中部デザイン協会(CDA) セミナー 【テーマ】ミラノサローネとミラノ万博 講 師:雨宮 史郎(勇) 氏 中部デザイン協会理事 国際・学生交流委員長 椙山女学園大学教授 主 催:中部デザイン協会 国際・学生交流委員会 会 場:デザインセンタービル7階 7th café 日 時:平成27年9月5日15:30~17:30 開会の挨拶 理事長 宇賀敏夫 CDAは様々な活動を通して会員の皆様の活動を支援しておりますが、今回のセミナーはイタリアインテ リアデザインの発展の原動力となりましたミラノサローネと現在開催されていますミラノ博の報告会でご ざいます。ミラノ博では名古屋メシが人気と聞いております。住と食のデザインにとって重要なテーマにつ いて有意義な報告があると思います。 講師の雨宮先生は、椙山女学園大学で教鞭を取られる一方、インテリアデザイナーとして活躍され、イタ リア在住の経験もあり、現在でも毎年のように行かれています。イタリアの住、食文化の理解が深まると期 待されます。 講 演 雨宮 史郎氏 訪問したのは4月中頃でした。本報告により、イタリア人の生活について、イタリアのデザインの成功 は何であったかの理解が深まれば幸いです。 イタリアと日本は国土の形状が似ています。しかしやや北に位置しています。ミラノはロンバルディア 州の州都で人口 130 万人です。気候は日本とよく似ています。 イタリア館では、イタリアの削り取られた地理模型が展示され、世界にイタリアが存在しなかったら、 デザインや食文化がどれほど貧弱なものになっていたかを問い、イタリアの自負を示していました。万博、 サローネともミラノ郊外の RHO 駅に接した会場であり、会場内の通路はどちらも天蓋(スチールとガラ スのトラス構造)や大テントで覆われており、雨天や日差しから守られた通路になっています。 ●サローネについて メイン会場 21 万平米。更にミラノ市内の各所に展示が拡大しています(フォーリ・ミラノ) 。2500 社の参加があり、30 万人の入場者が訪れる世界最大の見本市である。パリの見本市4万人、ケルン見本 市 11.5 万人と比べ、集客規模、注目度の大きさがわかります。 サローネの特性は、本会場とミラノ市内の展示(ミラノデザインウィーク)も同時開催している点です。 本会場には、若いデザイナーが応募するサテリテと称する展示館があり、小さなブースの展示になってい ますが、家具、照明、雑貨類など新鮮さのある作品を展示していました。内容は荒いものも含まれますが、 可能性を感じさせるものが多かったのが印象的でした。 今年は家具とは別に照明(エウロ・ルーチェ)の開催年で、LED 関連が多彩でしたが、まだ光源として の LED 活用に留まっている感じでした。ちなみに昨年はキッチン(エウロ・クチーナ)の開催年でした。 サローネは、1961 年より開催されていますが、“敗戦後の復興はデザインから”を掲げスタートし、 毎年4月開催されています。54 回目となりますが、1923 年よりイタリアデザインをリードしていたト リエンナーレが3年おきに対し、サローネは毎年開催され、デザイン産業育成に強い影響力を残しました。 最初はイタリア国内のみの参加でしたが、現在は国際化し、ミラノ市内のデザイン会場(フォーリ・ミラ ーノ)が発展していますが、本会場の出店数もしっかり確保されているようです。 ●Rho の本会場の展示 本会場は、伝統をベースとしたメーカーとしての販売活動の展示が中心です。オブジェ等による展示演 出は、長年の伝統から素晴らしく、鏡などを使った豪華な広がりの演出はさすがです。我々はデザインの 新しいものを見に行きますが、伝統的な家具や照明はまだしっかり健在で、クラッシック、ゴージャスな ものが大きくブースを取っています。 世界中で家具などの業界は決して好景気ではありませんので、開発費を抑えるため、形状は既存でも、 張地の色・柄で新味を出すなど工夫をしているメーカーが目につきました。また、決して安い出展経費で はありませんが、品数を抑え、ゆったりと見せる展示をしているのが印象的です。 ファッション業界から、インテリアへの進出が目立っています。ファッションブランドは、インテリア ブランドより強いブランド力を持っています。そのため、メーカーは迷いがなく、ファッションブランド に裏打ちされた良さを追求するため、VERSACE 等、ブランド力のあるメーカーの進出は、既存のイン テリア業界にとっては脅威となりますが、相互に進出することで、デザイン界の活性化が期待できそうで す。 ●ミラノ市内の展示 運河交通の名残で、古い運河倉庫を活用して展示し始めたトルトーナ地区は大きな展示がコストを抑え て発表できるということで、大きく発展しました。トヨタなどの車や家電製品メーカーなども展示会場と して発表していますが、中小のメーカーなどや個人のグループなどのデザイナーたちもここを発表会場に しています。早い時期から注目されていましたので、市内の会場としては定番になってきています。 倉庫内の個人の作品展示は、カジュアルで荒っぽいものが多いのですが、若い人たちの勢いを感じます。 3D プリンターで制作したものと解るものもよく目につきましたが、キッズ用品他、楽しいアイデアを見 せる場にもなっています。 ポストモダンの仕掛け人アレッサンドロ・メンディーニの椅子プルーストは、作られてから何度もその 張地や素材を変えて発表されています。プラスチックの一体成型でも作られています。私にも出来そう! と学生が刺激を受けそうです。 ミラノ中央部ブレラ美術学校の周辺では、教会前広場で車のインスタレーションが行われていました。 教会前広場や、教会そのものもよく展示会場に使用されています。 市の北東部にあるランブラーテ地区でも最近倉庫群の展示会場が拡大しており、インテリアを中心とし た雑貨の展示がされていますが、玉石混交で、そこが面白いものを見つける楽しさになっていました。こ こには多くの日本人を含めた東洋人の若い人たちも出展参加していて、大変刺激を受けました。 ●有名ブランド店のショールーム 市の中央部、ドゥオーモの裏手にあるドゥリーニとおりは有名家具ブランドのショールームが軒を連ね ています。B&B、カッシーナ、メリタリア、ポルトローナ・フラウ、ナツッツィなど一流メーカーが並 び、先ほどのカジュアルな展示会場とは打って変わって、これもまたもう一方のイタリアらしさを表現し ており、こちらは大人の空間、美的センスの良さをよく体現している空間でした。 ●ミラノ万博 食をテーマに5月1日から10月31日まで半年間の開催中です。日本館はいつの間にか一番人気にな り、行列が 3 時間を超すような状況で、大変な盛況です。これは、日本食やお茶・お酒の試飲などが好 評であり、次々に入れ替わる各県単位のイベント、試食、特産物の変化からリピーターが多いのも原因か と思います。 テーマ館では獣・魚・鳥等動物たちを等身大の白色石膏で不思議な静けさを演出しており、人間の食の 対象である現実を直視するようメッセージを表現しています。また、食糧問題も先進国の飽食における残 食の問題も提議していました。 万国博ですから、立ち並ぶ各国間は壮観ですが、どうしても各国の国力差が見えてきます。後進国の展 示場は万博経費の捻出のためか、お土産販売の場と化しているのが気になりました。 西欧主要国は皆力を入れての演出を行っていましたが、映像での表現が多く、如何にその工夫をしたか の競い合いになっていました。また、食料としての植物、野菜や穀物などの LED による栽培も各館で取 り上げられていました。 イタリア館横の会場を象徴するモニュメント・生命の樹は、時間により変化する音と光、形の変化、噴 水などで成長の演出がされており、来場者の注目を集めていました。 ●イタリアがデザイン国に至った経緯の考察 トリエンナーレからサローネに至る 20 世紀の歴史は、イタリアがデザインによる復興を展開した歴史 です。1960 年代に世界をリードしていたナチュラル・モダンの北欧デザインに対し、イタリアデザイ ンの独特な発想力が着実にサローネにより拡大発展したと思われます。 独の論理、数値を重んじるデザインに対し感性、アイデアを重視したデザインを世界にPRできたこと が大きいかと思います。 イタリアでは、キオスクでインテリア雑誌が買われています。生活の中にデザインの価値を見出している 市民が多いのに驚かされます。ですからコルビジェの椅子も必要に応じて、自分で改造してしまいますし、 銀食器を定期的に磨いたり、ひとつずつ家具を買い求めていくことを生活の中で楽しんでいます。そんな 彼らは、友人たちとの時間をお互いの家に呼び合うことで作っており、そのためのインテリア作りのため にお金も時間もかけているようです。 日本にも“しつらえ”の文化があります。だいぶ忘れられているようですが、今、再認識すべきではな いかと思います。自宅に客を呼び、パーテーを開く習慣が、もし日本に根づくとしたら、デザインの GDP は増大するかもしれません。 ●ツアー同行者の感想 ミラノサローネ・ミラノ博のツアーに同行された方の感想 ・野田 潤氏 CIP 日本建築士会所属 建築関係者として、主としてサローネ、万博の建物、ファサードとミラノ市内の建築物を調査しまし た。会場の建物は作り方もよく参考になりました。市内は、一階は商業建築としてのPR・華やかさは あるものの、2階以上は落ち着いた景観を維持するため、広告など全くない状態が保たれています。 会場でのカメラ撮影は原則不可ですが、日本人と称すれば、OK でした。中国人は模倣防止のため無 理ですが、真似をしない日本人には信用が高いことが実感されます。 今回のツアーは、安く食事ができ、楽しいツアーでした。 ・渡辺 友莉氏 ㈱ワーロン 企画室 サローネの会場は広く、分野も広かったのが実感です。アイデア、コンセプトの展示に圧倒されまし た。新しいものの展示が面白く、コンセプトを持ってデザインしています。自分の主張が大切であるこ とを強くじっかんしました。 ・三井 弘巳氏 アオイファニチュアー(オリバーの協力会社)所属 東京デザインスクール時代、協会理事長の宇賀先生の教えを受けました。 展示会場で、家具や椅子の新しいネタがないか探すのがサローネを見る目的でした。ナツッジのショ ールームやウーディネ地方の脚もの家具などもとても参考になりました。 ミラノ博日本館は90分待ちのところ、オリバー関係者として、VIP 待遇で入場出来ました。日本館 は、 アトラクション性が強く他国の展示館との違いを強く感じさせ、やはり、行列のできる盛況で ありました。 日本文化である里山、食文化を紹介していました。日本の「頂きます」から「ごちそうさま」の食文 化を 映像にて紹介しているのが面白かったです。 講演以上 ●交流会開催 17:30~20:30 会場をイタリア料理の pizzeria MARINO に移し交流懇親会を開催。雨宮先生のイタリア文化のお 話の余韻を楽しみました。 講演会メモ作成 和田眞爾
© Copyright 2024 ExpyDoc