押し寄せたグローバル化の実態……………山下 龍男

2015.09.08
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コラム〜『企業における人材育成』に関する実態調査より〜 No.16
■押し寄せたグローバル化の実態……………山下 龍男
グローバル化という言葉ほど手垢がついてしまって、その実、だれも現実の問題として捉えてこな
かった言葉はないかもしれません。経済のグローバル化について言えば、立場によってその評価は大
きく異なるようです。しかし地球規模の経済のグローバル化が進んだことにより、先進国から Brics
をはじめとする新興工業経済地域へと、富のシフトが起きたことは確実です。グローバル化は、人間
の力ではコントロールできない大きなうねりとなって地球を覆いはじめています。もはや、グローバ
ル化に賛成するか反対するかではなく、いかにグローバル化に対処するかが問題となっていると言え
ましょう。
日本の企業や学校ではグローバル化と英語教育が密接に結びついて語られてきました。しかし、少
なくとも現代の企業において、グローバル化と企業内の英語教育が必ずしもストレートに結びついて
いないことは、今回の調査からも明らかです。いくらグローバル化が進んだとはいえ、日常業務に英
語が必要とされる従業員は限られているからです。
グローバル化を、英語教育に限らず、
「企業行動を通じての異文化との接触」と理解すれば、ぐっ
と身近なものになります。企業行動の海外展開は戦前以来の歴史がありますが、これが多くの企業に
とって身近になるのは 1990 年代のいわゆるバブル崩壊後です。それまで海外に縁のなかった企業
が、続々と生産拠点を海外に移しはじめました。1992 年に 5%を超えた製造企業における海外現地
生産比率は 2012 年度に 20%を超えています(内閣府「企業行動に関するアンケート調査」による)。
移転先のほとんどが中国および東南アジア各国であることはご承知の通りです。
グローバル化の波は、日本国内にも押し寄せています。海外労働者の受け入れに消極的だった日本
ですが、1990 年の出入国管理法改正による日系ブラジル人労働者の受け入れを皮切りに、1993 年
の技能実習制度により「技能、技術・知識の開発途上国等への移転を図り、その経済発展を担う」と
いう名目で海外労働者受け入れが加速されました。ただし、この分野はグレーゾーンが多く、海外労
働者の雇用に慎重な企業が多いのも事実です。
近年、猛烈な勢いで増えているのが日本を訪れる外国人です。特に「爆買」で有名な中国からの
訪日客の増加率は目覚ましく、2004 年から 2014 年の 10 年で 4 倍近く増えています(図版−1)。
数的には台湾・韓国に次ぐ第 3 位ですが(2014 年)
、2015 年はトップに躍り出ることが確実と言
われています。こうして、街には外国人があふれ、従来は日本人だけを顧客としていた国内交通・運
輸業や観光業から小売業に至るまで、外国人顧客が重要な地位を占めるようになりました。20 世紀
にはほとんど考えられなかったことです。
「うちは海外展開なんて無縁だよ」という企業であっても、
押し寄せる訪日外国人を前にしてグローバル化に無関心では済まされなくなりました。
取引先、従業員、顧客などあらゆる場面で、国内外を問わず日本人と異なる価値観を持つ外国人と
接触する機会は 21 世紀になって格段に増えました。明治維新以来、
「世界に通用する日本人」のイ
図版−1 激増する外国人の訪日者数
2004 年訪日者数
613.8 万人
中国 台湾
61.6万 108.0 万
2004 年比
北米 欧州
92.4 万 72.7万
アジア 420.8 万
2004 年比
韓国
158.8 万
2004 年比
2004 年比
+218.5%
+391.1%
+261.9%
+173.5%
2014 年訪日者数
240.9 万
283.0 万
275.5 万
1341.3 万人
中国
台湾
韓国
2004 年比
+120.4%
2004 年比
+144.3%
北米
欧州
111.2 万 104.9 万
2004 年比 +257.1%
アジア 1081.9 万
出典 : 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」
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コラム〜『企業における人材育成』に関する実態調査より〜 No.16 2015.09.08
メージは、英語を自由に操れて、欧米流のマナー
に通じている紳士・淑女というのが一般的でした。
しかし、今や日本を訪れる外国人の 8 割はアジ
N=199
アの人々です。グローバル化への適応力は、幅広
若手社員
い世界を対象とするようになり、そうした能力を
中堅社員
求められるのも企業内のごく一部の人ではなく、
一般従業員に至るまで広がってきています。
階層ごとに特に必要とされる「強化すべき能力・
スキル」
(複数選択)
(質問 3)
図版−2
外国語力
23.1% (46)
初級管理者
28.1% (56)
要とされる『強化すべき能力・スキル』
」におい
上級管理者
24.6% (49)
現状を反映しているのでしょう(図版−2)
。今
40.7% (81)
25.6% (51)
中級管理者
が「外国語力」を上回っていることは、こうした
28.6% (57)
34.2% (68)
今回の調査で、質問 3 の「階層ごとに特に必
て、すべての階層で「異なる価値観への適応力」
異なる価値観への適応力
無回答
51.3% (102)
46.2% (92)
37.2% (74)
45.7% (91)
0
15
30
45
21.1% (42)
60 0
%
15
30
まで、なかばお題目のように唱えられてきたグロ
ーバル人材の育成ですが、これからは待ったなし
で考えなければいけない時代となったようです。
このコラムの連載も 16 回目を迎えました。ここで、
「読み手参加型」コンテンツとしてさらに
充実した企画にするための準備期間として、一旦休憩をいただきます。この間も引き続き、読
み手である皆さまからのご希望のトピックやテーマ、情報などのリクエストをお待ちしていま
す。また、本サイトに掲載した実態調査結果に対するご自身で分析された見解に関する投稿や、
実態調査結果とご自分の会社での実情などを照合した上でのご意見・ご感想なども大歓迎です。
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