企業の製品開発 顧客志向の製品づくり

企業の製品開発
顧客志向の製品づくり
経営学部 会計学科
二年 山田
目次
1はじめに
2顧客志向とは
3失敗例①;スコットタオルジュニア
4失敗例②;サラット
5成功例;ポカリスエット
6まとめ
1はじめに
企業が「顧客ニーズに応えて」製品をつくるというのは今日、消費者である我々にとって
半ば当たり前のことのようになっている。このレポートではマーケティングの基本とも言
われる顧客のニーズに応えた、すなわち顧客志向の製品開発についていくつかの事例を見
ながら、企業にとって有用な顧客志向の製品開発について考えていく。
2顧客志向とは
製品開発を行う上で、各企業、その方針は様々であり、また様々な分類の仕方がある。
顧客志向とは「モノづくり偏重(あるいは製品主導主義)のマーケティングに対して、顧
客のメリットを優先する思考に基づいて行動すること」 1とされている。モノづくり偏重、
製品主導主義とは技術的な進歩や画期的な製品をよしとするものであり、このような考え
方に基づいて行動するのが技術志向とされる。また、顧客志向に似た顧客主導という言葉
がある。この顧客主導とは、受動的に明言化されたニーズに対応することである 2。では、
明言化されている顧客の要望に応えるだけでは顧客志向にはならないのか、そもそも顧客
志向の顧客のメリットを優先し行動するとはどのようなことなのか。実際の製品開発の成
功例、失敗例を見ていく。
3失敗例①;スコットタオルジュニア
1980年代初め、スコットぺーパー社が市場シェアを奪われはじめたと頃、同社はス
コットタオルジュニアを出して対抗した。この製品はもし安価な無印タオルと同じ値段で
質の良いブランド製品が買えるなら消費者はこちらを買うだろうという理屈から生み出さ
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http://www.mitsue.co.jp/case/glossary/m_063.html
http://www.firstitpro.com/mailmg/mmg100830.php
れた。しかし、同価格でよい質を実現させるために量を減らすという手段をとったため通
常の紙タオルのロール幅よりも短い 8.2 インチになり、このことが大きな失敗要因となる。
当時の紙ホルダーの標準規格は 11 インチでこれはスコットペーパー社自身が定めたもので
ある。一般的な紙ホルダーに合わないことは同社ももちろん気づいており、専用のアダプ
ター、透明なプラスチックパイプを販売したが、アダプターがないと従来のホルダーにつ
けられないことが多くの消費者に認知されていなかったことや、アダプターの取り付け自
体の煩雑さから不評となった。その後スコットタオルジュニアの規格専用の紙ホルダーも
販売したがそちらも同様な結果となった 3。市場でシェアを奪いつつあった他社の製品に対
抗するために開発されたこの製品は顧客ではなく他企業に焦点を当てていると言えるであ
ろう。このスコットタオルジュニアの場合、顧客のニーズに応えることはおろか、不評と
なるような煩雑なアダプターの取り付けを消費者に要求している。実際に使うヒトが頭に
浮かんでいないことが原因であると言える。
4失敗例②;サラット
自動洗濯機の普及率が上昇していた1960年頃にサンスターは自動洗濯機用の洗剤の
開発に取り組んだ。河川などに残留するABSという泡が立ちやすい成分の変更を試み、困
難な技術的課題をクリアして「洗剤の革命!話題の泡なし洗剤
サラット」というキャッ
チコピーで発売まで至った。大手洗濯機メーカーから濯ぎやすさで推奨も獲得したが市場
では受け入れられず、結局市場からは撤退する。失敗要因としては、1つは低泡性、濃縮
化というパフォーマンスは画期的であったが受け入れられるだけ市場が成熟していなかっ
たことと、もう一つは「泡立ちが良い方が汚れ落ちがよい」という消費者感覚と「泡が立
たなくても汚れが落ちる」という製品品質との間に感覚の差異があったことである 4。この
製品は環境問題にも配慮した技術的観点からみれば画期的な製品であるが、泡の量と洗浄
効果の関係の認識、またそもそも泡が少なくなることによって顧客へ与える利点が薄かっ
たことが顧客ニーズとの合わなかったのであろう。環境問題へ対応させることを起点とし
た技術志向の製品開発であったが顧客のニーズとは噛み合わなかった。
5成功例;ポカリスエット
ポカリスエットは「汗の飲料」をコンセプトにした大塚製薬の看板商品であり、体液に
近い組成で汗とともに失われたナトリウムやカリウムなどのイオンを効率よく吸収できる
ことを売りにしている。1980年に発売され、2008年には累計販売本数は300億
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マックマス(2002)p213
岸本(2010)p129
本を超えた(340ml缶換算)
。このように最早国内では知らない人がいない程広く普及し
たポカリスエットであるが、この製品も画期的な商品を作りたいという技術志向的な発想
から始まっている。手術時水分補給があまりできない医師が効率的に水分を補給するため
に点滴液を飲むことなどからヒントを得て「飲む点滴液」のアイディアが生まれた。しか
し当時は運動中に水分を取ってはいけないとされていたこともあり、商品のコンセプトと
時代のニーズが合うまで開発を待った。そしてジョギングなどが流行し始め、健康志向が
高まり始めた 3 年後にコンセプトをただの飲む点滴液ではなく汗の飲料に変え開発が始ま
り、1980 年に発売まで至った。しかし、汗をかいた時に飲みやすいと思えることを追求し
たため商品は薄味であり、嗜好性の高い甘い清涼飲料水が市場の多くを占めていた世の中
のリアクションはいいものではなかった。そこでサンプリング無制限という企画を実施し
商品のコンセプトというものを地道に消費者に伝えていき、2 年後の夏の爆発的なヒットと
して結果に現れた。初めに消費者に不評だったのは味だけではなくパッケージもであった。
当時ブルーという色は飲料業界ではタブーであり、オイル缶のようであるとも言われなが
ら、デザインからも商品のコンセプトを伝えていくという社長の意志から青いパッケージ
をこれまで維持している 5。
6まとめ
スコットペーパー社のスコットタオルジュニアは他社製品に対抗することに焦点を置き
過ぎてしまい製品を使う側のヒトが浮かんでいれば煩雑な作業を要求するような製品には
ならなかったであろう。サンスターのサラットは画期的な製品を作ろうとするところから
始まり実現させ販売まで至ったが市場からは受け入れられなかった。しかし成功例として
挙げたポカリスエットもこれと同じように初めは受け入れられなかったが商品コンセプト
を伝えるということを第一に当時あまり浸透していなかった水分補給という新しい習慣を
提案することで消費者に受け入れられている。この 2 つの製品の間の差には大きく3つの
違いがあると考える。まず商品を販売した後のプロモーション活動の違いがあるであろう。
ポカリスエットが無料のサンプリングを長期間続けながら商品コンセプトを消費者に伝え
ていったように、スコットも泡が少ないことによる環境へのプラス効果や濃縮化によって
実現した小さいパッケージのメリットを消費者に伝えることが出来ていたならば違う結果
になったと考えられる。次に挙げられるのは商品を市場に出すタイミングである。サラッ
トの場合、発売時に受け入れるだけの市場が成熟していなかったことが失敗の要因になっ
てしまったのに対し、ポカリスエットはアイディアが生まれてから開発に着手するまで時
代のニーズが商品のコンセプトと合うまで待っている。最後に、開発者が画期的だと思っ
たことが消費者の直接的なメリットにつながるものであったかどうかという点である。サ
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http://pocarisweat.jp/#/lab
ラットの泡が少なく濃縮化に成功した点は技術的、環境保護の観点から見れば画期的かも
しれないがそれが消費者にとってメリットにはなるとは考えにくい。それに対してポカリ
スエットの場合、当時スポーツ中の水分補給という習慣があまり定着しておらず、ポカリ
スエットのような飲料を必要とする顧客のニーズが明確にされていない状況の中であった
が、水ではできない効率の良いイオンの摂取ができるという点は消費者の潜在的なニーズ
を満たしていたと言えるであろう。
顧客の明言化されたニーズに対応するだけではポカリスエットのような製品は生まれな
かった。顧客の潜在的なニーズを分析し捉え実現することが顧客志向で製品をつくるとい
うことであり、明言化されたニーズに受動的に対応する顧客主導とは異なる。ポカリスエ
ットは大ヒット記録したが、顧客志向には顧客の声ばかりに耳を傾けていると、自社が何
でも屋になってしまい、結局は自社の強みや事業領域が不明瞭になってしまう 6という懸念
もある。
最近は SNS などの普及によって消費者のニーズの情報が昔に比べ、より明確にかつより
大量に得られるようになっている。しかし明言化されたニーズに対応する顧客主導の姿勢
で行動すると先に述べた懸念のように企業に不利益に働いてしまう。膨大な情報を分析し、
潜在的な顧客のニーズを発見して、商品とともにその商品が組み込まれたライフスタイル、
習慣を提供することが今後の企業の製品開発において必要であると考える。
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http://www.mitsue.co.jp/case/glossary/m_063.html
参考文献
ロバート・M・マックマス(2002)
「80,000 点に学ぶ新製品マーケティング」 東急エ
ージェンシー
岸本秀一(2010)
『
「顧客ニーズに応える」と何か日用品分野における製品開発と流通』
文理閣
参考 URL
http://www.mitsue.co.jp/case/glossary/m_063.html(ミツエーリンクス)1月20日アク
セス
http://www.firstitpro.com/mailmg/mmg100830.php(ファーストアイテイプロ)1月20
日アクセス
http://pocarisweat.jp/#/lab(大塚製薬)1月20日アクセス