本質とは 数学を楽しむ生徒の姿から

第 30 号
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数学を楽しむ生徒の姿から
主任指導主事 四杉 昭康
第3学年の数学の授業を参観したときのことで
す。学習課題は、生徒の知的好奇心を喚起する魅
力的なものでした。また、授業には、生徒が事象
の関係を表や式、グラフ等を用いて解釈し、話し
合う場面が取り入れられていました。さらに、生
徒自身が発展問題を選択し、相互に質問や説明を
しながら問題を解く活動も設けられていました。
授業の後、ある男子生徒が、隣席の友達に話し
かける声が聞こえてきました。「ああ、面白かっ
たよね。明日って、数学あった?」「明日はない
よ。次は木曜日だよ」「そうか、木曜日までない
か……」授業中の生徒の姿が生き生きとしていた
のは言うまでもありませんが、授業が終わった後
の何気ない会話からも、生徒が数学の時間を十分
に楽しんでいたことが伝わってきました。と同時
に、生徒に数学の楽しさや意義、有用性等を実感
してほしいという授業者の熱意が、こうした授業
を支えているのだと感じました。
さて、今年度の全国学力・学習状況調査では、
「全校生徒でウェーブをするのにかかる時間」を
求める問題が出題されました。学級で試しに実験
した人数と時間の関係をグラフに表し、原点から
ほぼ直線上にあるとみなすことができれば比例関
係にあると仮定して解決できる問題でした。実生
活の中で、事象を理想化・単純化して特徴を捉え、
数学を用いて解決するといった学習経験は、数学
のよさを味わうだけでなく、数学を学ぶ意義や自
分自身の成長を実感することにも結び付くもので
す。
今年度の文部科学省教育課程連絡協議会では、
水谷尚人教科調査官から、このような問題をぜひ
授業で活用してほしいとの旨が伝えられました。
また、PISA調査問題にも触れながら、思考力・
判断力・表現力等を高めるために、基礎的・基本
的な知識及び技能の活用を図る学習活動の重視や
数学科における言語活動の充実についても改めて
確認されました。今後も引き続き、生徒が数学を
学んでよかったと実感できる授業づくりを進めら
れるよう願っています。
(東部教育事務所)
本質とは
平成27年3月
富山市千歳町1−5−1
富山県中学校教育研究会
森下 哲也
金山 泰仁 先生
部長 森下 哲也
この頃、「教科等の本質」という言葉を教育雑
誌でよく見かける。では、「数学の本質」とは何
なのであろうか。機会を捉え、いろいろな方に問
いかけた。捉え方も多様であった。
文部科学省のホームページ上にある「育成すべ
き資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の
在り方に関する検討会 -論点整理-」の中で次
のように書かれていた。
【教科等の本質に関わるもの】
「具体的には、その教科等ならではのものの見
方・考え方、処理や表現の方法など。例えば、各
教科等における包括的な『本質的な問い』と、そ
れに答える上で重要となる転移可能な概念やスキ
ル、処理に関わる複雑なプロセス等の形で明確化
することなどが考えられる。」
話は変わるが、今年度校区の小学校で算数の授
業をした。まず、授業始まりの「礼」をした。し
かし、動きが止まっていない。目が合っていない
など。やり直した。今度は全然違っていた。そして、
「礼」の意味について話した。「なぜ、最初に礼を
するのでしょうか。」「いつもしているから。」「そ
うですね。」「その他にも先生はいろいろな意味が
あると思っています。」それは、
○休み時間ではなく、学習する時間です。
○健康で授業ができることに感謝します。
○素晴らしい教科書があるおかげで学習できま
す。
○世界には教育を受けることができない子供たち
もいます。みなさんは勉強できることに感謝し
ましょうなどなど。
その後、トランプを使った正の数・負の数の導
入もどきをして授業を終了した。子供たちはとて
も集中して授業に参加し、よく考えてくれた。授
業がしやすく、とても新鮮な感じがした。授業は、
教材を通して、教師と子供が感情を交流し合いな
がら学び合うことなのであろうか。教科等の本質
の前に、授業の本質とは何かについて、改めて考
えさせられた授業となった。
(氷・灘浦中)
― 数 ― 1 ―
第 58 回
新
川
地
区
(中・雄山中)
富
山
地
区
研 究
(富・新庄中)
(1)研究授業
(1)研究授業
森川康裕教諭と松島真直教諭による1年「平面
藤井信一朗教諭による2年「確率」の授業は、
図形」の少人数授業と、五十川徳倫教諭と小西秀
くじを引く順番とあたりやすさに違いがあるのか
太郎教諭のT . Tでの2年「1次関数」の授業の
を問うものであった。グループやペアで実際に実
3つの授業が行われた。1年は、習熟度別に分か
験を行い、試行回数を増やしていくことで、どの
れて、ひし形の特徴の表し方を考えるという課題
順番で引いてもあたりやすさに違いがないのでは
と、角の二等分線
と考えるようになった。協議会では、谷敷慎一主
を作図する方法を
任指導主事(西部教育事務所)から、実験のルー
考えるという課題
ルを事前に統一す
が設定された。2
ることや、
「ねらい」
年は、正方形のタ
と「課題」
、
「評価
イルを並べ、その
の視点」を関連付
周の長さから1次関数の関係を見いだし利用する
けさせること等の
という課題であった。いずれの授業も、ワークシー
助言をいただいた。
トを活用して、生徒が直感的に理解できるような
工夫がなされていた。
吉本一也教諭による3年「関数」の授業は、宅
配便のサイズとその料金について「関数」関係に
事後協議も3つの会場に分かれて行われた。時
あることを捉える内容であった。グループで、2
系列に沿って記入された付箋を活用して協議が進
つの数量を表やグラフに表すことにより、既習の
められ、多くの会員の意見を聞くことができた。
関数とは違う関数であることが理解されていっ
それぞれの協議会で、尾村国昭主任指導主事、四
た。協議会では、伊東和也指導主事(西部教育事
杉昭康主任指導主事(東部教育事務所)、上田靖
務所)から、手を挙げさせて意見を確認し、生徒
主任研究主事(総合教育センター)から、振り返
同士で意見をつなげられるような切り返しの工夫
りの重要性等について、助言をいただいた。
や「振り返り」
「まとめ」の時間等について助言
(2)研究発表
をいただいた。
魚津地区数学研究グループ(桃井奨平教諭他)
(2)講演
より、2年の関数指導において「思考力・表現力
宮﨑樹夫先生(信州大学教授)から「実生活に
を高めるための関数指導はどうあればよいか」と
数学を活用する!」と題して講演をいただいた。
いう研究主題での実践発表が行われた。指導計画
「数学的に考える力」を支える3つの柱として①
を工夫することで、具体的な事象と、表、式、グ
既習を基にして考える力、②実生活に数学を使う
ラフをスムーズに関連付けて考えることができた
力、③論理的に考える力があること。事象を数学
生徒が多かったとの報告があった。また、話合い
の眼で捉えるために、あえて事象を理想化・単純
活動を取り入れて生徒が説明する場面を設定する
化する必要があること等について話をしていただ
ことで、互いの意見を真剣に聞く生徒が多くなっ
いた。
たとの報告があった。
(3)紙上発表
発表からは、生徒が意欲的に活動に取り組んで
富山地区数学研究グループ(野尻裕美教諭他)
いる様子が伝わり、関数指導における指導の工夫
による「資料の傾向を読み取り活用しようとする
として大変参考になった。
態度を育む数学的活動の工夫」を研究主題として
紙上発表がされた。
山田 智徳(下・朝日中)
― 数 ― 2 ―
坂田 充(富・新庄中)
大 会 報 告
高
岡
地
区
(氷・北部中)
砺
波
地
区
(砺・庄西中)
(1)研究授業
(1)研究授業
田中裕子教諭・笹木邦紘教諭による1年「比例
中田章子教諭による2年「平行線と角」の授業
と反比例」の授業は、武道場の床に大きな座標軸
が行われた。平行線や三角形の角についての性質
をつくり、座標から位置を見付けたり位置から座
を使って、角の大きさの求め方を説明するという
標を見付けたりして、座標を体感しながら理解す
課題であった。自分の考えの根拠を明らかにして
る展開で、情報機器の利用についても考えさせら
れる授業であった。中野聖子指導主事(西部教育
事務所)からは、生徒の間違いの生かし方や考え
させる場の工夫について助言をいただいた。
濱井孝久教諭・
説明できる生徒を育てたいという教師の願いか
ら、既習事項をカードにして掲示する、補助線の
引き方を確認するなどの手立てが有効に働いてい
た。意図的に組んだグループによる活動では、コ
ミュニケーションボードを使って、求め方をかき
ながら説明するこ
長井修教諭による
とで、生徒同士で
3 年「 関 数 y =
学び合う姿がみら
ax²」 の 授 業 は、
れた。
具体的な事例を挙
谷敷慎一主任指
げたり、廊下にグ
ラフを示したりすることを通して、いろいろな関
数の中から「y= 2x」を取り上げて増加の様子
を調べ、その特徴を考察する展開であった。四杉
昭康主任指導主事(東部教育事務所)からは、課
題設定の仕方や教材の工夫について助言をいただ
いた。
導主事(西部教育
事務所)からは、「本時ではA、B、Cなどの記
号を用いなかったが、証明の指導へとつなげるた
めに、いずれ記号を用いた説明に切り替えていく
こと、ワークシートに考えた順番を書かせるよう
にすること」等、助言をいただいた。
(2)研究発表
(2)講演
永田潤一郎先生(文教大学准教授)から、「中
学校数学科における学力向上に結びつく授業づく
りのポイント」と題して講演をいただいた。学力
向上の視点から、授業づくり3つのポイントや、
全国学力・学習状況調査の問題と調査結果を見直
し、積極的に活用するために具体的な課題に焦点
を合わせること等について、助言をいただいた。
(3)紙上発表
金田祐一教諭(高・高岡西部中)を中心とす
る高岡市数学研究グループが、
「方程式の文章題
における指導の工夫〜問題づくりの授業を通し
山田修平教諭(南・福光中)を中心とする、砺
波地区発表グループが「日常生活で数学を利用し
ようとする生徒を育てるにはどのようにすればよ
いか。〜3年数学『相似』『三平方の定理』を通
して〜」<本年度の北四研究(金沢)大会発表資
料>というテーマのもと発表を行った。既習事項
を利用して解決できる場面を身近なものに設定す
ると、より数学を利用しようとする意欲が高まっ
たとの報告があった。谷敷慎一主任指導主事から
は、「基礎・基本を習得し、学習したことを活用
することで、意欲が向上して自発的な学習活動が
展開できるようになる。学習の系統性を意識して、
て〜」
〈本年度の北四研究(金沢)大会発表資料〉
3年間の学びを見通した計画が必要である。」と
を研究主題として、紙上発表を行った。
いう助言をいただいた。
野村智佳子(高・高陵中)
― 数 ― 3 ―
中川 諭(砺・庄川中)
第63回北陸四県数学教育研究(金沢)大会 分科会の様子
第 1 分科会(数と式)
第 3 分科会(図形)
「方程式の文章題における指導の工夫〜問題づ
「日常生活の中で数学を利用しようとする生徒
くりの授業を通して〜」のテーマで発表した。問
題づくりを行うことによって、「問題の構造を理
解すること」
「学習意欲を高めること」「数学的な
見方や考え方を深めること」をねらいとして取り
組んだ実践結果をまとめたものである。
指導助言者からは、互いに問題を解き合う場面
を育てる工夫」のテーマで発表した。「既習事項
を利用して解決できる場面」と「自分で問題を選
択して解決する場面」を、教師が授業の中で意図
的に設定する実践である。
指導助言者からは、特定の学年だけではなく、
で、単に解くだけでなく思考力を高める工夫を取
全学年での実践・分析があるとより説得力のある
ることや小学校教科書の「数と計算」領域におけ
福井県勝山北部中学校の高崎先生からは「論理
り入れることで数学的な見方や考え方を深められ
る指導法を生かした授業を仕組むことで、内容の
理解をより深められるなどの助言をいただいた。
他県からは、
「文字式における学びの生成過程
に関する研究」
「生徒の学習意欲と数学的な思考
力・表現力を高める指導の工夫」「数と式を用い
研究になると助言をいただいた。
的思考力を高めるための指導の工夫」について、
石川県鳴和中学校の吉本先生からは「自分の考え
をもち、表現できる生徒の育成」について発表が
あった。また、新潟県上越教育大学附属中学校の
て筋道を立てて思考し、表現する指導の工夫」の
杉本先生からは「生徒の主体的な学びが展開され
テーマでそれぞれ発表があった。
金田 祐一(高・高岡西部中)
る作図授業の工夫」の紙上発表があった。
田中 淑都(砺・出町中)
第 2 分科会(関数)
第 4 分科会(資料の活用等)
「思考力・表現力を高めるための関数指導」の
「資料の傾向を読み取り活用しようとする態度
テーマで発表した。1次関数の表、式、グラフを
を育む数学的活動の工夫」をテーマに紙上発表を
結び付けるために指導計画を工夫し、実践に取り
した。資料の整理・分析にコンピュータを活用し、
組んだ。指導助言者からは、レディネステスト等
で、指導の成果を数値化していく必要性と、関数
以外の領域でも関数と結び付け、関数的な見方を
経験できるような指導計画の工夫に努めて欲しい
と助言をいただいた。
新潟県巻東中学校の山口先生からは、3年生の
関数の導入を通して、一意性を意識させる関数指
導の工夫について発表があった。また、石川県光
野中学校の盛田先生からは、表、式、グラフを関
係付けた1次関数の学習方法の実践について発表
があった。
結果をレポートにまとめるという活動を通して、
生徒の関心・意欲を高めるという授業実践である。
指導助言者からは、実施した学校とそうでない学
校の事前と事後の比較から、生徒の関心・意欲の
高まりが認められる。今後は、その実践を広める
方法を考えてほしいと助言をいただいた。
新潟県新井中学校の初谷先生からは「さいころ
を用いた授業」について、
福井県中央中学校の佐々
木先生からは「DAKARA カードを活用した話し
合う活動を充実させる工夫」について、石川県田
鶴浜中学校の高田先生からは「フリーソフトの科
学の道具箱を活用した授業」についてそれぞれ発
桃井 奨平(魚・西部中)
表があった。
― 数 ― 4 ―
竹田 秀明(富・呉羽中)