木曽川水系与川の土砂移動実態に関する現地調査と流砂モニタリング

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木曽川水系与川の土砂移動実態に関する現地調査と流砂モニタリング
国土交通省中部地方整備局 多治見砂防国道事務所 ○有澤俊治※1 桑原幹郎※2
※1
現 富士砂防事務所
※2
現 天竜川上流河川事務所
日本工営株式会社 長山孝彦 池島 剛 西 陽太郎 松田 悟 後藤 健 伊藤隆郭
1. はじめに
木曽川水系与川流域上山沢に設置された上山沢第 1 砂防
堰堤は,
既設のコンクリートスリット堰堤(スリット幅3 m)
が改築され,スリット幅 2 m(水通し幅比 1/12.5),取り外
し可能な横桟が設置されたシャッター堰堤である。上下流
には県所管の不透過型砂防堰堤 2 基(共に満砂)があり,適
切な土砂管理のためには,取り外し可能なシャッターの機
能も含めて,3 基の砂防堰堤による土砂調節機能を把握す
る必要がある。特にシャッターの土砂調節機能を把握し,
適切な運用につなげるためには,対象とする現象と規模,
シャッターが水と土砂の動きに与える影響を把握する必要
がある。
シャッター操作則の基礎資料とするために,対象とする
土砂生産域の荒廃状況を解明するため,複数時期の空中写
真判読により崩壊履歴を明らかにし,併せて上流域の土砂
移動実態把握のための現地調査を実施した。また,上山沢
第 1 砂防堰堤にて,シャッター前後での水(水位・流量)と
土砂(質・量)の時間的な変化を把握するためのモニタリン
グ手法を検討し,現地でのモニタリングを開始した。現時
点でのモニタリングの経過報告も合わせて行う。
2. 上山沢流域の概要
木曽川左支川の与川上流に位置する上山沢流域は,流域
面積が約 13 km2,
流路長は約 10 km,
平均河床勾配は 1/9.7
である。基盤地質は領家帯の花崗岩であり,上山沢中流域
を南北に清内路峠断層が横切っている。上流域の国有林内
には多数の治山堰堤が配置されている。また,この地域は
「蛇抜け」と呼ばれる土石流災害を経験している 1)。
①
数値地図 25000「飯田」に加筆
③
②
施設 堤高
① 8.6m
② 13m
③ 40m
100
新規・拡大
継続
回復・縮小
崩壊面積率
崩壊面積(万㎡)
80
60
40
20
0
-20
H07~H22
H01~H07
S49~H01
S44~S49
S38~S44
-60
S22~S38
-40
6.0%
5.0%
4.0%
3.0%
2.0%
1.0%
0.0%
-1.0%
-2.0%
-3.0%
-4.0%
崩壊面積率
図 2 上山沢下流に位置する砂防堰堤
3.2 空中写真判読による崩壊地の変遷
昭和 22 年~平成 22 年に撮影された空中写真で,災害履
歴が確認できる年度を挟む 7 世代の写真を用いて空中写真
判読を行い,上山沢川流域における崩壊地の変遷を明らか
にした。上山沢流域の崩壊地の変遷を図 3 に示す。流域内
での森林伐採が盛んであった昭和 40 年前後での新規崩壊
が多く,
その後,
一部の崩壊地では植生は回復するものの,
継続して崩壊斜面として残存しているものもあり,これら
が主たる土砂生産源となっていると考えられた。
また新規崩壊や崩壊の拡大が多くみられる時期と,既往災
害発生時期 1)を比較すると,最も新規崩壊・崩壊拡大が生
じた昭和 38 年~昭和 44 年以降に上山沢流域での被害が生
じたことになる。
上山沢流域概要
流域面積
:
13 ㎞2
計画生産土砂量 :
125 万m3
計画規模(与川) :
245 mm/日
(1/100年、読書観測所:T14~S44)
図 1 与川流域の位置図
3. 与川における土砂移動実態
3.1 既往災害
与川流域における災害履歴 1)として昭和 9 年,昭和 19
年,昭和 22 年,昭和 28 年,昭和 40 年,昭和 44 年の災害
がある。特に上山沢での被害を明記しているものは昭和 44
年の災害であった。
長さ 形式 所管
52m 不透過 県砂防
67m シャッター 国交省
96m 不透過 県砂防
写真年代
昭和22年(米軍)
昭和38年(林野)
昭和44年(林野)
昭和49年(林野)
平成元年(林野)
平成7年(林野)
平成22年(林野)
図 3 上山沢の崩壊地面積の変遷(左)と使用写真年代(右)
3.3 現地調査による土砂の移動プロセス
現地調査からは以下のような土砂移動特性がみられた。
①斜面(生産域)
・平時の主な土砂供給源は,既往崩壊地内からのマサ土で
あり,崩積土がガリー侵食を受けて渓流内に供給される。
・崩壊地は積雪等の影響や風化の進行により,植生回復が
遅く,マサ土が断続的に移動する環境にある(崩壊斜面
内の植生が倒れない程度の土砂移動)
。
②河床(移動域)
・腐植のない流木が段丘の下部に埋没しており,過去に大
規模な土砂移動の発生した痕跡が確認された。
- B-370 -
0
4
10
3
20
2
30
Ⅱ
4,000
5,000
6,000
7,000
9000(m)
8,000
1
Ⅳ
40
0時
縦断距離(上山沢砂防堰堤を基準点とした)
0
1,000
2,000
3,000
Ⅲ
3時
6時
Ⅰ通常時(9/15 13:00)
9時
12時
堰堤上流水深(m)
流域全体の土砂移動について模式図
(図 4)
に整理した。
上流域では,既存崩壊地が未だ多く分布しており,崩壊斜
面の風化に伴い生産されたマサ土が河道内に供給され続け
ている。最上流部には過去の崩壊により流出した土砂が厚
く堆積しているが,現状で移動しているのはマサ土で石
礫・流木は近年移動していない。
河道に供給された土砂は,
河床勾配 8°~10°以上における河床の露岩区間での流水
等による流下と狭窄部前後等の広幅な河道区間における一
時的な貯留を交互に経験しながら,下流に伝播している。
所の観測データを基に整理する。⑦河床材料:出水前後に
おける河床材料調査によるものとし,上下流それぞれの変
化を把握する。
①④は 2013 年 06 月より,②③は 2013 年 10 月より計
測を開始している。図 6 では連続雨量 95.5 mm(2013 年 9
月 16 日,南木曽観測所)の降雨時の上流の堰上げ状況であ
る。ピーク時にはスリットの底部から 3.6 m の水位上昇が
みられた。図 7 は 2013 年 10 月 25-26 日の出水時のハイド
ロフォン,底面流速計により得られたデータである。出水
時にマサ土の堆積等により,流速の低下となった。石礫の
多い渓流とは異なる結果となり,流速計の設置方法の改善
も含め,工夫が必要となる課題が残った。
雨量( 南木曽観測所 mm/h)
・巨礫,流木で Step-Pool が形成されている。
・マサ土は頻繁に移動し,今年の出水で 10cm~30cm 程度
の堆積が Pool 内や堰堤堆砂域等で確認できた。
・渓流内の大径礫は全体的に苔生しており,近年の大規模
な土砂移動の痕跡は乏しい。
・段丘化した不安定土砂(土石流堆積物)が多量に堆積し
ており,段丘上には植生が多く繁茂している。
・川幅や勾配の変化点付近や治山堰堤堆砂域で新しい土砂
堆積がみられるものの規模は小さく,その他の多くの区
間は露岩しており基盤は浅い。
0
18時
15時
Ⅱ増水時(9/16 9:00)
長石沢
丸山沢
上山沢砂防堰堤
小タル沢
上山沢第1砂防堰堤
与川砂防堰堤
(シャッター堰堤)
三ツ叉
上山沢本川
清内路峠断層
砂防・治山施設が整備されており,出水毎に土砂流出・堆積が見られる
Ⅲピーク時(9/16 11:10)
渓床が露岩するもしくは渓床堆積物が薄い
→土砂があまり貯まらず,流送してしまう区間
上流河道より流出した土砂が渓床に堆積する(段丘状に1,2段程度確認できる)
→河道内で移動する土砂が一時的に貯留する区間
最上流部の既往崩壊発生、流出時に堆積した土砂が恒常的に渓流内に厚く堆積する
(渓床内に段丘状に3段以上の堆積面形成が確認できる)
既存の崩壊地から風化により生産された土砂が恒常的に生産される
(空中写真判読結果より生産源となる崩壊地は清内路峠断層よりも上流域に集中する)
Ⅳ減水時(9/16 15:00)
図 4 上山沢における土砂移動実態模式図
4.
カメラによる
カメラによる
堆砂敷の状況把握
堰上げ状況把握
河床材料調査
水叩きの堆積土砂
カメラによる
河床材料調査
水と土砂の流出状況把握
上流のからの流入土砂
河床材料調査
下流へ流下する土砂
河床材料調査
堆砂敷の土砂
堰上げ水位の計測
副堤天端で水位・掃流砂・流速計測
→副堤水通し断面を基に流量算出が可能
図 5 流水と土砂のモニタリング模式図
①水位計:堰堤の上下流に設置し,出水時に上流の堰上げ
効果の把握を行う。②流速計:副堤水通し部に設置して掃
流砂の移動速度の推定を行う。③掃流砂:ハイドロフォン
により流下する土砂量の推定を行う。④インターバルカメ
ラ:堰堤上流での堰上げ状況や下流での土砂と水の流出状
況を把握する。⑤雨量:降雨状況の把握を近隣の雨量観測
4000
2
ハイドロフォン
(増幅率1024倍)
2000
1.5
0
1
-2000
0.5
底面流速
-4000
0:00
6:00
0
12:00 18:00
10/25
0:00
6:00
12:00
18:00
底面流速(m/s)
図 6 モニタリングで得られたデータ(2013.09.16 の出水)
(堰堤上流水位の変化と堰堤による堰上げ状況写真)
パルス数(回/5min)
上山沢第1砂防堰堤における流水・流砂モニタリング
モニタリングでは,水位・流量と流出形態(降雨出水,
融雪出水時等)の違いにより移動する土砂の質と量が異な
る可能性があることや,
規模の大きな流れがある場合には,
土砂移動形態が変わることから,シャッター効果の検証を
行うために,水理量と土砂動態の 2 つの側面での調査観測
を実施している。ここではシャッター前後(上流下流)で
の土砂(質・量)と水(水位・流量)の変化,時間的な前
後と,イベント中の動態を観測している (図 5)。
0:00
10/26
図 7 モニタリングで得られたデータ(2013.10.25-26 の出水)
(出水時のハイドロフォンと底面流速計の計測データ)
5. おわりに
上山沢第1砂防堰堤上流域での土砂移動実態調査を実施
し,特有の土砂移動実態を示した。加えてシャッター堰堤
の効果把握や効率的な操作を検討するために,モニタリン
グを開始した。今後,調査を行った上流域における土砂動
態により,シャッター操作則のシナリオを構築し,これと
併せて,モニタリングデータを蓄積していく。現時点では
すべての横桟を閉じた状態であるが,別途実施した水理実
験により確認されたシャッター堰堤の効果をふまえて,横
桟を一部解放した状態でのモニタリングなど,効率的なシ
ャッター運用のための基礎データを集積する予定である。
参考文献
1) 南木曽町誌編さん委員会(1982):南木曽町誌 通史編,
南木曽町誌編さん委員会.
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