ポータブル スクラッチ ターンテーブルの制作

4-2 針飛び実験
ダイナミックバランス式アームを搭載している
「Vestax PDX-2300 MKⅡ Pro」を使用し、このアーム
が一般的なターンテーブルより針飛びに強いことを検
証する。一般的なターンテーブルには、DJ等に普及率
No.1のTechnics SL-1200シリーズを使用する。
実験の方法は、この2つのターンテーブルで同じレ
コードを再生・スクラッチし、水平状態の場合と45°
に傾けた場合の2パターンを比較する(図4)。
プロダクトデザインコース 原田研究室
Product Design Harada Lab.
ポータブル スクラッチ ターンテーブルの制作
藤村 貴之 FUJIMURA Takayuki
3-2 アンケート調査
スクラッチをするDJ20名に「好きな場所でスクラッ
チ可能なターンテーブルがあったら欲しいか」アン
ケート調査を行った。結果は、20名中17名が欲しいと
答え、需要がある事が分かった(図2)。欲しくないと
回答した3名は、あったら面白そう、普通のもので満
足している、といった回答であった。
1.背景と目的
例えば自宅で、ギタリストが何気なく置いてあった
ギターを手に取り、ソファに座って演奏を始める。こ
れはギタリストの家ではよく見る光景だろう。
しかし、DJの場合はどうだろうか。ギターのように
“その辺”に置いておけないターンテーブルは、すぐ
に気軽にプレイする事ができない。しかも、ターン
テーブルは決まった場所に設置されている為、ソファ
に座ってプレイするという訳にもいかない。
今回、私が着目したのは、DJプレイの中で最も演奏
に近い“スクラッチ”である。
本研修ではこれらの背景を視野に入れ、ターンテー
ブルの使用環境を調査し、場所を選ばずプレイできる
スピーカー内蔵の「ポータブル スクラッチ ターン
テーブル」の提案を行う。制作したターンテーブルで
“スクラッチ”という音楽をもっと身近に感じてもら
う事を目的とする。
12)、配線を組んでいく(図13、14)。そして気泡をパ
テで埋め(図15)、塗装する(図16)。最後にパーツを全
て組み込み配線をまとめて(図17)、完成(図18)。
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図13
図14
図16
図17
SL-1200 MK5
図12
3名
欲しい
17名
欲しくない
PDX-2300 MKⅡ Pro
図15
図4 針飛びの比較
図2 ポータブルスクラッチターンテーブルが欲しいか
4.実験
4-1 針飛び問題
私が提案するターンテーブルは、通常のターンテー
ブルセットのように設置される事だけを目的としてい
るものではない。時にはソファに座り膝の上で、時に
はベッドの上で、時には床に座って、つまりレコード
を再生するための条件の1つ“水平”という環境が必
ずしもあるとは限らない。
この問題を解決するための方法として“ダイナミッ
クバランス式アーム”という技術を採用したい。この
“アーム(先端に針が接続される棒のような部分)”
は、水平状態がない環境でもレコードを再生すること
ができる。
仕組みを簡単に説明すると、一般的なターンテーブ
ルのように重力とウエイトで針圧をかけるのではな
く、強制的にバネでウエイト側を引っ張って針圧をか
けるという方式である(図3)。
2.スクラッチ
スクラッチとは、レコード盤を手で前後させてリズ
ムやメロディを作り出す奏法である。ほとんどの場
合、片手でレコード、もう片方の手でDJミキサーを使
い、スクラッチの音をコントロールする(図1)。
図1 スクラッチプレイ時の手元
3.使用環境調査
3-1 設置場所
自宅でのターンテーブル設置場所について、スク
ラッチをするDJ20名に調査した結果、全員が「水平な
テーブルやラック、台の上に置いている」と答えた。
ターンテーブルやミキサーを操作しやすい高さにする
事と、“針飛び”(針が再生中のレコードの溝から外
れ、別の溝にずれてしまう事)が起こらないようにす
るためである。そもそも、DJプレイのような特殊な使
い方をしなくても、普通のターンテーブルでアナログ
のレコードを再生するためには、水平な環境である事
が絶対条件と言える。
W:450
D:500
H:100
4-3 実験結果と考察
SL-1200は水平状態での再生・スクラッチには耐え
られたが、45°もの角度がつくと、辛うじて再生はで
きたがスクラッチはできなかった。
PDX-2300は水平状態・傾斜状態のどちらにおいても
再生・スクラッチができた。針圧のかかり方が安定し
ており、この技術が利用可能な事が分かった。
weight:8kg
図18
7.検証と考察
問題であった針飛びは、再生・スクラッチ共にほと
んど起こらなかった。また、必要なツマミのみをシン
プルに配置したので操作性が良く、水平ではない様々
なシチュエーションでのプレイが可能(図19)。しか
し、ある程度重量があるので、さらに軽量化する必要
がある。
このターンテーブルは“再生プレイヤー”ではな
く、“楽器”に限りなく近いものになった。この楽器
を通して、スクラッチ音楽を沢山の人に知ってもらい
たい。
5.アイディア展開
スクラッチのしやすさや、プレイする時の体勢に重
点を置きアイディア展開した(図5)。
図5 アイディアスケッチの一部
図3 アーム構造の比較
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6.1/1モデルの制作
機械部が重いので、ボディは軽くて丈夫なFRPで形
成する。メス型用の原型は発泡材を使用する。
まず、発泡剤で原型を作り(図6)、ポリエステル樹
脂とガラスマットを張り付けていく(図7)。メス型が
できたら(図8)、ボディ部分のFRPを作る(図9)。樹脂
が乾いたら慎重にメス型から剥がし(図10)、表面を滑
らかに加工する(図11)。スイッチ類の穴を開け(図
図19
参考文献
ダイナミックバランス式アーム
http://audio-heritage.jp/MICRO/etc/ma-505xii.html
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