
製品品質またはGMPに関連しない要求事項
→GURは人の安全(作業者)やnon-GMP規制の遵守(環境安全衛生規制など)にとってクリティカルな可能性が
あることに注意し、GEPによって検証しなければならない。
・サプライチェーン要求
・環境安全衛生法規則
・損失回避/
リスクマネジメント
・法律とその他の規則
一般ユーザー要求(GUR)
・ビジネス要求
・Non-GMPの法規則遵守
・環境安全衛生
・契約事項
GURの例 :
(1) ビジネス要求事項について
・ 最大製造量:XXXm3/D
・ 最大使用量:XXm3/min
(2) 環境安全衛生の法規要求事項について
①環境要求事項
・ 放熱量が、納入場所において許容範囲内であること。
・ 最大排水量(xxxm3/h)
・ 排水温度が制限内であること。
②安全衛生要求事項
・ 労働安全衛生法(機械設備のリスクアセスメント,圧力容器構造規格など)
・ 耐震性の確認
・ 電気関係規則(例:ロックアウト機能)
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(3) 設計条件等
・ 納入場所:XXX工場 用水室
・ 原水供給:同じ用水室の高純度水製造装置(取り合い:高純度水出口)
(4) 見積条件等
・ 引渡時期:20XX年XX月
・ ユーザー指定サプライヤーのコンポネント(例:ユーザーの納入実績と入手可能なスペアパーツなど)
3. PURとGURが含まれるURの作成
コミッショニングにおける判定基準の基礎となる。
参考資料
1) ISPE日本本部 C&Q COP「リスクベースC&Q実践セミーナー,リスクアセスメント実施要領」、東京、2015年9月
17日~18日
2)「最新のピュアスチーム発生器およびピュアスチーム供給システムのリスクアセスメント実施事例」, (株)イシン技研(hppt:www.isin.co.jp)
4) 厚生労働省「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」【参考情報】A2製薬用水、A2.1.2 注射用水
製造設備、1)蒸留器、Page68
5) 西 治男「多重効用缶式蒸留器における飛沫同伴と品質リスク」PDA Journal of GMP and Validation in
Japan Vol.16, No.2(2014)
6) ISPE Baseline Pharmaceutical Engineering Guide Volume 4 “Water and Steam System , 2nd Edition”
(December, 2011)
7) ISPE Good Practice Guide “Approach to Commissioning and Qualification of Pharmaceutical Water
and Steam System , 2nd Edition”(July, 2014)
8) Per-Ake Ohison,Equipement and Processing Report,"Common Equipment-Design Pitfalls That Impair
Cleaning - Pharmaceuticall Technology", Jan. 16, 2012
9) BS EN285:1997 Sterilizion. Steam sterilizers. Large sterilizers
10) Health Technical Memorandum 2010, Part3:Validation and verification, Sterilizion. 9.0 Steam
quality tests
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