空間内における手先運動制御の評価 - Humanomics | 千葉大学大学院

千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2006)
空間内における 手先運動制御の評価
キーワード : 作業空間、 上肢の運動制御、 追従タ スク
人間生活工学教育研究分野: 吉村 昌子
■背景
およ び VAS 法によ る 主観評価( 制御の「 位置制御し やすさ 」「 時
作業空間や製品を 設計する 際、 ユーザの姿勢や制御動作、 ま
間制御し やすさ 」、 姿勢の「 運動し やすさ 」「 維持し やすさ 」) で
た そ れによ っ て 生ま れる 筋負担や不快感な ど を 考慮する こ と は
あ っ た。
最も 重要な 過程のひと つで あ る 。 近年では、 コ ン ピ ュ ータ 支援
評価に用いる データ は各試行( 位置 18 カ 所 タ ス ク 3 方向)
のヒ ュ ーマ ン ・ モデルが、 作業姿勢、 運動範囲や、 運動負荷、
で、 往復移動6 往復中の3 、 4 往復( 開始後 3.33-6.67 s) から
発揮ト ルク な ど を 予測する のに有用であ る 。 し か し 既存の モデ
と っ た 。 測定シ ス テ ム から 得ら れた データ から 以下の評価指標
ルで は、 例え ばそ の 予測さ れた 姿勢での機械操縦で高精度の方
を 運動制御精度と し て算出し た。
向はど ち ら か 、 そ の 姿勢で の動作が ど の程度快適な のかと いっ
・ 位置エラ ー: 追従点のタ ス ク 方向軸から の距離
た よ う な 評価な ど は、 でき な かっ た り 、 人体への 専門的な 知識
・ 時間エラ ー: 追従点と タ ーゲッ ト のピ ーク 点での時間差
が必要であ っ た り する 。 運動制御精度の高い位置や方向な ど の
・ 総合エラ ー: 追従点と タ ーゲッ ト の2 点間の距離
予測が可能と な れば、 ヒ ュ ーマ ン ・ モデルの有用性はよ り 高く
・ 傾き エラ ー: 追従点軌跡の回帰直線の傾き
なる だろ う 。
各評価項目において、運動位置: 角度( 矢状面から 0 ・ 45 ・
ま た 、 作業のなかでも綿密で正確な操作が要求される場合,
90
人間は手先を使う。手先の運動制御については様々な観点から
方向( X・ Y・ Z) の4 要因分散分析と 多重比較検定( Tukey) を
研究されているが
1)
6)
、運動制御の精度については報告されて
)、 高さ ( 高・ 中・ 低)、 距離( 近い・ 遠い)、 およ びタ ス ク
行っ た。
いない。
■結果
■研究の目的
本研究では、手先における上肢の運動制御精度を評価するた
めの測定システムを構築し、空間内の任意点における運動制御
精度を評価することを目的とした。また、運動制御精度と運動
・ 追従軌跡
得られた手先位置データを各平面図上にプロットした例を図
2に示す。
制御時の腕姿勢、筋活動、主観評価との関係を研究した。
X-Z
X-Y
Y-Z
■研究の方法
被験者は健常大学生8 名( 男性3 名、 女性5 名、 22.4
1.2 歳)
X 方向
で、 全員右手利き であ っ た。
被験者は椅子に深く 座り 楽な 姿勢を と っ た 。 磁気セ ン サ ( 3
SPACE FASTRAK、 POLHEMUS) を 利き 腕の手関節背面に貼付
し 、 こ れを 手先位置と し て 記録し た 。 本研究の空間座標系は被
験者中心の直交座標系と し 、 X 軸は身体の横軸、 Y 軸は矢状軸、
Z 軸は縦軸に平行と し た。 記録さ れる 手先位置は X-Y、 Y-Z、 Z-
Y 方向
X 各々の平面投影図を ディ ス プ レ イ 上に表示し た 。 被験者は3
つの 投影図内を 動く タ ーゲ ッ ト を 追従する タ ス ク を 行っ た 。 タ
ーゲッ ト の移動は X 軸上、 Y 軸上、 Z 軸上の 3 種類で、 単純な
一次元の往復移動( 10 秒/6 往復( 周期: 1.66 s)、 振幅: 50 mm
の sin 波) であ っ た。 被験者はシス テム に十分慣れる ま で自由に
練習し た。 3 方向のタ ス ク を 行う 運動位置は 18 カ 所で( 図 1)、
Z 方向
距離は被験者ご と に 上肢長で標準化さ れた 。 運動位置はラ ン ダ
ム に与え ら れた。
測定項目は手先( 手関節背面) の三次元位置データ 、 筋電図
図2 . 追従軌跡の例
( 大胸筋、 僧帽筋、 三角筋前・ 後部、 上腕二頭筋、 上腕三頭筋)、
・ 位置エ ラ ー
矢状面から 90 の位置で大き く ( p<0.01)、 高い位置は低い位
置よ り 大き く ( p=0.019)、 肩か ら 遠い ほう が 近い 位置よ り 大き
か っ た ( p=0.047 ) 。 タ ス ク 方 向で は Z 軸 方 向 で 大き か っ た
( p<0.01)。
・ 時間エ ラ ー
「 高さ 」 に 主効果の傾向が みら れた が ( p=0.053)、 有意差は
なかっ た。
図1 . 運動位置
千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2006)
・ 総合エ ラ ー
最大力を 発揮する 方向 6)には異方性があ り 、 こ れら は筋剛性や関
位置エラ ーと ほぼ同様の結果と なっ た( 図3 )。
節剛性、 腕姿勢に依存する と 報告さ れて い る 。 運動制御精度も
こ れら と 同様に、 腕の生機構学的な 影響を 受け た た め異方性が
・ 傾き エ ラ ー
「 角度」 と タ ス ク 方向、「 距離」 と タ ス ク 方向に交互作用がみ
ら れた( p=0.022、 0.0271)。 矢状面から 0
およ び 45 の位置で
みら れたと 考え ら れる 。
・ 制御精度と 主観評価の関係
は X 軸方向でエラ ーは小さ いが( p=0.042 およ び p<0.01)、 90
制御精度と 主観評価はと も に 運動位置によ る 影響を 受け 、 類
の位置では Y 軸方向が小さ い傾向であ っ た ( p=0.078)。 近い位
似し た 結果と な っ た 。 し か し 、 制御精度は運動方向の影響を 強
置では X 軸<Y 軸<Z 軸の順で小さ かっ た( p<0.01) が、 遠い位
く 受け た にも 関わら ず、 主観評価で は運動方向に よ る 差は全く
置ではタ ス ク 方向に差はなかっ た。 ま た 、 Z 軸方向のみ「 距離」
みら れな かっ た 。 本研究の 結果では、 主観評価は制御精度の良
によ る 差はなかっ た。
い『 位置』 は予測でき る が、『 方向』 は予測でき な いと 示唆さ れ
た。
・ 筋活動
矢状面から 0
、 45 、 90 の順で、 大胸筋は小さ く なり 、 三
角筋後部は大き く な っ た ( p<0.01)。 全筋で高い位置は低い位置
よ り 大き く ( p<0.05)、 大胸筋と 上腕二頭筋以外の筋で遠い位置
は近い位置よ り 大き く なっ た( p<0.05)。
・ 主観評価
全項目に共通し て 、 矢状面から 90
■ま と め
本研究の結果から 、 制御精度は運動位置や運動方向の影響を
強く 受け 、 運動位置が前方、 低い位置、 近い位置、 およ び運動
方向が水平方向のと き 制御精度は良いこ と が明ら かにな っ た 。
ま た 、 制御精度は腕姿勢や筋活動、 主観評価と 関係し て い る と
の点が悪く 、 低い点よ り
示唆さ れた が 、 そ れぞれ単独では制御精度を 十分に説明で き な
も 高い点、 近い点よ り も 遠い点のほう が悪かっ た ( p<0.05)。 タ
いと 結論し た。
ス ク 方向には有意差はなかっ た。
運動制御精度は、 機械操作や精密作業の重要な フ ァ ク タ であ
る 。 今後、 運動速度や習得レ ベル等によ る 制御精度評価も 進展
■考察
し 、 さ ら に実用的に データ ベース 化さ れる こ と は作業空間等の
デザイ ン にと っ て非常に意義があ る だろ う 。
・ 制御精度と 運動位置の関係
全体的に肩の側方、 高い 位置、 遠い 位置で 制御精度は良かっ
た 。 精度の悪かっ た 側方で は、 肩の 外旋角度の限界に近い 姿勢
と な る 。 低い 位置で は、 肩屈曲角度の限界に近い 姿勢と な り 、
ま た 腕の重さ によ り 筋負担が増大し て いた 。 遠い 位置では、 肩
屈曲や肘伸展の限界に近い 姿勢と な り 、 腕の重心が体幹か ら 遠
く なる こ と によ り 一部の筋負担が増大し ていた。
関節可動域限界で は運動が困難にな り 、 制御精度が悪く な っ
たと 考え ら れた。 ま た、 筋負担の増大も 制御運動の妨げと なり 、
制御精度を 低下さ せる 一因と 示唆さ れた 。 さ ら に 、 制御精度が
良か っ た 前方、 低い 、 近い 位置は、 タ ス ク 中注視する ディ ス プ
レ イ 周辺の視野内で あ っ た 。 被験者は自身の手先運動の視覚的
情報を 得な が ら 制御し て い た 可能性も あ り 、 そ の た め制御精度
が上がっ たのかも し れない。
■参考文系
1) Jung, E.S., Choe, J( 1996) Human reach posture prediction based
on psychophysical discomfort, International Journal of Industrial
Ergonomics, 18, 173-109
2) Yang, N., Zhang, M., Huang, C., Jin, D.( 2002) Motion quality
evaluation of upper limb, Medical Engineering & Physics, 24, 115120
3) Beers, R.J. van, Sitting, A.C., Denier van der Gon, J.J.( 1998) The
precision of proprioceptive position sense, Experimental Brain
Research, 122, 367-377
4) Milner, T.E.( 2002) Contribution of geometry and joint stiffness to
mechanical stability of the human arm, Experimental Brain Research,
143, 515-519
・ 制御精度と 運動方向の関係
5) Toffin, D., McIntyre, J., Droulez, J., Kemeny, A., Berthoz, A.
全体的には X 軸<Y 軸<Z 軸の順で制御精度は良かっ た。 Z 軸
方向は、 重力によ り 運動中の負荷が 一定で はな か っ た た め 、 一
貫し て 精度が 悪く な っ た と 考え ら れる 。 ま た 、 同じ 腕姿勢でも
手先の運動特性には異方性が存在する 。 例え ば、 外的負荷に対
( 2003) Perception and Reproduction of force direction in the
horizontal plane, Journal of Neurophysiol, 90, 3040-3053
6) 吉村昌子: 平面上での上肢の力発揮方向に関する 研究, 平成
16 年度千葉大学工学部デザイ ン 工学科卒業論文
し て腕姿勢を 維持する 能力 4)、知覚し た力方向を 再現する 能力 4)、
**p<0.01
*p<0.05
図3 . 総合エ ラ ーの比較( 角度、 高さ 、 距離、 タ スク 方向)